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神玉戦記  作者: ななや
1.始まりの契約編
11/21

第11話 再会

お待たせしました。



 光に満ちた空間の中、満開の桜の大木があった。

 フェンは、なんとなく、その桜の大木を目指して歩いた。桜の傍まできたフェンは、名前を呼ばれた気がして、桜を見上げる。

 桜の木の上にいたのは、フェンが密に憧れた少女ーーリルネだった。

 

 「リルネ?」


 信じられなかった。

 リルネは、赤金髪(ストロベリーブロンド)の艶やかな髪を肩で切りそろえていた。澄んだ翡翠色の瞳が、フェンを見下ろして、みるみるうちに潤む。

 透き通るような白い肌に、細い身体。純白のシンプルなワンピースが、とても似合っていた。


 「フェン!…………どうして?!」


 ポロポロと、リルネの目から涙が流れる。

 リルネは、腰をかけていた枝から飛び降りた。かなりの高さなのに、リルネには、重さがなかった。ふわりと優しく舞い落ちるリルネを、フェンは、慌てて抱き止めた。

 抱き上げているのに、重さが無い。実体が無い。

 リルネの腕を、フェンの手がすり抜けた。

 リルネは、泣きじゃくりながら、フェンの首に両手を回してしがみつくように、抱きついた。

 フェンは、リルネをしっかり抱き締められなかった。背中に回した腕に、リルネの温もりはない。


 (あぁ…………。そうか)


 フェンは、リルネの身に起きた事実を察して、目を閉じた。

 フェンが〈候補生〉の下級生の時に、失踪した“彼女”。

 〈天才児(スペシャルチルドレン)〉クラスに選ばれた“彼女”だ。

 神々との契約が可能とされる〈適合者〉に選ばれても、当然ともいえるだろう。


 「フェンも、選ばれたのね」


 リルネが、フェンを見た。

 失踪当時、15才だったリルネは、おそらくそのままなのだろう。

 フェンは、13才になり、昔よりは背が伸びたが、それでもリルネに届かない。頭一つ分近く差がある。なので、普通に立ったリルネは、フェンを見下ろす形になった。


 「リルネ…………」


 フェンは、何も言えなかった。

 おそらく、かなり情けない顔をしている自覚はあった。リルネは、そんなフェンに微笑むと、優しくフェンの頭を撫でる。


 「わたしは大丈夫。フェン、しばらく見ないうちに大きくなったね。

 もう、上級生なんだ?」

 「う、うん………」

 「そっかぁ。フェンは、今まだ13才?順調に上級生になれば、そのくらいだよね?

じゃあ、あれから4年は経ってるんだ」


 リルネは、納得げに頷く。

 フェンは、何を言えばいいのか分からず、戸惑った。あまりにも、リルネが変わらない態度なので、余計に混乱する。


 「相変わらず、初級魔術以外は隠してるんだ?」


 姉が弟を窘めるような、ちょっと、からかうような笑みを浮かべて、リルネは言った。


 「う、うん………。あ、でも、ここに来る前に、中級の攻撃術、使っちゃった………」

 「なんで?あ、あの“実習”ね?!……おかしいわね?あれは、上級生2年目以上を対象にしてるし、しかも、内容的に15才以上って条件あるから、フェンは参加できないはずよ?」

 「え?そうなの?」

 「15才以下の〈(タイプ)〉の判別は、別の方法があるわよ。成長期前の子供にはハード過ぎるし、変なトラウマになって、戦えなくなるとか、リスクが大きいとか、外聞的に体裁が悪いとか、色々理由はあるわね」


 リルネの言葉に、フェンは唖然とした。

 だが、確かに、魔法師の1人がフェンを見て、怪訝な反応をしていたことを思い出す。

 リルネは、少し考えて込み、1つの可能性に思い当たる。

 

 「軍の上層部が絡んでるわね。おそらく……」


 軍上層部の狡猾な老人たちなら、リルネの素性も把握しているだろうし、おそらく、フェンの事も知っているに違いない。

 万が一、“生贄”として死んでも、現行的に問題なく、もし、“契約”できれば、軍にとって有益にしかならない。

 なるべく“神”の気に入る条件に沿った〈適合者〉足りうる者で、かつ、〈候補生〉で〈型〉無し。

 それがたとえ“王家”の人間なら、言うことはない。旧〈魔法帝国〉の王家は、大元は、神の血筋だ。

 〈王国〉の王家は、その流れを受け継ぐから、“遺跡”の神々に気に入られる可能性は高い。

 リルネは、勝手に出奔した王女。

 フェンは、存在すら知られてない庶子。

 どちらも、いなくなっても問題がなく、上手いことに軍属に入ってるから、表向きの“言い訳”など、簡単に捏造できるだろう。


 「そう。……そういうことなのね……」


 軍上層部にとって、リルネは、最初から格好の獲物だったのだ。

 リルネは、自分がいかに“子供”で、周りをみていなかったかを、改めて思い知った。

 リルネは、あまりに知らなすぎた。

 王城で、軍部を束ねる老人たちの醜悪さも、狡猾さも見ていたはずなのに。

 “王女”としての立場を疎み、捨てたのは間違いだったのだと、今なら分かる。

 リルネは、“王女”として立場を確立させながら、上を目指さなければならなかったのだ。


 (今更分かったところで、もう、後の祭だわ)


 リルネは自嘲する。

 間違いだらけで、後悔の多いリルネの短い人生だが、全部が悪かったわけではない。


 (リーチェに会えたことも、フェンに出会えたことも……………)


 そう、悪いことだけではないのだ。

 王女として生活していれば、フェンに出会うことはなかっただろう。

 リルネにとって、掛け替えのない“大切”な弟。


 (フェンだけは、わたしが絶対に護るわ)


 リルネは、決意した。

 フェンは、まだ、肉体を失ってはいない。まだ、間に合うのだ。

 自分にはすでに失われた、この温もりをフェンが失ってしまうのは、どうしても許せない。

 自分は、どうなってもいい。

 だが、目の前の幼い少年(おとうと)だけは、たとえ神に楯突いてでも、なんとかして現世に帰そう。


 (たとえ、私の全てを犠牲にしても!)


