とある地方の家庭の事情
注)初投稿作品です。稚拙な文章、物語の構成などは我慢していただければ嬉しいです。既出感が否めない作品ですがお読み頂ければ幸いです。
時代背景が少々ずれている可能性ありですので御了承ください。
私の名前は「頼子」と書いて「よるこ」と読む。
東北の農村地帯に生まれ家族は祖父母と父母、上に兄が2人で次に私、そこから下に弟と妹が1人づつ。普通は「3男2女」と呼ぶが、御年60越えの祖父曰く
「わ(私)の孫だちだっきゃ1太郎2太郎3姫4姫5太郎でめんこいんだじゃぁ」
と思いっ切り東北訛りで居間で昼間から酒を飲みつつ庭で遊んでいる私たち兄弟を目を細めながらニコニコと近所の老人仲間に話していたのを何度も聞いているのを記憶しています。
我が家は昔からの「専業農家」であったが、父の代からは大規模工場の一社員を務めながら田植えや稲刈り、野菜などの収穫時のみ有休を取り畑仕事をするいわゆる「兼業農家」へと切り替えた。
その代わり父が仕事できない所を母や未だ現役の祖父母と一緒に田畑の作物の世話をしていた。もちろん私も休日の日には手伝い、繁忙期に合わせて学校を休まされたものです。
都会の人たちは知らないだろうが、私たちの地域の学校には「田植え休み」「稲刈り休み」と称して学校を休むことができたのだ。もちろん農家のみで非農家の子たちには「いいなぁ」と言われていたが、私含め農家の子供たちは重労働が待ち受けることが分かっており、ゲンナリしたものです。
「田舎」と呼ばれるにふさわしい場所ではあったが月に一度の「紙芝居」や学校帰りに近所の商店で駄菓子を買い食いしたり、同級生の小金持ちの友達が買ってくる「少女漫画」をみんなで回し読みをしたりいろいろな楽しみもあったんですよ。
そんな少女時代を過ごしつつ15歳になり中学を卒業。
「時代は学歴が必要になる」と祖父の鶴の一声で上の兄2人は近くの高校へ父が無理をしつつも何とか通わせる事が出来たが、やはり地方の一農家では3人目以降の私たちへは中学校以上の学校へ通わせる事が困難であった。
そこで、私は下の妹弟には学校へ行かせたいと決意し、高校へは行かずに妹たちの学費の助けとなる就職への道を選びました。(両親は感謝しきりであった)
しかし、「田舎」である地元の近隣地域には女性の働き口はなく、既に上京し東京で働く親戚の従姉を頼り都内では中堅くらいだという商社で募集があるということで紹介していただいて、事務員として働くことが決まり上京し何も解らないながらも賃金に対しての労働で示すべく一生懸命仕事を覚え、仕送りしながら働きました。
数年が過ぎて、長男である兄は農業高校を卒業し父とは違い専業農家へと進み、次男の兄は工業高校を卒業。父が働く会社へ就職した。妹と弟は私が送る仕送りの補助もあり高校へ進学することも出来、3年就学の後に卒業も果たして弟は地元の会社へ就職。妹は私が就職でお世話になった従姉が、丁度、寿退職ということもあって入れ替わりで就職する事が出来ました。
ようやく私も一つ肩の荷がおりて余裕ができたので、改めて都会という所を充分に楽しもうと思いましたが、仕事にかまけて都内で遊ぶというものを全く知らない自分に愕然としたものです。ですが、溜息を漏らす私を見かねたのか同期の同僚や後輩からの助力もあり徐々に「楽しむ」ことを知り女性同士で旅行へ行ったり、買い物を楽しむようになっていきました。
「高度成長期」「オリンピック」などと色々な時代も来ている中、私も20代も半ばに差し掛かろうという時、周りの同僚の結婚式に出席。ウエディングドレスに身を包む同僚に「おめでとう」と心から祝福しながら、昨年に田舎で行われた同窓会に出席して同級生が皆結婚しておりすでに子供もいる(多いところで5人目という所も!)事もあり「私も嫁き遅れにならないようにしなくちゃ」と少しばかり焦りを感じたものです。
