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異能モノノケ録  作者: 長尾景虎
85/148

第85話 泥の街 一日目

 

 九良名学園第三校、学園長室。

 普段なら昼休みの時間、亜笠も持参した弁当―――5時起きのジェーン作―――を出来るだけゆっくり摘まんで仕事に戻るのを遅らせているところだ。


 本日は元旦。前日に教師陣を交えた忘年会も終え、次は新年会だと何処かの酒飲みが息巻いている時期。

 本当なら仕事に拘束される時間が少なくて済む日だが、もはや新年だということを忘れさせる程の緊急事態が発生していた。


 今朝方に受けた報せのせいで亜笠は食欲を失せさせ、周りが見てもどことなくソワソワと落ち着かない様子。

 ただし、問題なのは受けた報せと言うより、受けるはずの報せが来ない(・・・・・・)点だった。

 檸梨市に出張っている磯野、神崎、工藤の三人と連絡が着かないのだ。消息不明と言い変えてもいい。

 仕事を失敗したにしろ無事終えたにしろ、必ず現地の“社”から連絡が来るはずなのにそれも無し。いや、それどころの話では済まない事態だ。


「駄目です。方々から通信を試みましたが、やはり“社”どころか街の一切と連絡が取れないようです」


 ジェーンが齎した空気の重たくなる報告に、亜笠も苛立ちを抑えきれずデスクを殴りつける。

 デスクは壊れなかったが、それがある意味で異常事態だという事を物語っていた。


「協会には報告しておきました。連絡はおろか、昨夜から街を出た人間すら確認できていない状況ですから、当然ながら重く受け止めているようです。吾妻(あがつま)太郎を筆頭とした調査の専門部隊を派遣すると」


「まさかとは思うが、ジェーン。上から勝手に動くなと言われてないだろうな?」


「言われた気がしますが、なんと応えたかは忘れてしまいました」


「思い出さなくて良いぞ。すぐにうちからも人を出す。教員から何人か選んで向かわせろ。それと……ジェーン、行けるか?」


「勿論です。私が戻って来るまでに仕事は溜めとかないでくださいね?」


 亜笠は出来る限り学園を離れるわけにはいかない。決して自分では動かず、仕事をして待っていろとジェーンは暗に言っているのだ。

 亜笠も、今回ばかりは黙って頷く。内心ではかなり焦れていたが。


「よし、すぐに準備しろ。本当はもう少し戦力を送りたいところだが、無い物ねだりか………」


「まさか生徒を行かせられませんからね」


 状況が不明瞭過ぎる場所に生徒を送り込むなど論外だ。

 こんな時に一番頼りになりそうなのは梓だが、三王山家の娘で自分の妹とは言え、流石に行かせる気はない。

 亜笠の指示で生徒会と風紀委員会には話が行かないようにしてある。生徒会のメンバーが三人も行方不明となれば、他の者たちが無理にでも向かおうとするのは目に見えている。それを宥められる自信が亜笠には無かった。


「そうだ、澪・ブライトはどうだ。奴なら戦力として申し分無い。不測の事態にも対処出来るはずだ」


「それは流石に無理があるかと。風紀委員長は学園の守護として置くようにと、理事長から言われています。橘花院という脅威を未だ抱えたままですし」


「だよなー………仕方無い。こうなったらお前が頼りだ。何としても生徒達を連れ帰れ」


「承知しました」


 ジェーンは準備のために部屋を出て行った。


 これで打てる手は打ち尽くした。亜笠はやれる限りの事をやったのだ。

 しかし、少しも納得出来ていなかった。

 人事を尽くして天命を待つと言うが、とてもではないが落ち着いて待っていられない。自分は本当に人事を尽くしたのか? まだやれる事が残っているから落ち着いていられないのではないか?

