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再会

 祭りのあとの寂しさとでもいうのだろうか。チアキ先輩の試合のあとは、日常に戻っただけなのに、何か寂しさを感じる。

 試合の翌日は、バイトが休みだったので、余計に寂しく感じたのかもしれない。


 5月6日。バイト先で会ったチアキ先輩は、顔が腫れ上がっていた。チアキ先輩が言うには、試合の翌日に腫れが出ることはよくあることなのだそうだ。

 でも、これだけ腫れてるってことは、やっぱり1ラウンド目に、いいパンチをもらっていたということなる。とても心配だ。


「みゆきちゃん、ホントにいい子だよな。泣かせたら、俺が承知しねぇぞ」

「わかってますよ。泣かせたりしませんから」

「別れたら、俺がもらうからな」

「別れないですし、あげないですから」


 休憩時間のバカなやり取りは、相変わらずだ。


 休憩時間が終わって、上のフロアの清掃にかかろうとした時のことだった。珍しくオフィスに人が残っていた。男性と女性の2人組。女性の方は、どうやら泣いているようだった。


「いったい、何度、言えばわかるんだ。こんな簡単なミス、気をつけていれば防げるだろう」

「すみません」

「謝ってすむなら、警察はいらないんだよ」


 男性社員の怒鳴り声が響き渡る。

 俺もコンビニのバイトをしてた時に、同じ台詞で怒られた記憶がある。苦い思い出が蘇った。


「参ったな。掃除できないぞ」

「そうですね。少し待ちましょうか?」

「いや、遅くなるから、できるとこからやっていこう」


 チアキ先輩の判断に従って、できるところから作業をはじめた。

 その間も、男性社員の怒りは収まる気配を見せない。それどころか、ますますヒートアップしている。


「ちょっと、ひでぇな。言ってくるわ」


 そう言うと、チアキ先輩は男性社員の方に向かっていった。


「すいません。掃除したいんですけど、いいっすかね?」

「あぁ、掃除屋がうるせえんだよ」


 怒りが最高潮の男性社員は、あろうことか、チアキ先輩にまで噛みついた。


「掃除屋っすけど、こっちも仕事しなきゃなんねえんだよ」


 ほんの少しだけ、チアキ先輩が凄んだ。この前、試合を見ていなければ、ブチ切れたと思っていただろう。でも、あの試合に比べたら、今の言い方なんて可愛いもんだ。

 さすが伝説の総長の凄味だ。男性社員の本能が危険を察知して、わかりやすく狼狽している。


「と、とにかく、もうミスすんじゃねぇぞ」


 捨て台詞を残して、机の上に置いてあったカバンとコートをひったくるようにして、男性社員は走り去って行った。

 1人取り残された女性社員は、まだ泣いているようだ。


「さぁ、やるぞ。」

「あ、はい」


 作業を再開したものの、女性社員の様子が気になる。それはチアキ先輩も同じようで、目が合うと俺に行けとアゴで合図してくる。


「あ、あの、掃除の邪魔にはならないので、落ち着くまでゆっくりしてくださいね」

「すみません。ありがとうございます」


 女性社員が俺の方を振り返った。


「な、並木くん?」

「西野じゃねえか?お前、どうしてここに?」


 2人同時に声をあげた。泣いていたのは、俺の高校時代のクラスメイトの西野才加だった。そう、俺の元カノだ。


「お前、何してんだよ?医学部に進んだんじゃないのかよ?親父さん、医者だったろ?」

「あれから成績が落ちて、医学部はダメだったの……」


 あれからというのは、俺と別れてからなんだろう。俺のせいで、西野は医学部に落ちたのだ。申し訳ない気持ちが溢れてくる。


「別に並木くんのせいじゃないわよ。私の力不足だから」

「そ、そっか……」

「並木くんこそ、何してるの?」

「俺は、清掃のバイトをしてるんだよ」


 元カノは、もう立派に働いているのに、俺はまだバイト生活。我ながら、情けない。

 2人の間に、格差と沈黙が流れた。


「おやおや、お知り合い?」


 チアキ先輩が、絶妙なタイミングで入ってきてくれた。


「あ、チアキ先輩、彼女は西野才加さん。俺の高校時代のクラスメイトです。西野、こっちはバイトの先輩の松丸千秋先輩」

「はじめまして。先ほどは、ありがとうございました」

「いやいや、気にしなさんな。あんなヤツ、ガツンと言った方がいいんだよ」


 チアキ先輩はリング上さながらにファイティングポーズを取っておどける。それにつられて、西野が笑った。まだ目は赤く腫れてるけど。


「じゃあ、私、帰ります。並木くん、またね。松丸さん、ありがとうございました」

「おう、気をつけて帰れよ」

「またな、西野」


 白いロングコートをまとった彼女は、とても大人びて見えた。たった4年の歳月が、ここまでの差になるなんて、思いもしなかった。

 彼女を見送っていると、後ろからチアキ先輩が羽交い締めしてきた。


「修、お前、クラスメイトとか言ってたけど、ありゃ、元カノだろ?」

「エェッ?!」


 バレていた。バレないように振舞っていたはずだったから、思い切り動揺してしまった。その慌てぶりが、正解だと告げている。


「やっぱり、そうかぁ。みゆきちゃんに言いつけるぞ」

「クラスメイトと偶然、再会しただけですよ。何もやましいことはありませんから」

「ホントにそうか?」

「そうですよ。もう恋愛感情はありません」

「そっか。じゃあ、彼女を紹介してくれ。メッチャ好みなんだよ」

「エェッ?!」


 チアキ先輩は、西野に一目ぼれをしていた。美女と野獣。俺はチアキ先輩の恋のキューピッドを仰せつかった。

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