第89話 泥の街 二日目―2
黒沼公浩と仁科黎明。
泥のような空に覆われた街で、二人は対面した。
橘花院士緒は、この再会は劇的なものになると想像していた。もっと極限で、陰謀の渦中、死の匂いが充満した空間で互いの瞳に己を映しあうような出逢いを。
条件だけなら今の状況もいくらか当てはまるが、何の変哲も無い15階建てのマンション、命を削る程の極限さは無く、陰謀を企てているのは因縁の敵で、街に満ちる死の匂いは………思っていたよりも臭い。
(こんな泥臭い街で会うとは………まったく気に入らない)
とは言え、出会ってしまったからにはやるべき事がある。
本当なら泣くまでチクチク悪口を言ってやりたい所だが、今は最低限にするとしよう。
「仁科黎明……いえ、理事長先生とお呼びしましょうか。初めまして、第三校で風紀委員をしています、黒沼公浩です」
「仁科黎明だ」
「………………」
「………………」
ニコニコと黎明を睨む公浩と、しかめっ面で公浩を観察する黎明。
二人のにらめっこを退魔師たちは冷や汗を垂らしながら見ている。なにせ、片や退魔師の頂点に君臨する退魔師協会会長様だ。竜胆にしても、天上人である仁科黎明が何時、自分には理解できない言動を発するかビクビクが止まらない。
しかし、そんな事を意にも介さない存在が黎明の首に腕を回して抱き付いた光景を見た時は、逆に心臓が止まるかと思ったが。
『レイ!!』
ケイトは日本語を読めないが、ある意味では空気も読めていなかった。
公浩も黎明も薄っすらと敵意を漏らす中、『恐かったんだからっ!』と泣きつくのだから、中々に神経が太い。
『すまんケイト、一人にして。怪我は?』
『あるわよバカ!』
ケイトが涙目で黎明の太股あたりを蹴りつける。それも先ほど怪我をした方の足で。
特に酷かった足の怪我は応急処置を済ませ、歩く分には問題無いだろう。ただ、流石に本職並の治癒とはいかないため、状態はそこそこだ。激しい運動に耐えるとは言い難い。
公浩が二人に近付き、ケイトの首根っこを猫のように掴んで引き剥がし、ゲシゲシ蹴るのを止めさせる。
『ちょっと! 放しなさいよ! さっきの事、レイに直接聞いてやるんだから!』
公浩はジタバタと暴れるケイトを降ろす。しかし、服を掴んでいる手を一向に放そうとはしなかった。
『な、なによ………』
振り返ったケイトが見たのは、鋭い目付きで真っ直ぐに黎明を見る公浩だった。
公浩は日本人特有の童顔だが、その真剣な表情にはケイトですら不覚にもドキッとさせられた。服を雑に掴んでいた手が、次の瞬間にはケイトの手首を優しく包むように握っていたため余計にだ。
「彼女は僕が預かります、理事長」
「っ! な………んだと?」
黎明も予想外の言葉に面食らってしまった。
当のケイトは、日本語で話されるとイマイチ付いていけてない。彼女や僕と言った断片的な単語しか理解できないため、公浩の言葉がどのように解釈できるかピンと来ないのだ。
ケイトはキョトンとしながら二人の少年の顔に視線を往き来させている。
「聞いてるかもしれませんが、僕は阿刀田でギーネさんに協力して“聖堂騎士”と対峙しました。貴方がギーネさんの後ろにいると聞いたのも、手を貸した理由の一つです。仁科黎明という人物を信用したからこそ、“大聖堂”と敵対した」
信用などと、自分で言っておいて寒気がするが、今は我慢しておく。
これは黎明に対する揺さぶりだ。それも、それなりに強い刺激になるだろうと期待しての。
黎明の仲間の不和にも繋がり、また、今の黎明がどこまでまともなのかも測れるかもしれない、と。
「その聖堂騎士は心優しく聡明な方でした。後で知りましたが、そんな人が何かと黒い噂の絶えない枢機卿などという小者の尖兵に成り下がるとは……考えられません」
「……それで? 何が言いたい」
