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私に春が来て・・・そして何度も何度も季節は巡る②

本日も本作をクリックしていただきありがとうございます。

サブタイトル通りの季節が巡っておらず申し訳ありません。

今回で1年半しか巡っておりませんがお読みいただければ幸いです。

どうやら三好くんがタクシーを捕まえてきたときには私は酔いつぶれていたらしい。女子寮まで運び中にいた人たちに頼んでそのまま男子寮へそそくさと帰ったとの事。あら、狼さんじゃなかったんですね。


それからというものお互いになるべく時間を合わせ、一緒に出退社したり休日には映画館や遊園地、一緒に食事をしたり、私としては女友達との時よりも何もかにもが新鮮であり、自身の何かが充足されていく感覚が心地よかった。また、私の呼び方も「畑山さん」から「頼子さん」にようやく切り替わり、そういう行動をしていれば社内で噂になるのは必然であり、ある日会社の食堂で昼食を食べていると既に何度目かの質問に合うのでした。


「ヨリさ~ん。営業の三好くんと付き合ってるって噂になってるけど?」


「ん~、噂ではなくって事実よ。」


「うっそ!?あの「ウッホ」くんでしょ?怖くなかった?」


「ウッホくんって、動物的ではなくって”野性味あふれる”って感じかな?

 大体の人の初見は一歩引いちゃう感じだけど、私の意思を優先で尊重して

 くれるし、1歩後ろ歩いてくれて守ってくれてるわよ?」


「・・・それ逆じゃない?”旦那を立て1歩後ろをついてく”ってのが。」


「そお?逆に考えると「大事にされている」って思うけど?」


「はあ~。”恋は盲目なり”とはよく言ったものね。」


「ありがと。誉め言葉として取っておくわね。」


「はいはい、御馳走様。」


そんな女子グループの花咲く世間話に、聞き耳立てている男性社員達は密かに頼子を狙っていた人達であり意中の女性の思われ人である三好に対して嫉妬の炎をメラメラと燃やし、2人が破局することを願われているとは当該両名とも気付いていないのでした。


そして年が明けて元旦。今年の私は正月は実家に帰らずに1人独身寮にいた。実家には妹夫婦(予定)が正月をそちらで過ごすこともあり、私は色々あるだろうと気を使い帰省をすることを遠慮した。


正月休みと言う事もあり寮の御飯は出ないのでどこかで昼食を取りながら近くのスーパーに食材の買い出しをしようと玄関に出ると、なんと三好くんが男子寮から出てきたのです。


「あれ?頼子さん田舎には帰っていなかったんですか?」


「ええ、妹と芳樹くんが休み中実家で過ごすんで私は帰らなかったの。でも

 三好くんこそ実家に帰らなかったの?」


「ああ、僕は帰る家がないので盆、正月も独身寮にいるんですよ。」


「あ、あの、えっと、ごめんなさい変なこと聞いちゃって。」


「あはは、慣れっこですよ気にしてません。そうだ、お昼まだでしたら

 一緒に近くの定食屋はどうですか?美味いとこ知ってるんですよ。

 そこの定食屋年中無休ですから。」


とお誘いもあり一緒に出掛けることとした。紹介された定食屋は店主が何と我が社のOBであることに驚いた。


東京は盆正月となると皆帰省するため休む店が多く食べるところがなかなかなく、独身寮に住む人たちが困らないようにしているとか、店主は「盆正月開けていなければならないほど貧乏だ」と笑って冗談を言っていた。


確かにココは安くて美味い。何故気付かなかったのか私は若干悔しさを覚えたのでした。


店主のサービスで「インスタントだぞ」と言いながらコーヒーを出してくれて食後の一服(私はタバコは吸わない)をしていると、三好くんは「どうせ知るだろうから」と身の上を語り始めるのです。


―小学3年の頃、三好くんは普通のサラリーマンの家で育ち、貧乏ではなかったがそれなりに暮らしていた。両親と三好くん、3歳になる妹がいたそうだ。


しかしある日、父が保証人となっていた友人が夜逃げをして借金が三好家に襲い掛かってきた。そこで何とか借金を返済するべく両親ともに働くこととなったが、当時の借金取りは取り立てが厳しく親族に迷惑が掛からないようにと三好くんを絶縁し祖父母の養子として育ったと―


