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最終話~最初で最後の愛してる~

お待たせいたしました。

ようやく最終回を迎える事が出来ました。


おかげさまで3桁のPVおよびユニークありがとうございます。

お母さんからの手紙はこう書かれていた。


”子供たちへ


お久しぶりです。お母さんですよ。

連絡をしなくてごめんなさい。私が正気に戻って皆が来た時にはまたボケていて落胆させたくなかったの我儘なお母さんでごめんなさい。

私もいつボケた状態に戻ってしまうか怖くってビクビクしながら今を送っております。

そして今のうちにと思いながら鈴子の事、蘭子の事、幸一郎の事、孝志の事みんなと過ごした日々を思い出しながらこの手紙を書いています。


鈴子へ

小さい頃はお姉ちゃんだからと蘭子や弟たちの面倒をよく見る責任感の強い子でした。

そして何に対しても負けず嫌いでひたむきに頑張って目の前に立ちはだかる問題に打ち勝つ努力を怠らない良い子でした。

ですが、高校1年の時には悪い方向に走ってしまいお父さんと一緒にどうすればいいか悩んだ頃もありました。

でもそれからは心を入れ替えてまた元の頑張り屋さんに戻った時はお母さんもお父さんも嬉しかったですよ。

ちゃんと学校に行くようになって大学も首席で卒業して無事に社会人になった時はホッとしました。

学校の先生になるとは思いもよりませんでしたが、鈴子なりに頑張っている姿を見た時はもう安心だと思いました。

鈴子にも良い人にも巡り合って、子供も授かってこれからあなたの人生はまだまだ先があります。

生徒から、旦那さんから、そして子供からいっぱい学ぶことがあるから、くじけないでいつもお母さんが知っている頑張り屋さんでいてください。


「鈴子 愛しています。」


蘭子へ

蘭子はお父さん子で、いっつもお父さんにくっついて歩いてお父さんがいなくなると泣いてばかりいる寂しがり屋さんでしたね。

大きくなったらそれが治るかな?と思っていたんだけど結婚するまでずっとお父さんにくっついていましたね。

お母さん蘭子にちょっと嫉妬した時があったのよ?

そんな蘭子でも洞察力が鋭く周りの空気を読み行動する姿に気づいたときはお母さんびっくりしてしまいました。

ちょっと鋭すぎていい子を演じているの気付いてましたよ。

お母さんたちが働く会社に入ってからは蘭子の事を馬鹿にする人たちがいたけど、そんなこと全く気にせずに自分の能力を十二分に発揮して出世していくのを見ながらお母さん本当は社内の人たちに向かって「どうだ!」と言いたくなったのを懐かしく思っています。

結婚は姉弟で一番最後だったけど、旦那さんと子供は大切にしてくださいね。


「蘭子 愛してます。」


幸一郎へ

何をするにも1本これ道を決めたらただまっすぐにひたむきに進む子。

それが幸一郎です。おとうさんそっくりです。それとも畑山家長男としての覚悟を持っていたのかな?

あまりにもまっすぐに進みすぎちゃってるから挫ける事があった時にぽっきりといっちゃうんじゃないかとお母さん心配しましたよ?

でも中学卒業後の進路に一度失敗した時がありましたね。もしかしてと思っていたけれど挫けずに頑張って目的の進路へたどり着いた時はお母さんはとてもホッとしたのを覚えています。

お母さん幸一郎に言う事は何にもありません。あ、それでも一つだけ言わせてください。

まっすぐ見て仕事に対してもまっすぐに進むことは悪いとは思いません。でもそれが原因で奥さんをと子供を蔑ろにしないようにしてください。後で痛い目に会うわよ?


「幸一郎 愛してます。」


孝志へ

あなたは今日は何をするんだろう?っていつもハラハラさせる子でした。突拍子がなくっていつも何を考えているか解らなかったわよ?

そのくせ学校では成績がいつもトップ3以内ととても頭のいい子でした。将来は大学行って教授とかになるのかなと思いきや農家になるとは思いもよりませんでした。

まあ、あなたのやる事だから何か考えがあってのことだと思っておきます。

孝志の仕事は生き物を扱う仕事です。モノとは違い気を使わなきゃならないのですから充分に注意するんですよ?

北海道の義父おとうさん、義母おかあさんに迷惑をかけることなく、お嫁さん子供たちを大切にしてあげてください。


「孝志 愛してます。」


まだまだいろいろ書きたいことは山ほどあるのですが、未練を残していると思われたくないのでここまでにしておきます。

私と一郎さんの子供たちよどうか健やかに、穏やかに暮らしこれからも後悔することの無い様に精いっぱい生きてください。


それが、お父さんとお母さんからの願いです。


お父さんと一緒に天国から見守っています。


愛しい私の子供たちへ。愛してます。



○月○日○○時○○分      畑山 頼子より”


