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第10話 悪役さんと友達



 悪い事があれば良い事がある。

 反対に良い事があれば悪い事が起きる。


 特務騎士という割とエリート的な職業につけた私だが、その中身はいたって凡人であった。

 日常も考えも行動も技術も何もかもが、凡人レベルで平均的。


 前世もそうだったが、昆瀬もごく普通の人間の見本のような人生を送って来た私は、失敗の現場に立ち会わせてきた。

 この前良い事があったから、そろそろだと思ったのだ。


「本当にごめんなさい。連絡がうまく行ってなかったみたいね」


 食堂に行ったら、何も無かった。

 取り置きが無かったのだ。

 

 私が最近の予定を伝えた厨房の人物が、取り置きをする人様に作られた名簿に、本日分だけ記しをつけていなかったらしい。

 

「でも、あまりものはあるから、それで良ければ……」


 それでレーシャさんは謝罪の言葉を口にしながらも、急遽余った野菜くずで野菜炒めを作ってくれる事になった。


 私としてはレーシャは悪くないので文句はないのだが、それで何も食べずに朝を迎えるのは特務騎士の職業を考えると辛かった。

 見習いでも何でも、作ってくれるのなら大歓迎である。

 私も自炊できない事は無いのだが、専門の人でもないのに勝手に厨房に入るのはいけない事だろう。


 確かレーシャさんはクッキーが好物だと前にきいたことがあるので、今度いいものを探してお礼の送った方がいいかもしれない。


 数分後。


「はいどうぞ」


 手早く火にかけて完成させたらしい、料理の載った器を手渡される。


「手抜きもいいところだけど、新人だからあんまり凝った料理は教えてもらえていないし、時間もかかちゃうだろうから。こんなものでごめんなさい」


 そんな風に、申し訳なさそうな顔をするレーシャさんだが、作ってもらえただけでありがたかった。

 私は彼女にに「気にしないでください」と笑いかけて、器を受け取った。


「食べられるだけありがたいです。わざわざ作っていただきありがとうございます」


 席について、いつものように食前の祈りを捧げてから食器を手に取る。

 温め直しではなく作りたてなのだから、これも一種の贅沢だろうと考える事にした。


 残った野菜くずをさっと油と調味料でフライパンに炒めた料理。

 レーシャさんの野菜炒めだ。


 さっそく温かい野菜を口に運ぶ。


 思ったより味付けがしっかりしていて、野菜がシャキシャキしていた。


 作りたてなのでしおれていないのは当然だか、本当にさっと油で炒めただけの野菜達はみずみずしいままで新鮮だった。


「とっても、美味しいですよ。ばっちりです」

「よかった」


 感想を言えばレーシャさんは心の底からほっとした表情になる。


「こんな事を言うのもなんだけど。私料理なんて最近まであんまりやってなかったから、かなり不安だったのよ。剣……じゃなくてええとペンで書く書類とか、他の事ばかりしてたから」

「そうなんですか」

「でも、自分からやってみたいって興味を持った事の一つだったから、貴方に美味しいって言ってもらえてすごく嬉しかった。友達に言われるその一言がこんなにも、大きいなんてすごく不思議だわ」


 そんなに大ごとに捕らえられていた事にも驚いたが、レーシャさんに友達扱いされていた事にもかなり驚いた。


「私などがレーシャさんの友人でいいんでしょうか」

「え? そっち? ……そうね、私は大歓迎だけど、迷惑だったかしら」

「とんでもないです。嬉しすぎます、私の方こそ、大歓迎ですから」

「そう、それなら良かったわ」


 ほっとしたレーシャさんは、厨房を見て私にこんな提案をしてきた。


「お代わりまだあるけど、食べる? こういう形で誰かを支えたりするのって何だかとっても、すごく嬉しいわ」


 返答は「もちろん」一択だ。



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