初めての世界
子どもたちの元気な声と、全力で走る靴音が、陸上競技場に
響き渡っていた。
蒼羽 隼もまた、走ることに魅了された小学
4年生。
小学生一同:「ありがとうございました!!」
週に1度の陸上クラブの練習が終わった。
隼 :「はぁ~、今日もキツかったな~」
みなみ:「はい、おつかれ」
練習後、競技場入り口の階段に座り込む隼にスポーツドリンクを
渡すのは幼なじみの、「みなみ」だった。
結希みなみ(ゆうきみなみ):隼の幼なじみで、陸上クラブは
みなみの父親が経営するスポーツセンターで行われ、コーチも
してもらっている。
隼 :「サンキュー」
工 :「その割には余裕そうだな」
源工:隼の幼なじみ。直感的走りをする隼に
対して計算されたプレイをする。
隼 :「当たり前だろ?帰って自主練なんだから(笑)」
みなみ:「ダメっ!!お父さんはみんなそれぞれに合った
メニュー考えてるんだから!!」
隼 :「えぇ~もの足りねぇーんだよ」
みなみ:「シュンちゃん速いんだからいいの、ケガしちゃうよ」
工 :「みなみムダだよ…」
みなみ:「もう…」
2人は呆れ返った。
隼 :「さぁ、帰ろうぜ」
3人は自転車で帰路についた。
その途中…
隼 :「遅いぞ~(笑)」
みなみ:「待ってよ~」
隼は下り坂を猛スピードでかけ降りていた。
交差点が目の前に差し掛かろうとしていた。
トラックが飛び出してきた自転車に対してクラクション
とブレーキ音が辺りに響き渡った。
「ガシャーーーン!!!」
みなみ:「きゃあーーー!!!」
隼は目の前が真っ暗になり気を失った。
???:「…ん、…ちゃん、隼ちゃん」
誰かに呼ばれて目を覚ました。
目の前には手を握り、泣きじゃくった顔のみなみがいた。
回りを見ると両親やナースがいる。「病院だ」
そう思った瞬間、体の異変に気付く。
上半身は体中痛みはあるものの、感覚があった。
しかし、下半身は痺れに加え、足先に感覚はなく、足は
なくなったものだと思っていた。
初めてベッドで体を起こした時、自分の体を触りながら現実を
受け入れる。自然と涙がこぼれ、泣きじゃくった。
毎日のようにみなみは小学校の帰りにお見舞いに来てくれた。
隼の母:「みなみちゃん!」
みなみ:「こんにちは!」
隼はみなみだと分かると出入口に背を向ける。
隼の母は身の回りのことを済ますと一旦家に帰るという。
隼の母:「みなみちゃん、なにもしてあげられなくてごめんね」
みなみ:「いえ、ありがとうございます。」
みなみは隼の母が帰ったのを確認すると隼の正面に腰をかける。
2人とも言葉を発しないまま時間が過ぎていく。すると、
突然みなみが、内に秘めていた想いを隼に話始めた。
みなみ:「良かった…隼ちゃんが生きてて」
隼は不思議そうにみなみの顔を見た。
みなみ:「目の前で隼ちゃんが死んじゃったらどうしようか
と思った。初めて好きになった人が死んじゃったらと
思うと私…」
隼はみなみの言葉の意味を一瞬理解できなかった。
隼 :「好きになった人?」
みなみ:「隼ちゃんのこと…」
みなみは初めて隼に想いを伝えた。
隼 :「マジかよ…実は俺もみなみのこと…」
2人は物心ついた頃から両思いだった。
それを聞いたみなみの目には光るものがあった。
病室の窓からの夕陽がみなみを照らし、
隼は障害を負いながらでも自分のことを想ってくれるみなみを
本当に大切にしたいと幼いながらに決意した。
隼 :「俺明日からリハビリ頑張るよ、どこまで回復するか
わからないけど…」
みなみ :「応援する!」