書いてある便箋には涙で滲んだ跡がありました。読んだ後、私は膝から崩れて座ってしまい大声で泣いてしまいました。

鈴子姉さんや幸一郎、孝志も大声で泣き「ちくしょう!」とか「ごめんなさい」「僕も大好きだった!」と呻きながら泣いていました。


そしてもう1枚の手紙はおじさんたちに宛てられた手紙でした。

それを読んだおじさんたちも泣きながら謝罪の言葉やもっと生きてほしかったと懇願するような言葉を言っていました。


通夜と葬式は田舎にある田畑家の本家宅で行われました。弔問に来る人は絶えることはなくお母さんの死を悼む人達でいっぱいでした。

お母さんの抱える写真は外す事が出来なく一緒に荼毘に付されました。

遺骨は田畑家墓所内に小さく建てられたお父さんの墓石に一緒に埋葬されました。


―お母さん、お父さんと一緒に私たちを見守ってくださいね。愛してます。―



   ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



東京へ戻り会社へ出社した私は社長から呼ばれ「頼子さんのお別れ会をしたい」と提案されました。

私も丁度見せたいものがあり、承諾しました。


そしてお別れ会当日、大きな斎場が用意されており祭壇には母の若い頃の仕事途中だろうか?机に座りこちらに向かって笑ってる写真と、退職直前の写真、病床前の写真が飾られていました。


出席した人数はOB,OG合わせ何と290名。私はお母さんがどれだけ皆に慕われていたかを実感したのでした。

お別れ会が始まり社長、亡き会長の奥さんを始め親しかった友人、取引先などたくさんの人からメッセージを戴きました。

そして最後に私からお礼のスピーチをさせてもらうことになりこう言いました。


「皆様、本日は私の母畑山頼子のために御出席頂きまして・・・・・」


とスピーチを始め最後に皆へと母からメッセージがあることを伝えると周りからザワザワと声がしながらも大型のモニターにメモリーカードに記録されていた動画を再生させるのでした。


『あーあー、ええと?これでもう録画されてるの?そうなの?んっん~!皆さんこんにちわかしら?こんばんはかしら?おひさしぶりです。畑山頼子です。私が辞めてから後の人は、初めてですね。ごめんなさいね。こんなおばあちゃんが写ってて。ん?どうしてこんな動画を残せたかって?なめてもらっちゃ困るわよこんな機器くらい余裕でいじれるわよ?なんたって「無冠の女帝」だもの!』


流れるメッセージを見ている人達からクスクスと笑う声が聞こえてきました。


吉治よしはる社長~元気にしてますか~?やよいちゃん、みわちゃん、なおみちゃん、ひろこちゃん、きみこちゃん、そしてひろしくんみてますか~元気ですか~?って社長以外は私は今、OB,OGばっかりだから見てないかな?私は元気ですって言ってもこれを見られている頃はくたばってますから元気とは言えないですね~。』


また会場から笑い声が聞こえてきます。


『私は今、とある施設に入所してます。入所の理由は「認知症」です』


周りがザワッと一瞬にして驚いた声が上がります。お母さんの話は続きます。


『正直なことを言えば何故私が、何故こんなことに・・・と思いました。でもそうなってしまったからのだからしょうがないんですよね。でも今思い出されるのは会社にいた時が一番楽しかったことを覚えています。あ、でも家庭が一番だから二番になるわね。』


先程の空気から一変、また明るい雰囲気になります。


『15歳で東京に来て入社して仕事が分からずにいた私に、皆さんは親切に仕事を教えてくれて本当に感謝してます。そうして先輩の方々に恩返しをするべく私なりに一生懸命仕事で恩を返してきたつもりです。


そうすることが人として、そして社会人として当たり前だと思っています。その頑張りが当時多摩川のそばにこじんまりとあった会社が、あの小さかった会社が今ではあんなに大きな会社となりました。


ってなんだか説教臭くなっちゃったわね。ごめんなさいね。』


再び笑い声が聞こえてきます。


『何が言いたいかって言いますとね?みなさん「後悔」だけはしないでください。実は私、こんなことにはなってしまいましたけど「幸せでした」と言えます。


だって、今思い出しても会社でみんなと過ごした日々、忘年会とかの飲み会でみんなといた日々、そして一郎さんや子供たちと過ごした日々、どれを思い出してもの笑い顔しか思い浮かばないんですもの。


もしかしたら私と同じ境遇になってしまうかもしれません。ならないことが一番ですけどね?でも最期に思い出した時「ああ幸せでした」「楽しかった」って思いたいですよね?


