プロローグ
『お前はもう必要ない』
自分の全てを否定された今
こんなに残酷な結末を誰が望んだだろうか
いや、始めから必要なかったのだ
俺の代わりなんていくらでもいる
それなのに、俺の為にエルドが死ぬ必要なんてなかった
物語はそう上手くは進まないらしい
掲げられた光を反射するその剣を見て、俺は何故か笑みが溢れた
目の前が赤に染まる
***
商業が発達している大国ウェルシエルは今日も他国の商人が忙しなく出入りしていた。
そんな中ウェルシエル王国の城内ーー王室では部屋の主である国王と青年が話をしていた。
国王は見た目からして20代後半くらいに見え、貴族特有の金髪が窓から差し込む光に反射している。まだ若さの残る顔立ちの国王は爽やかな笑顔で目の前にいる青年に問うた。
「それで、いつ頃確認できそうかな?」
「まあ遅くても3日以内ですよ」
国王に対しての言葉遣いとは思えない話し方をする青年は10代後半に見える。深い藍色の髪はウェルシエル王国ではあまり見ない髪色であり、服装は煌びやかものではなかった。加えて今は黒の長いフードを着ている為に尚更怪しい雰囲気を漂わせていた。
国王のアルバード・ウェルシエルは言葉遣いなど気にもせず、さも当たり前のように会話を続けた。
「3日以内…か、さすがだなヴィンセント」
「そんぐらい朝飯前ですよ。じゃあもう俺は行きますね」
そう言うとアッサリ踵を返して王室の扉の前へと向かう。
ヴィンセントと呼ばれた青年はそういえば、と足を止め再びアルバードの方にに身体を向ける。
「作戦が成功するまで、"奴"には言わないでくれよ」
「ああ…そういう約束だったからな」
それだけ聞くと満足そうにヴィンセントは王室の扉を閉めた。
ヴィンセントがいなくなり、一人残されたアルバードは窓の外へと目を向ける。
「先代の"ヴィンセント"が死んで早3年…か…」
どこか遠くを見つめるように、アルバードは誰に話すわけでもなくそう呟いた。