父強し
「ああ、申し遅れていたね。私はフンボルト・ニーズベルグだ。以後よろしく頼む」
今更ながらおっさん改めフンボルトさんが名乗る。とすると、ニーナはニーナ・ニーズベルグになるのか。
まあそんなことよりも俺も自己紹介を返す。
「あ、俺は真田太一といいます。よろしくお願いします」
「サナダ・タイチ君か…奇妙な名前だね。いや、君の世界ではむしろそちらが普通なのか。とすると、ファーストネームは…」
「えーと、太一の方です」
「ふむ。ではタイチ君、と呼べばいいのかな?」
「そうっすね、それでお願い……」
「いやよ。変な名前なんだしどうせならもっと可愛い名前に変えなさいよ 」
ニーナが急に会話に混ざってきたと思ったら無茶な提案をし出した。名前変えるだけでも変なことになるのに可愛い名前とか違和感バリバリそうすぎて嫌なんだけども。
というかこいつ地味に小さい子好きだよな。俺に対する対応が微妙なのは内面に幼女感が皆無だからだろうか。だからといって出せるもんでもないからしょうがない。
「そうだな、ニーナの言うとおりだ。そうした方がいい」
ニコニコと娘の言うことを全肯定する父親。こいつがこんな親バカだから娘がこんな自信満々というか高圧的な態度になったんではないだろうか。
「俺は別に変える必要性なんて…」
「そうね。タイチ…サナダ…タイ……イナ……タナダ……ううん………チサ……。よし、アンタこれからはリサにしなさい!」
「最後まで言わせろっていうか名前文字ろうとした結果原型なくなってるし!」
せめて本名使ってくれ。リサとか誰やねん状態なんだけど。
「リサ、ちょっと黙ってなさい」
「もう定着させてるし…」
まああだ名とでも思っとけばいいだろう。ウンコマンとかつけられるよりマシだ。
「それでパパ…一つお願いがあるんだけど…」
と、急にニーナがもじもじしだした。先ほどとは打って変わった態度が不気味に思える。俺に対する扱いが雑いのは何とかならないものなのか。ていうか話の展開で俺を置いてきぼりにするのはやめていただきまい。
それにしても父親にこんなせこいおねだりとは…女の子ってみんなこういう色目攻撃を兼ね備えてるもんなんですかねえ。まあそれが効力を発揮するのはニーナレベルの可愛さとこいつの父親レベルの親バカさが必要な気もする。
「どうしたんだいニーナ」
「えっとね。さっき偶然見つけた迷宮の入り口でリサを拾ったって言ってたでしょ?もしかしたらその迷宮がリサと何か関係あるのかもしれない」
よく分からないがだいぶ回りくどく話してるのはわかる。あとこいつリサを使いこなしすぎだろ。俺がここに運び込まれた時からシミュレーションしてたんじゃねえのか。
「その迷宮も警備隊の内部調査を待ってたら他の冒険者に先を越されるかもしれないじゃない?そうなればもしかしたらあったかもしれない、リサの何かしらの手がかりだとか…さらに言うなら、異世界からの召喚魔法だとか性転換魔法の痕跡とかがあるかもしれない。これを見つけられたら今の魔法学が何段階もステップアップするわ!」
「……だから?」
「だからパパ……。できたらアタシとリサにその迷宮を探索するのを許してほし……」
「ダメだ」
ようやく本題を切り出したと思ったら、速攻で首を横に降るフンボルトさん。これは何を言いたいか分かってた反応だな。
というか何で俺も当たり前のように含まれてるんだ。許可してないぞ。
「なっ…なんでよパパ!」
「何でも何も当たり前だろう。警備隊が内部調査をするのは、危険度を測る必要があるからだ。最近はそう高いのは発見されてないのはいえ、全部がそうとはもちろん言えない。まだニーナは高校生なんだから危険なことをするもんじゃあない」
「そうだそうだ。危険だぞ」
危険な場所に女の子一人で行くなんて危ないだろう。日本ですら夜道に気をつけろっていうくらいだ。魔法はあっても法整備や秩序はもう少し甘いと見ていた方がいいだろう。
「で……でも、アタシはこれでも学校で迷宮攻略できる実力があるって言われて…」
「実力があるのと実際に攻略できるのは別だ。迷宮はそんな単純なものじゃない。単なる能力とは別に、とっさの判断力や柔軟な対応も必要なんだ。それはレベルの低い迷宮から徐々に攻略して培っていくものなんだよ」
