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異能モノノケ録  作者: 長尾景虎
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第32話 剣士は剣を手放さない

 それは、イジメと言って差し支えない光景だ。

 私立九良名学園第一校、ゴミ置き場の前。一年の犬塚 戌孝(もりたか)はニヤニヤした四人の男女に見られながら稽古と称して一人の男子生徒と木刀を打ち合わせている。いや……打ち合って、なんて言えるものではなく、殆ど一方的に殴られているだけ。


 戌孝は真剣に打ち込んでいた。

 しかし相手は天才剣士と謳われ、生徒会で退魔師として力を振るっている男。いまだ努力が実らない戌孝では実力に開きがありすぎる。

 男……仁科 暮光(くれみつ)は仁科家の分家だが、幼くして際立っていた才能を買われ本家筋……“相談役”の一人の養子となった。

 まっとうな人間から見れば紛う事なき俗物。第三校の独楽石栄太と同類だ。

 しかしながら、家の力はいかんともしがたい。暮光もやはり、家の力を傘に着て周囲を威圧するタイプであった。


「おらイヌ! 俺が直々に稽古つけてやってんだぞ? ちょっとは当ててみろよ! それとも、サンドバッグがお好みか? ドM野郎ー」


 見ていた四人が声を上げてワラう。男子生徒が二人、女子生徒が二人。暮光の威を借る腰巾着たちだ。

 四人は決してイジメには参加しない。仁科家という家柄に守られた暮光はともかく、一般家庭の四人は手を出すと処分される可能性があるのだから。

 あくまでも眺めて嘲笑うだけ。暮光の自尊心……自己満足と権威を示すため、側に置いているだけの賑やかし。本人たちは仲間か友人のつもりなのかもしれないが。


「――――っ」


 戌孝が全身の痛みに耐えきれず倒れこむ。

 暮光はそれを不満そうに見下ろした。


「あーあー、つまんねえの。おい、あれ」


 暮光が言うと、一人がゴミ箱を戌孝の横に置く。暮光はそれを蹴り、戌孝に向かって中身をぶちまけた。


「それ、片付けとけよ」


 暮光それだけ言い捨てると、取り巻きたちを引き連れてその場を後にする。

 残された戌孝は悔しさに歯を食いしばり、木刀を血が滲むほど強く握りしめていた。



           ★



「交流戦……ですか?」


「……そう」


 生徒会室に呼ばれた公浩は生徒会長の梓と、席に座る梓の隣に立つ副会長の鳳子に一つの提案を受けていた。


「毎年年末にあるんだけど、比較的近い立地にある第一校と第三校とで、五人の代表同士で一対一の試合をするの」


「……今年は不測の事態が多すぎた。年末の催しが急遽、八月末に行われる事になった」


「なるほど。その催しに参加する栄誉を、僕も賜れるということでしょうか」


 梓と鳳子は軽く視線を交わし、かと思うとやや疲れた表情を見せる。

 梓が「……一応は、栄誉と言えなくもない」と呆れた感じの声で呟いた。


「九良名学園の交流戦には退魔師協会の偉い人も結構見に来るのよ。将来的に使えるかどうか、使えるようなら自分の派閥に取り込んでしまおうとか、そういった黒い話が空気中の窒素より多く含まれた催しなのよね」


 鳳子も苦笑を浮かべながら話し、最後にはため息を吐いた。

 元々交流戦は協会で暇をもて余した老人たちが暇潰しのために企画したものらしい。大きな声では言えないが、賭け事は当たり前に行われ、交流戦以外でもこういった催し物は各地で多々行われているとの事だ。公浩のいた地域では無縁だったが。

