第6話:コカトリス襲来
一方その頃……的に?(´・ω・`)
「あ~、随分派手にやってるな~」
“古代遺跡”の地下3階層に広がる廃墟の街。
その中心にある広場の北側にある高い塔と小さな神殿。塔の天辺の屋根に腰を下ろした、長身の〈魔法師〉は、街の南西方向に上がった火柱と粉塵の煙に、退屈そうに呟いた。
「アルトリウス、勝敗が決したようだ。行ってきてくれ」
「え~、なんでぇ~?」
フワフワと彼のそばに浮かぶ水晶から、ウェルテイトの声が響く。その言葉に、アルトリウスは、声を上げた。
「〈結界型〉と〈防御型〉の“二つ持ち”で、底辺とはいえ〈下級魔術師〉を下した〈候補生〉なんて逸材をいつまでも〈候補生〉のままにしとくわけにはいかないだろう?
それに、“勝者”には、きちんとご褒美が必要だ」
「“ご褒美”ねぇ~……?」
アルトリウスは、立ち上がるとそのまま、塔から飛んだ。
「で、あと何人残ってるわけ?」
屋根伝いに歩くアルトリウス。後から一緒についてくる水晶に、声をかける。
「残り3名だな。1名は、お前が今から治療して、確定だ。脱落した奴らの中で、〈型〉が判明したのは、5名。こいつらは、“砦”での勝ち抜き模擬戦で、2名が〈下級魔術師〉に上がれる予定だ」
「ああ、一ヶ月前の基地襲撃戦で、あそこで研修中だった〈下級魔術師〉と〈中級魔術師〉がだいぶ減ったもんな~。
前の選抜試験も質が悪かったし、補充が足りんってわけか~」
「〈型〉が分からない〈候補生〉は、全体的にポテンシャルが高いからな。〈型〉さえわかれば、〈候補生〉に留めておくのは惜しい」
「次の選抜試験まで待てないって~?」
ぴょんぴょんと身軽に屋根を跳んで移動し、未だに粉塵が舞う、破壊された街の一角に辿り着く。軒並み建物が破壊され、残骸以外は更地と化した場所に、アルトリウスは降り立つ。
そして、まっすぐに目標に歩み寄る。
地面に大の字に倒れたままの満身創痍な少年は、目を閉じていた。出血が止まっていない箇所が、地面に血溜まりを作っている。
「やほ~、生きてるか~?」
覗き込むアルトリウス。
だが、少年は反応しない。彼は、少年の傍にしゃがみ込んだ。
「こんな所で寝たら、モンスターに襲われるぞ~?風邪引くぞ~?おーい…………」
つんつんと、少年の頬をつつく。
「………………煩せぇ!なんのようだ?」
「あ、意識あったんだ?」
煩そうに不機嫌な掠れ声が上がる。
薄く目を開き、顔をしかめる少年に、アルトリウスは、笑みを浮かべた。
「君、合格だって!オレは、治療と回収に来たのさ~!良かったねぇ、〈下級魔術師〉になれるよ?」
「………………なんだよ、それ」
なんとも言えない表情で、脱力げに呟く少年。
アルトリウスは、構わずに少年に、治癒魔法をかける。傷は癒すが、失った血と疲労は回復しない術だ。終えると、ぐったりしたままの少年を、肩に担ぎ上げた。
「さて、帰りますか!でも、ウェルが煩いから、遠回りでゆっくり帰ろ~~」
「おい、聞こえてるぞ?」
アルトリウスは、来たときと同じ様に、近場の建物の屋根に飛び上がった。そして、肩の上で揺れに苦痛の唸り声を上げる少年を無視して、屋根の上を鼻歌交じりにぴょんぴょんと跳ぶように移動し始めた。
* * * * *
変わり映えのしない廃墟の街の通りを歩く、フェンとイルセは、自分たちが逃げてきた方向で巨大な火柱が上がるのを見た。
「あんな火力、中級魔術じゃないか!」
「シーダの術だね」
おもわず声をあげる、茶髪緑目の眼鏡少年ーーイルセ。フェンは、冷静に呟いた。
「ゼヤンは、〈防御型〉だから、大丈夫。それより、問題は僕たちだよ」
「へ?俺たち?」
イルセが、きょとんと、フェンを見る。
「イルセ、現在地、どこだが分かる?」
「……………っ!ま、まさか………」
真剣な眼差しでイルセに尋ねるフェン。イルセは、ハッとある事実に気づいた。
どこを歩いても変わらない廃墟の建物。目立つような特徴あるものも、ほとんどない。
「つまり…………」と、イルセは、ゴクンとのどを鳴らし、見つめ合ったフェンと互いに頷き合う。
「「迷子か(じゃん)……っ?!」」
異口同音に叫び、頭を抱えた。
そう、フェンもイルセも、今、自分がどこにいるか、わからなくなっていたのだ。
「マジかよ?!そーいや、逃げるのに必死で、周り見てなかった!」
「そういえば、なんでこんな必死に逃げてたんだろ?……あ、イルセ、さっき、何か言いかけてたよね?ヤバいとかなんとか?」
「あぁっっ?!そうだっっ!!!」
首を傾げたフェンが訊くと、イルセは、ばっと顔を上げで、周囲をキョロキョロし始める。
「どうしたの?」
イルセの怪しい動きに、フェンが怪訝げな声を掛ける。だが、イルセは、気にせずに周囲を確認して回ると、なんの気配も姿も無いことに安堵の息を吐く。
「良かった!無事に巻けたのかも…………」
冷や汗を拭うイルセは、不思議そうな顔のフェンを見て、苦笑を浮かべる。
「コカトリスが出たんだよ。さっき言いかけてたのはさ、シーダが攻撃魔術で、ヨウを殺したときに、ヨウの血が傍の石像にかかってさ。
そしたら、その像がみるみる石化が解けたようになって、出てきたのが、コカトリスだったんだ!」
「石像が………。そういえば、トリウさんが、封印されてるモンスターがいるっていってたね」
「そうだっけ?
