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神玉戦記  作者: ななや
1.始まりの契約編
19/21

第19話ー閑話:日常への帰還

この閑話で、《始まりの契約》編、完全終了となります。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次は、《下級魔術師》編ー軍学校が舞台になる予定です。主人公の成長とか、軍部のあれこれ、“敵”の姿もちらほらと出てくる予定で、今、必死にプロットを推敲しておりますので、もうしばらくお時間を下さい。

この話、まだまだ続きます。

更新が不定期で申し訳ありませんが、これからも出来るだけちまちまと頑張ります。

何卒、温かい視線で宜しくお願いしますm(_ _)m



 ガタガタと、定期的に揺れる振動で、ゼヤンは、目を覚ました。

 濃い茶色の天井に、窓から差し込む夕方の朱金の光が陰影を生み出している。

 背中越しに感じる固いクッションは、座椅子だろう。頭には、タオルを巻いた簡易の枕、身体には、薄い毛布が掛けられていた。

 どうやら、移動中の馬車の中だと、ゼヤンは、状況を判断する。


 (あれが、深夜に近い時間だっただろ?あれから、何時間寝てたんだ、俺は……)


 身体に視線を向ければ、腕などに包帯が巻かれている。どうやら、ある程度を治癒魔術で治したが、完全には治していないらしい。

 よほどの状況でなければ、命に別状のない怪我には、魔術を使わないのは知っているが、身体を動かすと、あちこちが痛むのは頂けない。なにせ、怪我の大半が、打撲だ。

 ゼヤンは、無意識に顔をしかめた。


 とりあえず、起き上がろうとして、ふと、こちらを覗き込む気配に、視線を動かす。

 水色の目と、視線が合った。

 心配そうにゼヤンを覗き込んできた、淡いピンクの髪の青年は、ゼヤンが起きていることに気付くと、みるみるうちに、その目に涙を溜めて、ポロポロと泣き出した。


 「………ゼヤン、ごめん。ごめんなさい!」


 がばっと、頭を下げる。

 ゼヤンは、一瞬、何のことだか分からずに困惑した。

 だが、すぐに、あの“実習”の出来事を思い出す。

 あの遺跡での変貌ぶりは、今は影も形もなく、ピンクの髪の青年ーーシーダは、情けない顔を晒していた。


 「頭は冷めたかよ?馬鹿が」

 「うん。…………本当にごめんなさい」


 ゼヤンは、うなだれた幼なじみの、ふわふわした髪に手を伸ばして、その頭を撫でた。


 「まぁ、これで、自分が厄介だと分かっただろ?きちんと向き合って、コントロールするんだな」

 「そうね……。

 〈攻撃型〉っていうよりは、完全に“暴走状態”だったらしくて、私、ほとんど覚えてないのよ。

 さすがに〈下級魔術師〉を降格することはないけど、自己鍛錬のやり直しだわ」


 しょぼんと落ち込むシーダ。

 ゼヤンは、おもわず、笑みを零す。


 「ゼヤン?」

 「いや、これで“一緒”だな、と思ったんだ」


 涙を拭うも、まだ潤んだ目のままで、シーダが、不思議そうにゼヤンを見る。

 ゼヤンは、ニヤリと笑った。


 「俺も、〈下級魔術師〉になれるからな。これで、また、並んだだろ?」


 こんどは負けないからなと、ゼヤンが言うと、シーダは、しばらくポカンとしていたが、ようやく、ゼヤンの言葉を理解した。

 ぱっと、シーダの顔が赤くなる。


 「そっか!………生き残り……っ!ゼヤンも、〈下級魔術師〉になれるのね?!」

 「おう、だから、今度は、俺が抜かすぜ?抜かされたくないんだったら、気合い入れて、頑張れよ………」

 「うん!」


 シーダは、涙を袖で拭うと満面の笑みを浮かべて頷いた。

 その笑顔に、ゼヤンも、おもわず微笑む。

 2人の間に、和やかな空気が流れた。



 「………………って、なに、2人の世界を作ってんだーーーーーっっっ!!?」

 「ユド、空気、読もうよ?」

 「ちょっ、押さないでくれっ!ヤバいから!」

 「ゼヤン~~、悪いんだけど、目が覚めたみたいだから、場所、譲ってぇ~~~………っっ!!」

 「つ、潰れるぅ~~」


 シーダの後ろが大惨事になっていた。

 狭い馬車の中、怪我人で意識の内部ゼヤンを寝かす為に、向かい合わせの座席の一列を使ったせいで、5人掛けの座席に8人が座るという状態だったようで、ぎゅうぎゅう詰めになった〈候補生〉たちが、それぞれに悲鳴を上げている。

