私に春が来て・・・そして何度も何度も季節は巡る④
またまた本作クリック・タップしていただきありがとうございます。
今回長くなりすぎましたの分けて2話続けで更新します。
朝、私は目を覚ましボーっとしていたが、昨夜の事を思い出し恥ずかしさのあまりドキドキしてしまったため一気に目が醒めてしまった。
昨夜、結納も滞りなく終わって親戚、御近所皆で祝いの席となり6個あったはずの酒樽を空にし10ケースあったビールもなくなるほど呑んでいた。私はお酒を飲むことはなかったが、一郎さんは勧められて呑んでいました。
宴も酣になった頃、席を外していた一郎さんは正座をして仕出し料理を食べている私にニコニコとしながら近づいてきたので「?」と彼の顔を見上げた。
そして一郎さんは
「僕は頼子さんを世界一の嫁さんにしてやるぞー!」
と叫び私に口付けをしたのです!こう「ぶちゅー!」っと。私は驚き、箸とお椀を持ったまま固まってしまいました。一同からは「おおおー!」とか「接吻だ接吻!」とか聞こえてきましたが、どう対処していいかわからずそのままでした。
数秒でしょうか、数十秒でしょうか?一郎さんは私から「ぷはー」といった顔をしながら私の横にニコニコしながら座りました。私はたまらず彼の頬を思いっきりひっぱたく・・・事もなく相も変わらず固まっていました。
その後は何がどうなったのか記憶がなく、朝起きたら布団の中にいたと言う事だけ。あぁ、私のファーストキスがあれだったのか。ロマンティックなシチュエーションが欲しかったな・・・
客間を出て宴会が行われていた広間に行くと昨夜出席していたほとんどの人たち、社長そして一郎さん含め死屍累々とした光景が繰り広がっていました。
時間は朝6時。客達の酒気を向く別お風呂を沸かし、朝食の手伝いに台所へ行くと我が家の女性陣が私に気づいてこちらを見ながら「お疲れ様」とか「大丈夫だった?」とか「あれすごかったね~」等声を掛けてきました。
どうやらキスのあと男衆がつぶれるまで固まったまま動かず、死屍累々となったのを見計らってか「トイレに行く」と言ったきり戻らず、心配になって探してみると客間で寝ていたとの事でした。
まぁ状況がどうであれ「交渉」以外はすべてクリアしたと云う事で良しとしました。
「フシュー・・・人前で接吻をするとは日本男児たりえぬ破廉恥極まりない行為。どうしてくれようかのう・・・ヒャッヒャッヒャ!」
と、湯気?を口から吐き出しながら「ザンッザンッ」と鉈で大根を切っている祖母が不穏な空気を纏いながら朝食の用意をしていた。・・・おばあちゃん、鉈は怖いわ。包丁で切って。
「キエエエエエエエエエエエ!」とキラリと光る尺で追いかけ「ぅうわあああああああああ!」と家の外、中にと逃げ回る祖母と一郎さんの様子をハラハラしながら見る私、かまわず朝食をとる家族と客、風呂に入って酒気を抜く社長。普通のような異常のような・・・そんなこともありながら今日も1日始まるのでした。
追伸
ステンレス製の定規(正式名:1000mmスケール)は弘樹氏の東京土産だそうで、祖母が大変喜んでいたそうです。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
時は過ぎ1年が経ちました。7月になり私は27になった。結納が去年の2月、入籍が3月。6月に新婚休暇で田舎に行くはずでしたが、一郎さんとの間に妊娠という嬉しい慶事が発生からです。長距離移動が困難になったため大事を取って休暇は取りやめとなりました。
妊娠がわかった時の一郎さんの喜びようといったらそれはそれは嬉しそうにしていました。しばらくはスキップをしながら出社、退社をするわ、時間が空けば総務課に来て「おなかは大丈夫か?」「気分は悪くないか?」と聞いてくる様子に社内の人たちは微笑ましく見ていました。
しかし毎日毎日それをされると1ヶ月も経てば「またか」とうんざりされるようになり、遂には営業課長から総務課出入り禁止の御達しが告げられ、この世の終わりが来たような顔をするのでした。
私達の住まいは入籍を機に近辺の団地に引っ越す予定でしたが、昨今の独身入居率が低下し元男子寮の2~3階を女子寮、4~5階を男子寮に改装、元女子寮は家族用へと改装されることになりそこに住むこととなった。
また、私の勤務形態も家庭、育児に比重が大きくなることを踏まえて、朝夕は独身用の配膳及び調理を手伝い、11時~16時まで会社で勤務と社長の取り計らいによって変えてくれました。
給料は一般男性の8割まで落としてもらったが、ここでも「貰えるものは貰っておいた方が得よぉ?」と社長が言っていたが、これ以上の待遇は他の社員に影響があると思い私から提示する条件を固辞させてもらいました。
そうしているうちに段々おなかは大きく9ヶ月目となり身長150㎝の私には歩くのがきつくなってきたかなあ?と思っていましたが、さすが農家出身と言うべきでしょうか?
