泣きっ面に蜂
「何だよ!こんな時に、モシモシ!」
新見は、少し苛立って電話に出た。
「私…美香」
電話口の声は、暗かった。
その事が、余計に新見を苛つかせた。
「だから、何だよ!」
語気が強まった。
「何を怒ってんのか知らないけど、大変だよ」
遠回しに美香は言って来た。
「大変って何だよ!どうせしょうもない事だろ?」
新見は、早く電話を切り、玉野との会話に戻りたかった。
「出来ちゃったんだよ、赤ちゃん」
少し涙声になっていた。
「出来た?赤ちゃん?」
新見は狼狽した。
「うん、三ヶ月だって…」
「三ヶ月って、お前…」
この時、新見の頭の中をグルグル記憶が駆け巡った。
「お前さ、三ヶ月って、あの日だよな?騙したのか?」
新見の言葉には、怒りと情けなさが入り混じっていた。
「違うよ…安全日って言っても、100%じゃないんだよ」
勿論、嘘だった。
「お前…堕ろせよ。結婚なんか無理だからな」
新見は"結婚"と"都合のいい女"を天秤に架けた。
「酷いよ。結婚を考えてるって言ってたじゃん」
美香の声は、完全に泣き声になっていた。
「それとこれとは話しは別だろ!第一、俺を騙してないって証拠もないしな」
最早、滅茶苦茶の理屈で責任逃れしようとしていた。
「とにかく、今から会おう!一時間後、いつものトコな」
そう言うと、電話を切った。
おそるおそる玉野に目を戻すと、玉野は黙って腕組みをして、目を閉じていた。