 上半身を起こし掛けたゼヤンが、半眼で呆れた視線を、他の〈候補生(クラスメイト)〉たちに向けた。シーダは、「あらあら」と振り向いて、のんびりと苦笑した。


 「そもそもの原因は、“陸竜車”が使えなくなったことにあるんだよ!なんでも、お偉いさんが急遽使用することになったからって、オレたち置いて、さっさと帰っちまった!」


 ガタガタ揺れる10人乗りの馬車の中、ゼヤンが起きて座ることで、なんとか、5人ずつ座れるようになり、一息をつく〈候補生〉たち。

 ずっと意識が無かったゼヤンに、状況を説明しようと、何故が、ユドが話し始める。


 「おかげで、1日で帰れる筈が、馬車で移動することになり、今日、明日と、2日は掛かるそうだ!」


 何故か、ゼヤンの向かいの席に座り、両腕を組み、ふんぞり返るユド。


 「ま、まぁ、一応、途中の軍施設の宿泊所に連絡入れてくれていて、今日はそこで泊まれるし、明日からの授業も“公欠”扱いにしてくれるそうだよ」


 ユドの隣に座るイルセが、苦笑しつつ補足する。

 その横から、口々に喋る他の〈候補生〉たち。


 「さすが、陸竜!どんだけ早いんだよ?!」

 「いいよな~。もう一度、乗りたかった!」


 叫ぶのは、行きも陸竜に興味津々だった2人だ。


 「そうそう、帰ったら、2日休みをくれるってさ!まぁ、後から精神的にくる場合もあるから、カウンセリングを受けるのは、必須だってよ」

 「まぁ、そうなるか……」


 イルセの言葉に、ゼヤンは頷いた。

 たとえ、偽りでも、知り合いと殺す、殺されるの実戦をしたようなものなのだ。

 トラウマになる者も出てくるだろう。


 「そういや、負け(死亡)組の敗者復活戦は、さ来週だと」

 「ずいぶん、後だな」

 「一応、魔法師様が来るらしいぞ?

 おそらく、その関係だろうな」

 「ローンフィードって、遠いのか?」

 「えーと、確か、プライティスから馬車で3日か、そこらだったはず…………?」

 「ふふふ、次は勝つからな!」

 「いや、オレ、結局、分かる前にシーダに惨殺されたから、出れんのよ………」

 「ザマァ………!」

 「そういうお前も、型分からんまま死んだ組だ」

 「なん、だとっ?!!」

 

 好き勝手に喋る〈候補生〉たち。

 (こいつらは、大丈夫だな)と、ゼヤンは呆れた。問題があるとすれば、シーダくらいだろう。


 彼らかは、ゼヤンの意識が無かった間の話を纏めると、あの“特別実習”で生き残ったのは、ゼヤンとイセルの2人だけだという。

 下級魔術師のシーダは、暴走の末、敗退した(死んだ)ので、下級魔術師に据え置きのままだが、〈(タイプ)〉が分かったので問題なし。

 他の〈候補生〉7人のうち、〈型〉が判別したのは、5人だが、全員敗退(死亡)組。

 後日、その5人は、模擬(敗者復活)戦を行い、2名が下級魔術師に上がれることになったらしい。


 「そういや、フェンは?」 


 ゼヤンは、茜色の髪の少年の不在に気付いていた。周りを見回して訊けば、それぞれが困惑げに、顔を見合わせる。


 「ゼヤンと別れた後、俺とフェンは、コカトリスに襲われたんだ。それで、バラバラに逃げたんだけど、なんか、フェン、途中で“(トラップ)”に掛かって、別の階層に飛ばされたらしい」

