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異能モノノケ録  作者: 長尾景虎
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第24話 第一校の風紀委員


 私立九良名学園第一校。九良名市の北側に位置する隣街にある学園のシステムは第三校とほぼ共通している。

 その晩は第一校の巡回区域の一部、“社”の管理する『人避け』の中にあっても僅かな人通りが窺えるビル街……そこを第一校の風紀委員三名が巡回していた。


 先日、九良名で街全体の警戒レベルが数段引き上げられる事件が起きた事は周知の事実だ。詳細は明かされていないが、危険度を考えると風紀委員三人での見回りは躊躇われるところ。

 しかし三名のうち一人……真田 幸子(さちこ)は風紀委員次席にして、強さだけなら風紀委員会で最強とも言える実力者だ。他の二人は従兄弟で幼馴染みにあたり、連携においても三人に並ぶ生徒は第一校にはいない。

 この三人なら巡回には全く問題は無いと判断されたのである。


「最近の警備の増強、どう思う?」


 セミロングの髪に均整のとれた顔立ちの少女……幸子の問いかけに男子二人は世間話にしては重い空気を感じ取った。


「正直、大袈裟だと思うな。僕たち三人以外のチームは軒並み人員を増やしたりとか。皆何か起きるんじゃないかと不安がってるよ」


 武藤 喜利(きり)……線が細く、やや童顔。見た目通りの温厚な性格。成績は三人の中では一番良く、作戦立案などの頭脳労働は喜利が担う事が多い。

 戦闘スタイルは中距離からの火炎系の顕術を得手とする。


「でもよー、俺たち三人にはあんまし関係無いよな。増員も“社”との連携も、俺たちのやることには全く影響してこねぇしさ」


 吾妻 秀一(しゅういち)……風紀委員としては珍しく成績は芳しくないが、ここぞという場面で勝負強さを発揮する。ギャンブル要素を含む状況判断での勝率は九割以上だ。

 戦闘スタイルは近~中距離タイプ。(あらかじ)め術式を刻んでおいた暗器を隠し持ち、それらが無くなれば登山用リュックから適した秘密道具が出てくる、言うところのトリックスター。


「私たちのやることに変わりがないのは今に始まった事じゃないけど……第三校の噂、聞いた?」


「あ、俺もそれ聞いた。なんでも第三校の管轄でやべえ類いの“鬼”だかが出たんだろ?」


「僕も、先生が話してるところを偶然聞いたんだけど。そいつ、あの四宮家の壊滅にも関わっているとか」


「……噂の真偽はともかく、六家の一つを壊滅させるほどの化物が現れたとなると、退魔師協会が神経質になるのも道理ね。それが、この辺りの街にいるかもしれないとなれば尚更よ」


 四宮家壊滅の噂は雷のごとき速さで駆け巡った。

 退魔師協会は慌てて箝口令を敷き、拡散を防いでいる。

 とは言え、人の口に戸は立てられない。加えて六家の後釜を狙う退魔師の名家がそれを喧伝することで、四宮家を六家から除名するための下準備……家の復興が叶わないものだと既成事実を作っている始末だ。


「退魔師協会はこんな時でもパワーゲームを繰り広げてるらしいわ。“社”や学園みたいな末端は置いてけぼりにして、チェスでもやってるのかしらね」


「さっちゃんのお父さん……叔父さんも協会の中堅派閥だもんね。僕の父さんも似たようなものだから最近は忙しいみたいで、たまに家でぐったりしてるよ」


「その点、うちはあんまり関係無いな。うちの親父は半分もぐりみたいなもんだからさ」


「元退治屋(バスター)で、協会に所属してからも個人的に依頼を受けてるんでしょ? そんな事が特例で許されるんだから、やっぱり優秀よね、叔父さん」


 “退治屋”とは、“大聖堂(カテドラル)”や“退魔師協会”などの大きな組織に所属せず、個人で“鬼”や“悪魔”の退治を請け負う者を指す。

 中には実力を買われ、厚待遇で迎えられる者も多い。

 あえて最初は退治屋から始め、大手からのスカウトを待つ者もいるくらいだ。


「でもやっぱり、現状が私たちに関係無いなんて言ってられないわ。知能のある鬼の出現が増えてるらしいし、この前も第三校の区域で特一級相当のやつが出たって聞いたわ。“社”の報告書にも目を通してみたから確かよ」


