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神玉戦記  作者: ななや
1.始まりの契約編
2/21

第2話:型なし候補生

2話目(。・ω・。)


 堅牢な要塞の城は、人工的に作られた高台に望む。周囲を高い城壁で囲み、城の手前には深い掘りが設けられ、城内からの跳ね橋がなければ入れない仕組みだ。

高台裏側の街からは比較的上がりやすいが、戦場の舞台である荒野からは、高い城壁と高台が難攻不落の堅牢な城塞に、さらなる威圧感を与えている。 

 灰色の硬い石で作られた城は、、無機質さを際立たせていた。


 城壁は、実は三つある。

 1つは、一番外の城壁で、広く高台と裏の町を覆っている。2つめは、高台を囲むように作られた城壁で、町は町で別の城壁を作っている。

 3つめは、掘りの内側、城を囲む城壁だ。本来の城は、それほど大きなものではない。3階建の石造りの城の周りに、幾つかの建物や広場があり、さらに畑や水場もある。

 城塞内だけでも、十分に暮らしていける設備が整っているのだ。それは、裏の町(プラウティス)よりもきちんと整備された小さな街のようだ。


 フェンが訪れたのは城塞の裏側の門から入った、魔術師塔のそばに隣接された木造2階建の建物だ。砦の魔術師関連の施設であり、“灰銀”と呼ばれる〈候補生〉たちの学び舎でもある。

 1階の教室の一つに入ると、見知った10人ほどの生徒の姿があった。


 「よう、フェン。お前もか」

 「お早う、ゼヤン。あれ?シーダがいる?」

 「やあぁん!フェンだぁ!!久しぶり~!!」


 がしっと、フェンに抱きついてきたひょろりと背の高い青年(・・)は、見た目、中性的でおっとりとした美人だ。淡い柔らなピンク色の緩いウェーブの髪に、空色の目の、非常に女性的な容姿をしている。黒いローブに青の布をゆるく首に巻き、緑色の小枝を模したブローチで留めている。


 「シーダ、久しぶりだね」

 「フェンがいなくて寂しかった~!ねぇ、フェン、次の選抜試験では、上がるわよね?!」

 「あはは、どうだろ?僕、まだ、型が決まってないからなぁ」

 「つか、相変わらず気色悪ぃっっ!!なんで、こんなのが〈下級魔術師〉に合格するんだよ?!」

 「あーら、それは実力よ!前回落ちたゼ・ヤ・ンくん!」

 「………………いや、シーダ。それ言っちゃうとここにいる“灰銀”全員、落第組だから……………」


 黒髪茶目の少年ーーゼヤンが顔をしかめ、声を上げると、シーダは、にこやかに高笑う。その横で苦笑するフェンに、思わずつっこむクラスメイト。

 前回の選抜試験で、フェンたち、上級生クラスから上がったのは、たった2人。その1人がシーダだ。

ちなみに、話し方は女性的だが、シーダはれっきとした男である。

 上級の〈候補生〉は、ほぼ全員が〈下級魔術師〉に上がれると言われているが、その壁は厚い。1回で合格する者はまずいない。

 〈候補生〉の有効期限は5年だ。初級に1年、下級に1年として、上級を1年で抜けた者は稀だ。だいたいが、2年か、ぎりぎりの3年目でなんとか合格する場合がほとんどだ。


 〈下級魔術師〉は、5年間、砦内にある学校に通いながら、各部署での補佐的な内勤に従事するため、多少の給料が出る。

 小遣い程度の安給料だが、プラウティスの町人の大半は貧しく、収入も不安定なので、少しでも安定した収入が得られるのは、大きい。

 しかも、軍の中では“エリートコース”の士官候補生ーー士官学校に入学した学生と同等の扱いになる。なので、頑張って〈中級魔術師)になれば、正式な軍人となり、士官になれるのだ。