 普段は見せない一面だが、亜笠は誰よりも生徒思いだ。それは時として亜笠を苛む。

 心配で身が引き裂かれるようだった。

 せめてまだ何か………他に打てる手は無いか。


 そんな時、亜笠の前に訪れた人物は正に天の助けに思えた。


 コンコン


 学園長室の扉をノックする音。

 亜笠が入室を促し、そして現れた男は身内贔屓を差し引いても、この世で一番頼りになる男に見えた。

 生気の薄くなっていた亜笠の顔に、僅かな血の気と笑みが戻る程に。


「やあ、亜笠。近くを通り掛かったから寄ってみましたよ。今年も親族会に顔を出さないつもり――――」


「兄貴っ! 良いところに来てくれた!!」


 亜笠が身を乗り出して歓迎した人物は、オーダーメイドのスーツに知的さを感じさせる眼鏡といった見るからにインテリ風の男。亜笠の実の兄にして三王山家次期当主……三王山 阿斗州(あとす)だった。

 仕事の事情から難しいと知りながらも、一応、毎年初めの親族会に誘うために顔を出したのだ。

 実のところ他の個人的な用事のついでなのだが、こんな用事でもなければ会う機会が少ない事もあり、近頃は口実を見つけては会いに来ていた。妹想いの兄はその用事を見つけるのにも苦労しているのだが。


「珍しく歓迎ムードで嬉しいですが、バカ兄貴(・・・・)の助けが要る事態ですか?」


「悪かったよ謝るから! 変なこと根に持ってないで聞いてくれ。頼みがある」


 亜笠は生徒の消息が途絶えた事を分かっている限りで説明し、阿斗州は神妙な顔でそれを聞いている。

 ハッキリ言ってしまえば、亜笠の反応は過剰なものだろう。

 退魔師の業界ではこの手の事態は日常茶飯事だ。生徒想いの妹は誇らしいが、客観的に見れば過保護の一言。

 さらには実の兄を……しかも“六家”の次期当主であり現職の協会幹部を非公式な仕事に半ば私的に駆り出そうとまでしている。

 とてもではないが聞き入れられない。たとえ実の妹が珍しく頼ってきて嬉しく思っていても、あまりに現実的ではない頼みだ。


 聞けば誰もが一笑に付すことだろう………尋常でないほど家族に甘いシスコンのバカ兄貴を除いて。


「分かりました。ではまず市街の地図と近隣の地形、現地の退魔師の情報、手に入っている分を渡してください。既に手配済みでしょう?」


「もちろんだ。だが、ちょっと多いぞ?」


 亜笠がデスクから取り出したのは大量のファイルと分厚い書類の束。この数時間の内にここまで大量の資料を用意して見せたジェーンの優秀さに阿斗州は舌を巻く。

 しかも阿斗州がざっと見た限り、これでも情報は選別されていて必要最低限まで抑えてあり、要らぬ情報がほぼ皆無。凄まじい事務処理能力と情報分析能力だ。


「それから、この事も既に伝わっているかも知れませんが、父さんにも連絡しておきます。こうなったら、いっそ家毎巻き込んでしまうのが良いでしょう。今回の件、胸騒ぎがします………万が一の事態に備えて三王山だけでも動けるように」


