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異能モノノケ録  作者: 長尾景虎
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第11話 叶えた願いは歪な蛇を象る


 黒沼公浩は学園まで走り、学園長に増援を要請した。そして最低限の会話を終え、先ほどの場所へとんぼ返りだ。


 しかしその増援……“(やしろ)”から向かう筈の退魔師は、今ごろ市内で“影”の襲撃に遭い、目標地点の空き地に到着するのが大幅に遅れることだろう。

 工藤、磯野、海北もそちらに駆り出された。


 ろくな応援も出せない状態で、危険人物のいる場所へ生徒を送り出す事は出来ない。そう言われて学園長である亜笠に止められたが、半ば強引に制止を振り切り、公浩は学園を飛び出してきた。



 あまり長く接してボロが出てもまずい。



 生徒会の面々と巡回していた時から、内心では落ち着かなかったのだ。

 誰もが抱くはずのものとは別の心配をしながら夜の街を疾走する黒沼公浩のもとへ、未開発地域の方から轟音が届いた。


「始まった。僕もそろそろ引き上げないと」


 商業ビルが建ち並ぶ区画。公浩は予め決められていた地点へ向けて建物の合間を縫うように進んでいた。そこへ、


「やあ公浩、お疲れ様」


 辺りは暗く、入り組んだ路地裏を歩いていた公浩に、鏡のように全く同じ姿をした男が声をかけた。

 公浩は男に向けて、丁寧に頭を下げる。


「恐縮です、若。自分を演じる(・・・・・・)と言うのも、中々に緊張しますね」


「見てましたよ。あの様子なら、バレてはいないでしょう」


「性能の良い装備もお借りしてますし、これくらいは当然です」


 そう言うと、公浩は耳に装着していたイヤホンを外して見せる。骨伝導で会話が可能な優れものだ。

 これを通して士緒が逐一状況を把握し、会話は一から十まで全て指示していた。


 今、士緒の目の前にいるのは正真正銘、本物の黒沼公浩。本人である。

 ある意味で手の込んだ小細工を施すため、士緒が拠点から呼び寄せたのだ。


「一度は(わたし)と黒沼公浩が出会っておくべきですからね。面倒な仕事をさせてすみませんでした」


「お役に立てたのなら嬉しいです。他にも何かあれば、何なりと申し付けてください」


 黒沼公浩はとある理由から、橘花院士緒に心酔している。

 退魔師でありながら退魔師を裏切る行為をしていようと、士緒のためならば後ろめたさも飲み干して見せる程に。


「後は私の仕事です。そちらは例の地点から転移術式で拠点に戻ってください。公浩の身分、今しばらく借ります」


「はい、煮るなり焼くなり、好きにお使いください」


 公浩は士緒に感知阻害用の結界……『幻霧結界』で覆ってもらい、その場を離れた。数分もしない内にこの街から離れているはずだ。


「さてと。私も……()も早く向かうかな」


 士緒は段々と、この演出が楽しくなってきていた。

 あまりに危険な遊びだが、楽しく仕事が出来るなら、それに越した事はない。


 そんな軽く浮かれた気分は、空き地へ着くまで続いた。



           ★



「あ痛~たたた……なんや今のは。何しよったあのど阿呆!」


 独楽石栄太の位置から生徒会メンバー4人の位置まで、抉れた地面が扇状に広がっている。

 衝撃波、なんて生易しいものではない。触れた先からバラバラになってもおかしくない、破壊そのもの(・・・・・・)が生徒会メンバーを襲ったのだ。

 抉られた地面が瓦礫となって、土埃と共に辺りに散乱していた。


「みんなー、無事かー?」


「いつつ……なんとかね」


「……制服が汚れた」


「ごめんね梓、私を庇ったから」


 全員が『不動障壁』などの防御手段を使っていたため軽傷で済んだ。鳳子は強化系統の顕術は苦手としており、常より梓が庇う事が多い。今回は制服が犠牲になった。

 ただ、今の一撃は運が良かったと言える。攻撃の範囲が広く、力も拡散していたようで、独楽石栄太の技量の低さに救われた形だ。次もこの程度ですむとは限らない。


「……クリーニング代はあの木偶に支払わせる」


 近頃、梓の言葉使いが荒れてばかりだ。それだけ事件が多いということなのだが。


「ちっ、なんだよ……全員生きてんじゃねえか。お前らゴキブリかよ」


「お前に言われとうないわ、このハゲ!」


「……まあいい。なら今度は直接潰すか」


 栄太が右腕に通力を溜めていく。

