激闘!
チアキ先輩は、本名の「松丸千秋」とコールされた。
対戦相手は、「風祭翔陽」だ。何となくだけど、名前も相手の方が勝っているように感じる。
両選手がレフリーを挟んで対峙して、ルールを確認する。そして一旦離れると、すぐに試合開始を告げるゴングが鳴った。
弾かれたようにコーナーを飛び出したのは相手の風祭選手。チアキ先輩は、ゆっくりと間合いを詰めていく。
両選手の間合いが一気に縮まり、相手のミドルキックが炸裂した。
しっかりガードしていたように見えたが、威力が強いせいか、チアキ先輩のバランスが崩れた。
黄色い歓声が湧き上がる。それに呼応するかのように、風祭選手が一気呵成に攻めてきた。
ミドルとハイのキックを織り交ぜ、時折見せるパンチとのコンビネーションは、見る者を圧倒する迫力がある。
チアキ先輩は、防戦一方ながら、ガードを固めて、クリーンヒットを許さなかった。スキを見て、ローキックで反撃をしていたが、あまり効いているようには見えなかった。
「チアキ先輩、大丈夫ですかね……」
「大丈夫、きっと大丈夫だよ」
俺は自分に言い聞かせるように答えた。
知り合いが目の前で、圧倒的な暴力に晒されているの、ただ見ているというのは、とてもツライ。こっちの息が詰まり、先に倒れてしまいそうになる。
周りのみなさんは、応援慣れなのか、ケンカ慣れなのかわからないけど、野太い声で応援を続けている。
「ぶっ殺せ!」
「やっちゃってください」
「バラバラにしちゃいましょう」
そういった言葉が応援と呼べるならだけど。
1ラウンド目は、一方的な展開のまま終わった。チアキ先輩にクリーンヒットはなかったものの、かなり息があがっているように見える。
相手選手は、観客を煽るようにポーズを取って、歓声を集めていた。
素人の俺が見てもわかる、善と悪の構図。彼がチアキ先輩を踏み台にして、スターダムへとのし上がっていくイメージが見えた気がした。
2ラウンド目。やはり、ゴングと同時に間合いを詰める風祭選手。このラウンドで倒そうとする気が感じられる。
狙っていたのか、野生の勘なのかはわからないけど、チアキ先輩の大振りのパンチがカウンター気味にヒットした。
糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる相手選手。そこにさらに追い討ちをかけるようにチアキ先輩が襲いかかった。
レフリーが割って入り、両手を大きく振る。ゴングが打ち鳴らされ、会場が大きく湧いた。
チアキ先輩の鮮烈的なKO勝利だった。
「きゃあ、勝ちましたよ!勝ちましたね」
「うん、勝ったね。すごいね」
俺もみゆきも、大興奮だった。2人でハイタッチを交わして、勝利を祝福した。
みゆきは興奮しすぎて、隣の金髪スカジャンさんとまでハイタッチまでしてる。
チアキ先輩は、リング四方のコーナーに駆け上がり、力こぶを見せてアピールしている。一瞬、俺と目が合った気がした。コーナーポストの上から、ニヤリと笑ったチアキ先輩の白い歯が輝いていた。
俺は、その姿に心を奪われた。男として、素直にカッコいいと思った。
レフリーに右手を高々とあげられて、勝ち名乗りを受ける。その間も、まだ風祭選手は立ち上がることはできなかった。
ゆっくりと風祭選手に寄り添って、握手交わすチアキ先輩は、俺がいつもバイトでお世話になっているチアキ先輩の姿だった。
試合がはじまる前までは、少しチアキ先輩を怖く感じていた。でも、ライトを一身に浴びて、自分の強さを誇示する先輩の姿は、男として惹かれるものがある。
前に先輩が言ってた、怖いと思ってもまたリングに上がってしまうという気持ちが、少しだけ理解できた気がした。