「おー、聞いた聞いた。“社”の退魔師が負傷して、第三校の生徒会役員と風紀委員が調伏したってやつだろ? どんぐらい強かったのかは知らねぇけど、二人で特一級を倒せるんなら、そいつら相当強いな。俺らならいけると思うか?」


「相手にもよるけど、多分いけると思うよ。僕らも上一級までなら余裕を持って倒せるからね」


 喜利の自信は実績に裏付けされたものだ。

 実際、鬼の等級は条件や相性次第で簡単に変化する。単純な戦闘力だけでは決まらない。

 戦闘力だけなら特一級より強い上一級も希にいるくらいだ。

 一度だけだが、三人で知能を持った上一級、人型の鬼を現行犯で調伏したこともあった。

 個体の強さは相当だったが、そいつに受けたらしい被害と、目撃した退魔師の目測による意見を照らし合わせた結果から、上一級と判断されたにすぎない。受けた損害がもう少し大きければ、特一級と判断されてもおかしくはなかったろう。


 華々しい活躍の記憶を思いだし、三人の間に流れていた空気が自信と誇らしさで明るいものへと変わる。ただしそれは、気を抜いた……とも言い替えられるものだった。


「っ! 二人とも。アレ……」


 幸子が歩みを止め、薄暗い路地を指差す。そこに薄らと見えるのは二つの人影。

 一つは地面に仰向けに倒れた女性のもの。もう一つはしゃがみこみ、倒れた女性の顔に手を添えているように見えた。

 三人はすぐさま状況に目を走らせる。すると、目をつぶって倒れている女性からは(おびただ)しい量の血が流れ、もう既に死んでいることか把握できた。

 しゃがみ込んでいたジャージ姿の男が立ち上がり、こちらを振り向く。服は血にまみれ、口元には血がついた状態で。

 その意味を風紀委員三名が呑み込むまで、時間は殆ど必要なかった。


「二人ともっ、陣形を組んで!!」


 幸子の指示に喜利と秀一は即座に反応する。二人は火炎系の顕術を放とうと通力を練る。

 先手必勝。不意打ちを避ける意味でも適切で迅速な対応……だが次の瞬間、男は一瞬で前衛の幸子をすり抜け、喜利と秀一が顕術を打ち出そうとしていた腕を掴み上げた。



「落ち着いてください。僕は退魔師です。たまたま居合わせただけです」



 男は三人を刺激しないよう簡潔に説明しようとするが、経験不足の否めない三人にそれを聞く余裕は無かった。

 確かに三人は上一級から特一級の下位あたりなら倒せる力を持っている。それに疑う余地は無い。

 しかし、幸か不幸か一度だけ人型の鬼が人間を襲っている現場に居合わせ、調伏した経験を経ている。

 十分とは言えない経験が暴走し、今回、決して小さくない事故を誘発したという訳だ。


「離れなさい!」


 幸子が『光剣』を顕し、男に斬り掛かる。

 男はそれを大きく跳躍することで回避し、一旦その場から距離を取った。


「逃がすか!」


 幸子は即座に追撃に臨む。男は「仕方ない」とぼやき、幸子を迎撃せんと空中で体勢を整える。

 一直線に向かってくる相手に攻撃のタイミングを合わせることはそれほど難しいことではない。身体を捻り、円を描くように振りおろした回し蹴りが幸子を捉え――――


「!」


 蹴りは空を切り、幸子は男の死角へと回りこんでいた。


『虚空踏破』


 退魔師であれば基本的な技能で、空中にマンホール程の足場を作る顕術だ。さらに幸子の場合、踏み込んだ際に強い反発を生むように、持ち前の器用さで独自の調整を施している。

 それ故に、通常以上のパフォーマンスで空中を立体的に動き回る事を可能にしていた。


 空を走る『虚空踏破』とは別に、純粋に空を自在に飛び回る飛行の顕術もあるが、それらは修得難度が高く費用対効果も極めてシビアだ。体術を活かした高速戦闘においては、『虚空踏破』を高いレベルで使いこなせる退魔師の方が有用とされている。

