第2話 (7)
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ヴィンセント一行は無事に王国ウェルシエルに到着した。
普段、内密な用事でなければ裏門ではなく正門を通るようにと国王であるアルバードに言われていた。「お前も歷とした"七騎士"の一角を担うのだから堂々としてくれ」とクドクドと語られたのは今でも忘れられない。そうでなければ城付近にある裏門から常に出入りするつもりでいたのだ。
(俺を七騎士と認めているやつなんて多くないけどなあ…)
ヴィンセントは自嘲気味に笑うと、仕方なく自らの君主である国王の言いつけを守った。
門番に開けてくれと頼む前に、ヴィンセントの姿を確認した門兵は慌ただしく門を開けてくれた。
馬車を預け、門をくぐろうとした時、1人の兵に止められた。
「ヴィンセント様、そのお方は…?」
門兵が目を向けたのはバレッツではなく、ヴィンセントの後ろにくっついて歩いていたスイレンだった。
それもそうだろう。バレッツはヴィンセントの側近として顔は売れているが、スイレンは初見。それよりまず黒いフードを深く被っているために顔は勿論確認できない。たとえヴィンセントと共に来たとはいえ、フードを被った怪しい奴を入れることはしない。流石、胸元に光る獅子の紋章を掲げているだけある。
「あー…俺の新しい従者だ。恥ずかしい話だが、ちょっとコイツはシャイボーイなんだよーーって、痛え!」
この場を切り抜けるためについた軽口をスイレンは快く思わなかったらしい。門兵からは見えないように隠れてヴィンセントの横腹に肘を食らわせていた。
不思議な顔をする門兵に、「いや大丈夫だからとりあえず通せ」と痛む横腹を抑えつつ、半分ゴリ押しで門をくぐった。
門をくぐればメインストリートを挟むように住宅街が並び、店も所狭しと敷き詰められている。均等に植えられた街路樹は、青々と茂っていた。商売する者、買い物する者、待ち合せをする者等々ーー今日も城下町は忙しなく動いていた。
しかし、ヴィンセントの姿を確認した途端ーー皆今までの行動をやめ、メインストリートから端へと移動し始める。
口々に七騎士、ヴィンセント様などと言う単語がチラホラと聞こえる。ヴィンセントは何も気にした顔をせず、すました顔でメインストリートのド真ん中を堂々と歩く。スイレンは見られている恐怖感から、少し尻込みした。
「大丈夫だって、俺の横にいれば何の心配もない」
お前の横にいるから注目を受けているんだが、という反論は飲み込み、ヴィンセントの半歩後ろを付いて歩く。バレッツは2人から距離を少し置いて付いてきていた。
少し落ち着いたスイレンは、辺りを見回す。そこで二種類の人間がいることに気がついた。
ひとつはヴィンセントに笑顔で手を振る者。それに対してヴィンセントもどうもー、と軽く挨拶をしている。
もうひとつはあまりいい顔をしていない者。嫌悪感を込めたような目でヴィンセントを見ている者も少なくはなかった。
スイレンにはその二つの差は分からないが、後者に対してはいい気分がしない。
スイレンの反応に気がついたのか、ヴィンセントは前を向いたまま、スイレンにだけ聞こえる声で呟いた。
「俺を良く思ってないんだよ。気にしないで歩け」
その声音は普段と同じもので、何も気にしていませんよ俺は、という感じだ。スイレンは深く考えることをやめ、再び前に視線を向けた。ーーとその時、自分の目を疑った。
「ヴィーンーセーンートー!」
空から、女の人が降ってきたのだ。