「恩に着るよ兄貴。本当に助かる」


「ただし条件が一つ。近い内に実家に顔を出すこと……梓も一緒に」


「ぅ………あたしはともかく、梓を連れて行くのは骨が折れそうだな。いや、比喩とかじゃなくて」


「父さんもあれで二人を心配しているんです。梓にとって父さんはトラウマそのものですが、家族である以上、いつかは向き合ってもらわないと」


「……梓ほどでないにしろ、クソ親父はあたしにとってもトラウマ的存在だからな。ま、条件って言うなら是非も無いけどな」


「言っておいて何ですが、無理強いをするつもりはありません。前向きに考えてくれれば、それで」


 一秒すらも惜しむように、話をしながらも資料に目を通している阿斗州。

 突っぱねるのが当然の頼みを引き受け、これ程までに真剣に取り掛かってくれる兄の姿に、亜笠はじーんと来るものがあった。

 そんな兄の頼みなら、たとえ最悪に苦手とする変態実父に会えと言われても、自分でも驚くほど前向きに考えられるというものだ。

 梓に関しては相当に難儀しそうだが、何とかしようという気にもなる。


 ………豊胸機具やサプリで説得できるだろうか


「そうです、その時は鏡にも声を掛けましょう。母さんも少しは安心するはずです」


「ん? なんでそこで鏡の名前が出てくるんだよ」


 阿斗州が思わず資料から目を外し、不可思議な物を見るように亜笠を見る。

 そして納得がいったのか再び資料に視線を戻し、小さく溜め息を吐いた。


「………そうでしたね。亜笠……貴女はまだ彼の事をそんな風に」


「??」


 今度は亜笠が不思議そうに首を傾げる。

 心底理解していない。何故そこで、あんな嫌な奴の名前が出てくるのか。

 亜笠は未だに鏡の自分への好意を誤解したままだ。アプローチの下手な鏡にも責任はあるのだろうが、阿斗州としては鏡以上に亜笠に相応しい相手もいないと考えている。

 将来的には―――出来れば急いでほしい、てきれいき(・・・・・)的に―――二人には行くとこまで行ってくれと望む程に。


「彼とは仕事でもプライベートでも懇意にしていましてね。同年代で私なんかとも話が合う。贔屓目を抜きにしても、なかなかの人格者です。今後は偏見を抜きにして、多少見方を変えてみたらどうですか? 貴女が思うほど嫌な奴ではないかもしれません」


「???」


 亜笠は正直、反応に困った。

 ワカッタ、と言ってしまいたいが、どうにも鏡への悪印象がそれを阻む。数々の小言、悪態、ストーカー紛いの嫌がらせ、それらが思い起こされた。

 確かに根っからの悪人でないのは分かるが、これまでの軋轢は向こうが自分を嫌ってくるからであって……………う~~~ん


 阿斗州の登場で沈んでいた気分が浮上したのは良いが、理解の及ばない疑問を与えられ、先程までとは別の意味で頭がどうにかなりそうだ。

 ジェーンがドタドタと慌てた様子で学園長室に駆け込んで来たのは、そんな時だった。


「た、大変です! 黒沼君がっ――――」


 出発の支度が出来たようには見えない。

 緊急の用件で戻って来たのだろう。取り乱しているのか、息もかなり上がっている。

 一瞬、阿斗州の存在に気付き、畏まった対応を取ろうとしたジェーンを制してから、用件を伝えるよう促す。

 緊急につき、ジェーンは阿斗州の気遣いに甘えて報告をした。


「黒沼君がっ………檸梨市に向かってしまいました!」


「っ!! あんにゃろ……!!」


 亜笠の頭痛の種が、また一つ増えた。



       世界を穿つ災禍まで


         14日

          と

         5時間



          ★



 最後に見た彼は優しげな笑顔だった。


 自分と彼は高台から見ていた。

 赤とも黒ともつかない汚濁に満ちた空を。

 ボロボロと崩れては天に空いた(あな)に呑み込まれていく街を。

 世界が滅んでいく様を。


 この光景こそが、世界の終わりへと繋がるものだと知っていたのに、防げなかった。

 誰よりも分かっていたはずなのに。何度も何度も、チャンスはあったというのに。

 もう何百回、何千回繰り返しただろう。

 これが最後のチャンスだった。

 もう戻れない。やり直せない。

 多分、自分は泣いていたのだろう。彼は女性にいつだって優しかったから。彼だって辛いのに、自分に笑いかけてくれていたから。

 彼は言った。


「こんな結果になりましたが、貴女と共に戦えた事を誇りに思います」


 彼は自分に手を差し出してきた。

 健闘を讃える握手。

 こんな結果になって悔しい。自分の不甲斐なさが悔しい。最後の最後まで自分を助けてくれた彼にこんな顔をさせている事が悔しい。

 でもこればかりは、優しくする彼が悪い。

 どうせ最後だ。嫌と言っても甘えてやる。手の暖かさも、感触まで覚えてやる。

 文字通りの冥土の土産だから、最後の瞬間まで抱き付いていても良いだろうか?