 幸子は空中での機動力を生かした戦闘スタイルで、特に人型相手の対人戦では無敗の実績。今回も、間違いなく優位に戦闘を進められると疑わなかった。


「く―――強いっ」


 死角からの攻撃は難なく対応され、続け様に攻撃を仕掛けるも相手の『光剣』に全て弾かれる。

 しかも男は『虚空踏破』で幸子の機動に完全に追い付き、あろうことか最も得手とする戦場で自分を圧倒する程の手数を見せつけていた。


 そして、焦りから大振りで隙の多い攻撃姿勢に入った直後……幸子の『光剣』が相手の『光剣』によって、いっそ憎たらしいまでに綺麗な音を残して砕かれる。


 時間にして僅か一、二秒の攻防。空中を高速で駆け抜けて行った十数回の剣戟の末、幸子は生まれて初めて空中戦で遅れをとった。

 

「離れろサチ!」


 秀一の声を聞き、幸子は放心状態から抜け出して男から距離をとる。直前まで居た場所に、自在に動く苦無(くない)に引かれた特殊な縄が、男を包囲するように位置取りをした。


「ふっ!」


 男は通力が通うことで強度が増している縄をあっさりと切って捨てる。

 だが、そこは流石に連携に長けたチーム。二の矢三の矢を想定しているにも関わらず意表を突く攻撃……足下からの炎の柱が男に向かって伸びた。


「――――っと!」


 男は『虚空踏破』で回避し、すぐさま地面に降り立つ。

 炎を放ったのは武藤喜利だ。空中戦で幸子を上回る相手を簡単に倒せるとは思っていなかったが、手傷すらも負わせられないとなると……正直、状況としてはかなり追い込まれていると認識できた。


「どうか落ち着いて、話を聞いてくださいませんか?」


 男はあくまで丁寧な物腰で三人に語りかける。

 三人は警戒を解かないまま視線を交わし、そして幸子が男の前へと出た。


「身元を明かしなさい。出来ないなら、拘束して“社”に連行します」


 男はひとまず安堵のため息を吐く。そして手を挙げて降参の意を示しながら、もう一方の手をジャージのポケットに差し込む。

 三人は身構えるが、そこから現れた物が何かを見て、一応の警戒はしつつも少しだけ力が抜けた。


「私立九良名(くらな)学園第三校風紀委員会所属、黒沼公浩です」


 公浩が提示したのは写真付きの学生証。この上ない身分証明と言えた。



           ★



 公浩がそこに居合わせたのは本当に偶然だった。

 人型、恐らく特一級相当の鬼。それが女性の腹部に細身の剣を突き刺した瞬間に出くわしたのだ。

 公浩はすぐさま交戦に入り一撃を与えるも、鬼は即座に反転。その場を離脱した。

 追跡を試みようとしたが、襲われた女性にはその時点で息がある事に気付き中断を余儀なくされる。

 公浩は鬼の事を“社”に報告しながら女性の治療を行うが、公浩の使える治癒の顕術では傷は塞がない。噴き出す血を浴びながらも懸命に助けようとしたが、力及ばず女性は息絶えた。


 公浩が女性の開いていた目を閉じてやったところに、幸子たち三人が現れたという訳だ。

 話の裏を取るために“社”へと確認を行ってからの幸子、喜利、秀一の三人は、平伏しそうな勢いで平謝りである。


「本当に、申し訳ない! 話を聞かず一方的に勘違いしたあげく、攻撃を仕掛けてしまうなんて………」


「ほんと、ごめんなさい!」


「すんませんした!」


 三人は。それはもう深く頭を下げて公浩に謝罪する。

 公浩は穏やかな表情で三人の謝罪を受け入れていた。


「やむを得なかったと思います。こんな時間に薄暗い路地をうろついている僕は、十二分に怪しいですから」


 この一帯は『響きの呼び符』の範囲内で、『人避け』も作動している。そこを彷徨いている何者かは、それだけで怪しく映るのも当然だ。おまけに血塗れで被害者の横に居ては尚更に。

 とは言え『人避け』などの結界も絶対ではない。被害者の女性は仕事帰りのOLだったらしく、不運にも術式の影響を受け難かった。目的を強く定めた上で行動する者には効果が薄いのだが、それは命を落とすには余りにも不条理な理由だったろう。


「でも……なんでまた、こんな時間にこの辺りを歩いていたんですか?」


 喜利の質問は至極もっともだ。公浩は苦笑というか、少し照れた様子を見せながら頬をかく。


「実は下見がてら、ちょっとだけ。彼女にデートをせがまれてしまいまして、その日までに空いてる時間が今晩しか無かったものですから、急遽ここまで。終電は終わってしまったのでランニングついでに走って来ました。隣街ですし」