「彼が枢機卿の言いなりとなったのには理由があった筈です。恐らくは人質でしょう」
そう言って公浩はケイトに視線を向ける。
黎明もそれくらいは分かっていたようで、罪悪感からか渋面が浮かんでいた。
枢機卿がよく使っていた手だ。メリザンドもその一人。昏睡状態で病院に居る妹が人質となっていた。
枢機卿ならそれくらいしてもおかしくないし、然も有りなんだ。ケイトが人質に取られていたのなら、カールの暴挙も説明できる。
しかしそれは同時に、黎明の保護下にあったケイトを人質に取れる者がいたと言うこと。
それこそが、黎明の罪悪感の元だ。
「貴方の身近に枢機卿の送り込んだネズミがいたか、あるいは貴方自身が通じているのかも知れない。彼女にはどこまで話しました? 兄を殺したのが、貴方が信頼して派遣した“悪魔”だと伝えましたか? 貴方が彼女を守れなかったせいでお兄さんが馬鹿な死に方をしたと、懺悔して赦しを乞いましたか? 貴方や、その周りの人間が敵かも知れないと、彼女は知っているんですか?」
「……………」
「“白面金毛”の事もそうです。分かっていますよね? アレが手を取り合える存在ではないことは。そんな奴と、退魔師のトップが通じているだけでも最低の報せですが、何よりも………ケイト・グローセがあの女狐を信じてるというのが、憐れで仕方ありません」
「………そうだったな。村正の倅だったら、知っていてもおかしくないか。玉藻の前と会ったのか?」
「いいえ。ですが、会わなくても分かりますよ。糸浦でアレが何をしたか知っていれば。会って話すまでもなければ、そもそもあんな狂った事をする“鬼”には会いたくもありません。あんな地獄を見た後では………」
橘花院士緒としてなら“白面金毛”との面識はある。向こうは士緒が表に出るまで何者かは知らなかったようだが。
会いたくもないと言うのは願望に近い。出来る事なら、会った事実すら消し去りたい程だった。
嫌な事を思い出して気分が悪くなってきたが、それはひとまず頭から追い出して黎明に向かう。
「とにかく、貴方には彼女を渡しません。“白面金毛”と繋がっているのなら、この街の惨状についても、黒幕は貴方かも知れない。そんな人に女性を預けたくないので」
「……俺が仁科黎明と知っているのなら、お前の目の前にいるのは世界最強の退魔師だと分かっているだろう。力ずくで奪えるぞ?」
「結構。これでも一応は特一級の退魔師です。簡単に負けるつもりもありませんし、少なくとも貴方が退魔師と敵対し得る存在だと知れる事になるでしょう。どうやら遠くで此方を窺っている方が何人かいるようですし」
感じ取れるのは三人。
一人は1000メートル程の位置から殺気をバンバン叩き付けているために分かりやすい。こちらは黎明やケイトの仲間なのだろう。ケイトを案じての焦燥が伝わってくる。
他の二人は視線だけは何とか感じ取れるが、どこから見ているかは全く掴めない。かなりの凄腕だ。
「ここでの浅慮は後々響くと思いますが」
「なら、ここで力尽きるまでにらめっこする気か? 俺達は昨日到着してからろくに休んでなくてな。“社”でゆっくりしたいんだが?」
「貴方とは一緒にいたくありません。“社”に向かうというならば、僕は別行動をします。逆に貴方が“社”とは反対の方向へ行っても良いんですよ? 別行動をした貴方がいつの間にか事件を解決しているのも良し。“白面金毛”と結託して邪神よろしく世界諸共に滅びるも良し。ただし、どちらも僕のいない所でやってください。その際には、ケイト・グローセは僕が貰っていきますが」
『!?』
ここまで日本語の会話に、ケイトは所々しか意味を理解出来ていなかった。しかし最後の部分はそれほど難しい表現ではなく、ケイトでも聞き取れた。
僕が貰っていきます→ケイトは僕が拐っていく!→ケイトは僕の………→ケイトは俺のものだ!