 彼の手を握った。力の限り強く。

 彼にとっては、そんな力などでは痛いとも思わなかっただろう。

 と言うより、次の瞬間には逆に自分の方が痛みを覚えた。


 カプッ


「―――――!?」


 握った彼の手から蛇のようなモノが出てきて、腕に巻き付かれたかと思うと、手首を噛まれた。

 何が起きたのか、困惑しながら彼の顔と自分の手首に視線を往復させる様は、きっと平時の彼なら「可愛い」「癒される」「あはは」などと言ったに違いない。

 そして蛇に噛まれた直後には、何やら力が湧いていた。

 もう残っていない筈のチャンスを、もう一回だけ手にしたのだ。


「すみません。万が一にも断られる訳にはいかなかったので。後でそれ(・・)の事、怒らないでくださいね」


 ――――――! ――――――――っ!!


「出来れば今怒られるのも勘弁願いたいですね。最低でも後一回は跳べる(・・・)でしょう? まさかこんな所で某魔法少女の役回りを演じるとは思いませんでしたよ」


 ――――――!? ――――――!!


「重ねて謝ります。貴女にこんな仕事を押し付けてしまった事を。次に私に会ったら(・・・・・・・・)、いくらでも償わせてください」


 ――――――っ!? ――――――――――――!!!


「本当の本当に、これは私からの最後の忠告です。次の時は絶対………絶対に―――――――――」


 さっきからもう自分の声など届いていなかっただろう。

 彼への恨みを、罵声を、喉が潰れそうなほど叫んだのに。

 これまでは素敵な笑顔だと思っていたけど、それがここまで憎たらしく思えるだなんて。

 女たらしのくせに、知っているようで女の機微を全く分かっていない彼に腹が立つ。


 次に会った時は絶対に………そのムカつく笑みをぶん殴ってやる。



           ★



 九良名学園第三校、保健室。

 黒沼公浩と養護教諭のマサキは茶を啜っていた。

 いつだったかの夜の事をマサキは殆ど覚えていないらしい。最後の記憶は公浩と愛し合った事だ、などと真顔で言っていたから、本当に記憶がぶっ飛んでいるようだ。

 マサキは酒を飲んでも見た目に分からない酔い方をする。そもそも酒自体、マサキは美味いと思った事が無い。

 何か目出度い事があるなど、もっぱら祝いの席でしか飲まないのだと。最後に人前で酔っぱらったのは、士緒の両親が結婚を報せてくれた時だったとか。親友と元想い人を、心から祝福したそうな。


「そして、父と母が結ばれたので、今度は私に乗り換えると。駄目とは言いませんが、正直………良い気分ではありませんね」


 先日の夜の事は忘れているようだが、それでなくともマサキが士緒に執着を見せているのは確かだ。

 さすがに士緒もマサキのそれが本当に異性に向ける好意だなどと自惚れてはいない。

 何か違う意図があり、士緒への好意を演じている。そう考えていた。

 今の言葉はいわゆる皮肉。何を目的にして自分に近付いたのか。最終的な狙いが掴めないので、ちょっとした当て付けをして反応を見ているのだ。


「言っておくが、ボクはお前を日向の代替として見た事はない。確かに、道義にもとるし説得力に欠けるのかもしれないが、お前を気に入ってしまった。だから……全てが終わってからで構わないから……その………ボクをお嫁さんに―――――」


「ケフンッ、ケフンッ! ン、ンンッ! とても先生が生徒に言うこととして適切ではない言葉が聞こえてきた気がしますが、きっと気のせいですよね? 取り敢えず盗み聞き出来ない結界を張ってあるとはいえ、滅多な事は言わないでください」


