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人間と死神

 家に帰ると、何気なく鈴木を呼び出した。別に、何かを願うつもりはない。ただ、話したかったのだ。


「お久しぶりでございまーすぅ。並木様、お元気でいらっしゃいますかぁ?」


 久しぶりに聞く、この独特の口調。何だか懐かしさすら感じる。


「最近、色々と忙しくてさ」

「そうでございますかぁ。公私ともに充実しているようで、何よりでございまーすぅ。で、本日は、どのようなご用件でございますかぁ?」

「あぁ、悪い。別に用事がある訳じゃないんだけどさ。ちょっと、話してみたくて。いいかな?」

「構いませんよぉ」


 鈴木は、相変わらず、貼りついたような笑顔でこっちを見ている。同じ笑顔でも、みゆきの笑顔とは大違いだ。

 俺は鈴木に、今までの経緯を軽く話した。


「なるほどでございますねぇ。並木様、随分とお知り合いがお増えになられましたねぇ。私どものシステムのおかげではないかと存じます」


 みゆきやチアキ先輩との出会いは、鈴木のシステムを利用したからではない。しかし、あの時、卒論を落としていたら、大学を卒業してなかったら、2人には出会っていなかったかもしれない。

 そうなると、やはり間接的ではあるけど、鈴木のおかげかもしれないと思えてくるから不思議だ。


「ホント、卒業できて、良かったと思ってるよ」

「そうでございますかぁ。それで、今後に関しては、何かお決めになられたんでしょうかぁ?」


 微笑みながら、痛いところを突いてくるのも変わっていない。

 だけど、今後のことは何も決まっていないのは事実だ。みゆきへの告白も、就職活動も、見通しは立っていない。

 就職活動は、もう動き出さないと、出遅れてしまう。このままでは、去年と同じになる。


「お使いになられますかぁ?」


 俺の心を読んだのだろう。鈴木がカバンの中から、タブレット端末をチラリと見せて言った。


「いや、いい。使わない」


 即答したものの、内心は揺れていた。それほど、絶妙のタイミングでタブレット端末を見せられた。さすが、鈴木だ。侮れない。


「なぁ、鈴木は俺をどうしたいんだ?やっぱり、システムをどんどん使わせて、余命を沢山、奪い取りたいのか?」

「さぁ、どうでございましょう。ただ1つ申し上げられるのは、人間と我々死神とでは、根本的に考え方が異なるということでございまーすぅ」


 突然、哲学的な話題になった。


「エッ?どういうことだ?」

「例えば、人間はアリの生態を理解しておりまぁす。でも、アリは人間を理解できませーん」

「ん?難しいな」

「アリは、人間に理不尽に踏み潰されようと、巣を破壊されようと、対策を講じることはありませーん。それは人間を理解できないからなのでーすぅ。アリの理解できる範囲の外に人間がいると言えまーすぅ」


 鈴木の説明が熱を帯び、お得意の指を立てるポーズになった。


「人と死神も同じことなのでーすぅ。我々、死神のことは理解したつもりでも、理解できないのでーすぅ。それは我々が人の理解できる範囲の外にいるからなのでーすぅ」

「じゃあ、ただ余命を奪うことが目的ではないと?」

「さぁ、それはどうでございましょうかぁ」


 鈴木は、ニヤリと笑った。


「さて、そろそろ行かなければなりませーん。並木様、またいつでもお呼びくださーい。それでは失礼いたしまーすぅ」


 そう言い残して、鈴木はいつものように消え去った。

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