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神玉戦記  作者: ななや
1.始まりの契約編
14/21

第14話 対なるもの

本日2話目(・ω・)

 〈始まりの契約編〉その14:対なるもの


 神玉に封じられし神々は、宿った生き物の性質を持つ。あるいは、似た性質ゆえに宿ったともいうべきか。

 

 「神玉の色にも対応してるっていう説もある」

 「さっき言ってた“紫”が、対の赤と青で出来ているから、同じように対なる2柱の神が封じられている、ていうやつ?」


 森の道を歩きながら、カイゼはフェンに語る。


 「まぁな。

 例えば、黄玉に宿る〈白金の大蛇(ユグヨルド)〉。

 “蛇“ってのは、金運の神として、とある地方では信仰されている。また、別では、知略家や策略家、あるいは、言葉で人を誘惑する悪魔(かみ)とされ、畏怖されている土地もあるな。

 さらには、幸運を司る賭事の神、言葉を巧みに操るとこから、交渉や学問の神、誘惑や詐欺を司るもの、金運や交渉事から転じて契約の神、商売の神にもされている。

 一部では、見た目が美しいことから、美の神ってのもある。あとは、まぁ、綺麗好きらしいってのも含まれて、掃除夫の守護者とかあるな。

 土地によっては、女神とされ、その冷たい見た目に反して家族や夫婦の愛情が深いらしくて、縁結びや夫婦愛の神、子宝の神、情に深さが転じて嫉妬の神………このくらいか?

 もちろん、そういった全ての側面が当てはまる訳じゃないが、〈白金の大蛇〉に宿る神は、それに似た性質を持つと言われている

 ひょとしたら逆かもしれんが、その辺は分からんからな」


 カイゼの後ろを、一角兎を抱いたまま歩くフェンは、ふと、訊いた。


 「ひょっとして、〈適合者〉も、それに当てはまる?」


 「そうだ」と、カイゼは、頷いた。


 「オレが知っている〈白金の大蛇(ユグヨルド)〉の〈適合者〉候補だった男は、線の細い神経質な魔術師で、実家は商人だった。本人に自覚がなかったが、けっこうな美形でな、性格が悪くなけりゃ、それなりにモテたんだろうが………。

 まぁ、〈黒の神殿〉に招かれなきゃ、本当に〈適合者〉かどうかなんて分からんだろう」


 肩を竦めたカイゼは、言葉を続ける。


 「軍は、大分昔からこの遺跡と〈黒の神殿〉について、調べて研究しているんだ。

 フェイゼローゼン云々より、純粋に軍事目的なんだろうが、な。

 神の力なんて、下手したら、世界が滅びるような危険なものだってのに。

 だが、そうやって研究した結果、そいつやオレのように、なるべく神々の性質に合った人間で、〈適合者〉成りうる者を、遺跡に送っているわけだ。

 そういう“条件”は、大体、遺跡で失踪した者を調べれば分かるからな」


 言葉を切って、カイゼは、少し考え込む。


 「………………いや、そういや、一回だけ遺跡から〈黒の神殿〉に行った調査団がいたって聞いたな?

 それで、一気に研究が進んだとか。

 なんでも、遺跡のどこかに〈黒の神殿〉に通じるルートがあるらしい」

 「えぇっ?そうなんだ?!」


 フェンは、おもわず声を上げた。

 もし、そうなら、柱に入らずに、〈黒の神殿(あそこ)〉を徹底的に調べれば、遺跡に戻れたかもしれない。

 フェンは、がっくりと肩を落とした。


 (でも、あのときは、戻れないって思ってたし、ガイドもそんな感じのことを言ってたからなぁ。

 “柱の中(ここ)”に来なければ、リルネにも会えなかったし、う~ん……………)