「お互い仮初めの立場だろ? 構うものか。あ………もしかして、やはりボクは醜いのか!? 日向はボクを魅力的な女性だと言ってくれたが、あれは嘘だったのか!?」


 マサキが自分の顔や身体をペタペタ触りだした。

 そして顔を逸らし、掌で士緒の視線を遮るように翳す。

 士緒は基本、女性には甘い。

 掌の隙間や端から覗くマサキの顔は、コンプレックスを抱えた女性に見られるものに似ていた。

 日向……士緒の父の言葉があったからなのかは知らないが、これまでそんな素振りは見せていない。それにマサキが自分の容姿面をコンプレックスに思っているのだとしたら、それはこの世の殆どの女性に対してあまりにも度が過ぎた侮辱と同義だろう。

 とは言え、本人にしか分からない辛さや苦しみなど数えきれないほど存在する。サフィールのそれはまだ分かりやすい例だ。

 マサキにだって事情があるのだろう。

 何にせよ、このままご婦人に悲しげな顔をさせておくのはあまりにも忍びない。

 世の中には泣く姿が萌えるタイプの女性と、泣かせたらダメージを負うタイプの女性というものがあるのだ。


 泣かせて良いタイプの例:


 ・語尾が ~のじゃ な、お姫様

 ・語尾が ~にゃ な、お姫様

 ・ニセ高飛車(風)お貴族様モドキ

 ・幼児体型生徒会長


 など


 ※四人目に関しては物理的ダメージに注意



「マサキ先生は綺麗ですよ。私が保証します。ただし、(それ)(これ)とは別問題」


「ぬ………分かった」


 マサキも温くなったお茶を飲んで落ち着き、士緒に視線を戻したのを確認した。

 しかしまだ何か気になっているのか、ワイシャツを弾き飛ばさんばかりの迫力を放っている胸部をモミモミしたり寄せたり持ち上げたりしている。また小声で、「触れると日向は強張ってたし、やはりデカ過ぎるのが悪いのか?」などと言っているが、そんな光景に色々とクルものを無視して、士緒は本題を切り出した。


「これは真面目な話ですが、出来れば誤魔化さずに答えてほしいですね。貴女は何者で、何を目的に私に近付くのか」


 ここまで士緒に協力的なのには相応の理由があるはずだ。

 殆ど知る者のいない筈の橘花院家の秘術についても知っていた。“真ノ悪”の最終的な目的も分かっていると、何度となく匂わせた。自分の両親とも強い接点があった。

 それなのに、敵か味方か未だに掴みきれない。

 そろそろ知っておくべきだろう。そう思って切り出した。

 少しでも嘘を感じ取れば手を切った方が良い。

 嘘が感じられなければ、両親の事もある。これからはもう少し前向きに歩み寄れるだろう。

 つまり、士緒は今のところマサキを信用していないのだ。好きだ何だの部分を含めて。

 慎重な士緒としてはある意味当然の思考で、これまではこのやり方で仕事を失敗したことは無かった。


「何故、私を好きだなどと妄言を吐くのか。腹を割って話しましょうか」


 そう、今回は数少ない失敗だったのだ。


 まさかここに来て、異性に対する不可思議な鈍感さを発揮してしまうとは。そしてその鈍感さが、相手を呆れさせるでも諦めさせるでもなく、初めて相手を怒らせる結果になるとは………予想外だったのだ。