的な意味合いに変化し、それだけが認識出来てしまったのだ。
実際のところはニュアンスに酷い齟齬があるのだが、黎明の前で言われて焦ったこともあり、言語の違いによる空気の読めなさを発動させた。
『ちょっ!? レイの前で変な事言わないで!』
ケイトが公浩の手を振り払って黎明に詰め寄っていく。
先程よりも思わぬタイミングで空気をぶち壊された公浩は呆気に取られてしまった。
ケイトが日本語の会話に反応することは無いだろうと思っていたが、甘かったようだ。
『違うのよレイ!? アイツが勝手に言ってるだけで、私は別に誰のものでもないんだから! ちょっとレイっ、聞いてるの!?』
帝都在住の将校といった出で立ちをしている黎明の胸ぐらをケイトが掴んでグワングワンと揺らす。
黎明も公浩と同様、まさか話に割り込んでくるとは思わず、気組を挫かれていた。目を丸くして「わ、わかってるから揺らすな」と言って宥めにかかる。
一度抜けてしまった気はそうそう入らない。公浩は溜め息を吐きながら心の中で「ここまでですね」と、駆け引きの時間を終わらせた。
「自分が死ぬ事でカール・デア・グローセは妹を守った。貴方の事ですから、どうせ枢機卿の件には片を付けた後なのでしょう?」
『え…………兄さん?』
公浩から兄の名前が出たことがケイトには少なからず意外だった。
依然として何を話しているのか聞き取れないが、それだけは聞き漏らさなかった。『カールが妹を守った』と。
「そう思うなら、何ださっきの嫌味は?」
未だに暴れようとするケイトの両腕を掴んで押さえながら、黎明は尋ねる。
「貴方のこと嫌いなので、意地悪言ってみただけです。すみません」
普段の温和な笑顔に戻った公浩の率直な言葉。
出会ってからの短い時間で、言うほどに嫌われたのは些かショックだった。
が、公浩が終始ケイトの身を案じていたのは確かなようだ。嫌味も、まあ……大部分は本気だろう。
「カールの死に責任を感じているのか?」
「まさか。人質の件も阿刀田の件も、100パーセント貴方の責任ですから。僕もギーネさんも責められる謂れはありません」
「っ………分かってるよ。改めて言われると堪えるが………」
「まあ、それでも………何かしてみたかったんです。良い事をした気になりたかったんですよ。全く役に立った気はしませんが、何と言いますか………………寝付きが良くなるんじゃないかと思いまして。お互いに」
「いや………お前の行為は間違いなくコイツのためになったよ。俺の方から全部話しておく。カールの事と、“白面金毛”……いい加減、隠し事をするのも限界だったんだ。お前の事は良い切っ掛けだろう」
「お礼は結構ですよ? 貴方を嫌いなのは本当なので。それに感謝のあまり見苦しく咽び泣きたいなら、やはり僕のいないところでお願いします」
公浩からの口撃はいちいち突き刺さる。
そこまで嫌われるような事をしただろうかと、真面目に思い返してみた。
初対面で、会話も少ない。と言うか、会話が始まる前から公浩は自分に棘のある言葉を放っていたように思える。
自分が誰にも恨まれない聖人君子などとは言わないが、少なくとも面識の無い公浩から恨まれる理由に心当たりは無い。
しかも、公浩から向けられる敵意は何故か微妙に堪えるのだ。古傷を抉るような……どうしようもない苦手意識が、そこにはあった。
(どうにも読めないな。悪い奴じゃなさそうなんだが……………眼を使ってみるか?)