 フェンは、一瞬悩んだが、すでにここに来てしまっているのだ。

 考えても仕方がないと、溜め息を吐いた。

 カイゼは、そんなフェンの様子に気付かずに、話を続ける。


 「オレたちのときは、軍の“極秘任務“で遺跡の調査に参加して来たが、最近は、魔術師候補生や下級魔術師辺りが、実習って名目で、遺跡に送られるらしいな。

 確かに、魔術師の方が、潜在魔力を持つ一般人よりは〈適合者〉に選ばれやすいが、目的を知らずに迷い込んだやつは大変だよな。

 軍も、相変わらず、えげつないことする」


 カイゼは、言いながら、眉をしかめた。

 フェンは、疑問に、口を開く。

 

 「なんで、魔術師の方が、選ばれやすいの?」

 「なんでって……………まぁ、言うなれば、魔力の量と魔力耐性か?」


 カイゼが、フェンの言葉に、考えるように顎に手を当てた。


 「神の力と魔力じゃ、性質がまったく異なるが、〈黒の神殿〉やこの柱の中(せかい)は、そういった“強い力”に耐性が無けりゃ存在できないらしい。

 普通の人間が入ったら、あっという間に消滅するそうだ。

 だから、〈適合者〉は、潜在的にでも、魔力耐性がある程度強く、魔力容量のある人間が選ばれる。

 特に、この柱の中の世界では、〈適合者〉は、無意識に魔力を消費して、肉体を保っている。

 だから、魔力が尽きれば、肉体を失う。

 肉体がなければ、神と契約はできないし、現世にも戻れない。実質的な“死”だ。

 〈適合者〉は、柱の中で“試練”を受けるが、神に会えないまま終わる奴が多いな」

 「魔力の大きさ………」

 「大丈夫だ。1日や2日程度じゃ消滅しねぇよ! …………オレの場合は、潜在魔力が大きかったらしくてな、7ヶ月ちょいだったか?

 記録だと、最短が3ヶ月、最長が2年だったらしい」

 (記録とかあるんだ………)


 カイゼの言葉に、フェンは思った。

 どうやら、カイゼは、この柱に入った〈適合者〉の1人のようだ。話の流れからすると、すでに“肉体”が無いのだろう。

 (だから、あんなにボロボロになっても平気だったんだ)と、フェンは、納得した。

 フェンの考えは、あながち、間違ってはいない。 精神体であるカイゼだが、疲労や痛みなど、肉体があるのと変わらない感覚は残っている。だが、精神体だけに、精神力で傷を癒やしたり、疲労を軽減したりできるのだ。

 もちろん、使えるようになるまでは、修行が必要だが。


 ちなみに、フェンは、桁外れの魔力の持ち主なので、魔力が尽きることに関しては、そう、心配していなかったりする。


 「ちなみに、〈菫色の一角兎(リーネトール)〉の“試練”は、この森の中で、ソイツ(・・・)を見つけ出して、懐かせることだ」


 カイゼは立ち止まって、後ろを振り返ると、フェンの腕の中にいる一角兎を、ビシッと指差した。

 フェンは、自分の腕の中に大人しく抱かれている一角兎を見た。一角兎が、「キュ?」と、不思議そうに、フェンを見上げる。

 フェンは、視線をカイゼに向けた。


 「言っておくが、ソイツが、自分から興味を持って出てきたのも、初対面で懐いたのも、お前が初めてだからな!」


 疑うようなフェンの視線に、カイゼ、やや憮然と声を上げた。そして、溜め息を吐いて、ガシガシと頭を掻いた。


 「シンプルだけどな、魔術も無しにこのだだっ広い森の中で、ソイツを探すなんざ、ムチャクチャ大変なんだぞ?