「……………」


「……………?」


 マサキの空気がどことなく変わった。

 いや、明らかに不機嫌になっている。

 しかし次の瞬間、普段の天然と言うか惚けたと言うか、とにかくフワフワした雰囲気が鳴りを潜め、潤んだ瞳で今にも泣きそうな顔を俯かせてしまった。

 そして士緒は、自分が何かやらかしたのだと気付いた。目の前の女性は、泣かせたらダメージを負うタイプだと、分かっていたはずなのに。


「あ、のぅ………」


「………ぇない」


「……はい?」


「教えないっ!!」


「!?」


 正直、想像も付かなかった。

 マサキの、幼子が癇癪を起こしたような大声を上げる姿など。

 俯いていて顔がハッキリ見えないが、これはどう見ても自分の失態でマサキを傷つけたと分かる。

 士緒は女性の事は深く理解できないが、扱いだけは間違う事はないだろうと、根拠も無しに思っていた。


 だが、同時に理解した。マサキがどんな想いで自分に接していたかを。


 これまで、訳も分からず女性を怒らせた事は多々ある。そのいずれも、異性の機微に疎い自分に、相手が溜め息混じりに折れてくれていただけだと、実感した。


 あぁ………自分はどれほどまでに愚かだったのか


 今思えばマサキは、ただただ本当の事を言っていたのだ。

 自分がそれをまともに受け取らず、疑って、信じなかっただけで。

 それは傷付くだろう。純粋な想いを、意味も無く踏みにじられたのだから。


「マサキ先生、どうか聞いて――――」


「カエレ……もう昼休み終わるから帰れ! か~え~れ~!!」


 士緒に背中を向かせ、後ろからぐいぐいと扉に向けて押し出そうとする。

 マサキはなかなかに非力で、押されてると分かって士緒が自分から歩く始末だ。

 全力で謝りたいが、何故かその場に踏み止まる事が出来ない。

 戸の前に立ち、自分からそれを開ける以外、出来る事は無かった。


 ピシャンッ!!


 戸が勢いよく閉められ、さらには鍵も掛けられてしまった。


「なんという……………」


 壮絶な自己嫌悪が襲って来た。

 息が苦しい。

 精神的な抑圧で呼吸に影響が出るなど、殆ど経験が無い。胸が締め付けられる、というやつだろうか。あまり経験したくない感覚だった。


「昼休みって………今学園そのものが休みなんですが」


 後でマサキが落ち着いた頃に出直すべきだろう。室内より冷えている廊下で、士緒は薄っすらと白くなる息を吐いて、その場を後にした。


 自分でも珍しく思うが、沈んだ気持ちのままに廊下を歩いている。

 冬季休みだけあって校舎には人がいない。生徒会や風紀委員会が学園の敷地内にはそれなりに残っているが、校舎の中にいる生徒は少数だ。

 考えてみると、元旦に働かされている学生というのは、何とも言えない哀しさがある。家族に会う時間は流石に作れるが、それにしてもブラック感は否応なく漂っていた。


 家族………

 考えてみれば、自分にも会いたい家族はいる。

 それは今の家族(・・・・)だ。死んだ家族も会いたいという点では同じだが、幼い頃の記憶にある両親に会うことは、もはや叶わない。

 士緒は自分の存在を隠すために、これまでは両親の墓すら作れなかったのだ。それに、埋葬できるような遺体も遺品も焼失している。

 全て燃えてしまった。村の跡に残骸はあるだろうが、どれがどれやら。今さら手をつける気にもならない。

 とは言え形だけでも、両親の墓ぐらい建てても良い頃だろう。

 マサキの件で自分の愚かさに打ちのめされた直後と言うこともあり、少し感傷的になっていた。


 どんなお墓にしようか

 何処に建てるか

 何か文字でも彫るか


 そんな事を考えながら渡り廊下を歩いていると、向こうから人がすれ違うところだった。

 相手は女子だ。来客用の札を提げていることから、何らかの用事があって訪れただけの客か、あるいは新入生の可能性もある。

 澪のプラチナブロンドよりもさらに明るい髪色で、白髪に近いとも言える目立つセミロングだが、見た感じ怪しい所は無い。風紀委員の立場上、一応呼び止めても良かったのだが、何となく今は仕事という気分にはならなかった。

 この、生徒が殆どいない学園で出来る悪さもたかが知れている。そもそもからして、害意のありそうな人間は来客用プレートなど貰えない。ここの審査は―――最近あまり発揮されているように思えないが―――それなりに厳しいのだ。


 公浩が隣を通り過ぎようとした、そこに女の子の方から声が掛けられた。


「シンプルな御影石。場所は本家傍の林のどこか。どんな文字を刻むか悩んでいる」


 !!??