仁科黎明の“三つの異能”……その一つが『読』と呼ばれるもの。感応強化の究極型で、相手の五感から思考、感情と言ったものを記憶情報に置き換えて認識できる。
本人が『地の眼』と呼ぶそれは言うなれば、相手の心が見える能力だ。
黎明も本気でそこまでしようとは思っていないが、選択肢の一つとしてあるのも間違いない。
そしてその能力の事は士緒も把握している。故に、黎明に能力を使われるのは避けたかった。
一応の対策として結界を常時展開してはいるが、流石に“三つの異能”を弾くだけの手段を公浩が持っているのは怪しすぎる。
面倒な言い訳をしなければならなくなる前に、ここを離れたいところだ。
「ああ、それと……次からは僕がケイトさんに『光剣』を突き付ける前に止めに入ってください。女性を囮にして相手を試そうとするような最低クソ野郎は、自分だけで十分ですので」
「あ、おい。どこへ行く?」
踵を返してさっさとその場を立ち去ろうとする公浩を黎明が引き止める。
「言ったでしょう。貴方とは一緒にいたくないんです。冗談だと思いました?」
「“社”を拠点に動くだけなら、必ずしも俺と行動を共にする事にはならないだろ」
「どうでしょう、“社”へ行けば否応無く貴方の指揮下に入ってしまいますから。僕も勝手に動きたいですし。ああ、“白面金毛”の件については、いずれ詳しく話を聞きたいですね」
ふいに公浩は1000メートル先……高いビルからこちらを覗いている相手に笑いかけ、小さく手を振った。先程から大分弱まっていた殺気が、それで一気に霧散する。
「“社”側の邪魔にはなりません。ですので、僕の邪魔もしないでください」
そして公浩は、それまで蚊帳の外になっていた竜胆に軽く挨拶をしてから、建物の上を伝い走り去ってしまった。
何が何やらと困惑気味の竜胆は、恐る恐るといった様子で黎明へと質問を投げ掛ける。
「ええと………会長、さん? は、俺達と“社”に残ってくれるんですよね? 街の異変を解決するのに手を貸してくださると」
「ん………ああ。この街の惨状は俺も見過ごせない。他の俺の仲間と合流して、事態の収拾に取り掛かる。状況は“社”に着いたら聞かせてもらうぞ」
「ええ。あと、彼は良いんですか? 一人で行動するみたいですけど」
竜胆は公浩が走り去った方向に目をやる。
流石に速い。もう姿が見えなくなっていた。
「良いんじゃないか? あれは単独でも良い仕事をするタイプだ。それに、今回の件に関しては信用できる」
黎明の見立てでは、公浩の“白面金毛”への敵意は本物だった。少なくとも、ここで敵対をしようなどとは互いに思わない筈だ。
なにせ、今回“白面金毛”がしでかした事は黎明にとっても予定外で、もはや裏切りと言って差し支えない。敵の敵が味方の退魔師であれば、もう味方と思って良いだろう。
正直かなり気になる存在ではあるが、過保護な学園長と違って放任主義な理事長は、生徒の自主性を重んじる事にした。
「俺達は仲間と合流してから“社”へ向かう。お前たちは先に帰っていろ」
見た目は公浩と同じくらいに若い黎明から指示をされるのは多少違和感を感じるが、竜胆たちはしっかり従った。
実のところ、退魔師協会の会長の顔を知っている退魔師はそれほど多くない。末端の若い退魔師ともなれば尚更に。
今のところ黎明が本物だと確認できるものは無いが、そこは竜胆たちがその目で実力を確認した公浩を信じた形だ。
黎明にカリスマ性が無いとは言わないが、その正体が“真ノ悪”である公浩の方が信用を得ており、結果として黎明の指示を円滑に受け入れるというのは中々に皮肉だった。
黎明とケイトはその場に留まり、仲間の到着を待つ。
その間、落ち着きを取り戻したケイトは黎明を何とも言えない顔で見詰めていた。
全て話すと伝え、居たたまれない気持ちのまま仲間たちと合流した。
★
『……………』
黎明に語られたのはカールの死について。そして仲間内にいた枢機卿の手駒。さらに“白面金毛”がケイトの考えているような善良な存在ではなく、その目的とする所までをその場で一息に打ち明けた。