 すると、それまで抑えていたのか凄まじい威圧感が放たれ、通力が肉眼でも認められる程になっていた。


「待って独楽石くん! なんでこんな馬鹿なことをするのっ! 橘花院士緒に何かされたの!?」


 風音が刀をいったん鞘に納め、こんなことをする理由と、明らかにおかしい力の上昇について訊ねる。

 しかし栄太は、風音の言葉に心底不思議そうな顔を返した。


「ああ? 馬鹿かお前。その、なんとかって奴なんて知らねえよ。俺はただ力をくれるって言うから貰っただけだ。んで、その力を使って今まで俺をバカにしてきた連中をぶっ殺すんだよ。そうしないと俺が……俺、が……………どうなるんだ? 俺は、親父や兄貴たちに……認められる? 誰に……どうして!? なんのためにっ…………殺す? は、ははは………そうだ殺すんだ!? 復讐してやる!! 俺をバカにしてきたやつらを皆殺しにするんだあああああ!!! ぎゃはははは!!!」


 支離滅裂。栄太の様子は発狂した人間のそれだった。

 風音にいたっては目を伏せてしまうほど……憐れで、見るに耐えなかった。


 そこに、学園に応援を要請しに走っていた公浩が戻った。離れた位置に静かに着地し、辺りを見回す。

 先程との事態の変わり様に若干の驚きを見せつつ、梓のもとへ駆け寄る。


「これはまた……奇妙な状況ですね。会長さん、この有り様は彼の仕業ですか?」


 梓は頷く。

 公浩も、白々しくならない程度に状況を理解してみせる。


「これが橘花院士緒の言っていた、面白い見せ物(・・・・・・)ってやつですか。なるほど、確かに僕と因縁がある役者だ」


 公浩は梓に増援が遅れる旨を伝える。

 橘花院士緒が立ち去った今となっては、増援が必要かについては疑問が残るが、呼んでしまった後のうえに逃げられてしまった以上は仕方がない。

 それに、どのみちこの場は自分たちだけで、しかも早急に片を付ける必要があるのだから。


「……大馬鹿者の一人ぐらい、私たちだけでどうにか出来る。下手に増援が来たら、独楽石が始末されるかも。できれば、そうさせたくない」


 梓の言に生徒会のメンバーたちは頷く。公浩も自然と笑みが零れていた。


「……皆、いつも通りに。黒沼は私と一緒に鳳子の護衛」


「分かりました」


 4人は陣形を組み、公浩は殿についた。

 すると、戦いの気配を感じ取ったのか、栄太が高笑いを止めてこちらにグルンと顔を向けた。


「黒沼……? くろぬま……クロヌマ……くろ、ヌマ……………黒沼あああああ!!!」


 栄太が右腕を振りかざしながら公浩に向けて突進する。それはいつかの再現のようだった。

 後衛の守りに付いているのに、自分が狙われていては逆効果だ。公浩はすぐさま鳳子と距離を開ける。


「行かせない!」


 風音が抜刀し、横合いから栄太に斬撃を見舞う。


 ガキンッ!


 およそ肉体を斬りつけた時に出る音ではなかった。

 脇腹に浅く斬りつけた刃は制服で止まり、それでも風音は刀を振り抜いた。


「ずぇええい!!」


 横薙ぎに振り払われた刀に、栄太の身体は押し出された。


 ズザザーーッ


 栄太は立ったまま数メートルを滑り、一瞬だけ浮いた足をふたたび地面に突き立て、体勢を崩さずに踏ん張った。

 そしてそこへ、鳳子の『光矢』が5つ叩き込まれる。


 ガキキキキンッ


 金属同士がぶつかったような硬質な音が辺りに響く。

 あの衝撃で撃たれてよろめく事もしない。どういう理屈で『光矢』を弾いているのか、理解できなかった。


「硬いわね。風音ちゃんっ、切れそう?」


「まだ“真宵(しんしょう)符”の効果が続いてますし、それに最初から鉄を斬るつもりでやれば、次は行けます!」


「分かったわ。だったら動きを止めるから、どんどん切っちゃって!」


 言うやいなや、『光矢』が驚異的なスピードで栄太に飛来し、全身にぶち当たりながら翻弄する。

 鈍重なのは相変わらずなのか、反応すら出来ていない。


「がっ!? あがっ……クソっ……どもがあああ!!!」


 栄太は鬱陶しそうに手を振り回すも『光矢』を捉えきれないでいる。

 そこに風音が『光矢』の合間を抜け、刀の間合いに栄太を収めた。


「もらった!!」


 またしても脇腹に横一閃。

 今度は先程よりも深く、鋭く、速度をもった一刀だ。


 斬った、そう確信した。致命傷にならない程度の傷を負い、動きが鈍ったところを拘束する。

 その予想はしかし、実現しなかった。


「ガアアアア!!!」


 適当に振り回していた右腕が、たまたま斬撃の軌道上に重なり、そして刀によって傷を負った瞬間……弾けた(・・・)