 「トラップ?」


 イルセが、口を開く。

 その説明に、ゼヤンの眉間が寄った。

 イルセが言うには、暴走状態のシーダに襲われたときに、飛んだ血で、石像だったコカトリスが復活したらしい。

 コカトリスは、何故か、、イルセを執拗に狙い、ゼヤンと別れた後も追って来たのだという。

 その話を聞いて、シーダが、再び、落ち込んだ。

 ゼヤンは、気にするなと、落ち込むシーダの頭を、ポンポンと軽く叩いた。


 「まぁ、それで、俺は、なんとか逃げれたけど………」


 イルセが、申し訳なさそうに、頭を掻いた。


 「後で、聞いた話なんだけどさ、その(トラップ)、大きな魔力が無いと発動しない罠だったらしい。

 しかも、あまり人が入り込まない場所だったから、フェンが、コカトリスから逃げようとして、迷い込んだじゃないかって」

 「ああ、あいつ、方向音痴だからな」

 「え?マジ?!」


 ゼヤンの一言に、数人が驚いた。


 「放っておくと、興味を惹かれたものの方に、あちこち行くからな。典型的な方言音痴だな」

 「子供か!」

 「……いや、あいつ、まだ子供だから」

 「好奇心旺盛なのよね。地図とかちゃんと持たせてあげれば、ちゃんと迷わずに行けるわよ?あの子」


 半眼で言うゼヤンに、シーダが、苦笑を浮かべながら、フォローした。

 そんな2人を見て、イルセが、「親子か?!」とおもわず呟く。


 「確か、背の高い方の魔法師様(アルトリウスさま)が、迎えに行ったのよ。帰ってきたのは、明け方だったわ」

 

 シーダがそう言って、首を傾げる。

 シーダは、ゼヤンを負傷させた手前、彼の看病をしていたので、たまたま起きていたらしい。

 

 「あー、1時まで待ってたけど、全員、怪我と疲労でかなりバテてたからな。

 ホルン魔法師の転移魔術で、地上に戻って、前日にとまった施設に泊まったんだよ」

 「そうそう。

 爆睡だったわ、俺………」


 事情の知らないゼヤンに、説明する〈候補生〉たち。それを横目に、シーダが、話を続ける。


 「それで、フェン、特に身体とかに異常はないんだけど、飛ばされた場所がかなり危険な所だったみたいで、心配だから、目が覚めるまで魔法師様が預かるって、言われたの」

 「それ、あらかさまにおかしくないか?」

 「うーん。でも、見た目的には、本当に眠ってるだけにしか見えなかったわよ?」

 「でも、あそこ、昼前に出たけど、フェン、起きてなかったよな?」

 「うん。魔法師様たちと一緒の馬車に運ばれてたから、多分、ローンフィードに連れて行くんじゃないかな?」

 「いいな、ローンフィード。

 あそこ、西域国境防衛軍(ウェスラガルド)の支部あるんだよ」

 「なにそれ?」

 「お前、(うち)の正式名称くらい覚えとけよ!」


 話が脱線し始めて、ゼヤンは、溜め息を吐いた。


 「分かった………。まぁ、無事ならいい」


 そう言って、深く座り直したゼヤンは、膝に掛けていた毛布を上まで引き上げた。

 まだ、体調も本調子ではないのだ。宿泊所に付くまで、もう一眠りしようと、馬車の壁に寄りかかった。

 

 「また、あっさりだな…………」

 「いや、安心したんだよ。フェン、魔法師様と一緒だからね。きっと、すぐに帰ってくるよ」

 「そうだな」


 ゼヤンに気遣って、小さな声でひそひそと話し合う〈候補生〉たち。

 それぞれ雑談したり、ふざけたり、いつもと変わらない彼らを見て、ゼヤンは、“日常”が戻ってきたような感覚を覚えた。

 ゼヤンは、目を閉じた。

 規則正しく揺れる馬車の振動を受けながら、ゼヤンは、これからのことを思う。

 少なくとも、ゼヤンは、これから〈下級魔術師〉になるのだ。

 〈候補生〉として過ごした日々は過去になり、新しい日々にバタバタするのだろう。そう思うと、少し寂しい気もする。


 (そういや、フェンのやつは、どうなるんだ?)