『ケイト、リサの事は責めないでくれ。まさか枢機卿がカールに“女帝”を狙わせるとは思ってもみなかったんだ。それでカールが死ぬともな』
枢機卿の手駒はリサ・ハロルドだった。
とは言っても、やる事は精々が仁科黎明の動向を探るなどの監視程度であり、汚い仕事に荷担していたわけではない。
しかし、何気無い日常の風景を報告する……たったそれだけでも、情報の使い方次第ではカールを脅せたのだ。たとえ仁科黎明に保護されていようとも、いつでも手を下せるぞと見せつけるのには十分だった。
結果、リサの流した情報は枢機卿がカールを脅すための材料にされ、不幸にも黎明の協力者であった“女帝”に返り討ちにあった。
後にリサの内通を突き止めた黎明に洗いざらい話し、罪の意識に苛まれながらもケイトを見守っていたのだ。
これからもケイトを助けてやれと、黎明に諭されて。
『ごめんケイト。カールの事は、やっぱり私のせい。今まで隠してて………平気な顔して接してきたのも、ごめん。どんな償いでもするから、だから――――』
『もういい』
ケイトは俯かせていた顔を上げ、リサに詰め寄る。
リサは何をされようと抵抗するつもりは無かった。罵られようと殴られようと、ケイトに委ねるつもりで。
覚悟を決めて身体に力を込めていたリサに、その衝撃は少し予想外だった。
『もう、いいの』
頭一つ分身長が低いケイトに、ひしっと抱き締められたのだ。
その暖かさに、リサは今にも泣きそうになっていた。
『あんたを怒る気なんてないわよ、ばか』
何も思うところが無いわけではない。ケイトにも強い葛藤があり、それをしっかり認めている。
しかしそれも、相手が大切な友達とくれば、ケイトにとってはそれほど難しい問題でもなかったということ。
恨みなど一瞬で忘れられるくらいに。
『けど、それでも何かしたいって言うなら……………レイを頂戴』
ケイトがそう囁くと、リサが焦った様子で体をバッと引き離した。
『それとこれとは話が違うのよ!』
『いいでしょ別に! どうせレイにバレた時に散々優しく慰められたんでしょ!? 一生分の優しさだったと思って諦めれば?』
『あんたこそ譲りなさいよ! さっきは男の子二人に取り合いされて、お姫様気分を満喫したんだから』
『は……はあ!? あっ、あれはそんなじゃ――――』
『それに私はまだ慰められ足りないの。だからこの後ベッドでネットリと慰めてもらう予定なの。なんなら一緒にどう?』
『え………一緒に………………………嫌に決まってるでしょう!?』
………ちょっと悩んだな
全員が心の中でそう呟いた。
ともあれ、ケイトとリサの関係が平常通りに戻ったと確認し、他の仲間たちも一安心だ。
『それで? 黎明。“白面金毛”という化生の話は、俺も初耳なのだがな』
次なる話題を振ったのは、仲間の退治屋で、黎明の海外での活動におけるチームのサブリーダー的存在。小麦色の肌で長身、特一級の退魔師にも引けを取らない実力者でチーム一番の常識人……イグナシオだ。
先程、公浩と黎明のやり取りを見ていた三人の内の一人だった。
『悪い。個人的な内容だったんでな。奴がケイトに接触していたのも知らなかった。それに………この馬鹿げた結界を持ち出してくるとも、な』
少なくともリサとイグナシオは“白面金毛”から接触を受けていないようだ。ケイトを与しやすしと近付いたのかも知れない。
先程の黒沼公浩が言っていた“白面金毛”……玉藻の前の人物像を黎明が否定しない事と、自分が未熟で騙しやすいと思われている事実を、ケイトは同時に突き付けられていた。
『ケイト、なんで俺に玉藻の前の事を話さなかった?』
『え………仕事をほったらかして会いに来てるのがバレると、レイに怒られるから黙っててって。レイの仲間だって言われて、その証拠に仲良さそうに写ってる写真とか見せられたし』
『………あの時のか』
写真については思い当たる節がある。いかにも怪しい玉藻の前に対してケイトがあっさり心を許した理由も。
黎明は自分の迂闊さに腹が立ってきた。
禁術の件で玉藻の前の手を借りたのが間違っていたのだ。いや………それ以前に、
(チッ、危うく繰り返す所だっ。あのクソ女狐に………橘花院を滅ぼすよう唆された時と同じじゃないか!)