 公浩の説明を聞いた幸子が「ぁ……彼女いるんだ」と残念そうに呟く。

 幸子は同年代で初めて、得意分野で自分を上回る相手と会ったのだ。それは羨望に近い好感……女子が抱く「ちょっといいかも」という感情に似ていた。


「何にせよ、こちらにも非はありました。李下に冠を正さず、という言葉もあります。今後はこんな事が無いようにしますので、どうか今晩の事は穏便に」


 公浩の謙虚な言葉に、むしろ三人の方が恐縮してしまう。

 自分たちを気遣う対応なのは明らかだった。


「黒沼くんは二年生だよね? 僕は第一校二年の武藤喜利。君と同じ風紀委員だよ」


「俺は吾妻秀一。同じく二年で風紀委員だ。つーかお前すげーな。空中戦でサチより動けるなんて」


「いや、こっちも内心ヒヤヒヤしてたよ。それに『虚空踏破』に関して言えば、僕よりもそちらの彼女の方がずっと上手(うわて)だしね」


 そう言って公浩は幸子へと目を向けた。

 幸子はどこか気恥ずかしそうに、落ち着き無く公浩に相対している。


「あ、えと……真田幸子です。二年で、一応は風紀委員次席やってます」


 セミロングの髪を指先でくるくると弄り、目線は公浩をチラチラと捉えている。


「おいサチ。黒沼には彼女がいるって……」


「わ、わかってる! ただ……それでも、やっぱり……(ぼそぼそ)」


「はぁ………ごめんね黒沼くん。さっちゃんは殆ど負けた事が無いから、黒沼くんを前にしてちょっとテンパってるんだよ」


 公浩は「そういうこともあるよね」と微笑を幸子に向ける。

 幸子はついに公浩と目を合わせられなくなり、顔を赤くして喜利の後ろに隠れてしまった。


「嫌われちゃったかな」


 その場にいる男三人はしばらく幸子を微笑ましく見ていた。


「そうだ、“社”には報告してあるけど、さっき取り逃がした鬼……多分“急所斬り(クリティカルブレード)”だと思う。警戒を強めた方が良い」


 “急所斬り”


 その単語に幸子たち三人は息を呑む。

 術式を込めた武装……“術装”の製作で第一人者とされていた殿町(とのまち)宗玄(そうげん)が作り出した三つの傑作。その一振りを奪った鬼の通称が“急所斬り”だった。


「その鬼が“急所斬り”だという根拠は何だい?」


 喜利は緊張を含んだ声音で公浩に訊ねる。公浩はそれに、自信を持った声音で答えた。


「以前に殿町宗玄の三傑作の一つを見たことがあってね。彼の三傑作には必ず決まった術式が施されてる……確か、『我汝不認(われなんじをみとめず)』だったかな。特殊な方法でないと正確に姿を捉えることが出来ない認識阻害の術式で、殿町宗玄のオリジナルらしい」