未だ体調の変化がなく特に問題がありそうにないので勤務していたある日。ちょっとした騒動が起きました。
「みんなちょっとごめん。モップとバケツ持ってきて」
「ん?ヨルさんどうしたのですか?」
と、私が後継へと教育中の後輩ちゃんが聞いてきので、正直に答えてあげたのでした。
「ごめん、破水した。」
「ん?ん?え?」
「破水しちゃった。多分生まれる。タクシー呼んで。」
私のこの一言で一瞬にして周囲の空気が凍り付いたのです。そして電話の呼び鈴が鳴ったと同時に
「ええええええええええ!」
「おい!モップだ!雑巾だ!モップだ!雑巾だ!モップだ!雑巾だ!モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾モップ雑巾!」
「ヘイ!タクシー!こっちだ!4階だ!こら!こっちに気が付け!」
「いやああああああああ!あたしのよるこちゃんが大変なことにいいいいいいいい!」
この時私はかなり冷静で頭の中に順序を組み立てみんなに指示を出しました。
「みんな、迷惑かけて悪いけど落ち着いて。とりあえず応接のソファーに連れてって、そしてタクシーここから呼んでも来ないから救急車お願い。これ診察券、産婦人科に連絡お願い。あと一郎さんは、と、外回りか。帰社したら連絡お願い。あと社長、口調。」
私が指示を出すと皆は蜘蛛の子を散らすように散開し少数の人たちに手伝ってもらいながら応接室に移動しました。段々とおなかが痛くなってきて眩暈がしてきましたが、「お願いもうちょっと待って、今から病院に行くから無事でいてね。」とおなかを触りながらわが子に何度も語り掛けたのでした。
病院へ搬送され分娩室に、お産の最中はもうこの世にこんな苦行があるものかと云う痛苦しくて辛くてそれでも「これが終われば我が子を見る事が出来る!」そのことだけしか頭になかったのです。
何度も気絶しかけましたが、向こうから産声が聞こえてきた時には「やった!」と思いホッとした束の間、まだおなかが痛い!なぜ?どうして?と思っていると看護婦さんが私に向って言うのです。
「畑山さんまだ頑張って!もう一人いるから!ほら気をしっかり持って!」
私は「ええ!」と喉元まで出かけたが、そのまま再び頑張るのです。長い時間の出産と格闘し翌12月24日の午前3時46分、双子の女の子がこの世に生を受けるのでした。
初めまして私と一郎さんのかわいい赤ちゃん。そしておめでとう。そして私達の子として生まれてきてくれてありがとう。お父さんとお母さん2人のために頑張るからね?
命名:第1子 畑山 鈴子/ 第2子 畑山 蘭子
2人合わせて「スズラン」。これは一郎さんが友人と北海道に行った時に野原いっぱいに咲くスズランを見てとても感動し、別名「谷間の姫百合」と何か心に響くものがあったのでこれがいいとの事でした。
そんな1年も過ぎ、子供たちの首も座ってきたので実家への新婚?休暇を取得するのでした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次話続けて行きます。