 仁科黎明が協会の実権を握るようになってからは縮小の傾向にあるらしいが、人材発掘の場として有効に使われてきたのもまた事実。完全に消える事は無かった。


「お忘れかもしれませんが、僕はこれでも野心家です。どんな目で見られようと、上に自分をアピールする場は欲しいものです」


「あらあら、黒沼君って、長い物には巻かれるタイプだったかしら? 見せ物にされるを是とする人?」


「僕は自分が長くなるために長い物にぶら下がってるだけです。後は自分の重みで自然と伸びるのを待ちます」


 公浩の物言いに鳳子はおかしそうにクスッと笑う。

 梓もどこか納得した様子で頷いた。


「……そう考える生徒も少なくはない。生徒会にはいないけど、否定するつもりはない。交流戦の選抜は学園長3、生徒会長2の指命枠になっている。姉さんは私と風音、鶫の三人を。私は黒沼と、凛子を指命する。断ることもできるけど、端から断らないだろう人間を狙って指命するのが通例」


 こっちもなかなか黒い話だった。


「試合中の事故など、危険性に関してはどのように?」


「……絶対に死なない…とは言わないけど、即死でさえなければどんな重傷でも治療できる退魔師を数人控えさせる。ちなみに工藤もいる」


「それに危険な攻撃をした人は即失格だし、何より両校の学園長と数人の特一級退魔師を審判役で配置してるから、危なくなったら止めてくれるし不正もできないよ」


 当然と言えば当然の措置だ。むしろそれ以上の措置は現段階では不可能だろう。

 それに、向こうの学園長は陸道鏡だ。亜笠も大概だが、あの甘そうな二人の事だ。危険のライン引きがかなり低そうにも思える。

 ちょっと大袈裟に出血しただけで試合を止められかねない。


「……でも念のため、試合中に自分の身に起きたことは全てを認め、同意する書類にサインをしてもらう」


 風紀委員になった時と同じ。たとえ死んでも文句は言わせないという事か。


「……最後に、試合に勝ったらだけど……余程の事がない限り就職には困らなくなる。それと、チームとして勝てば賞金が出る……(ごにょごにょ)」


「………なんと。随分と気前が良いことですね」


 五人で割っても目が飛び出る程の金額だった。学生にそれほどの大金を渡して大丈夫かと心配になるが、それは卒業まで学園が管理するとのことだ。それもまた当然の措置だろう。


「なにはともあれ、黒沼君は参加してくれるのね。私は断っといてなんだけど、あなたならそう言ってくれると思っていたわ。よろしくお願いね」


「……ちなみに姉さんは学園の威信だなんだと気にする人ではないから、もし負けても何の問題もない。嫌みぐらいは言われるかもしれないけど」


「それはそれで怖いですね。絶対に負けられません」


 その時の公浩は、軽い気持ちでの参加だった。

 しかし、その軽い気持ちがどす黒いものに変わるのに、それほど時間はかからなかった。



           ★



 公浩は日課のランニングを行っていた。いつもと同じ、日の出前の時間、いつもと同じコースを走る。

 士緒としてであれば行動は都度変えて習慣化させないが、今の自分は黒沼公浩だ。一介の学生がそんなことを気にし過ぎるのも違和感がある。

 他人に化けるにあたって何事もほどほどにするのは、ここに来て学んだ事だった。

 公浩が海沿いを走っていると、たまに向かいから風音が走って来ることがある。それはあえて公浩が風音と同じコースにならないよう反対側から回るようにしているからだ。

 風音もトレーニング中まで公浩に張り付いて気を散らすことはしないため、すれ違いざまに笑顔でおはようと言い合うぐらい。

 ランニングから帰ると学園の門の前でストレッチをしている風音が出迎えてくれる。距離が公浩より短いため先に着いているらしい。

 生徒会役員寮は学園の外側にあるため、わざわざ門の前で待っている事もないのだろうが、少しでも話ができたらいいという風音のちょっとしたわがままだった。

 しかし、その日は海沿いで風音に会うことは無かった。コース的には風音と鉢合わせる場所はここしかないため、会えないと少しだけ残念に思う。大分毒されてるなと士緒は感じていたが、学生としてはそんな感覚も悪くはないと思っていた。


(おや? あれは………)