 故に、プラウティスで、魔術師〈候補生〉に選ばれるということは、なんの身分もコネもない一介の民が、軍で上に上がれるまたとないチャンスとなるのだ。

 魔術適性検査で、〈候補生〉に選ばれる子供は少ない。希に、〈見習い〉から〈候補生〉に上がるものもいるが、大半が上がれると言われる〈下級魔術師〉の試験でも、実際は、一割程度が上がれない。

 〈候補生〉から外されても、16才以下ならば、実は、受験料を払えば、〈下級魔術師〉への試験を1、2回は受けられる。だが、16才以上は、軍に入り〈上位魔術師〉になるか、町で、一般の魔術師ギルドの、初級魔術師の資格を取るかになる。

 どちらにせよ、その差は大きい。

 

 「まぁ、私はそろそろ上がんないとヤバかったもの。ちょうどいいタイミングだったわ」

 

 シーダは、溜め息を吐く。

 フェンより年上のシーダは、数年前に町にやってきた為、10才の適性検査は受けていない。だが、そういった者の為に、不定期に実施される適性検査で〈候補生〉に選ばれたのだという。


 「はぁ…………俺だってマジにヤバいよ。今年はあと1回で、来年、受からないと期限が過ぎる」

 「あー、俺も!」 


 頭を抱えるゼヤンに、数人が賛同する。

 この場にいる“灰銀”は、全員、魔術師の〈(タイプ)〉が分からない者ばかりだ。中には、〈型〉が決まってない為に通らなかった者もいる。


 「私も、一応、〈型〉を決めたんだけど、いまいち応用とか他の人と合わせるとかになると、上手くいかないのよね。多分、今日、呼ばれたのって、その辺りじゃないかしら?」 

 「やっぱり、〈型〉についてなのかな?」

 「多分ね、多分。それくらいしか、呼び出しの理由、思いつかないもの」


 シーダは肩をすくめる。

 フェンは、呼び出されたクラスメイトを見て、頷いた。予想はしていたが、やはりそうらしい。

 フェン自身は、前回の試験が初めてだった。通例どおり落ちてしまったが、猶予的にはあと2年半はある。

 町の子供は10才の適性検査で選抜されるが、人の出入りが激しいプラウティスでは、15才前後まで魔術の適性検査をする。また、〈下級魔術師〉への合格もまちまちなので、年齢は関係ない。

 とはいえ、〈見習い〉や〈候補生〉のほとんとが10代で、20歳以上は少ない。

 20代で魔力が覚醒したケースも無くはないが、大半は5才から15才の間に覚醒するらしい。


 「皆さん、集まりましたか?」


 優男的風貌の、若い上級生担当の教師が入ってくる。

 教師は、軍の魔術師の中で〈導師〉という、教育指導に特化した役職の者がつく。

 軍の規定の魔術師階級もだが、一般的な魔術師としても、れっきとした高位の〈上級魔術師〉である。

 その多くは、プラウティス出身者ではなく、軍に所属し、なんらかの理由で、王都や他の街から派遣されてきた者たちだ。中には、高位貴族出身者もおり、何らかの罪の処罰として、軍部が、そういった形に取り計らった者も少なくはない。

 中には、純粋に教育指導に励む教師もいるが。

 “戦場”に出たくない高ランクの〈上級魔術師〉には、最適の職場ともいえる。

 

 「シーダ・クレス下級魔術師に、〈候補生〉上級生(アッパークラス)10名。全員を確認しました。

 皆さんは、これから、砦から1日離れた“古代遺跡”に移動します。そこで特別実習を受けてもらいます。下手すると生死に関わる、大変厳しい実習ですので心して真剣に受けて下さい。

 無事に終われば、あなた方の〈(タイプ)〉が何かはっきりしますよ。

 実習は1日。帰路に1日掛かるので、計3日。

 この実習は、場所も含めて特殊なものです。なので秘匿義務があります。

 決して、これから体験すること全てを他に漏らさないように。いいですね?」

 「「「はい!」」」


 淡々と説明する教師の言葉に全員が返事をした。

 原則的に、学生といえど、砦は“軍”であるから、上官の命令には絶対服従の義務があるのだ。


 (古代遺跡か。噂は本当だったんだ!)


