クジラ
私は今クジラに乗っている。
情報社会により様々な情報が入ってくる現代に置いても、この言葉を聞いた人は恐らくいないと思う。
どうしてこうなったのか私にもわからない
朝起きたらクジラに乗っていた。
空飛ぶクジラ
聞こえは良いしファンタジー感が溢れるけれど
私にとっては死と隣り合わせの恐怖でしかない
そもそもここは何処なのだろうか?
小説の世界なのか?
いくつか疑問点はあるけれど今私に出来る事は何もない
クジラはゆったりとしたスピードで雲を掻き分け前へと進んでいく
しばらくすると
プシューッッと大きな音とともに雲の潮を吹く
まるで一つの大きな楽器のようだ
このクジラは何処へ向かっているのだろうか?
いや、、そもそも下界にあるクジラも何処へ向かっているという明確な目的など無いだろう。
私はこのクジラに揺られ少しどうにかしてしまったのかもしれない
ゆったりゆったりと進んでいくクジラの背中の乗り心地が案外心地よくもなってきた。
なんでクジラに乗っているのだろう?
もしかしたら意思疎通ができるのでは無いかと思い話てみたけれど、クジラは前へ前へと進んでいくだけだ。
白鯨という作品の映画を観たことを思い出す
セントエルモの灯を物ともしなかった船長
憎しみ、嵐、狂気、捕鯨、空腹
エイハブはモビィ・ディックに人生を賭けたが
神には勝てるはずがなかったのだ。
このクジラを狙う空飛ぶ捕鯨船がいて
私を救出してくれないだろうか?
と考えてみたけど、助かる可能性の方が低いから無理だなぁ、、
このクジラが太陽に向かって進んでいるのなら
私の身は神に近い場所で死ねるのだろう
どうかこの手紙を読んだ人は
空飛ぶクジラがいる事を下界の人に伝えて欲しい
私は今クジラの背中に乗っている
何処へ向かっているのかは分からない
虹を違った視線で見る事が出来た。
小学生の頃に乗ってみたい触ってみたいと思い続けた雲にはもううんざりしている。
空は死と隣り合わせ
しかし下界より神に近い事は確かだ
この神々しいという言葉でしか表せないこの景色を下界の人にも見てもらいたい
私はもしかしたら神に選ばれたのかもしれない
これが試練なのか?
肉体を捨て精神を貴方と繋いでみたい
下界には未練が無くなってきたけれど
バッハの音楽をもう一度聞きたかったなぁ、、、