予定変更
結局、みゆきは諸々の検査があったので1週間ほど入院した。その間、俺はチャペルと披露宴をお願いしていたイタリアンレストランを訪問して、予定を前倒しに変更してもらった。みゆきに残された時間が長くないと感じたからだ。
チャペルの方は比較的スムーズに話が進んだが、イタリアンレストランの方は少し揉めてしまった。人気店なのだから、しょうがない。
紹介してくれた西野から、怒りの電話が入った。そこ事情を説明して、西野からも説得してもらった。もう西野には頭が上がらない。
結婚式は、11月3日に決まった。12月中旬を予定していたから、1ヵ月以上早まったことになる。
「ということだから、母ちゃん、頼むよ」
「本当にあんたは、無茶ばかり言うね」
「ごめんって……」
「そんなに、みゆきちゃんの具合が悪いんね?」
「まぁ、良くはないかな」
「何とかならんの?医学だって進歩しとろうがね」
「うん……」
俺は曖昧に返事するしかなかった。まさか、親に死神の話をする訳にはいかない。それこそ、頭がおかしくなったと思われてしまう。
「父ちゃんも、何も言わんけど、腹は立てとるかもしれんよ」
「そっか……」
「あんまり無茶ばかり言うと、式に出んとか言いだしかねんけね。気いつけよ」
「うん。もうこれ以上、何もないから」
両親にも、ずいぶんと無茶をさせている。人生の晴れ舞台というべき結婚式。そこから新たに人生を歩みだす2人。親は、子どもの幸せな未来を願い祝福する。孫を期待する親もいるだろう。
しかし、俺とみゆきに未来はない。あったとしても、数ヵ月だ。そんな式に呼ばれて、心から祝福しろという方が無理だろう。それでも、俺はやらなければいけない。
バイト前に、みゆきの病室に顔を出す。救急車で運ばれた時より、ベッドの周りの機器が減ってすっきりしている。
ベッドで横になっているみゆきの顔色も、良くなっている。
「修くん、これからバイトですか」
「うん」
「頑張ってくださいね」
「うん。それより、話があるんだ」
「何ですか?」
「式の予定を早めることにした。もうチャペルもレストランにも話はつけてある。親にも連絡してあるから」
「そうですか……」
みゆきは、あまり嬉しそうではなかった。
「私、そんなに具合が悪そうですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
こんな時に気の利いた台詞が言えない自分が恨めしい。この先、一生、気の利いた台詞が言えなくなってもいいから、今だけは、何か気の利いたことを言いたかった。
「いいんですよ。わかってますから。修くんの決めたことに従います」
「ありがとう」
「でも、大変だったでしょ?私のために、ありがとうございます」
みゆきは、少しだけ微笑んでくれた。この笑顔が見られるなら、どんな苦労だってできる。誰にだって土下座できる。そんな力を持った笑顔だ。
2日後、みゆきは無事に退院した。




