表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

結婚報告

 婚約をしたからといって、何かが劇的に変わる訳ではない。いつも通りにバイトに行って、みゆきの手作り弁当を食べる生活。


 休憩時間に、社長に報告しようかとも思ったけど、言えなかった。今、社長はチアキ先輩のことで手いっぱいだからだ。俺の話は、今じゃなくてもいい。


 バイトが終わって、家に帰った。だけど、この日は全然、寝つけなかった。ただ同じ寝つけない感じでも、昨日とは全然違う。不幸のどん底にいた昨日に比べると、温かい高揚感に包まれている。興奮しているとも言える。だから、酒を飲もうとは思わなかった。


 朝10時。俺は思い立ったようにスマホを手にして電話をかけた。

 呼び出し音が、5回コールすると、相手が出た。


「はい、もしもし。並木ですけど」

「あ、母ちゃん。俺、修だけど」

「修?何ね、こんな時間に。大学を卒業しても、全然、連絡をよこさないで、今まで、何しよったんね」


 久しぶりの電話だから、当然、文句を言われることは想定していた。それでも、変わらない母の声に少しホッとした。


「ごめん……」

「みんな、心配しよったんよ」

「ごめんて」

「こんな時間に電話してきて、お金ならないけぇね」

「金じゃねぇよ」

「だったら、何?」


 母親は怪訝そうに尋ねた。


「実は俺、結婚することにしたから」

「はぁ?何てね?」

「だから、結婚するって言ったんだよ」

「はぁ?久しぶりに電話してきたと思ったら、結婚って?あんた、何を言いよるんかわかっとる?」


 母の声がヒステリックに高まる。

 昔から、厳しい母親だった。でも、最後には俺の味方になってくれる。そんな母だった。


「冗談でも何でもなくて、本気で結婚するんだよ」


 俺の真剣な申し出に、何かを考えてる風に沈黙する。


「あんた、まさか。相手の娘さん、妊娠してるんか?」

「してないよ」


 まぁ、急に結婚とか言い出した、妊娠を疑うよなと思った。


「妊娠はしてないけど……余命が半年なんだ」


 母が息を飲むのが聞こえた。


「余命半年って、あんた。相手の娘さんは病気なんか?」

「うん。昔から体が弱い子でね。でも、すごくイイ子なんだよ」

「そうなんやね」


 母親はもう、ヒステリックではなかった。


「久しぶりに、電話してきたと思ったら、結婚なんてね。しかも、相手の娘さんが余命半年。びっくりすることばかりやね」

「ごめん」

「でも、自分のことが最優先だったあんたが、人のことを心配して行動できるようになったんやね」

「母ちゃん……」


 そうだ。ついこの前までは、自分のプライドが最優先の男だった。それが、みゆきやチアキ先輩と出会って、変わったのだ。

 自分では自覚してなかったけど、母親の目は確かだ。


「わかった。お父さんには、私から話しておく。ほやから、あんたも余裕があったら、相手の娘と一緒にいっぺん、帰っておいで」

「ありがとう。ちょっと帰省する余裕はないかな」

「まぁええ。相手の娘さんの名前は何て言うん?」

「みゆき。高見沢みゆきさんだよ」

「じゃあ、みゆきちゃんによろしくね」

「わかった。父ちゃんにもよろしく」


 わずか5分ほどの短い電話だった。それでも、母の変わらない様子に安堵した、結婚の報告ができたことに満足した。

 それで、興奮が少し治ったのか、ようやく眠りにつくことができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