 一角兎ってのは、普通の奴でも、本来、臆病で警戒心が強い動物だ。なかなか見ないから、土地によっちゃ、“幸運の生き物”って言われてるくらいだ。

 大抵の奴は、一角兎を見つけられず、魔力が尽き、肉体を失ってアウトだ。

 オレの場合は、なんでか知らんが、よく出てくる割には、ソイツ、会う度に人様を殴り飛ばしてくるわ、噛みついてくるわ、叩いてくるわっ!」


 ギロッと、カイゼは一角兎を睨みつける。カイゼの視線に気づいた一角兎が、「やるか?」と、フェンの腕の中で、ファイティングポーズを決める。

 カイゼは、「やらねぇよ!」と息を吐いた。


 「…………まぁ、そりゃあ、今までの〈適合者〉が懐かれない理由がよく分かったわ。

 “子供(ガキ)には子供(ガキ)が一番”って、ことだな」

 「僕、子供(ガキ)じゃないよ!」

 「キュ、キュキュッ!」

 「そういう所がガキなんだってーの!つか、お前ら、そっくりじゃねーか!」


 むくれた顔で声を上げたフェンと、同じように鳴いた一角兎。

 カイゼは、おもわず笑い声を上げる。

 余計に、「む~…」とむくれるフェンと一角兎。

 カイゼは、ひとしきり笑うと、フェンの頭を軽く叩いた。


 「まぁ、そんなにむくれるな。

 “子供”ってことが悪いわけじゃない。むしろ、ちょっと考えりゃあ、気づくことだっていうのに、気づかなかったのが、バカバカしくてな」


 カイゼは、自嘲気味に微笑んだ。


 「〈菫色の一角兎(リーネトール)〉は、臆病で警戒心が強いが、懐けば、人懐っこく無邪気だ。

 未熟で弱いが、現実を素直に受け止め、柔軟な発想と行動力であらゆる試練を乗り越え、成長するものとされている。理想を現実に近づけるもの。その可能性を秘めたもの。

 停滞した場を打破し、新しく再生に導くものであり、周りを支える勇気のあるもの。

 故に、“最後の希望”と言われている。

 ま、そういったのを、纏めれば、どう考えても〈適合者〉は、“子供“以外いないわな」

 「…………言われれば、そうなのかな?」


 フェンは、一角兎を見た。

 一角兎は、「キュ?」と鳴くと、ゴソゴソとフェンの腕から這い出して、身軽にフェンの肩を伝い、フェンの頭の上に乗った。

 そして、なにやら満足そうに、フェンの頭の上で丸くなる。

 それを見ていたフェンは、前に視線を戻す。すると、いつの間にか、カイゼが、再び歩き出していた。フェンは、慌てて、カイゼの後を追った。


 「完全に懐かれてるな。

 あとは、城にいるお前の“対”になっている〈適合者〉が、上手く〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉の試練を乗り越えられていりゃ、オレたちも解放されるんだがな」

 「解放って…………?」

 「“生贄”っていうが、神々は、人の魂は食べないぞ?ありゃ、嘘だ。

 “柱の中”で肉体を失った〈適合者〉は、前の奴から“役目”を引き継いで、次の〈適合者〉が来るまで、この世界で生活するんだ。

 オレの場合は、〈菫色の一角兎(リーネトール)〉の〈適合者〉を森に留めておくことだな。仕掛け云々は、まぁ、“遊び心”もある。ただ、森の中を回っても、つまらんからな。スリリングな方が、楽しめるだろ?」

 「いや、別に……………」


 真顔で、キラン!と歯を輝かせ、そう言い切ったカイゼに、フェンと一角兎は、冷めた視線を向ける。


 「ま、まぁ、えーと、そう!………役目が終わった奴は、魂の姿になって、今は眠っているよ。ここは、閉ざされた空間だから、いつか、2柱の神と契約を交わした者が現れたとき、皆、解放されるんだ。

 そして、新しく生を受ける為に、輪廻の渦に行くんだ」


 カイゼは、慌てたように言った。

 フェンは、ちょっと安心した。肉体がすでに無い以上、“死んだ“ことになるから、現世には戻れないのは仕方がない。

 だが、魂が生まれ変われるなら、まだ救いはあると思ったのだ。


 「もし、僕が契約したら、カイゼも輪廻の渦に行くの?」

 「そりゃあ、な。だが、オレはまだ、お前を見届ける“役目”が終わってないし、どうせなら、姉貴と一緒に行きたいからな」


 カイゼは、肩を竦める。


 「ここまで一緒に来たんだ。最後の最後まで、腐れ縁を貫くのもいいだろう?」

 「えーと、本当のお姉さんじゃないの?」

 「正真正銘、実の姉貴だぞ。認めたくはないが、な」

 「そうなんだ…………」


 フェンは、カイゼの発言をどう受け止めればいいか、分からなかった。


 (シスコンって、やつなのかな?)


