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神玉戦記  作者: ななや
1.始まりの契約編
3/21

第3話:魔法師2人組

話が進まぬ(´・ω・`)


 「あはは、初めまして~。〈上級魔術師〉の~、アルトリウス・ワークテイルでーす!!トリウって呼んでね☆」

 「……同じく、〈上級魔術師〉ウェルテイト・アーク・ホルンです。今回の実習の引率を担当します。宜しくお願いします」


 何度目かの休憩後、陸竜車に乗り込んできた2人組は、そう名乗った。

 1人は、ひょろりと長身。濃紺の髪を高く結い上げた、20代前半ほどの青年だ。顔立ちは整っているが、切れ長の目は、糸目かと主ほどに細い。南方の異文化の国にある、重ね着する前合わせの“着物”という服に似たオレンジの鮮やかな上着に黒いズボン、編みあげタイプの黒ブーツ。その上に黒い外套(マント)を、青紫の玉と銀水晶、雫型の緑石の3つを抱く金竜のブローチで留めている。

 もう1人は、長身の青年と並ぶと小柄に見えるが、170cm以上はあるだろう。淡い金色の短髪に、深い紫色の目の、貴公子のような美青年だ。詰襟の軍服に似た服装をしている。紫の縁取りに黒い上下に、黒のミドル丈のブーツ。黒の外套は、丈の短いケープで、同じく青紫の玉と紫水晶、四角型の赤石の3つを抱く金竜のブローチで留めている。

 長身が、アルトリウス。美青年が、ウェルテイト。

 青紫の玉は、上級魔術師の最高位―――すなわち、〈魔法師〉の証だ。

 ちなみに、金竜のブローチは上級魔術師を示し、水晶は魔術タイプ、石は軍階級を表す。


 「うわ、(ブローチ)の石、アレ、青紫だよ……」

 「マジに来ちゃったか」

 「あの“噂”、マジだったんだな…」


 呆然と、立ち並ぶ両者を見ながら、固まるフェンたち〈候補生〉と〈下級魔術師〉1名。

 どの顔も、緊張の色を隠せない。

 なにせ、戦場が、魔術主体と化して、20年。数々の“伝説”を生み出した最強魔術師様である。


 「あれ?でも、……思ったよりも若い?」

 「そうねぇ~?見た目に、20代半ば?……10年前とかに活躍してた年齢じゃないわよね」


 フェンの呟きに、シーダが首を傾げる。

 実際のところ、〈魔法師〉は謎に包まれている。 正式に何人存在しているのかも、定かではない。 男か女か、年も、その人となりも、全てが謎に包まれているのだ。

 だから、こんなところで、本物の〈魔法師〉に会えるのは、非常に幸運なことなのだ。


 「しかし、ずいぶん、対象的な2人だな」

 「それって性格?見た目?」

 「どちらもだよ。ふざけ野郎に真面目野郎。どっちもなに考えているんだか分からねぇ…。気味悪い」

 「うん。“トリウ”さん、笑ってるのに、目が笑ってないもんね」


 不機嫌そうに舌打ちするゼヤンに、シーダが「あらあら」と苦笑する。

 その横で、フェンが、同じく苦笑の笑みを浮かべながら、言った。

 しかし、タイミングが悪く、ちょうど周囲のひそやかな会話が途切れたときだった為に、ことのほか、その言葉が、室内に響き渡る。

 ピシリと、長身(アルトリウス)が固まるのが、目に見えて分かった。

 「ああ、目がいいですね、君」と、横に立つウェルテイトが、キランと目を光らせる。

 フェンの失言に、他の〈候補生〉たちは、わたわたと焦る。


 「……いや、それほどでも……?」

 「いやいやいや!!!褒められてないからな、それ!!」

 「お前、もっと危機感もてよっ?!!」

 「今の完全に失言だろ?!!なんで照れるんだよっっ、フェン!!」


 平然と返したフェンに、周囲がツッコむ。

 その反応に、「なかなかいい反応するな、今年の上級生(アッパークラス)…」と、立ち直ったアルトリウスが感心げに頷いた。その横で、溜息を吐くウェルテイト。


 「いや、しかし、そこの赤毛の少年、なかなかの観察眼だ。魔術師たる者、常に周囲を観察し、疑問を抱き、その答えを見出すようにしなくては、一流とはいえない。この阿呆のふざけた擬態も見抜けないようでは、将来が危ういぞ?」