 公浩は少女とすれ違いざまに聞こえてきた言葉に、驚きながらもゆっくりと振り向いた。

 対する少女も、公浩に振り向いている。目が合った瞬間に圧倒されかねない程の決意に満ちた瞳で。

 ポーカーフェイスでもカバーしきれない驚愕の色を浮かべた公浩に向けて、白髪の少女は再び口を開く。


「お願いします。どうかもう一度だけ、私を助けてください。“裏返り”ではなく、目先の危機から世界を救うのを手伝ってほしいんです。橘花院士緒(・・・・・)


「……………っ」


 何かの冗談か………今ほど強くそう思った事は橘花院士緒の生涯で、後にも先にも、この時だけだったろう。



      世界を穿つ災禍まで


         14日

          と

         6時間





第三回キャラクター仕分け “被虐型快楽物質発生(ナカセタイ)ヒロイン編”上



CASE1 “ザ・イース”


「~~~♪ ~~~♪♪ …………あ、あれ? アアアアア!!??」


兄1「うおっ!? ど、どうした!」


「掃除してたらいつの間にかK沼君に貰った髪留め落としちゃってた!!」


兄2「いつまでも浮かれてるからだ。3個セットだったんだから、一個くらい諦めろ」


兄1「バ――――!? 止せ!」


「うっ………ぅぅ………っ~~~~~―――――」


兄ズ「「 ま゛!!?? 」」


「ひっぐ――――ぅぅッッ………ふぇ~~~~(泣)」


兄ズのコメント

・いやー、あれは小さい頃、お兄ちゃんたちと結婚できないと知った時以来の泣き方でしたねー

・涙って、あんなにポロポロと零れるものなんですね………

・もうあっぷあっぷですよ! 目を血走らせて死にもの狂いで家中をひっくり返した結果、親父が座った座布団の下から見付かった時は絶望しましたよ。

・泣き止ませるのに必要だったとはいえ、興信所に依頼してまでK氏の写真を撮らされた時は頭おかしくなりそうでした………



CASE2 “ストレイメイド”


主人K「フニフニ(耳)」


「ふにゃ………にゃ~~」


主人K「サワサワ(尻尾)」


「にゃうん!? はにゃっ、んにゃ~~」


主人K「クイッ(顎)&撫で撫で」


「ゴロゴロ~~~にゃん」


主人K「モフモフ?(お腹)」


「にゃふ、にゃにゃっ――――ぅにゃ~~~!? ……………っにゃ、ふぁ、ハァ、はにゃぁ………も、もう許してにゃ(ウルウル)」


主人K「   だ  め   」


「ふにゃああん!? お、お願いだから休ませてにゃあーーー!!」



CASE3 “スポーツブラから脱け出せない”


彼女を涙目にするのに小細工はいらない。

まずは然り気無く、長く綺麗な髪に手ぐしで指を差し込んでみろ。


主人K「(髪が)とても綺麗です」


「 ///// 」


続けて畳み掛けろ! 彼女の瞳を覗きこんで、こう言うんだ………


主人K「誰も貴女の魅力を褒め称えないのは、罪ですね」


「ッッッ~~~~~!?」


ただし、彼女をからかう時は注意しろ。

椅子、テーブル、壺、包丁、姉………

怪我をしても、保険は降りないぜ?


コメント

・いやー、チョロイ!

・チョロカワイイ!

・チョロイン筆頭!

・チョーロイン素テーキ

・ぎゃははは!? かいちょwwwwほんまチョロ甘いわwwwwwwカワイ過ぎんでwwwww

         byナニワのパイス



※なお本人の名誉を考慮し、名前は非公開とさせていただきます

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