 おもわず、考える。候補生の一部の女子が、「禁断の……!」とか「萌える!」とか、叫んでいた記憶が、脳裏をかすめる。


 (ふ、深く訊かない方が、いい気がする……)

 「キュ!」


 密かに決意したフェンに同意するかのように、一角兎も小さく鳴いた。


 「そういや、〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉について言ってなかったな」と、歩きながら、カイゼが言った。


 「慈悲深き〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉は、闇と死を司る異色の女神だ。

 庇護するものであり、見守るもの。理性的で、高い信念と強い意志をもち、導くものでもある。安寧と眠りを司り、魂………精神を司る。時に冷酷な試練を与え、時に深い愛情を注ぐ母性の女神でもある。

 〈菫色の一角兎(リーネトール)〉と合わせりゃ、“精神的に成熟した大人”と“成長の可能性を秘めた未熟な子供”って、関係だな」

 「それって、一方通行じゃない?

 どうして、それが“対”なの?」


 フェンは、首を傾げた。

 カイゼは、呆れたように溜め息を吐く。

 

 「あのな、確かに、大人は、子供を守り導き出し諭すものだが、また一方で、子供も、大人に忘れていたことや新たなる未知を教え、その信念や意志を支え、心に癒やしを与えるものなんだ。

 それに、子供は、“大人”になる。大人も、“老人(こども)”に戻る。この2つは、一方通行じゃなく、絶えず、巡り続ける1つの“輪“だ。

 生と死の循環のように、な」


 「それに、〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉の司る闇と死は、〈菫色の一角兎(リーネトール)〉の破壊と同じく、新たなる光と新たなる生に結びつく。

 負の領域(マイナス)は、本来、悪いものじゃない。生命のもう1つの側面であり、神聖な領域にあるものなんだ。邪神やフェイゼローゼンのせいで、歪んだ認識が強いけど、光だろうが、闇だろうが、正の感情(プラス)だろうか、負の感情(マイナス)だろうが、正しくありゃ問題無いし、歪めば邪悪になり果てる」


 「〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉と〈菫色の一角兎(リーネトール)〉。

 2柱の神々は、司るものは異なるが、根源は“同じもの”を司る。ゆえに、2心1体の神として、紫玉に封じられたんだ。どちらが欠けても、成立しない“神々”なんだよ。

 そうそう、オレもここで知ったんだが、『〈紫黒の蜘蛛(めがみ)〉の慈悲の糸の先に〈菫色の一角兎(きぼう)〉がある』っていう言葉が古の時代にはあったそうだ」

 「女神の慈悲の糸の先に、希望がある……?」

 「2柱の神々の関係を示す言葉だそうだ。まぁ、役には立たないだろうが、覚えとけ」


 カイゼは、ちらりと、フェンを振り返って、笑って言った。

 カイゼに連れられ、緩いカーブの道を歩いていくと、木々の間から、白い城壁が見え隠れする。

 

 「もうすぐ、城だ」と、カイゼが言う。

 フェンは、高い城壁をポカンと見上げながら、歩いた。頭の上の一角兎も、似たように見上げる。


 しばらく歩いて、2人と一匹は、開けた場所に出た。

 目の前には、白い石煉瓦の美しい城がそびえ立っていた。高い城壁に囲まれ、すらりとした優美な姿の城だ。城壁に絡まる蔦の緑も、まるで装飾のようだ。


 「うわぁ、綺麗だね!」

 「キュッ!」


 おもわず、フェンは声を上げる。それに同意するように、頭の上の一角兎も、鳴き声を上げた。

 

 「ここが、この紫玉の2柱の1神、慈悲深き〈紫黒の蜘蛛(パルフェリア)〉の“領域()”、〈試練の塔城〉だ!」


 カイゼが、高くそびえ立つ、幾つもの塔が連なる城を見上げて言った。

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