「……それが、その鬼の武器に掛けられてたってことか?」


「遺体の傷口から細身の剣だってことは分かったけど、実際に見ると細長い何か……という風にしか見えなかった。あれは間違い無く殿町宗玄の術式だよ」


 奪われた一振り以外の二つは所在がはっきりしていて、持ち出すには特別な許可が必要となっている。

 “社”が問い合わせるだろうが、恐らくそちらに問題は無いだろう。


「でもまぁ、“急所斬り”から術装を奪った誰かという可能性もあるから、あくまでも推測なんだけどね」


「……どちらにせよ、世界最高峰の武器を敵が所持している事には違いないね。用心しておくよ」


「三人とも気をつけて……と、僕はそろそろ帰るよ。さっきウチの学園長に呼び出されたから、叱られに行かないと。でないとスミスさんに机の費用を請求されかねない……」


 九良名学園の風紀委員寮に門限は設けられていない。

 非番の日に公浩がいつランニングをしようと自由なのだが、隣街の退魔師の管轄で勝手な戦闘行為と聞けば、あの亜笠が穏やかでいられるはずもない。

 しかも、現地の退魔師と悶着があったと知れたら………あ、机壊れたな。


「ものは相談なんだけど………僕らは今晩、仲良く会話しただけ………って事にしてくれないかな」


 三人はキョトンとした顔を見合わせると、同時に相好を崩す。

 公浩の意図は理解するに易く、また願ってもない申し出だった。


「僕らもそうしてくれると助かるよ。ただの通りすがりに攻撃を仕掛けたなんて、知られたら大目玉だからね」


「その結果、軽くあしらわれましたーなんて、恥ずかしくて言えねーよ」


「もし立場が悪くなるんだったら、私たちからも陳情してみるから」


 公浩はにっこり笑って「ありがとう」と言った。公浩の笑顔を見て幸子が「!」という反応と同時に心臓のあたりに手を添えていたが、公浩は気付いていない。


「明日、こっちの“社”へ正式に報告するつもりだけど……“社”の人に何か言われたらウチの学園長の名前を出すか、僕は気付いたら消えていた、とでも言っておいて。余裕があればそっちにも挨拶に行くから、それじゃあね」


 公浩はそう言うと足早にその場をあとにした。しばらくした所でランニングに切り替え、あっという間に見えなくなった。


「そろそろ“社”の退魔師が来るころだね。その前にもう少し、女性の遺体を調べておこう。治癒の顕術が効かない傷……術装の能力を把握しておきたいし」


「あいよ」


 喜利と秀一が現場の保存と情報収集に動く。

 その後、到着した“社”の退魔師へと報告している間、幸子は上の空だった。

 時折、公浩が走り去った方へ視線を送っているところを秀一にからかわれながら。



           ★



 第三校学園長、三王山亜笠は“社”を通じて公浩の状況を知らされた。

 隣街の、しかも第一校の管轄で起きた事件で第三校の生徒が聴取のため拘束されるのは、亜笠からすれば面白くない事だ。

 そうなる前に、迷わず公浩を呼び戻した。


「あの野郎、何でよりにもよって第一校の管轄で巻き込まれるんだよ……あそこの学園長はアタシのこと嫌ってるっつうのに。うちの生徒だと知ったら、なんだかんだと理由を付けて閉じ込めて、アタシを呼び出すや否やどんな嫌味を言ってくるか分かったもんじゃねえ」


陸道(りくどう)家の長男の方でしたよね。仲悪いんですか?」


「ああ、お前は会ったこと無かったか。あいつは鉄面皮で融通が利かなくて底意地も悪い。おまけに何が気に入らないのか、いちいちアタシに突っかかってくる。この間なんてアタシがコンビニで酒を爆買いしてるところを写真に撮って……「酒はほどほどにすることだ。みっともない姿を見せれば家の名前にも傷が付くぞ」だとお!? 余計なお世話だコンチクショー!!」


 亜笠が拳を握りしめてプルプルと怒りに震えている。

 ジェーンはそれを見て相手の男との確執をなんとなく感じ取った。


「ですが、どのみち明日には黒沼くんがあちらの“社”に出向きますから。嫌味の一つは(ことづ)けてから帰すかもしれませんね」


 亜笠は頭を抱えてため息を吐く。そしてブツブツと公浩への恨み言を溢し始めたところで、ジェーンが先程までの話に戻す。


「それで学園長……佐助花さんの事ですが」


 だだ漏れていた念仏の如き恨み言がピタッと止まったかと思えば、先程よりも盛大なため息を吐き出す。

 これでいて、気苦労が絶えない立場だ。今日ぐらいは酒を解禁しても良いかと思える悲壮感が漂っていた。


「斑鳩のヤツ、あんなデカイ話を何で今まで黙ってやがった………単位取り消してやろうか」


「まあ、こちらから聞くこともしなかったですし、彼女だけが悪いわけでもありませんよ。むしろ、一部の人間がこの事実を知っていて隠してる事が許せません」


 二人の表情には暗い影が差しているようだった。

 斑鳩縁が語った鬼という存在の真実。そして佐助花真朱を救う手段というのが、どうしようもなく重くのしかかっていた。


「術式の事だが……佐助花本人に決めさせるしかないだろう。生きるか死ぬかに直面しているのはアイツなんだからな。マサキも、そろそろ限界だと言ってる」


「恐ろしいものですね……悪魔が人の願いを叶えるという事は」


 その後、公浩が学園長室に来ても、公浩に亜笠の雷が落ちる事は無かった。

 疲れた表情で形だけの説教をする亜笠。それが真実の重みに潰されそうな姿だと理解しつつ、公浩は静かにその場を後にした。




『改稿済みー』

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