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結婚式

 結婚式当日。日頃の行いが良かったおかげか、快晴となった。抜けるような青い空。白いチャペル。横浜のグリーンがかった海。その中に純白のウエディングを身にまとったみゆきが立っている。

 これから2人でレッドカーペットの上を歩く。そのために俺に手を伸ばして微笑んでいる。


 みゆきと出会ってから今まで、色々なみゆきを見てきた。笑った顔、泣いた顔、困った顔。怒った顔は見たことないけど、今日のみゆきは、今までのどんな表情より輝いていた。


「修くん、早く来てください」

「あ、うん」


 俺は白いタキシードに着ていた。多分、着られている感丸出しの花婿だと思う。普段、スーツを着る習慣がないからしょうがない。


 みゆきの腕が俺に巻きつく。これほど密着するのははじめてかもしれない。そのせいか、急に緊張感が増しきた。


 パイプオルガンの音が響く。スタッフの人が、俺たちの前を閉ざしていた白い扉を開ける。それを合図に、俺はみゆきと歩みはじめた。ここから紡ぎはじめる、2人の未来への第一歩だ。それが短い未来だとしても、構わない。踏み出すことに意味があるのだ。


 チャペルの中には、白いベンチが並んでいた。そこに、俺たちの大切な人たちがいた。こちらを向いたまま、立って拍手をしてくれている。どの顔を、一様に笑顔だ。


 俺たちは、ゆっくりと歩を進めた。


「おめでとう、修」

「おめでとう、並木くん。おめでとう、みゆきちゃん」


 チアキ先輩と西野が、声をかけてくれた。

 2人とも、俺たちにとって大切な友人。いつでも、どんな時でも無条件で味方になってくれる心強い仲間だ。


「みゆきちゃん、綺麗よ」

「修一郎、頑張れよ」


 うちの両親も、ちゃんと参列してくれていた。朝一番の新幹線で来てくれたのだ。

 厳しいけど、いつも最後には応援してくれた母親。無口で厳格な父親。親孝行らしいことは何もしてないけど、今なら素直に言える。あなたたちの息子で良かったと。


「みゆき、しっかりね。並木さん、よろしくお願いします」

「お姉ちゃん、綺麗だよ」


 みゆきのお母さんと妹さんも、俺たちを祝福してくれている。

 いつも険しい顔をしているお母さんも、今日は笑ってくれている。

 みゆきの妹さんは、はじめて会うけど、あまりみゆきには似ていない。目元が少しつり上がっているあたりは、お母さん似なのかもしれない。今日からは、俺の妹でもあるのだ。


 チャペルの一番奥には、白い十字架がかかっていた。その前に、白い台が置かれ、神父さんが立っていた。

 俺たちは、歩みを進めて、神父さんの前に立つ。それを合図に、神父さんが手にしていた本を開いて、お決まりの台詞を読み上げる。片言の日本語なので、少し聞き取りにくい。


「新郎、並木修一郎。あなたは、ここにいる新婦、高見沢みゆきを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」

「誓います」

「新婦、高見沢みゆき。あなたは、ここにいる新郎、並木修一郎を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「では、指輪を交換して、誓いの口づけを交わしてください!


 スタッフの人が、事前に買っておいた指輪を持ってきてくれた。それをつまみあげ、みゆきの左手の薬指にはめるのだ。だけど、手が震えて、思うようにつまめない。


「修くん、大丈夫ですよ。あわてないでください」


 みゆきが笑って言ってくれた。おかげで、少し落ち着きを取り戻すことができた。

 みゆきも、俺に指輪をはめてくれた。次はいよいよ口づけだ。


 俺はみゆきのベールをゆっくりと持ち上げた。そこには、少し照れたような表情をしたみゆきがいた。


「エヘヘ、何か照れますね」

「そうだな」


 みゆきは、ゆっくりと目を閉じた。俺はみゆきの背中に手を回し、唇を重ねた。

 会場に拍手が響く。チアキ先輩のだろう口笛の音も聞こえる。

 時間的には、ほんの数秒だったけど、俺にはとても長い時間に感じられた。


 俺たちは、参列者の方に向いて頭を下げた。いよいよ、退場だ。

 参列者にスタッフが何やら配っていた。俺たちが歩みはじめると、それを俺たちにかけてきた。ライスシャワーをいうお米の雨が俺たちに降り注ぐ。


 白い扉を抜けると、そこには信じられない光景が広がっていた。金髪スカジャンさんをはじめ、チアキ先輩の後輩さんたちが道の両側にずらりと並んでいたのだ。

 ライスシャワーのためなのだろう。金髪スカジャンさんが米俵を持って来ていたのには笑えた。どんだけ撒くつもりなんだろう。


 みゆきの方を見ると、目を大きく見開いて驚いていた。道行く人も何事だろうと歩みを止めている。


「行けよ、修」


 背後から、チアキ先輩の声が響いた。やっぱり、この人にはかなわない。


「行こう、みゆき」

「はい」


 俺とみゆきは、後輩さんたちのライスシャワーを浴びながら、歩いた。列の最後の方ではわ後輩さんたちが道行く人にお米を渡して、列に加えていた。

 どこまでも続く祝福の列。ついこの前まで、孤独だと思っていたはずなのに。今ではこんなに沢山の人が、俺たちを祝福してくれている。幸せ者だ。俺たちは世界一の幸せ者だ。


 ゆっくりと、長く続く祝福の列をお辞儀しながら歩いた。幸せを噛みしめながら、感謝しながら歩いた。


 そして、最後尾まで歩き抜いた後、ゆっくりとみゆきが崩れ落ちていった。

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