「妹は小さかったこともあり両親に連れられて行きました。祖父母も亡くなり、家

 は叔母夫婦が買い取っています。そのお金で私は大学へ進学し現在に至ると。」


「御両親にはもう会えないの?」


「無理ですね。どこにいるやら・・借金を返しきれずに一家心中したとか、

 海外移民に便乗して日本にいないとか。ホントかどうかは解りませんけどね」


「そう・・・・」


「まあ、とにかく御飯も食べましたし、そこいら辺をブラブラしながらスーパーに

 行くんでしたっけ?僕も買い込まなきゃ、一緒に行きましょう?」


と、2人で気分転換も兼ね、遠回りで多摩川の河川敷で子供たちの凧揚げや通りがかりの小さな神社へお参りをしながらお互いに手をつなぎながら歩いていくのでした。



   ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「皆さんあけましておめでとー。かんぱーい!」

男女合わせて20名ほどが男子寮食堂内でワイワイと鍋をつつき、つまみを食べて宴会が行われていた。


なぜこうなったかというとスーパーでの買い物中、寮の台所を借りる許可をとっていたので食材を買っていたが、ふと三好くんが何を食べているのだろうかと買い物かごを覗くと大量のカップラーメンがこれでもかとばかりに山積みとなっていた。


私は驚いて聞いてみると「男性陣は皆これで普通に済ませている」との事。これではいけないと思い「おかずくらい作ってやるから全部おいてこい」といった途端、とてもうれしそうな顔をして「一寸待っててください」と急いでスーパー入り口の公衆電話へダッシュ。


10数分後男女10名ほどが財布を片手に息を切らせてやってきて、「私達にもおすそ分けでほしい」と言い、しぶしぶ私も了承。


あれよあれよという間に大量の食材を買い込んでいく。お金はみんなで折半して払い男子寮の厨房で調理開始。普通は男子寮、女子寮お互いに立ち入りは禁止だが、許可はスーパーで買い込み最中に居残り組の一部が寮長に電話をして許可をもらっていた。


男性陣(と女子一部)はみな手料理に飢えており、配膳のおばちゃんがいないし、外食ばかりでは懐に厳しく寂しい食事事情であったらしい。


三好くんに作ってあげるはずだったのだが・・・まあ、こんなこともあるかと私1人では無理があるので、炊事経験のある人に手伝ってもらい料理を作っていったのでした。


皆「おいしい」と言って食べてくれたので作った甲斐があったと。一部「ふおぉぉ!女帝の手作り」「もう死んでもいい」「冷凍して家宝として取っておくぞ!」などと言う人もいたが聞かなかったことにしよう。


「みんなー。各自持ってきた鍋に煮しめ、こっちにはきんぴら、んでこっちには

 大根なますがあるから持っていってねー」


「「「「「はーい」」」」」


「あと・・・休み明けが日曜絡んでいるから後4日あるのか。最終日にはカレー

 作ってあげるから買い出し組よろしくね。」


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


やっぱり体を動かしているのが一番いいわね。さて、私も宴会に加わるか!と予想していた展開から外れてはしまったが、終わり良ければ総て良しと思うのでした。


意外にも賑やかだった正月休みも終え、世の中正月ムード冷めやらぬまま仕事も始まり今月の末に妹の恵、同僚の武田氏両名の結婚式が控えているのです。そしてもう一つ、三好くんを両親に紹介をしようと私は計画をしていました。


式の2日前に両親は上京。今回は式が終了後2日ばかり滞在し東京観光をして帰るそうです。タイミングとしてはバッチリ。三好くんに準備をしておくように話しておきました。

そして結婚式当日・・・


「お姉ちゃん。迷惑かけながらも今まで本当にありがとう。」


「ん。メグ綺麗だよ私の妹でホント良かった。末永く幸せにね。

 ほら~泣かない!白粉落ちちゃうでしょ?」


「うん。うん!」


「それじゃあ、またあとでね?」


と、妹の晴れ姿をあとに新郎の控室へ武田家の両親へ挨拶をし、いざ弘樹氏の所へと向かうと大学の同級生や職場の同僚、上司、そして三好くんもいてにこやかに話をしていたが近づく私に気づいて右手を挙げ「ヨウ!」と挨拶をしてきました。


