第2話 (6)
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「なにか面白いことが起きそうね」
ウェルシエル王国の王室。部屋主である国王は勿論のこと、今は来客が来ていた。大きなトンガリ帽子に煌びやかな装飾がされた服は露出度が高く、長い灰色の髪の毛はよく手入れされていた。若い女性に見えるその人は、大きな二つのライトグリーンの瞳を輝かせた。一見、他国から来た来客に見えるが、露出度の高い服の上から雰囲気がガラリと違う紅色のマントを羽織っている。その胸元には猫が描かれた紋章を付けている。
そして何より、彼女は座ることもなく、しかし立つこともしていない。
「サリヴァン、城の中であまり"浮くな"と言っているだろう?」
国王アルバードは苦笑いして女性に言う。
それを不満そうに、彼女はプクりと頬を膨らませる。
「あら、魔女に浮くなという方が愚問よアルバード」
どこか得意気に言う彼女をそれ以上言い詰めるわけでもなく、アルバードは口元を緩ませた。
彼女ーーサリヴァンは座ることも立つこともせず、宙に浮いているのだ。
「魔女というのは内緒なのでは?」
「あらら」
内緒という割には特に気に止めた様子もなく、サリヴァンは窓の方へと文字通り飛んでいく。覗き込めば、ウェルシエル王国の城下町が一望できる。
忙しなく人が流れる街を見て、サリヴァンは怪しい笑みを浮かべた。
「それが最善だと選ばれた道でも、そうなるとは限らないものよ」
「どうした?」
呟かれた独り言に対しての問に、なんでもないと首を振る。ここにはいない、藍色の髪の青年を思い浮かべる。
一見輝いて見える金色の瞳には、いつから光が宿らなくなってしまったのか。
「ああ、哀しき哀れな罪の子よ」
あなたの未来に光が差しますように。
最後の言葉は発せられることはなく、飲み込まれた。
今は亡き先代の姿を思い浮かべて。