第13話 ポテトサラダ
今日は微妙な時間に仕事が終わった。
このところ早いか遅いかの二択だったので、中途半端な時間に解放されると戸惑う事が多い。
いつものように食堂に行くと、ほんの数人程だったが人がまだ残っていて食堂を利用しているようだった。
これではレーシャさんはまだ来てないかもしれない。
そう思いながら取り置きの食事をもらって席に着くと、変装してないレーシャさん……つまりステラさんが食堂にやってきた。
「もうっ、あの人何で私にばっかり食事を作らせたがるのよ。ちゃんとした人に作ってもらえば良いのに。はぁ、それか私が毒見した物じゃないと食べないとか、子供じゃないんだから」
なにやら誰かの食事事情に大変お怒りのようらしい。
そんな具合なので、こちらに気付きもせずに彼女は通り過ぎて行ってしまった。
仮に気が付いていたとしても、変装した姿としか知り合っていないのだから、声をかけられるわけがないのだが、その距離感が少し寂しく感じてしまう。
レーシャさんは誰かの分らしい料理を食堂で貰ってそのまま足早に去って行ってしまう。
自分で食べる分ではないらしい事は先程の言葉から分かっていたので、彼氏さんの分のだろうか。
彼女が作ったものしか食べたがらないとか、どれだけベタ惚れなのだろう。
きっと毒見の類いの話は、さりげなく好きな子の食べた物を自分で食べる為に誘導しているか、自然な流れであーんとかさせる為なんだろう。
彼氏さん恐ろしい。
と、そんな他人の恋愛にあまりあれこれ勝手な想像を働かせるのは失礼だろう。
私は気持ちを切り替えて、本日のメニューに視線を落とした。
目を引くのは、メインの料理ではなくサラダだ。
ポテトサラダが中央に小山に盛られていて、その周りを新鮮な葉ものの野菜が添えられ、小さく刻んだニンジンやら玉ねぎやらトマトやらがほんの少し、部分部分に飾られている。
さっとかけられただけのドレッシングは、ゴマの風味が香るドレッシング。
ボリュームはこれ一つだけで、小食の人なら満足できそうな量だ。
私は食前の祈りを捧げて、食器をとる。
フォークに刺して口に運べば、みずみずしい野菜の味とドレッシングの風味が口の中に広がった。
さすがに作ってから時間が経ってしまったので、シャキシャキで新鮮とは言い難いが、しんなりしてもそれはそれで美味しくて、逆にドレッシングの味に良くなじんでいる。
それに、その柔らかくなった葉でポテトサラダを包んで食べると、別の味わいがあって、楽しめる。
野菜を噛んだ後に、なめらかな味の柔らかなポテトの感触がやってきて、とても美味しい。
「ありがとうございました」
今日はサラダの楽しみ方に新しい発見をした日だった。




