一度目の終点
本当によくある話だと思う。
頼れる友人がいなくて、頼りになる教師もいなくて、家にも居場所がない。そして、自分の道がわからなくなり、自らに終点を打つ。自殺というやつだ。
自分に合う睡眠薬選びがようやく終わった今日は、僕の終点となった。
両親はいつも帰らない、学校は行かなくなってどれだけ経っただろう。ほんとにぼ―っとしてるだけで終わってしまっていた。身体を動かす気力も湧かずにただただ眠って、起きて、眠って起きての繰り返し。先に望むものも、失くしてしまった。
終わることを決心したのは惰性でごはんを食べているときに付けていたワイドショーだった。同い年の子が自ら命を絶ち、その責任がどこにあるのかと専門家を呼んで話していた。自分には贅沢な末路だなと思ったけども、止まっていた思考が久しぶりに動き出した気がした。
薬局を回って怪しまれない程度に買い集めた睡眠薬を少しずつ飲み込んでいく。昔見た何かの再現VTRでは発作のように一気に飲み込んでいたことを思い出した。あんなことしたら反動でむせて全部吐きそうだ。水で膨れた腹を抱えながら浴室へ向かう。
服を脱ぎ、切れ味が評判のナイフを手にする。ユニットバスに半分ほど張った湯につかり手首に刃を当てる。まずは、練習の一切り。震える手に力を籠めてスッと引き抜く。すぐには痛みがなく切れなかったのかと思ったが、少し間をおいて一文字に血が滲み、染みるような痛みが感じられた。
同じ要領でやればいい。自分に言い聞かせ両内股に数か所刃を入れる。大動脈が通っているため狙ったが、怯えた僕の力ではそこまで切ることはできなかったようで、手首同様に滲む程度に終わった。これじゃ足りない。
最後に予定通り、首に刃を当てる。自傷行為にもそろそろ慣れて欲しいが、臆病な僕の手はこれまでで一番震えていた。加えて薬が回ってきたのか或いは緊張か、心臓が激しく脈打つのを感じた。
覚悟を決めて、大きく息を吸う。一息に勢いよく引き抜く。
先ほどまでと比較にならない痛覚の刺激が皮膚より奥を走り、まるで焼けているように熱く、痛む。口から久しぶりに漏れた聞いたことのないノイズは自分の声だろうか。意識と身体が離れていくように現実の認識が他人事のように感じられた。鼓動に合わせて首を伝う暖かい液体が湯と混じるのを眺めながら、意識を失った。
これが僕の最後の記憶であり、たしかに僕、鳴海伊織の終点であった。