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デートの朝

 デート当日。約束の時間は10時だったが、俺は6時には目が覚めていた。はっきり言うと、ほとんど眠れていない。


 どんな話をしようとか、映画のあとはどこに行こうとか、そんなことが頭の中をグルグル渦巻いていて、眠気を寄せ付けなかった。


『最初のデートで失敗すると、挽回は不可能』


 昔読んだ、マニュアル本に書いてあったことが、俺にプレッシャーをかけてくる。


 もし、あの娘に嫌われてしまったら……

 考えただけで、ゾッとする。


 早く起きても、やることがないので、俺は入念にシャワーを浴びた。

 体臭が気になるので、一度、出たけど、もう一回、シャワーを浴び直した。


 シャワーのあとは、ヘアメイク。ヘアワックスをつけるなんて、いつ以来だろう。

 ボサボサの頭だったけど、少しは見栄えが良くなった。


 いよいよ次は、コーディネートだ。オシャレにお金をかけていないので、着ていける服は限られている。

 季節は2月。まだ吹き付ける風は、刺すように冷たい。


 そこで、ボアインナーのデニムジャケットに、チノパンを合わせることにした。

 ちなみに、もう1つの候補は、スタジャンにデニムのパンツのコーデ。どちらを選んでも、それほどオシャレボーイにはならない。


 早々に準備が完了してしまったが、時間はまだ8時過ぎ。待ち合わせ場所の駅までは、徒歩20分くらいなので、まだ十分に時間がある。


 10時に待ち合わせだけど、朝食はどうするんだろう?素朴な疑問が頭に浮かんだ。

 一緒に食べるつもりなら、このまま食べない方がいい。

 映画のあとにランチするのなら、何か食べておかないと、映画の最中にお腹が鳴ってしまう。


 あらかじめ、予定を聞いておけば良かった。映画に誘われて、舞い上がってしまった自分が、情けない。

 確かに、不意打ちのお誘いだったけど、それでも浮かれ過ぎだったと思う。


 悩んだ末に、軽くパンを食べて行くことにした。


 9時になったので、俺は家を出た。約束の時間よりは30分以上、早く着く予定だ。はじめてのデートで遅刻する訳にはいかないから、当然だ。

 もっとも、遅々として進まない時間に耐えかねたというのもある。


 駅までの道のりも、いつもより早歩きになってしまった。気持ちが先走っているのだろう。

 駅が見えてきた時、腕時計の時間は、まだ9時15分を指していた。

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