「ごもっともだ。あんな怪物のいるとこに行くもんじゃないよな」
もう一度あの牛頭の奴に追いかけられたらたまったもんじゃない。あいつが持ってる大斧で一撃で死ぬ自信がある。
「それは高校でだって学べる!学園には魔導シミュレーションがあるし、それに魔物との戦いだって」
「それもあくまで仮想だ!……それに、ニーナ。君は私に隠してることがあるだろう」
「何だと俺は知らんぞ」
魔導シミュレーションだとかいう最先端突っ走ってそうなやつにも気になるが、それはこの世界では割と普通なんだろう。自重自重。
ていうかニーナは高校生なのね。言ってたっけ?まあ、見てくれと同じくらいだから、寿命とかは地球と変わらないっぽいな。
「えっ……そ、そんなのないわよ!」
「偶然迷宮を発見したと言うが、そんな嘘を言っちゃあいけない。大方、数日前発生した塔型の迷宮に忍び込んだんだろう。警備隊の内部調査中に迷宮に立ち入るのは禁止されてるんだよ」
「……っ!そ、それは……」
「!?てことは俺を助けてくれた時って不法侵入……」
「ていうか自分も関係あるのに何でアンタまでパパ側に回ってんのよ!」
「え!?い、いやそんなことはないぞ?いやぁ、行きたいのはやまやまだけど不法侵入するのはしのびないなぁ……つって」
…まずい、流石に白々しすぎた。まあ俺ここぞという時の演技の下手さには定評がある。
いやこんなことしか言ってないけど流石に俺にも特技あるぞ。……今ちょっと思いつかないけど。本当だぞ。
ていうか迷宮とか嫌いオブ嫌いだから仕方がないんだ。さっきも言った気がするが、迷宮探索するのとこの世界で生きるの比べたらこの世界で生きる。そのレベルで怖いの嫌い。
…言ったら馬鹿にされるから口には出さないけど。
ううむ、しかしそんな調子じゃまじで帰れそうにないな。この性格も考えものだ。今はまだあんまり危機感感じてないけど、ヤバイ時が来るかもしれない。
「とにかく!迷宮探索を許可する気はまったくない!可愛い愛娘といえどそこを譲れない。…とはいえ、リサ君のことはしっかり考える必要があるのは確かだ。今日はもう夕暮れだし、明日の朝にでも警備隊に私から連絡しておこう。これで話は終わりだ。ほら、明日も学校があるんだから今日はゆっくりしていなさい」
「ちょっと、パパ……!でも!」
「リサ君もここに来るのは初めてなんだから、色々案内したり教えてあげなさい。……もちろん今日は屋敷を出ることは許さないよ。見張りのメイドをつけておくからそのつもりでいなさい」
「パパ……。……分かったわよ……」
有無を言わさずまくしたてるフンボルトさんに、ニーナも最初は言い返そうとしていたが徐々に小さくなっていった。父は強しとでも言おうか。
……まあ、ニーナにも後ろめたい気持ちはあったのかもしれない。だからこそ口論には勝てなかったんだろう。
しかし……俺のためというが、それだけでこんなに必死になるもんか?俺の件はあくまで口実で、何かやりたいことが…やらなければならないことに焦っている感じがする。
すっかり意気消沈といった感じのニーナは、とぼとぼと書斎を出て行ったので慌ててついていく。
何だか置いてきぼりを食らいまくってるが、一応励ましておくべきだろう、と思ってニーナの肩を叩く。だいぶ上のほうだけど。
「まあ、仕方ないことなんだから気にするなよ。内部調査し終わってからすぐ行けばいいじゃないか……俺は行かないけど」
重要なことなのでちゃんと付け足しておく。小声だけど。
先を歩いていて俯いているから今いち表情が読めないニーナだったが、俺の言葉を聞いてか聞かずか、
「リサ……私はこんなとこで諦めたりしないわよ」
声は小さいが、やたらと力強い声でそう呟いた。
「……え?」
「……作戦は考えてあるわ」
そう言うや否や、スタスタと早歩きで歩いていった。
俺は呆気にとられ、思わず棒立ちでその後ろ姿を眺めてしまった。
……不法侵入は一人でやるなら百歩譲っていいとして、俺だけは巻き込まないでくれよ?
まったく念頭に入れてなさそうなのできちんと言うべきだろう。俺はため息をついてニーナの後をついていった。
サブタイトルが雑。
展開が遅いです。てもちょっとずつ…ちょっとずつ進んでますので……!!