 フェンは、内心、ワクワクした。

 戦場である荒野の地下に発見された“遺跡”は、数百年以上前に栄えた古代魔法帝国のものだという。

 実際、遺跡からは今の魔術では考えられないような魔法や道具が発見されているらしい。

 遺跡は幾つもの発見されており、敵側が発見し、確保された遺跡もあるらしい。

 長く続く戦場での魔術による戦法の変化もだが、近年、“遺跡”を巡る争奪戦や攻防戦も、重要なポイントの一つにされている。

 だから、“遺跡”に関しての公表は少なく、大部分が秘匿されており、厳重な管理のもと、たとえ上級魔術師でもなかなか立ち入れない場所だ。


 教師引率のもと、フェンたちは、準備されていた馬車に乗り込む。

 黒く塗装された鉄製の、頑丈で大きな馬車の中は、広く、20名ほどが乗れそうである。黒い壁の両側に向かい合う座席があるのみの室内に、フェンは、圧迫感を覚えた。おもわず、きょろきょろと室内を見回す。

 室内は全体が、黒い上にうす暗い。なんとも不気味で殺風景だ。だが、そんな室内の色彩に反して、人の顔が分かるくらいに明るかった。ふと、見上げると、 壁に窓が付いていない代わりに、天井に、細長い形の天窓が4か所ついていた。


 「そうか、景色が見れないようにしてるんだ」


 フェンは、気づいた。


 「やぁね、まるで囚人車みたいだわ」


 殺風景な内装の馬車に、乗り込んできたシーダが、眉をしかめる。

 それでも、後から乗ってきた教師のにこやかな笑顔の圧力に、それぞれに慌てて、座席に腰を下ろした。

 教師は座らずに、そのまま出入り口に近い、全員を見回せる場所に立つ。


 「さて、これから先は、別の方が皆さんを引率します。途中で合流してくるそうなので、失礼のないように。

 今日は、移動だけです。1刻ごとに休憩がありますが、外に出ても、場所を特定しようとしたり、怪しい動きをしたら、厳しい罰があるそうですよ?

 あと、忘れ物はありませんね?

 まぁ、あっても今さら取りにはいけませんが……」


 フェンは、腕輪のアイテムリストを確認した。

 収納空間(イベントリ)機能を持つフェンの腕輪は、古代遺跡の遺産である。

 〈発掘屋〉と呼ばれる職業の、知り合いの爺さんが、昔、発掘した品の一つだという話だ。

 近年は、プラウティスを拠点に、荒野で発見された遺跡の発掘調査をしており、発掘したアイテムはほとんど砦に買い取られる為、手に残ることはないらしい。

 フェンが10才のとき、〈候補生〉として適性検査を合格(パス)した祝いだと、爺さんがくれたのだ。

 フェンの目によく似た色の石を中心に赤い蔦が絡むような美しい造形の腕輪である。

 収納空間は魔力によって容量が決まるらしく、魔力の大きいフェンの場合、かなりの容量がある。

 収納したものはリスト表示が可能だ。

 他にも機能はあるのだが、使う機械のないまま、放置状態である。実際、この収納だけで、フェンは満足している。

 他の生徒が鞄など荷物を持つ中、フェンが手ぶらなのは、この収納空間(イベントリ)に全部入れてあるからだ。

 

 「………うん。この前消耗したポーションも補充したし、非常食も水もあるし、大丈夫!」

 「いいな、それ。俺も爺さんから買いたいわ」

 「“遺跡”の遺産(アイテム)でしょ?荒野遺跡(ここ)でも、出てれば、年に一回ある販売会に出ないかしら?」

 「販売会?」

 「あら、知らないの?年に一回、砦の中で、軍が不要な遺跡の発掘品(アイテム)を販売する販売会があるのよ。砦の魔術師は、その日に目的の品を手に入れるために、けっこう貯金してる人多いのよ?」