武田くんの友人たちも私に気づきこちらをチラッと見た後に何故か2度見をはじめ「あの子が○○物産の女帝・・・」「影の支配者・・・」と何やらヒソヒソと。

知りません。知りません。な~んにも聞こえません。聞こえてくる話をわざと無視しつつ、


「武田くんおめでとう。妹をよろしくね」


「ありがとうございます。

 ヨリちゃんの大事な妹さんだ幸せにしてみせるよ」


「な~に~?畏まっちゃって。」


「だってほら、俺は君の義弟になるのだし、義姉さんにもなるのだしね」


「やだもう!私はいつも通りでお互い武田と畑山でいいわよ」


「いやそうもいかないんだな、何せ俺「畑山」に姓が変わるのだし。」


「へ?」


人生において何度目でしょうか。まさかこのような席で間抜けた顔をするとは私も思いもよりませんでした。

まさかの発言に驚きはしたが、式は厳かにそして前日に薄く積もった雪が日光に照らされて煌びやかに行われたのでした。


翌日、私は両親の泊まるホテルに三好くんを連れ立って交際の報告をするのでした。

そこで私の両親に向かって緊張でガチガチになりながらも彼は誠実に、いかに真剣であるか、このまま1年交際をして2人の仲が拗れる事がなければ結婚までしたいと報告をした。

私は終始無言でいたが、父と母の目を見て真剣であると言う事だけは行動で示させてもらった。


両親は初めは驚いていたが、2人の仲が誠実に育まれている事を感じたのか柔らかな笑みを浮かべて。「娘を頼む。」と一言だけ告げて終了するのでした。


さて、話は戻らせていただきましょう。とある人物が「畑山」の姓を名乗り、予想の斜め上を行く行動をしたことについて。

彼、武田弘樹氏は武田家の3男であり、わざわざ妹を武田の嫁としてもらう必要がない事から婿に行く事が結納時点で決まっていたらしい。

しかも、今年1年で当社を辞職し畑山家の田舎へ引っ越すという。びっくりしてしまいました。

経緯は実家が養鶏と養豚を試験的に行っていたが、彼がそれを引き継いで我が家畜産を本格的に始めることとなったのがきっかけだそうです。


「今年1年で法令関係で省庁に勤めるOBや同僚、食肉の卸先などのコネクションを築いておかなきゃ事業として成り立たないからな。」


と、本人はやる気満々に語っていました。


あれ?ウチの3男は?と思ったら○括の大スターのドラムさばきにいたく感激して家の漬物桶を叩きながら「ヘイ!ボディだ!チンだ!」と楽しそうにポコポコやっていたそうだ。

しかしある日「俺はビックなスターになってやるぜ」と書置きを残し、タンスの現金をつかみ取り上京していたとの事。

何をやっているんだ・・・あの子は・・・。


そんなこともありましたが、両親の許可もあり次の日から「三好くん」から「一郎さん」へと呼び方を変えて交際を続け、季節は桜の蕾もほころぶ季節となりお互いに時間の合う日はなるべく一緒にいるようにしました。


一部男性陣にお通夜のような暗い顔が見受けられたのは不思議でしたが、仕事やプライベートな部分は大事が起こることもなくおおむね順調。


今年もまた春、夏、夏、秋と季節は巡り初めの頃は手をつないでいた位であったが、最近ではデートの終わり互いの寮へと別れる前にはお互いに抱きしめあうくらいまで発展。

「そろそろキスくらいは?」と思いながらいよいよ結納へと近づくのでありました。


一郎さん・・・呼ぶたびに聞き返すのそろそろやめて下さい・・・疲れてしまいます。



最後まで読んで下さりありがとうございます。

最終2話は決まっているのですが、それまであと2~3話以内で終わらせようと思います。

最終話までお付き合いいただければ私も幸いと思っております。


次回18時に更新します。うまくいけば2話連続更新できるかもしれませんので頑張ります。

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