 ふと、気づく。

 他の連中なら知っているかと訊こうと、目を開きかけたが、考え直す。


 (まぁ、いいか。そのうち、嫌でもって分かる)


 今、フェンが、下級魔術師になろうがなるまいが、あの“魔法師”が、フェンの隠した才能に気づかない訳がない。ひょっとすると、それで、フェンを連れて行ったのかもしれない。

 薄情と言われるかも知れないが、フェンが下級魔術師になれば、狭い“砦”の中だ。また、会う機会もあるだろう。

 ゼヤンは、思った。


 その後は、途中で一泊して、無事に“砦”に帰り着き、ゼヤンは、念の為と医師の診察を受けてから、解放された。

 実家で治療と療養しているうちに、〈(タイプ)〉の分かった〈候補生〉たちの“試験”があったらしく、イルセが、報告しに来た。

 どうやら、イルセの友人であるヨウが受かったらしい。もう1人は、ユドだったそうだ。


 怪我がほぼ完治した頃、ゼヤンは、下級魔術師に上がる為の準備に追われた。

 下級魔術師は、軍の士官候補生に当たる為、5年間、寮生活になるのだ。

 ゼヤンたちは、変則的な入学となるが、授業的には十分追いつける範囲らしい。ただし、当分は、補習と課題に追われそうだ。


 「ゼヤンは、どこになった?」と、訪ねてきたイルセが、訊いてきた。

 ゼヤンは、その質問に首を傾げる。

 聞けば、下級魔術師は、“砦”とローンフィードとイザリオンに分かれるらしい。

 

 「“砦“と、聞いているな」

 「そっかぁ~。俺は、“イザリオン”って、ローンフィードより南にある街だよ。ヨウとも別々になっちゃった………」


 ローンフィードは、ウェスラガルトの本支部がある街だ。学校も、支部の敷地内に下級魔術師の学校と士官学校があり、一番広く規模も大きい。

 イザリオンは、南部にある後援基地で、支部も含まれている。プラウティスよりも小さな城塞があるが、学校とは、離れているらしい。学校自体の規模も小さいらしい。 

 プラウティスは、“砦”ーー丘の城塞の敷地内に学校があるが、寮は、町郊外にある。

 そんな話をイルセから聞きながら、ゼヤンは、ふと、口を開いた。


 「そういや、フェンはどうしてるか、知っているか?」

 「フェン?」


 イルセが、きょとんとする。


 「ああ、なんか、だいぶ前に町で見かけたよ。なんか、中級魔術師が2人、一緒にいたんだけど、なんだろな、あれ」

 「下級魔術師に上がったとか、聞いたか?」

 「いや……、声掛けてないんだ。ただ、ローンフィードに行くみたいな話をしてたな」

 「ふうん」


 それなら、ひょっとすると下級魔術師に上がったのかもしれないと、ゼヤンは思った。

 まさか、下級魔術師になると、幾つかの学校に分かれるとは思ってなかったのだ。


 (運が悪いな………)


 こうなると、いつ会えるか、分からないだろう。

 別れが別れだけに、気になるのだ。

 まぁ、仕方がないと、ゼヤンは、溜め息を付いた。人の縁なんて、こういうものだ。 

 いざ、会おう、会いたいと思っても、なかなか会えず、ふとしたときに、思わぬ所で再会したりするものなのだと、ゼヤンは知っている。

 幼なじみ(シーダ)がそうだった。

 激しい内乱に、それぞれ、家族と共に国を出て、会えなくなった。その後、プラウティスに辿り着いて、魔術の適性検査に受かって〈候補生〉になったら、再会したのだ。


 ゼヤンは、引っ越し荷物を運び出す途中、ふと、空を仰ぎ見た。

 乾いた空気の雑多な町に、変わらない青空が広がっている。内乱の中、見上げた空と同じ色だ。

 変わっていく日常を、ゼヤンは歩いていく。


 (フェン、また、会おうな………)


 ゼヤンは、変わらない色の空を見上げながら、茜色の髪の幼い少年と、いつか、再会できることを信じて、1人微笑んだ。


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