 今のリルネにできることは、それだけだ。

 未練が無い訳じゃない。

 後悔が無い訳じゃない。

 だが、もう、目の前にある“存在“を切り捨てるような真似はしたくないのだ。


 『貴女の“想い”。確かに受け取りました……』

 「え………?」


 不意に、リルネの脳裏に、女性の声が響いた。


 「リルネ?どうしたの?大丈夫?」


 なにやら真剣な表情で考え込んでしまったリルネが、急に声を上げたので、フェンは心配する。

 リルネは、フェンを見た。


 「今、声が聞こえなかった?」

 「声?………ううん。何も聞こえないけど」


 困惑げなフェンの言葉に、リルネは、フェンには聞こえなかったのだと判断する。


 『貴女に“試練”を与えましょう。さぁ、おいでなさい!私の元へ………………!!』


 女性の言葉とともに、風が吹いた。

 凄まじいまでの突風が、リルネとフェンを襲う。 2人の周りを、桜の花吹雪が激しく渦巻いた。


 「きゃ………っっ!!」

 「!……リルネっ!!」


 風が、実体の無いリルネの体を舞い上げる。フェンは、咄嗟に、リルネに向かって手を伸ばした。

 リルネも、フェンに手を伸ばす。

 だが、2人の手は、僅かで空を切り、リルネは風に飛ばされて、どんどんと離れていく。


 「フェンーーーーーっっ!!!」

 「リルネっ?!リルネっっ!!!」


 フェンは、リルネを追って走り出す。

 だが、リルネを連れた風は速く、フェンは、どんどんと離されてしまう。

 やがて、体力が切れたフェンは、息を切らしながら、立ち止まった。思わず、力が抜け、膝が崩れる。地面に膝を着いたフェンは、一旦は、両手を地について地面を見たが、ぐっと顔を上げた。


 なだらかな丘陵の下り坂の先に、森が広がっていた。後ろを振り返れば、丘の上に桜の大木があった。

 桜の大木から、丘を下りる途中にフェンはいた。

 再び、下へと視線を戻す。

 丘を下った先には、鬱蒼とした深い森が広がっている。その森の真ん中に、白灰色の城がそびえ立っていた。

 ちょうど、リルネが、風に連れ去られた方向だ。その城の奥でキラキラ輝いているものは、湖だろう。まるで、御伽噺に出てきそうな風景だ。


 乾いた赤い大地と岩山の、殺風景な荒野で育ったフェンには、見たことのない風景だった。


 「深い緑………これ、全部、ひょっとして木?こんなに沢山の木って、初めて見た。

 じゃあ、これが、お母さんが言ってた“森”なのかな?」


 フェンは、茫然と呟く。

 緑の中の白い建物は、フェンの知る“砦”ーー城塞によく似ているが、横に広がり、高台にへばり付くような無骨な形の砦と違い、こちらの方が、スッと高く優雅で美しい。


 「あのキラキラしてるのは、何だろう?」


 フェンは、好奇心が疼いた。

 おもわず、キラキラした目で、眼下の景色をみてしまう。

 だが、すぐにそれどころではないと、フェンは立ち上がった。


 「とにかく、リルネを助けないと!……多分、あの建物に連れて行かれたんだと思うし……」


 見た感じだと、かなり距離がありそうだと、フェンは思った。徒歩では、1日で辿り着けないかもしれない。

 フェンは、駿足の補助魔術を使おうとした。だが、詠唱しても、術が発動する気配はない。


 「ひょっとして、魔術が使えない?!」


 フェンは焦った。

 自分の力量は、把握している。魔術が使えなければ、フェンはただの子供に過ぎない。

 もちろん、〈候補生〉になってから、軍人としての体力作りや戦闘訓練、実戦など鍛えているので、普通の子供よりは頑丈だが、それでも、魔術が使えなければ、役に立たないのは変わらない。


 再度、今度は中級の“飛翔”という補助魔術を試してみる。その名のとおり、空中を飛ぶ魔術だ。

 一度、中級魔術を使ったせいか、中級魔術を使うのに躊躇いがなくなってきている。

 これが自分以外に人がいたら、躊躇うのか、フェン自身も分からない。ただ、少しだけ、自分が変わってきているのは、フェンにも自覚があった。


 「やっぱり、発動しない………」


 フェンは、ガックリと肩を落とした。

 これでは、時間が掛かるが、地道に歩いて行くしか方法はないだろう。

 フェンは、ため息を吐いた。

 リルネが心配だ。すぐにでも、助けに行きたい。

 しかし、魔術が使えないのは、正直、痛い。


 「仕方がないよ。使えないものは、使えない。時間を無駄にしてる暇は無いんだから、自力でなんとかするしかないよ!」


 自分に言い聞かせるように、フェンは呟いた。

 もう、諦めたくはないのだ。

 正直、怖い。

 唯一の魔術(ぶき)も無いのだ。

 だが、それで諦めたら、自分は本当に前に進めなくなってしまうだろう。


 「リルネ。待ってて………。必ず、行くから!」


 フェンは、森の中に立ちそびえる、白灰の城を真っ直ぐに見つめた。

 そして、城に向かうべく、森に向かって歩き始めた。


学校の修了制作が修羅場になりつつあります。

正直、泣きそうです(´・ω・`)

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