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第2話 (2)

***


夜が明け、太陽の光がぽかぽかと体を温める。

森も起き始める。鳥の囀りや動物たちの声が聞こえる。

白髪の青年ーースイレンはその声で目が覚めた。久しぶりに深く眠れたような気がした。上体を起こせば眠りにつくまで近くにいたヴィンセントの姿が見えなかった。

ぼんやりした頭のまま、立ち上がろうとする。ーーが、足に力が入らず立ち上がることができなかった。両手を地面につけ、再び力を入れても立てない。


(どう…して?)

「おい、朝から何やってんだよ」


スイレンはビクリと身体を震わせる。後ろを振り向けばヴィンセントが何食わぬ顔をして歩み寄ってきた。その後ろには、バレッツも付いてきている。


「どうしたんだ」

「…立てない」


ぼそりと吐かれた言葉に、ヴィンセントは顔色を変えず、スイレンに両手を差し出す。スイレンはそれを恐る恐る握った。

するとヴィンセントは軽く引っ張りあげる。その拍子にスイレンは一応立てたものの、手を離そうとすればすぐにバランスを崩してしまう。


「うーん、どうしたもんかな」

「隊長、もしかしたら昨晩の"力"の行使によるものかもしれません」


バレッツが夢園(ドリームパーク)の備品であろう小さな椅子を持ってきてそう言った。

とりあえずスイレンをそれに座らせ、ヴィンセントもふむふむと考える。


浄化の力

スイレン自身、自分がそのような力を使ったのは、記憶が欠落してから初めてだった。

数少ない記憶の中に、"浄化の力を持っている"という漠然としたものはあった。しかし、実際に使うことはなく、存在を実感したのは昨晩の出来事からだ。


「大きな力を使うにはそれなりの代償や能力が必要です。加えて浄化の力…後遺症として何があるかわかりません。」

「…その後遺症が、"立てない"ということか?」

「あくまで仮定の話ですが…今はそれが有力な仮定だと思われます」


スイレンは何も答えることはなかった。自分のことすら理解できないことが、悲しかった。


何故立てないのか

記憶は?

誰に襲われた?

自分はなぜ浄化の力を持っているのか


何も知らない自分が悲しくもあり、惨めだった。

うつむくスイレンの頭を、ヴィンセントはグシャグシャと撫でる。それは容赦無くやられ、頭がグラグラ揺れた。


「なーに浮かない顔してんだよ。知らない事は恥ずべきことじゃない。大事なのは知ろうとすることだ」


ヴィンセントはそう言って得意の怪しい笑みを浮かべる。金色の目が細められる。


「さてと、さっさと朝食にしようぜ。昼前には迎えが来るだろう」



***


倉庫に監禁している夢園(ドリームパーク)主人(オーナー)や従業員にも僅かではあるが朝食を与え、それから程なくして王国ウェルシエルの兵が迎えに来た。

夢園(ドリームパーク)の営業者たちは全員捕まり、先に連れて行かれた。それに続いて檻の中にいた生き物も丁重に扱われ、国へと運ばれた。


「ではヴィンセント様、失礼します」

「はーい、お願いねー」


ヴィンセントとバレッツに対して敬礼する兵に、ヴィンセントは軽く手を振って挨拶する。

兵は胸元に光る獅子の紋章を煌めかせ、踵を返して馬へと乗り込んだ。


「獅子の紋章…ということはアルフォンス様の部下ですね」


バレッツはすでに去った兵に一礼して感心したように言う。


「流石はベルベットさん。兵の鍛え方も一流だ」


ヴィンセントは素早く事を終わらせた兵に賞賛の言葉を述べ、自分も帰る支度を始める。

スイレンはというと、夢園(ドリームパーク)の被害者であったにも関わらずにヴィンセントが無断で従者にした為。今は馬車に隠れている。

結局は王であるアルバードには報告するつもりだが、今は面倒事は避ける為に敢えて迎えに来た兵には言わなかったのだ。浄化の力を持つ人間がいる、と。


「よし、帰りは俺が馬主になろう。バレッツ、お前は少し休め」


支度を終えたヴィンセントは荷車に乗らず馬の方へと歩み寄る。バレッツは困った顔をして、反論する。


「いや、しかし隊長ーー」

「バレッツ」


顔色は変えず、ただただ呼ばれた名前。バレッツはその主人の目を見て諦めることにした。


「了解です、隊長」

「そうそう。それでいいんだ」


ニコニコ笑うヴィンセントを尻目に、バレッツは荷車に乗った。

そしてすぐに馬車は揺れ始める。


「足の具合はいかがですか」

「え、あ、はい。大丈夫…です」


いきなりの問いに、スイレンは慌てて答えた。もともと痛みはなく、寝起きに比べれば段々と足に力が戻ってきた。


「スイレン殿」

「はい」


バレッツはその美しく輝く青い瞳を見ながら、言葉を紡ぐ。


「どのような理由であっても、隊長の従者になられるスイレン殿に知っておいて欲しいことがあるのです」

「知っておいてほしいこと…?」


おそらくヴィンセントは自分から口にするような人ではない、バレッツはそのことは重々承知していた。だからこそ、自分が話そうと思ったのだ。


「"ヴィンセント"の家系のことです」


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