言い訳をするつもりは無い。
だが、もともと好きで組んだわけではなかった。そしてこうなった以上、もう“白面金毛”を捨て置けないのも事実。
あのイカれた女がどう考えているかは知らないが、黎明にとって“白面金毛”は、完全に敵だと再認識した。
『全て話すが………少し長くなるぞ』
そこから黎明は、知る限りの“白面金毛”の話をした。自分との因縁まで。
これまで一緒に仕事をしてきた信頼する仲間たちに。街の外で待つ仲間たちにも後で語るつもりだ。
黎明の語った“白面金毛”の目的を要約すると、次の言葉に集約できた。
『奴は世界を変革させるつもりだ。その結果が救世に繋がると信じてな』
“白面金毛”の狂った思想の具現が、この街を覆う結界なのだと。
世界を穿つ災禍まで
12日
第三回キャラクター仕分け
“被虐型快楽物質発生ヒロイン編”下
・CASE6 “赤く染まる日”
それは、カーミラが日本へと飛ぶ少し前。
『むぅ………アリスはどうしても反対?』
『はい、こればかりは』
カーミラが日本の種咲市へと行きたいと言い出した。
勿論、アリシアは側近として主を危険に晒す行為を容認できない。種咲では現在進行形で二つの大勢力が戦争を行っているのだから、至極当然の忠言である。
『そっか………………えいっ』
ヒシッ
カーミラがアリシアの腰に手を回して抱き付いた。そして潤んだ瞳でアリシアを見上げる。
『どうしても? (うる)』
『っ―――だ………駄目です。どうかお聞き分けください』
『今回だけだから! ねぇ、お願い………ママぁ』
『………………………………かはっ!?』
結局、押しきられた。
この技で10年は戦えると、カーミラはほくそ笑んだ。
その度、アリシアは泣かされる事になった。
・CASE7 “ストレイメイド りたーんず”
その日、虎子の自宅にて麻雀大会が開かれた。
メンバーは虎子、扇、焔、主人Kの四人だ。
「ロン。素晴らしきかな、『九蓮宝燈』です」
「なあっ!!?? ば、ばかにゃ………」
「これはまた………派手にぶっ飛びましたね。若も、先程からえげつない程に虎子さんを狙い撃ちとは。しかも、決まり手はまたもや役満」
「虎子様………こうもやられっぱなしでは、流石に迂闊過ぎます」
絶望の表情で項垂れる虎子。しかしここで手を緩めないのがドSというもの。
肘を突いて顎を乗せ、勝者にのみ許される笑みを浮かべて虎子を眺める主人K。まさしく、龍の首を獲った様であった。
「さてさて……どう料理して差し上げましょうか。もうかなりの負けが嵩んでいるのですが」
「にゃ………う………うぅ~~~」
「おやおや、泣いても借金は消えませんよ?」
(鬼畜だ………)
(鬼畜過ぎます❤)
悔しそうに俯いて涙を流し始めた虎子を、ニタ~っと愉しそうに見下ろす主人Kの姿は、一部を除いて誰もがドン引きするほどイヤらしかった。
「仕方ありませんね。それでは、貴女の持つ『芋けんぴうす』シリーズの初期フィギュアで手を打ちましょう」
「にゃ!? そ、それだけは勘弁――――」
「隠しスペースに仕舞っている未開封の方です」
「にゃにゃ!! な、何故それを――――!?」
「悪い話ではないと思いますが? 身売りなんて、したくはないでしょう。さあっ! ネコカフェに売り飛ばされたくなければ、ネコ耳を揃えて用意してもらいましょうか!」
「ぐっ………ぅう~~~っ………こ、この………………この悪魔っっ!! ぅ………ふえ~~~~ん!!」
虎子は泣きながら飛び出して行ってしまった。
扇はジト~ッとした目を主人Kに向け、焔はうっとりと鬼畜な所業を見詰めている。
「ああ………楽しかった。満足です。あの可愛さに免じて、今回は貸しにしておくと伝えて下さい」
それでも貸しは無くならないのか……と、改めての鬼畜っぷり。
扇に言付けし、ツヤツヤ笑顔で主人Kは帰って行った。