話は戻り、結婚式も終わり2次会へと突入。そこで出席していた同僚の「武田くん」から大学の後輩で私と同じ会社ではあるが別部署の男性を紹介されました。名前は「三好一郎」150㎝の私より一つ頭が高く体つきはガッチリしていて、何でも大学時代の授業が無い時はツルハシ片手に土建業のアルバイトをしていたとのことです。2歳年下で顔の作りはというと何と言いますか「顔の整ったゴリラ?」と思いました。
「はははは初めまして!えーぎょーかのみよしいっちろうといいますっ」
「イッチロウさんですか?初めまして総務の畑山頼子です。」
「あ、いえイチロウといいます。」
「そうですか、後輩さんなんですってね?」
「はい!先輩の5年後輩です!」
「む、そうですか・・・」
「先輩みたいなひ弱な人と話すのがはじめてなもので」
「あらま、私って「ひ弱」に見えるのですね。」
「あ・・・いぇ・・・そう・・・ではなくってですね。」
「・・・」
「・・・」
話が終わったところで苦虫を100匹嚙んだような顔をしながら武田君が彼の右耳を引っ張りながら離れて行き
「バカ!・・言う時・・・カワイ・・だぞ」「ええ!じゃぁ・・・ですか?」
「おま・・・・で・・・だぞ!」「ああああああああああ!」
「もう知らん」
何かコソコソ話していましたが、えらい失礼な方だなと思いつつそこから離れ、私は自分の席へ戻るのでした。
そんなこともありましたが、今では社内で顔を合わせると「お疲れ様です」とお互いに挨拶は交わすようにはなりましたが、当の本人はいつも青い顔をしながらビシッと気を付けをして90度腰を曲げ頭を下げて挨拶をするのでした。
・・・・変な人。
ですが、ある日いつものあいさつの後に彼から
「先輩!もし休日に暇があるときがあれば一緒に動物園に行きませんか!」
とお誘いがありました。私は「はあ?いきなりですね。」と思いつつ
「三好くんと私の2人だけで、ですか?」と尋ねると、
「いえ、そこのところはご安心下さい。武田先輩と先輩の彼女も一緒にですので。」
「あれ?武田くんって付き合っている娘いたっけ?」
「はい!最近付き合いだしたそうです!」
「うそ!ほんとに?」
「ほんとです!」
そこに丁度武田くんがやってきて
「お?ついにデートのお誘いをしたな!よしよし」
「ちょっと、彼女出来たなんて教えてくれればいいのに!水臭いじゃない!」
「・・・あの・・・へんj」
「あぁ、スマンスマン彼女が周りにはあまり言わないていてくれって。」
「そうなの?あーついに独り身は私だけになちゃったかー。彼女紹介しなさいよ?」
「へんじを・・・」
「もちろん。今回は彼女の紹介も含めて誘ったんだよ!再来週の日曜でどうだ?」
「いいわ。武田君の心を射止めた彼女を見てみたいし、良いわよ。楽しみにしてるからね!」
「ほんとですか!」
「「あ・・・」」
同僚に彼女ができたことに気を取られていて思わずデートのお誘いを受ける事となりました。
その時の彼の表情は頬を赤らめ鼻の穴が大きく膨らみふんふんと鼻息が荒く口元がニヤ~っとしており、思わず後ずさりをするものであったのでした。そんなこんなで日々の仕事をこなしつつ2週間が過ぎ日曜日がやってきたのです。武田くんとのことがあったにせよ生まれて初めて異性とのデートに心を弾ませながら、前日の会社帰りにはデパートに行き新しい洋服を買い備えたことは、後に「いい大人がなにを浮かれているのやら」と恥ずかしさがこみ上げてきたものです。とりあえず、おめかしをしていざ動物園入り口前である待ち合わせ場所に10分前に到着。すると既に三好くんはいつもの気を付け状態で微動だにせず佇んでいる姿が見えたのでした。私は彼に声をかけ
「お待たせしました。」
「ようこそいらっしゃいませ!ちょうど私も到着した所です!」
「いらっしゃいませって。従業員じゃないんだから」
「あ、そういえばそうですよね。」
「そうですよ」
苦笑を浮かべながら彼は頭をポリポリと搔き、その横で私はクスクスと笑いながら会話をしていると、
「おや?おにいさん朝早くからず~っとここにいて~まだここに居たのかい?
