第1話 (2)
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目を覚ませば、やけに近い天井にうんざりする。
重い身体を起こせば、自分の状況が痛いほどわかった。
鳥籠。
外見は鳥籠を思わせる作りで天井は丸い形をしていた。
しかし、それはただの檻に変わりない。
左手と左足首には重々しい鉄の枷がしてあり、ただでさえ狭い檻の中なのに余計窮屈な思いに陥る。
しかし、この生活にももう慣れた。3年間という長い間、外に出ることなんてできずにこうして閉じ込められている。
檻の中の青年は実に美麗な容姿をしていた。
檻の中ので閉じ込められてはいるが、白髪は綺麗に手入れされているし、髪の色に負けないような純白の肌は簡素な服からは浮いて見える。そして何より、目を引くのはその瞳の色だった。まるで海を閉じ込めたような澄んだ青色はどこまでも深く、夜空の星が瞬くように、瞳の中で煌めくものがあった。
この<<幻の夢園>>の目玉商品として売り出されるようになったのは、つい最近のことだ。目玉商品のためどこかに売り飛ばされることはなく、食事も最低限は貰えたり清潔感は常に保たれていたりした。だからどこか檻の中にいるのは少し妙な印象を与えた。
「いっそのこと、このまま死ぬことができたら」
何度もそう思った。
生きているというより生かされているこの状況、さらに一生このまま外に出ることが叶わないとしたら苦痛以外の何者でもない。
(まあ、行く場所もないんだけれど)
自嘲気味に笑って、青年は膝を抱えた。
彼にはここ3年以外の記憶が欠落していた。森で彷徨っているところを捕まり、それからずっとこの檻の中が彼の世界だった。
何もわからないし何も知らない。
世界のことも、自分自身のことさえも。
彼は時々、どうしようもない喪失感に襲われた。
胸にポッカリと穴が空いた感覚。
しかしそれが何なのかすら分からず、その穴を埋める方法なんてものもなかった。
もしも、この檻から出られたなら
もしも、外の世界に行けたなら
自分のことがわかるのだろうか
がチャリ、と重い扉が開けられる。中に入ってきたのはこの夢園の主人である男だった。
男はその低い背丈とは比例しない小太りで、口髭はいつも汗びっしょりであった。それは今日も同じことで、顔を近付けて青年のことをじっくりと見た。汗臭さに少し顔をしかめる。
「やあやあ今宵も君の素晴らしいショータイムの始まりだ」
楽しそうに笑う男を何も言わずに睨みつける。主人は反応を返さず、後ろにいた従業員に指示を出して青年の檻を台車に乗せ、別の部屋へと運び込んだ。
そして目は布で覆われ、辺りが見えなくなる。
移動する時、合成獣たちの悲痛な叫びが聞こえた。
助ケテ
痛イ、苦シイ
殺シテ、殺シテ
思わず耳に手を当てうずくまる。
痛いほどの叫びが身体中を駆け巡って、この場から早く消えてしまいたかった。
まるで彼らの"言葉"がわかる自分を、責めているかのような錯覚に陥るのだ。
青年はしばらくの間、震えが止まらなかった。