不穏な影
結婚式の準備というのは、なかなかに面倒くさい。少しでもみゆきに喜んでもらおうと張り切る俺と、シンプルでいいというみゆきの意識の差が大きい。
ここでも、チアキ先輩のコネクションが役に立った。チアキ先輩の後輩のお姉さんの友達の親戚の……ってもう他人じゃんってくらいの知り合いにウェディングプランナーの人がいたのだ。それを覚えていたチアキ先輩もすごい。きっと、自分と西野の結婚式に利用するつもりだったのだろう。
みゆきの希望もあって、横浜の海が見える白いチャペルで式を挙げることにした。費用は、夢の国の挙式から0が1つ減ったので、俺のバイト代でも何とかなりそうだ。
式には、うちの両親とみゆきのお母さんと妹さんを呼ぶことにした。あと、チアキ先輩と西野の2人。この2人は、特別だから。
ホントなら、みゆきはもっと沢山、友達が作れたはずだ。だけど、作らなかったのは、家の手伝いをしていたからだけではないと思う。
多分、自分が長く生きられないから、意図的に友達を作らなかったのではないだろうか。優しいみゆきを見ていると、そう思えてくる。
「じゃあ、式はこんな感じでオッケーかな?」
「はい、大丈夫です」
俺とみゆきは、いつものように『Blue Note』で打ち合わせをしていた。
「披露宴は、西野の知り合いがやってるお店があるんだって。チャペルの近くのイタリアンのお店だよ」
「才加さんにも、感謝ですね」
「本番の前に、一度、食べに行ってみる?」
「うーん、やめときます」
みゆきは、アゴに人差し指をあてて考えていた。
「だって、美味しくなかったら、他のお店になんて、できないでしょ」
「確かにそうだね」
「本番の楽しみにしておきます」
「わかった」
まぁ、下見をしなくても、西野の紹介なら間違いないだろう。
「じゃあ、ちょっとお弁当を取ってきますね」
そう言って、席を立ったみゆきの動きが止まった。そして、胸を押さえて、ゆっくりとしゃがみこんでいく。
「み、みゆき。大丈夫か」
慌ててみゆきに駆け寄るが、みゆきは苦しそうに顔をゆがめている。
「お母さん、みゆきが。救急車をお願いします」
俺がみゆきに告白をして、3ヵ月が経とうとしていた。