疲れたでしょそこのベンチに座ったら?」
「あ~・・・いや~・・・その・・・」
と、掃除担当の係員でしょうか?声をかけてきたのです。それを聞き私は「アハハハハ」と笑いたい所を、私は後ろを向き方を震わせながら堪えていました。そんなおかしなやり取りをしているうちに、いつもながらにタイミングよく武田くんが彼女と思わしき女性と歩いてくるのを見た途端、私は呼吸するのも忘れ、目を大きく開き武田夫婦を凝視しながら硬直するのでした。
「よ!遅れてすまないな・・・って俺が時間ぴったりじゃないか。2人とも早いよ。」
「お姉ちゃん久しぶり!」
今どきのカッターシャツにジーパンにハイカットのブーツを履いた流行ファッションに身を包んだ武田くんと似たような恰好をした妹が一緒に腕を組んでこちらに歩いてきた。妹である「恵」は去年成人式を迎え現在21歳。大人の雰囲気が漂い始め私と正反対のうらやましい体型をしている。「上京当時はあちこちとキョロキョロしてかわいかったのに」ってそんな思い出話はどうでもいいと・・・。
「恵!なんであんたがここにいるの!」 「え?だって弘樹くんと付き合ってるし」
「いやいや、いつ知り合ったの!?」 「え~とこっち(東京)に来てからすぐに」
「ほんとに付き合ってるの?」 「うん」
「まあいいわ。後で2人とも説明してね」「「了解」」
とんでもない事件が発生してしまいました。私はもう何が何だかわからずデートどころではなく、妹の爆弾発言に戸惑うばかりでした。横にいる三好くんはあちらとこちら、左右を交互に見てアワアワするばかりではあったが、大きく深呼吸をして、
「今日はなんかデートどころじゃないと思いますので解散と行きませんか?」
「あぁ、大丈夫ですよちょっと驚いただけですから。」
「いや、ですが・・・」
「大・丈・夫です!」
「はい!」
そんなことがありましたが、私も楽しみにしていたこともあり妹の保護者としての責任はちょっとだけ心の中の棚に置いておくとして。せっかくの休日を思いっきりと行きませんが妹たちと動物園廻りに突入するのでありました。
畑山家構成-父~祖母-(動物園エピソード時点)
畑山 義喜:父(49)
畑山家大黒柱。農業のみの収入では食っていけず父(祖父)の反対を押し切り某工場に勤務、現在職長。昔ながらの亭主関白。
恵子:母(47)
義喜とは見合結婚。プロポーズ時には「床の間に飾って大事にする」と言われていたが現在は家事から畑仕事までこなし、農耕馬から軽トラを全て扱いこなし、○協との打ち合わせまでこなすマルチお母さん。
義男:祖父(78)
元大黒柱。現在は義喜に譲り畑仕事の傍ら近所のジジババ仲間と酒を飲みながら庭で用水路で捕まえた獲物で鍋をつつくのが大好き。昔は米俵2俵を担ぐほどのマッチョメンであったが、今や見る影もなし。
ツネ:祖母(79)
いつも無口でニコニコ笑顔を絶やさず未だに畑山家の台所と孫の教育を一手に引き受け、夫義男との間に7男5女を設けるスーパーおっかさん。戦中尋常小学校の教師であったこともあり躾は超スパルタ式で今日も必殺の竹尺がうなりを上げる。