「っ!?」


 ドオオオンッッッ!!


 通力の爆発。右腕を中心に強烈な爆風が発生した。


 風音は吹き飛ばされつつも体勢を立て直し、距離をおいて爆発の中心を見る。

 そこには霧状になった通力に包まれている独楽石栄太がいた。

 やがて霧が一点に吸い込まれるように集束していき、晴れた視界の先に見えてきた栄太の姿は、明らかに異常なものだ。


「な、なんや、あれは!? 蛇か? ってかその頭に独楽石おるやん!?」


 全長は30メートル程、太さの直径が2メートルはありそうな真っ赤な大蛇。チロチロと舌を出す蛇の頭部には、独楽石栄太の上半身が生えていた。


「会長さん、一応聞きますが、あれが何かご存じですか? どういう理屈でああなったか、という意味で」


「……知るわけもない」


 分かりきった答えだった。鳳子にも視線を送ってみるが、首を横に振るだけだ。


「ならば、やはり引っ捕らえましょう。もしかしたら、まだ助けられるかもしれません」


「そうね。難しいと思うけど、やるしかないわね」


「せやな。アホなやつやったけど、まあ6:4くらいであのリーマンハゲが悪いと思うし、今回は助けたってもええかな」


「……異論は無い」


 風音にも目配せで意思を確認すると、刀の峰をつついて見せた。生け捕りにする気満々である。


 5人の意志は固まった。

 後はどのようにという話だが、そこで栄太に異変が起きる。


「…………………あ?」


 拳を握っては開きを繰り返し、次に自分の身体を見た。


「あれ……俺の服は? ってか、なんでこんなとこに……」


 自分が蛇の頭にくっついている状況は視界に入ったはずだ。にもかかわらず、そこにはリアクションを示さない。

 さらには記憶も混濁しており、落ち着いた様子とは裏腹に異常にも思える雰囲気がある。


 狂気に染まった独楽石栄太の瞳は周囲を見回し、公浩と目が合った。


「黒沼、てめえっ……………そういやぁ俺、お前に用があったんだ」


 ズルズルと蛇の体を引きずりながら公浩を正面に捉える。

 その場の全員が警戒し、身構えた。


「そうだよ、お前だよ。お前のせいで俺が、あんなカスどもに舐められてんだ。全部お前らが悪いんだ……俺をバカにするから……だからあっ! 全員んんん!!?? ブッコロスぅuuuyeee!!!」


「あかんっ!!」


 凛子が幅広の盾が付いている騎士槍を、それまでとは比べ物にならない速度で突撃してきた独楽石栄太にぶち当てた。


 ドゴォッッッ!!!


 凛子が踏みとどまった地面にヒビが入る程の衝撃だったが、蛇の巨体の動きは止まった。それと同時に風音、そして公浩が独楽石栄太に飛びかかっていた。


「せやっ!」


「ふっ!」


 風音が蛇の胴体を斬りつけ、公浩が人間の上半身に拳を打ち込んだ。


「おぐぉっ!?」


 人間の上半身は怯みを見せるも、蛇の胴体が攻撃に反応し、尾の部分で周囲を薙ぎ払った。


「うおっ!」


 凛子は回避せず受け止めたため、身体ごとふっ飛ばされた。鳳子は梓に抱き抱えられて移動し、風音は回避しつつ反撃を繰り出していたが決定打は与えられていない。


「てめえらああああ!!! 死ねええええ!!!」


 栄太が融合している蛇の口が大きく開かれる。

 そこに、膨大な量の通力が集まっているのが確認できた。


「……! 全員回避!!」


 梓が声を張り上げた直後、蛇の口から先程と同一の破壊の津波が放たれた。


 ―――――ッッッゴオオオオオン!!!!