シーダは、立ち去った後で気づかなかったみたいだけど、俺は見つかっちゃって、慌てて逃げたんだ。まだ、石化が完全に解けてなかったんで、なんとか逃げ切れたけど、あれは、普通のコカトリスじゃない。かなり、ヤバいやつだ!」
力説するイルセ。
だが、フェンは、首を傾げる。
「コカトリスって、なに?」
フェンの一言に、イルセが、ガクッと転ける。脱力したように、「はぁ~?!」と顔を上げて、フェンを見たイルセに、フェンは困った表情をした。
その様子に、イルセは、思いつく。
「ひょっとして、フェンは、プラウティス出身か?この辺りは、戦場荒野だから、魔獣系のモンスターは出ないだったな。悪い」
「イルセも、“外”出身なんだね」
「俺は、東のレウティ伯爵領だよ。あそこは、迷宮がたくさんあるから、冒険者も活発で、いろいろ栄えてる場所なんだ。親父が、〈発掘屋〉でね。遺跡求めて、こんな戦場まで辿り着いたってわけさ。でも、後悔はしてない。外じゃ、魔術師になるのに、大金がいるし十年以上掛かる。けど、ここなら才能があれば、どんどん上に上がれるし、魔術を役立てれる。それで死んでも後悔はないさ!」
「………そっか」
フェンは、凄いなと、イルセが眩しく感じられた。ただ、プラウティスに生まれて、魔術の才能かまあって、流されるだけの自分と違い、イルセは自分で考えて、自分の意志でここにいるのだ。
(ゼヤンだって、シーダだって、そうだ。それに、イオだって、自分で決めて歩いている)
じゃあ、特に目的も意志もない自分はどうなんだろう?
フェンは、自分の足元がぐらつきそうになる感覚に、グッと手を握りしめた。
ふと、幼い日の“彼ら”の言葉が蘇る。
『もっと必死になれよ?!足掻けよ?!そうやって、自分は関係ありませんって顔で、全部流してたら、お前、大切なもんを失うぞ?』
『貪欲になれ。ここはまだ“底辺”だぞ?俺たちなら、もっと高見を目指せる。力を得れる。力の無い奴がなにいっても負け犬の遠吠えだ。護りたいなら、見てほしいなら、もっと貪欲に力を求めて上に駆け上がれ!!』
そう言って、実際に駆け上がっていった“彼ら”。
残された“彼女”と自分。
『フェン。悲しいね?………いつか、こんな戦争、終わるといいのに………』
『…………は、戦場を終わらせる為に、力が欲しいの?』
『そうよ。手遅れになる前に止めたいの。たとえ、私の全てを投げ打っても、私は“力”が欲しいわ』
哀しさと揺るぎない決意を秘めた笑みを浮かべた彼女は、さきに〈候補生〉に上がり、いつの間にか、姿を消していた。
残されたのは、空虚なままのフェンのみ。
(僕は…………………)
思い知らされる。
(僕は、ただ、“日常”を壊したくないんだ)
イオがいて、セルダがいて、家族が知り合いがいる、なんの変哲もない日常。
それでも、少しずつ、失われてしまうものがある。それが、悲しい。それが怖い。
「フェン?大丈夫か?」
目の前にあるイルセの顔に、フェンははっと我に返った。
時々、自分の思いに捕らわれ、深く考え込んでしまうのは、フェンの悪い癖だ。
「本当に大丈夫か?かなり疲れてるだろ?もう、夜もかなり遅いし、フェンの年だと眠いんじゃないか?」
「う、ううん。大丈夫だよ。ちょっとぼーとしてただけ………」
「って、それ、疲れてるんじゃん!どこかで、休もう!」
そう言って、手を引こうとするイルセを、フェンは、押し留めた。
こちらを狙う鋭い威圧感が降り注ぐ。
イルセは気づいていないが、殺意ではない。純粋に獲物を狙う捕食者の気配だ。
「イルセ。コカトリスって、どういうモンスター?」
フェンは、イルセに尋ねた。
「え?えーとな、鶏だよ。デカい鶏!ただ、蛇の尾を持つ。尾っていっても、蛇な。つまり、頭が鶏と蛇、2つあるモンスターなんだよ。鶏の癖に飛ぶし、動きが早い。鳥爪は鋭くて、毒がある。蛇も毒がある。モンスターの中じゃ、それほどじゃないって言われてるけど、厄介なモンスターだよ」