 「べっつに、擬態じゃないもんっ!!トリウさん、いつも全力よ?」


 ウェルテイトの言いように、アルトリウスが抗議の声を上げて、むくれるも、ウェルテイトは、無視して言葉を続ける。


 「…とはいえ、ここにいいるのは優秀な〈候補生〉諸君だ。ただ、残念なことに、君たちは己自身の〈(タイプ)〉を見いだせていない。魔術師には、必ず〈型〉が存在する。

 戦う者か、護る者か、支えるものか、癒す者か、あるいは、特殊な運命に翻弄される者……。

 それは、己の“魂”の形である。

 諸君らは、この特別実習で、己の“真”の〈型〉を見出してもらう!真の〈型〉が見いだせれば、その魔術才能は、飛躍的に伸びる。それは、諸君らの未来はもちろん、この国を支え護る力にもなる!」

 「……って、え?無視(スル―)?……無視(スル―)なの?」

 「たった1日。

 この短期間で、己の〈型〉を見出せるよう、特別な“場”と我々〈魔法師〉が、諸君らを全力でサポートする!その分、かつてなく厳しい実習になるだろうが、全員、心してかかるように!!!」

 「「「はい!!」」」

 「……え~、酷いよ。ウェル~……オレ、無視なんて……。アガルに言いつけてやるから……」


 隅にしゃがみ込んで、鬱々といじける長身青年。

 その姿に困惑しながらも、ウェルテイトの力強い演説に、元気よく返事をする〈候補生〉たち。

 ウェルテイトは、床に“の”を書きながら、ぶつぶつと陰気な空気を振りまく害虫(アルトリウス)に、深く深く溜息を吐いた。


 「……お前な…、〈魔法師〉の威厳を潰す気か……?」

 「胃減?……俺は、いつでも快食だぞ?」

 「一辺、マジに死んでこいっっ!!!」


 呆れたように鋭い視線を投げ打つウェルテイトに、アルトリウスもキリッと真面目な顔で答える。

 その阿呆な言葉に、ウェルテイトは、おもわず、アルトリウスに雷撃を浴びせた。

 本来、魔術師に必要な詠唱も無しの早業である。そして、威力は最大。

 「あがががが…っ!!」と声を上げ、雷撃に痺れるアルトリウス。そして、ぷしゅー!と、音を立てて、黒焦げで床に転がる長身男を、足蹴りし、隅へと放ったウェルテイトは、空いている座席に腰を下ろした。


 「まったく!〈魔法師〉の面汚しがっっ!!!」

 「……なんか、大変ですね……」

 

 周囲が、その所業に「うわぁ…」と顔を青ざめさせている中、隣に座られたフェンも、顔を引きつらせながら、ウェルテイトに同情の視線を向ける。


 「……はぁ、まったくなんで、あいつと一緒なんだ…。他の人(アガル様)が良かったのに……」

 「えーと……はぁ……。

 その、大丈夫なんですか?トリウさん?」

 「気にするな、少年。あいつは、あれくらいでは死なない」


 そう言って、ウェルテイトは、夕日色の髪の少年(フェン)を見た。

 他の〈候補生〉よりも幼い印象の少年である。異国の血を引いているのだろう。美しい茜色の髪は、鮮やかで見る者をはっとさせる。白い肌に、青緑の瞳と、若い女性が羨む美しい配色だ。

 顔立ちはそこそこ整っているものの、“美形”というほどではない。だが、まだ、幼いがゆえの中性さがあるので、可愛らしく庇護欲がそそる。


 「若いな?…君はいくつだ?」

 「13歳です」

 「ということは、ひょっとして“選抜試験”はまだか?」


 13歳といえば、プラウティス(まち)出身の子供ならちょうど上級生になる年齢である。この“実習”は、条件に『15歳以上』や『選抜試験を受けたことのある者』という項目がある為、フェンのような子供は、なにか事情がない限り、滅多に参加しないのだ。

 

 「いえ、2か月前の試験を受けました。手応えはあったんですが、〈(タイプ)〉不明で、多分、落とされました」

 「そうか……」


 〈候補生〉のほぼ全員が〈下級魔術師〉になれるとはいえ、1回や2回で試験に合格することは、ほとんだない。だから、この“実習”を受ける生徒を選ぶ場合、上級生1年目の生徒は避けるのが暗黙のルールだ。この“実習”の対象者は、大半が、上級生2年目から3年目の生徒に限定されるはずである。


 (なんで、まだ“1年目”の生徒がいるんだ?)