私は会社の皆さんに。先輩OB,OGの方々に、そして今は亡きイチジョウアキヒロ会長、いや前社長に、そして家族に支えられ生き抜く事が出来ました。感謝しかありません。それに対する愛情しかありません


経験者は語るとは言いますが、今私が経験の真っ最中です。どうか皆さんも「後悔」の無いように精いっぱい生きてください。若い子たちも年寄りが言っているからと思わないでください。


最後になりますが、皆さん元気で過ごしてくださいね。1番は死んだ旦那に、2番は子供たちに、そして3番は会社の皆さんに「あいしてます」それじゃあね。』


『・・・・はい!畑山さん大丈夫です。』


『ふ~!緊張した~。でも・・・これでもう言いたいこと言ったから思い残すことはないわ。私はみんなの事あいして・・・ブツッ』


こうして動画は終了しました。

会場からは鼻をすする音や、嗚咽する声が聞こえます。


そして私はこういって締めくくらせてもらいました。


「皆様、本日は本当にありがとうございました。私も精いっぱい生きてみようと思います。みんなに「愛してます」と言える人生を送る事が出来るように。」




   ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


時は遡ります



「・・・・・・と、良し。これでいいわね。」

私は子供たちや兄弟たちに向けて手紙を書いた。


「よくもまあ正気に戻れたわね」と思いながら、今の私に思いを寄せてみます。

主治医の先生によれば正気に戻るという症例はあっても先生自身が見たことはなく、始めてだと


「まさかここまではっきりと受け答えできるまで症状が回復するなんて・・・」


と言っていました。


しかし、この症例にある最期は死―

正気を失った人たちが、ある人突然正気を取り戻したあとにまるでろうそくが燃え尽きる寸前に大きく燃え上がるように、そして短い期間ののちに死を迎えることを聞いていた。


先生に「私は死ぬんですか?」と聞いて「ハイ」という人はいないでしょう。

そしてよく見るパンフレットやインターネットに掲載するとか、テレビなどでは言わないと思う。それでも親族などが私のようになった人を最後まで看取った人達からの話はよく耳にしました。


私も覚悟はできている・・・とは言えない。正直怖い。でもいつかはやってくる。幸いにも私は正気を失ったまま死を迎える事がなかったと思ってます。

もっと我儘を言えば子供たちに看取られながら生きたかったなと―


今日は少し体が重かった。歩くのもおっくうでいつまでも寝ていたかったですが、壁に貼り付けられている手紙や、増えている写真を確認したくて起きていました。


孫からの「早く良くなって」とか一生懸命描いてくれたのだろう私の似顔絵らしき絵とかもある。そして私がボケていた時に子供たちと一緒に撮影された写真を見ています。


さすがに写真に写る私の姿が「う~ん」と唸りたくなるのと「恥ずかしい」と思ってしまう状態を見て少々複雑な思いがします。


―今日はずいぶん眠くなるのが早いわね―


時計を見ると19時過ぎたばかり。ここ数日やっておかなければとあれこれ頭を使いすぎたせいでしょうか?

私は入浴を済ませ、早めに眠る事にしました。

そして今日は一郎さんや家族の夢が見たいなとタンスの上にある写真を抱きしめ眠りにつくのでした。

出来れば、夢の中で言えなかったあの言葉を言いたくてー


『・・る・・こ・・・。よるこ。頼子。』


―誰ですか?私は眠いんです。―


『頼子、お父さんだよ、一郎だよ。』


―あら、一郎さん?さすが夢の中ね昔の姿なのね。一郎さんそのころの姿が一番魅力的だったわね。―


『なんだよ。じゃあ年取った時は魅力はなかったのか?』


―そんなことないじゃない。年を取った時も素敵だったし、私は好きでしたよ。―


『そうか、そう言ってくれると嬉しいな。』


―それで?夢なのよね?お迎えに来たんじゃなくて。―


『いや、迎えに来たよ。』


―・・・そう。名残惜しいわね。もう少し生きたかったかな?―


『そうかもしれないが、もういいだろ?』


―そうね。もう十分かも。―


「そうだよ。子供たちは大丈夫だ。義兄さんや弘樹達には悪いが頼子はもう連れて行きたいしな。」


「そうねあの子たちは新しい家庭も築いているし、私たちは私達でまた2人きりで暮らしましょう。」


「ああ、また2人で一緒に居られてうれしいよ。あ、でもこないだまでの姿は勘弁してくれ。」


「何言ってんのよもう!あれはさすがに恥ずかしいんだから、見なかった事にしてください!忘れてださい!」


「ははははは!冗談だよ!お?頼子、昔の姿に戻ってるぞ?」


「あら、本当ね。これで釣り合いが取れたわね?」


「ツキノワグマと博多人形だったけ?」


「ああ、あの噂知ってたの?」


「そりゃ知ってるさ、頼子と噂になった事だもの。」


「そうね~あれから長いようで短かったわね~。」


「いやいや「これからも」だ。」


「そうね。これからもよろしく一郎さん!愛しています。」


「・・・君から初めて聞いた。その言葉。」


「ふふふふ。私も言いそびれていて、言ってなかったこと後悔してたのよ?」


「ふふ。そうか。とっても嬉しいよ。僕も愛してる。」


「そうね!昔も、今も、そしてこれからも!!」


「ああ、それじゃあ、行こうか。頼子。」


「はい。どこまでも!一郎さん!」


「「 あ な た の こ と を 愛 し て い ま す 」」



最後までお読みいただきありがとうございます。

これもひとえに皆様のおかげです。


また稚拙ながらも別の作品を航行していきたいと思っております。

それではまたお会いできることを楽しみにしつつこれにて失礼します。



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