 扇状の範囲に収められたのは風音と凛子だ。

 正に間一髪の所だったが、風音は持ち前の速さで何とか範囲外に脱出し、凛子は極大強化の『不動障壁』と、とある切り札(・・・・・・)を使用して凌いでいた。


 爆音による耳鳴りを堪えながら辺りを見回すと、地形が変わる程の破壊が空き地の外にまで及んでいる。

 もしこれが人のいる場所で使われてたらと思うと肝が凍りつく思いだった。


「くっ、う!」


「ぬ、おお………死ぬかと思うたわ」


 かろうじて凌ぐことは出来た。

 しかし無傷と言う訳にはいかない。風音と凛子の身体のあちこちには裂傷や火傷の痕が見える。

 痛々しい傷だが、先程の威力を考えるなら、この程度で済んだことは奇跡的と言って良い。


 公浩は二人のカバーに入りながら『光矢』を3つ、栄太の上半身に牽制として放つ。

 さらに公浩の『光矢』の他に鳳子の放ったものが7つ、栄太を翻弄しつつダメージを怯ませていた。


「二人とも怪我は?」


 公浩は独楽石栄太の動きに注意しながら背中越しに訊ねる。


「この程度かすり傷………って言いたいんだけど、左足が折れてるみたい」


「ウチは全く問題無しや。ウチが風音を離脱させるから、公浩は会長たちと踏ん張って――――」


「ぎゃはははは!!! 死ね死ね死ねええええ!!!」


 その時、蛇の頭がまたしても大きく口を開け、先と同様に通力が増大していく。


「……!」


「アホな!? 連射できるんかいアレ!」


「やらせないっ!」


 鳳子が“真宵符”を取り出し、公浩は独楽石栄太との距離を詰めようと踏み込んだ。しかし、このままではコンマ一秒で間に合わないだろう。

 殺してしまえば楽なのに……士緒の立場から、そう思わなくもない。あるいは生かしたまま倒す事も可能だが、今の攻撃は間違いなく放たれる。


 (……世話の焼ける)


 学園の退魔師は敵未満の与し易い存在で、いずれは駒として利用する予定なのだ。せっかく生かしているのに、ここで失うのは惜しい。


 少し面倒な事になりそうだが、体術系以外の顕術を使うべきだろう。

 まさか、あのような小物に煩わされるとは………

 独楽石栄太と、こんな事で結界の顕を使おうとしている自らに対する忌々しさで溜め息が溢れそうになった、その時だった。



「っらああああ!!」



 突如、独楽石栄太の背後―――公浩からは死角の位置―――から現れた少女が蛇の顎を大きく蹴り上げた。


 「「「!!」」」


 ゴォオオオーーーォォ……………


 上空に破壊の津波が打ち上がり、何も破壊しないまま、通力は霧散して消えていった。


「たーまやー、ってな」


 乱入してきた少女に梓以外の全員が目を見開いて驚いている。

 それは今も絶賛引きこもり中だと思っていた少女。九良名学園一年にして生徒会書記……四宮 (つぐみ)その人だった。



           ★



「学園長、先ほど四宮さんが飛び出して行きました」


「やっとかよ。ようやく外には出られるようになったか」


「よろしかったのですか? あのまま行かせて」


「これ以上はあいつと、あいつらの問題だ。あたしには何も出来ないのに、説教だけはするなんて冗談じゃないってーの」


「まだ調子は芳しくないようですし………」


「だーいじょぶだって。学生同士でしか分からない事もたまにはあんだから。神崎は単純でちと心配だが……そういうフォローは浪川のやつが得意だろ」


「はあ、そういうものですか」


「そういうものだってーの」


「…………」


「…………………」


「…………」


「…………………………」


「学園長、貧乏揺すり止めてください」


「あん? んなことしてねーよ」


「はぁ……そんなに心配なら、見に行かれてはどうですか?」


「ばっ……誰も心配なんてしてねーし! それに、あたしがここを離れられるわけねーだろうが」


「ちょっとくらい、私一人でも……」


「ダメだ。敵の狙いが封印かもしれない以上、あたしが学園を離れる事は極力無くす」


「はぁ……そうですか。あっちこっちに心配の種があって大変そうですね(28歳ですものね)」


「おい、今なんか言ったか?」


「さて。これ、新しい書類です。今晩中に終わらせてくださいね」


「え……おま、今これ、どっから出した? 顔見えないくらい積まれてるんだけど……」


「くれぐれも、今晩中にお願いしますよ? ウフフフフ」


「…………出掛ければ良かったかも」



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