彼
コヴィントスとは
私は今、古めかいいおんぼろの建物の前にいる。
その建物は茶色くぼやけた木材でできていて、窓ガラスは命からがらその姿をとどめている。私の純粋な気持ちはこの学び舎に配属されていた職員たちのことだけでなく、立ち上がるとザクザクと音を立てて制服の糸ほつれを施すようなボロいすに身を座しながら勉学に励む少年たちの幼く怏怏と授業を受ける姿をも見えてしまうほどどこかに懐かしい。幾度となくあったであろう地震、夕立、台風、祭り行事を経験したこの学び舎を私は今日壊さないといけない。破壊活動にふけるはずの未来を再考すると、なぜか無為に涙が出る。
早朝、私は今、古めかしいかわいいらしい建物の残像の前にいる。
一週間にも及ぶ破壊活動が終わった。実につらかった。何度も修繕され長い年月愛され続けたであろう体育館が見たことのない勢いでその骨組みをあらわにする。藁の敷き詰められている動物小屋。屋根に穴の開いたチャリ置き場。私は解体工事を終わらせ、道に帰る途中、一人の男性に声をかけられた。
「おととい、うちの学舎におられましたね?さぞかし早急に作業が進んだことでしょう。」
彼の額には汗が湧く。まだ春先。
「お急ぎのようで、どうなさいましたか?」
「私はコヴィントスと申します。初対面なのに失敬。」
「私はハンドゥルスと申します。あの立派なボロに何かお忘れ物でも?」
私は彼の急ぎの用事を邪魔してしまう。
「いえ、忘れ物といううよりかは、忘れ事でしょうか。あの学び舎の書庫の書物たちはもうどこかへ?」
「一応、中のものはすべて問屋に売りに出しました。」
先日、トップ問屋に売ったばかりである。聞きかねたコヴィントスがこう言う。
「なんとそれは、実に助かった。実はまだ自分にも葛藤がありまして。先に売っていただき助かったまでです。」
私は何か罪悪感を覚えた。
「もしよければ問屋までご一緒しましょうか?」
コヴィントスは一度眼鏡を拭いたあと、汗をぬぐってこういった。
「是非。ハンドゥルスさんでしたね。よろしくお願いします。」
「こちらこそ」
コヴィントスは絵に描いたような教師だった。彼が教師だと分かったのは彼があの校舎にいたような気がしたからだ。
次回お楽しみに