 ウェルテイトは、疑問に眉を顰めた。

 しかし、すでに来てしまっている以上、他の〈候補生〉と同じ扱いにしなければならない。


 (……この少年に“何か”あるのか?帰ったら、一度、調べてみるか…)


 気になることは徹底的に調べることが性分のウェルテイトは、書類を書く振りをして、自分のメモ帳に書き留める。


 「そういえば、少年の名前は?」

 「僕ですか?フェンです。フェナレシオ・トーア」

 「砦町出身か?」

 「砦町?」

 「ああ、プラウティスだったか?外の人間は、あそこを“砦町”と言うんだ」


 ないやら書類に書きながら質問してくるウェルテイトに答えながら、フェンは、何故、こんなに自分について聞かれているのかと疑問に思う。周囲も、2人のやりとりを固唾を呑んで見守る。


 「あーあ、ウェルのやつ、悪い癖が出ているわ」

 「……アルトリウスさん……」


 いつの間にか、反対側の空いている座席に、怪我1つない状態で復活して座っていたアルトリウスが、呆れたように呟く。


 「ト・リ・ウ、な!」

 「……じゃ、トリウさんで……」


 おそるおそる話掛けてきた〈候補生〉に、呼び方を訂正させて、アルトリウスはニヤリと笑う。


 「ん~。ま、いっか!……あー、あいつな、ウェル。気になったことは徹底的に調べたがるんだよ。人でもなんでも、さ!人に興味を持つのは珍しいけど、まぁ、大抵、尋問責め(ああなる)

 「うええ~……あれはちょっと、イヤだな~」

 「あー、フェンの奴、可哀相に……。珍しく動揺が顔に出てるぞ?」

 「まぁ、あいつも変わり者だからな。生贄、生贄♪」

 「というか、お前は、絶対に興味持たれないから、安心しろ」

 「どうせ、興味持たれるなら、綺麗なお姉さんの方がいい!!」

 「同意!!」

 「激しく同意!!!」

 「………お前ら、仲いいのな……」


 普通、〈候補生〉同士だと、互いに〈下級魔術師〉に上がる為のライバルなので、仲が悪いことが多い。 足の引っ張り合いや蹴落とし合いは、当然。特に〈型〉の決っていないという焦りから、この“特別実習”を受ける〈候補生〉は、特に仲が悪く、本来、移動の時間は、空気が非常に悪いのが常なのだ。

 だが、今回は、ノリもいいわ、仲もいいわで、見ていて正直羨ましい。


 「……あー、でも、今回はやりにくなぁ……」


 おもわず、アルトリウスは呟いた。

 ちなみに、自分のことを根掘り葉掘り尋問し(聞かれ)まくられたフェンは、次の休憩に、ようやく解放された。

 普段、あまりはっきり感情を表に出さない彼にしては珍しく、シーダに半泣きでくっついて、しばらく離れなかったらしい。まだ、13歳の子供には、相当、怖かったようだ。

 その後も、フェンに避けられたウェルテイトは、内心、ちょっとショックだった。

 そんなウェルテイトを「ざまぁっ!」と嘲笑うアルトリウス。


 「ちょっとやりすぎましたかね……。今回の唯一の癒しなのに…」

 「まぁ、……確かに、今回、女性がいないもんな」

 「え?シーダさんがいるじゃないですか?」


 「失礼ですよ」と、真剣に言うウェルテイトに、アルトリウスはおもわず憐れみの視線を向ける。

 見た目が女性的でも、シーダはきちんとした男性である。

 言動が女性っぽいのは、女系家族で、父親以外は母、姉、妹、叔母と女性陣に囲まれて育った影響だ。別に、オカマではない。本人的には、将来、可愛い奥さんが欲しいと望む立派な男性である。

 

 (どうしよう?黙っとくか?面白そうだし……)

 

 シーダを真剣に女性と勘違いしているウェルテイトを見て、アルトリウスは心に決めた。

 “オカマ”に間違えても、あの身長、細身だが体格的に、どうみても男性にしか見えないのだが、“先入観(思い込み)”とは、げに恐ろしい。

 そんな勘違いの訂正もないまま、〈候補生〉たちを乗せた陸竜車は、夕刻には、“遺跡”のある施設へと辿り着いたのであった。

 

後日談。


ウェル「アルトリウス、お前、シーダさんが男って知っていただろう?!」

トリウ「え~………」

ウェル「事前に資料確認したから良かったものの、いらぬ恥を掻くとこだった!

 なんで教えなかった?!」

トリウ「いや、普通見れば分かるじゃん!(面白そうだったからって言ったら怒られるな~)」

ウェル「ああいう問題はデリケートなんだ。もし、下手な発言をして、本人が傷ついたらどうする?!」

トリウ「は?」

ウェル「…………なんだ。その反応は?」

トリウ「…………………。ウェル君や。シーダさん、“オカマ”でもないから、怒られるよ?」

ウェル「………………。そ、そうか………」

トリウ(思い込みなのか、天然なのか。見りゃ分かるはずなんだけどな………。怖いわ、この子)



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