 ランニングの途中の海沿い。そこには既視感を覚える光景があった。

 九良名学園のジャージを来た少年が木刀を持って素振りをしていた。袖のラインが青だから一年生だろう。

 かつて風音も同じ場所で木刀を振っていた。そしてその少年も、あの時の風音同様に振りがいま一つだ。

 もっとも、彼の実力を知らないので、もしかしたらあれが素の状態なのかもしれないが。


「…………」


 公浩は足を止めて少年を見る。

 前後に足を運びながら上段から振り下ろす動作をひたすら繰り返す。基礎は出来ているようで、日が昇り始めるまで見ていても、剣筋がぶれることはなかった。

 努力の一端は動きを見れば分かったが、どうにもキレというものが感じられない。

 これは精神的なものではなく、彼の実力から来るものだと、しばらく見ていて結論付けた。


(アドバイスを……いや、大きなお世話かもしれません。……ですが、ここで何も言わないで帰るのも、風音さんとの対応に差が出てるようで喉に詰まるものを感じますね。……やれやれです)


 公浩は一心不乱に素振りを繰り返す少年に声をかけた。


「精が出るね」


「………?」


 少年は素振りを止めてキョトンとした顔で公浩を見る。

 本当は素振りが終わるまで待とうとも思ったが、このままでは日が暮れるまで素振りしかねない少年の雰囲気につい声をかけてしまっていた。


「もし余計なお世話だったらゴメン。僕は第三校の風紀委員をしてるんだけど……良ければ、それについてアドバイスできるかもしれない」


 公浩は少年の木刀を指さす。少年は木刀を見て、ギュッと握りしめると真剣な表情で公浩に向かいあった。


「よ、よろしくお願いします!」


 少年は公浩へと頭を下げた。公浩は快く、自らにできる指導をした。



           ★



 少年の名前は犬塚戌孝。第一校の生徒で、トレーニングに熱が入り、いつの間にかここまで来てしまっていたらしい。

 公浩が行ったアドバイスは主に二つ。

 一つ目は重心のかけ方。体重の移動と足運び、バランスを取らせたりだ。

 通力を使い、平衡感覚を僅かに狂わせた状態で砂に引いた線の上を歩かせ、それを毎日やれば体捌きの向上に繋がるだろうと教えた。

 二つ目は根本的な肉体の改造。これは血へどを吐くようなトレーニングが必要なわけではなく、通力の運用を全身で細かく行い慣らすことで、肉体の限界値を底上げできるというものだ。名のあるスポーツ選手はこれを無意識にやっている事があるらしい。

 たったそれだけのアドバイスと、ほんの数十分の練習では何か変化があるはずもないが……と、士緒は思っていた。

 しかし実際にやらせてみると、重心は呆気ないほど簡単に安定し、体捌きは先程までと同一人物とは思えないレベルになっていた。

 さすがに肉体の強化は一朝一夕で身に付くものではないため、目に見える成果は出なかったが、通力運用の精密さは目を見張るものがあった。繰り返せば一週間もせずに成果が出るはずだ。

 その結果に一番驚いたのは、当の本人だろう。


「なんで……今まで全く上達しなかったのに……凄いです! 黒沼さんのアドバイス通りにしたら、こんなにあっさり!」


 戌孝は無邪気にその事を喜んだ。しかし士緒からしてみたら、戌孝の成長はある意味当然の結果で、また必然でもあると思っていた。


「これは謙遜とかで言うわけではないけど、僕のアドバイスは君に小さなコツを掴ませるだけのものだったと思う。はっきり言うけど、これは君のこれまでの努力という土台があったればこそだよ」


「だとしても……ありがとうございます! 黒沼さんのおかげです!」


 戌孝は深く頭を下げる。

 正直、戌孝は公浩のアドバイスを気休め程度に聞くつもりだった。何か掴めればめっけもんぐらいの感覚で話を聞いた。

 結果は予想の遥か上を行くものとなったわけだが。

 公浩は笑顔で「どういたしまして」と言った。

 戌孝のやる気にも火がついたようだ。「もっともっと練習して、強くなります!」と明るく言っている。

 ふと、気になったので聞いてみた。


「犬塚君の努力は並のそれではないのがよく分かった。でも、君は何を求めて努力をするんだい? 退魔師になることは、君にとってどんな意味があるのかな。もちろん、言いたくなければ言わなくてもいいよ」