「それって、アレ?」
フェンが、近場の建物を指差す。
二階建てだったのだろう建物の屋根に、体長2mはあろう巨大な鶏が立っていた。
赤い鶏冠、顔は白いが体は黒い。鶏に似合わない鋭い眼孔。太い鳥足に立派な鳥爪が鋭くついている。その尾側に伸びる太く長い青い蛇が、ゆらゆらと揺れている。
「あー、うん。あんな感じ…………」
仰ぎ見たイルセが、ピシリと固まる。
ギギギ…………と、顔をフェンに向けるイルセ。フェンは、小さな声で詠唱し、自分とイルセに、身体に張り付くような防御壁を張り巡らせる。
「イルセ、俊足の補助術を、僕と自分にかけれる?」
「お、おう?」
イルセが、慌てて術を掛ける。フェンは、その間、コカトリスに動きがないか、じっと見ていた。
「ど、どうする?」
「別々に逃げよう。僕が囮になるよ」
「は?…………いやでも!」
「イルセは〈補助型〉だから、戦うのは無理だよ。僕の方が、攻撃も防御も上だよ」
フェンの言葉に、イルセは唸る。
だが、確かにイルセではコカトリスに対抗できないのは、明白だ。
「じゃ、じゃあ、コカトリスが来たら、フェンは鶏、俺は、へ、蛇の意識を注目させる。そして、それぞれ反対に逃げよう。2つ頭があるんだから、両方が別々の獲物を見たら、混乱するはずだ!」
「そしたら、イルセの方に行く可能性もあるよ!危ないよ!」
「だ、大丈夫!こ、コレくらいはしないと!」
ハハハッと笑うイルセは、明らかに強がっていた。
フェンは、イルセに気づかれないように、“事前詠唱”をする。事前に幾つかの術を発動させる為に、先に唱えて、最後の“言葉”を言わず、留めておくのだ。普通は、〈下級魔術師〉で学ぶ技だが、フェンは、〈候補生〉に入る前の“教育”で、こうした高度の技や術を学んでいた。
「コーーッケッコーーーーッッッ!!!!」
コカトリスの雄叫びが、響き渡る。
大きく羽を広げて、眼下の獲物を威嚇する。
「鳴き声は、鶏のままかよっっ?!!!」
おもわず、イルセがツッコむ。
フェンは、「鶏だから、当たり前じゃないの?」と、不思議そうに首を傾げた。
バサバサッッ!!!
屋根から飛び降りた巨鳥モンスターは、激しく羽根を動かしながら、2人に向かって落ちてくる。フェンとイルセは、それぞれ反対側に避ける。
ドシン!!と、地面が揺れる。
フェンの前には鶏の尾羽根。そこから、伸びる大蛇の身体が、フェンに向かって、鎌首をもたげ、「シャーーッッ!!」と、喉を震わせる。
「ぎ、逆ぅ~~っ!?」と、イルセの叫ぶ声。
「イルセ、逃げろっ!!!」
フェンは叫んだ。
同時に、2つの“言葉”を放ち、魔術を完成させて放つ。“氷の槍”と“氷の雨”を同時展開。1つはコカトリスの足元、1つは目の前の大蛇を狙ったものだ。
「ギャッッ!!?」
「ジャッッ!!」
ビシビシと、コカトリスの鳥足が氷に覆われていく。大蛇に降り注ぐ氷の雨が、大蛇の頭や体に当たり、氷が広がっていく。
その隙をついて、イルセとフェンはそれぞれ反対に走り出した。
突然の攻撃に怒るコカトリス。鶏がイルセを追おうとし、氷に苦しむ大蛇がフェン目掛けて、身体を伸ばす。
互いに、ビン!と引っ張り合う鶏と蛇。
一瞬固まった両者は、「コケーーッッッ!!!」「ジャーーッッッ!!!」と、互いに睨み合い、喧嘩を始める。
「………………あー、鳥と蛇だもんな~」
後ろを振り返りながらも、逃げるイルセは、喧嘩を始めたコカトリスに、ちょっと呆れた声で呟いた。
「まぁ、このまま、逃げさせて貰おう」
イルセは、建物の角を曲がると、なるべく遠ざかろうと全力で走り出した。
コカトリスって、こんなんで良かったのかな?(´・ω・`)?
(実は、某漫画のイメージしか、作者は知らない)
鶏肉唐揚げ食べたくなるよね(´・ω・`)