心優しい操り人形
大切な人のためにやったことが、逆にその人を悲しませる結果になることってありますよね。
優しいだけでは守れない。
あるところに、ゼペットという老人が居ました。
ゼペットは毎日孤独で寂しく過ごしています。
孤独に耐えきれなくなったゼペットは、孤児院へ行きました。
そこで一人の青年と出会い
話をするにつれ、二人は仲良くなりました。
ゼペットは青年を家族として家へ迎え
二人は幸せに暮らしていました。
ところがある日、ゼペットは病に倒れてしまいます。
薬を買うためには大金が必要でした。
青年はゼペットのために仕事を探しに町へ行きました。
が、大して器用なわけでもなく、力持ちでもない彼を雇ってくれる人は誰一人いませんでした。
途方に暮れた彼は重い足取りで家路につきます。
すると後ろから
「やぁ、サーカスをやっているんだ。見に来るかい?」
と、男に声をかけられました。
「お金がないので…。ごめんなさい。」
「なんだ、キミお金に困っているのかね?」
少し考えた男は、
「それなら私が雇ってやろう。付いてきなさい」
そう言って手招きする男に、青年は付いて行きました。
小屋の中に入ると、見たこともない芸を練習している人や
華やかな衣装を着て踊る人、不思議な動物もいました。
「僕は、何をすればいいですか」
「此処で観客を楽しませればいい、それだけさ」
青年は困りました。
人を魅了させるような特技があるわけでも、
珍しい容姿なわけでもなかったからです。
焦った彼は、考えに考え、人形のふりをして
話したり、歌ったり踊ったりすることを思いつきました。
しかし、どんなに努力をしても、
観客は青年を見てもつまらなそうにするだけでした。
その様子を見た見世物小屋の主は、青年を叱りつけます。
「カーチェを見ろ!!彼女は観客を楽しませるために
目玉を繰り抜いて花を植えたんだぞ!」
他にも自ら足を切断する者、石を飲み込む者、
体に布を縫い付ける者などがいました。
ここはサーカスではなく、街で子供をさらっては芸をさせ、
個性のないものには個性を作らせる悪徳な見世物小屋でした。
青年は騙されたのです。
ですが、青年は家へ帰る事も許されません。
逃げれば殺され、腐るまで見世物にされます。
青年は一生懸命練習をしました。
嘘のお話を作って
嘘の誰かを作って
嘘の自分を作っているうちに
青年は、本当の自分が分からなくなってしまいました。
「イらっシャい!僕ハ、実ハ人形なんダ!」
いつしか青年は、自分を本当の人形だと思い込むようになりました。
狂っていく青年は次第に人気が出るようになります。
しかし、ある時
青年がいつも通り芸を披露した時
観客の一人が怒りだしました。
「つまらない!もっと面白い事は言えないのか!この嘘つきめ」
今まで観客を楽しませる事だけに命を懸けてきた青年は
パニックになってしまいました。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
観客が笑わない、何で?なンデ?
焦った青年は見世物小屋を飛び出し、ひたすら走り続けました。
すると、一軒の家が見えてきました。
どこか懐かしさを感じながら、恐る恐る家に入ってみると、
真っ青な顔をしたゼペットがベッドに横たわっていました。
ゼペットは、帰ってきた青年の顔を見ると、
「……あぁ、おかえり……リオネッター……」
と一言残し、動かなくなりました。
青年は、ゼペットの死を受け入れられず
淡々とゼペットに語り掛けました。
「ねぇ、ゼペット、僕面白いダンスが踊れるようになったんだよ!」
そう言って彼は首に縄をかけ、踊りだしました。
「だから、見て、僕を見て、笑って……笑ってよ……」
歓声は聞こえてきませんでした。
老人は青年と出会えて幸せだったんでしょうか。