 公浩の言葉に戌孝は照れ臭そうに頬をかいた。その様子から、どうやら重たい話は聞かなくて済みそうだった。


「ある退魔師の方に憧れてるんです。前に一度会った時、この人みたいになりたい……この人が見てきた景色を俺も見てみたいって、そう思いました。俺なんかじゃ足下にも及ばないような人だったけど、少しでも近付けたらと、努力だけは続けてきました。それが……夢なんです」


 遠くを見ながら語る戌孝の顔はとても誇らしげだった。

 一人で素振りしていた時の思い詰めた表情は、もはや跡形も無い。


「なら、僕はその夢を応援してるよ。何か行き詰まった時は、この時間にここに来てくれれば、相談くらいなら乗れるかもしれない」


「はい! ありがとうございます!!」


 戌孝は公浩が走って見えなくなるまで、その場で頭を下げ続けた。



           ★



 私立九良名学園第一校、学園長室にて直訴に及ぶ生徒がいた。風紀委員次席、真田幸子(さちこ)だ。

 幸子は座っている鏡に机越しに文字通り詰めよっていた。


「最近の仁科暮光の行動は目に余ります! 恫喝から暴力行為、飲酒の疑いもあります。風紀委員会は何度も報告してきたはずです! 学園長として何か対処していただけないのですか!?」


 幸子の剣幕に鏡は動じない。平然と書類に目を通している。

 そして書類の切りがよくなったところで、鏡は幸子へと向き直った。


「生徒のいざこざは生徒会と風紀委員会の裁量に任せているはずだ。退学処分などの特別な場合を除いて、全ては生徒の自主性に依る。お前たちの仕事が何か、今一度考えろ」


「………本気でおっしゃってるんですか?」


 心底呆れたと言わんばかりの底冷えする声で幸子は書類仕事に戻った鏡に聞いた。


「いかに風紀委員でも、なんの後ろ楯も無く“六家”に逆らえばどうなるか、分からないはずないでしょう? 情けなくはありますが、私以外の風紀委員もみんな腰が引けています。その最たる理由が、仁科暮光が“六家”であることと、さっき学園長がおっしゃった学園の裁量を任されている生徒会の役員であることです!!」


 鏡はまたも書類に区切りをつけ、幸子に向き直った。


「それがどうした。第三校では風紀委員会も生徒会も、もっと骨があったがな」


「それは………」


 第三校でも“六家”出身の者が横暴を働いていたという話は聞いた。そしてそれに屈せずに都度対応していたことも。

 おまけに先日の公浩の人となり、“百鬼大蛇”との戦いでの活躍。それら全てを聞かされると、確かに自分たちは何もできていないと、そう思える。先程までより情けなさが強くなっていた。


「お前たちはやれる事を全てやったわけではない。私が手を貸す時は、お前たちが力尽きた時だと思え」


「………分かりました」


 幸子は力無い表情で学園長室を後にした。

 扉が閉まり、幸子が部屋から十分に離れた頃、鏡は書類をまとめてノートパソコンと一緒に机の横に離して置いた。次の瞬間、


 バキッ!!