 「マジか!………知らなかった!」


 ぼそぼそと会話するシーダとゼヤン。なんだかんだといって同期なので、仲がいい2人である。

 

 「全員、大丈夫そうですね!では、それぞれにあった魔術〈(タイプ)〉が発現するよう、皆さんの健闘を祈ってます」


 全員を見回した教師は、頷いてそう言うと、馬車を降りていった。

 その後、ガシャン!と扉に鍵をかける音が響く。

 

 「…………っていうか、今、鍵掛けられた?」

 「マジか!」

 「自由は無いと?」

 「ちょっと、これ、ヤバくね?」


 軽口を叩きながらも、全員がなんとなく顔を青ざめる。

 ただの実習じゃないのは分かったが、ここまでされると、逆に不安が過ぎる。

 しばらくすると、馬車が動き始めるのが分かった。


 「っていうか、馬車(これ)、馬じゃなくて、噂の陸竜を使ってないか?」

 「確かに!馬にしてはスピードが速い。なのに、揺れの少ない安定感!しまった、陸竜か馬か、確認すれば良かった!」

 「あー、鉄製じゃん!外装(これ)!重量的に馬じゃ無理だわ」


 数人が目ざとく、馬車の室内を観察を始める。

 監視がいないので、馬車―――もとい、陸竜車の中は、自由に動くことができる。

 多少、緊張していたフェンも、ようやく肩の力を抜き、そっと息を付いた。

 

 「移動に、陸竜を使うなんて、待遇が良いのか、悪いのか……………」

 「魔術師になっても、上級辺りじゃないと、滅多に乗れない貴重種だよな。なんか、嫌な予感がするぜ」

 「そうはいっても、実習(これ)、強制だったじゃん!回避は無理だよ」

 「は!腹括れってか?」


 考え込むシーダ、強がりに声をあげるゼヤン。

 他の生徒も不安な様子を見せながらも、雑談に花を咲かせる。

 推測を上げてもきりがなく、だんだん話が横にそれていく。

 途中で合流するという新しい引率者についても話題が出たが、何一つ確証の得られるものがなく流れた。

 フェンは、“噂”を思い出す。

 確か、引率は“魔法師”だと聞いた。教師の言葉から、彼よりも階級(ランク)が上の人間が来るみたいなので、あながち、外れてはいないのかもしれない。

 だが、それと同時に、何故、そんな上の階級の人間がわざわざ〈候補生〉の実習に出てくるのかという疑問も残った。


 「ただの〈型〉決めじゃないのかな…………?」


 フェンは、天井の明かり窓から見える青空を見上げて1人呟いた。

 こんなに物々しい実習になるなど、予想もしていなかったのだ。少し前まで、いつもと変わらずに、イオの訓練を見て、雑談していたのに。


 (魔術の型を決めるって、そんなに重要かな?)


 フェンは、実は、どの型も一通り扱える。

 〈候補生〉の習う魔術は、どれも初級ばかりだかというのもあるだろう。

 フェンの場合、他にも理由があるのだが、フェンからすれば、わざわざ〈型〉に当てはめる意味が分からない。


 (ここにいるのは、皆、〈型〉が決まっていないけど、魔力は大きい生徒ばかり。要するに、“万能型”。どの型の魔術もそつなくできる人間が多い)


 言うなれば、エリート中のエリートのようなものだ。

 〈型〉という“足枷”がなければ、逆に大いに実力を発揮して伸びるだろう人間ばかりともいえる。


 (それとも、この実習には別の目的があったりして……………)


 そんなことを思いながら、フェンは目を閉じた。


 大丈夫、大丈夫。

 3日後には、また、いつもの日常に戻るはずた。

 ………きっと、〈型〉の適性を見るだけだ。


 そう思うのに、どこかに重くつっかえている感覚があった。浮かぶ“疑問”に、あえて目を瞑る。

 だけど、どんなに言い聞かせても、一度芽生えた不安は消えなかった。


シーダは、オカマじゃないよ?

ちゃんとした男の子だよ!(´・ω・`)

ピンク髪だけど……

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