 机は真っ二つに割れ、内線電話は吹っ飛んでいた。


「仁科のジジイどもが……ガキの(しつけ)もできないとはな。俺の大事な生徒にあんな顔をさせやがって………いや、俺のせいでもあるのか。情けなくて泣けてくる」


 鏡は懐から一枚の写真を取り出して自嘲の笑みを向ける。

 その写真は、酒が入って上機嫌な亜笠が太陽のような笑顔で鏡の首に手を回して頭部を締め付けているところだった。


「亜笠……お前ならもっと上手くやれるんだろうがな」


 鏡は新しい机が来るまで、傷心で過ごした。



           ★



 その日は屋上だった。

 放課後の屋上には仁科暮光(くれみつ)と取り巻き四人。そして犬塚戌孝(もりたか)の計六人だけ。人払いは暮光が済ませていた。

 最近の暮光のブームとしては、木刀で相手を痛め付ける事に凝っていた。

 相手―――主に戌孝だが―――の体力をギリギリのラインで削り、やり過ぎず甘過ぎず、相手が立っていられる限界で留めるのが暮光の楽しみ方だ。

 しかし痣などはできる限り残す。反抗心があればなおよしと考えている。

 反抗心が弱いやつはすぐに倒れてしまうからだ。

 倒れた相手を殴るだけなんてつまらない。そう考えると、戌孝は暮光の絶好の獲物だった。長く楽しめる玩具という認識だ。

 そしてその日も、暮光は稽古と称して戌孝を痛め付けていた。


「うっ……ぐっ!」


「ほらほらどうしたよ! いつもよりノリ悪ぃぞ!」


 戌孝はいつもより調子良く動けていた。公浩との特訓を活かし、最大限立ち回っていた。

 しかしそれは、暮光にとってはノリが悪いらしい。

 俗物であろうとも天才剣士。自分より弱い相手は等しく弱い(・・・・・)。100の自分からしたら1も2も3も変わらなく見えるのだろう。

 戌孝はそれが悔しくなり、ムキになって打ち込んでいた。

 それが、暮光の鼻先を掠めそうになった。


「っと。あぶねえ、な!」


「おぐっ!!」


 暮光の木刀が戌孝の腹部に刺さる。取り巻きどもはピューピューと口笛を吹いたり、暮光を持ち上げるような事を叫んでいた。


「てめぇイヌ!! なにチョーシ乗ってんの? 手加減してやりゃあつけ上がりやがってよお!!」


 暮光は蹲った戌孝を蹴りあげた。

 戌孝は仰向けに倒れ、後頭部と背中を打ち付ける。戌孝の意識は薄らぎ、目が虚ろになっていたが、それでも木刀だけは手放さなかった。


「つまんねーの。帰んぞお前ら」


 暮光に続き、取り巻きたちも引き上げようとする。そこで、屋上の扉がバンッと開かれた。


「風紀委員会です。イジメと、ついでに不法占拠の通報がありました」


 現れたのは真田幸子と武藤喜利、吾妻秀一の三人だった。

 幸子は仰向けに倒れている戌孝を見やると、髪が膨れ上がったのではと思うほど怒気を露にした。


「シュウ、養護の先生を呼んできて。キリ、あそこの彼を介抱して。あなたたち五人には風紀委員会に来てもらいます。顔は覚えたから逃げられないわよ」


 秀一と喜利は指示に従うべく動いた。

 秀一は扉を通って屋上を後にした。しかし戌孝に近付こうとした喜利は暮光に遮られた。


「まあ待てよ。俺ら剣の稽古してただけだって。あいつも納得してるんだけど?」


「言い訳は結構です。風紀委員会で話を聞きますから」


「……なぁおい。お前チョーシに乗ってない? 俺が誰だか知ってんの?」


「今回を含めた数々の騒動を実家に報告されて家の面子を潰す、愚かな養子でしょ?」


「っ! てめえ!!」


 暮光が幸子に掴みかかろうとしたその時、フラフラと戌孝が立ち上がっていた。そして木刀を振りかぶり、綺麗な型で暮光の肩に降り下ろした。


「がっっ!?」


 その場の全員が驚愕に目を見開く。

 暮光はたまらず膝を突き、鬼の形相で戌孝を見た。

 戌孝の目は虚ろで足もおぼつかず、正常な判断どころか意識があるかも怪しいものだった。

 それでも、そんな戌孝を見ても、暮光は立ち上がって居合いの構えをとった。


「っ! やめなさいっ!!」


 幸子が叫ぶが遅かった。

 暮光が木刀を一閃。横薙ぎの強く硬質な風が戌孝に直撃した。生身の人間が大型トラックに跳ねられた衝撃だ。

 屋上のフェンスは風で剥がれ、木刀を握りしめたまま戌孝は放物線を描くように落ちていった。



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