能力検査
大人気ゲーム『ムゲン』。
そのクソゲー臭漂うタイトルとは裏腹に洗練されたシステムとグラフィック、その他もろもろで多くの人を虜にした。
ここがその世界だというのか?
…んな馬鹿な。
咄嗟にそんなことを思い浮かべてしまったが、こんな異世界に飛んで幼女に生まれ変わった時点でとっくに頭はどうかしてる。
なら、ここがゲームの世界………電脳世界か現実世界なのかは知らないが、とにかくそうだと割り切るしかないだろう。
しかし…惜しむらくは俺のこのゲームの知識。
ゲーム廃人ならば…いや、『ムゲン』にハマっている中高生ですらあったならば知ってるようなことを俺は何も知らないのだ。いや知ろうとしてなかったと言うべきか。
最初のオープニングムービーではグロい化け物が出た時点でスキップしたし、その後の最初に会話する人の説明文も全て読み飛ばした。ついでに言うとまだチュートリアルすら終わっていない。
だからこの世界の名前だとか地域名だとかももちろん存じ上げてないわけで。
もしかしたらニーナとかも登場人物なのかもしれないし、今後起こりうる事件なんかもゲーム準拠かもしれない、のに。
なんていうことだ。人によっちゃあチートできたかもしれないところを、俺は裸一貫で転生されてしまったわけだ。
笑うしかない。
「アンタ何笑ってんのよ…キモいんですけど」
心の中で考えてたことが口に出てたらしく、ニーナに普通に引かれた。ひどい奴だ。
しかし、この俺の口から出る笑い声なんかも見事に可愛らしい声になってしまっている。異世界で幼女とかどんな縛りプレイだよ。キツすぎるだろ。それに俺はロリコンでもないし!
まあ、それでもニーナに拾われたことはある意味ラッキーだったかもしれないな。
「ええと…ニーナ。助けてくれてありがとな。ほんとに」
「え、な、何よ急にかしこまっちゃって…!別にちっちゃな女の子が倒れてたらそりゃ助けるでしょ!普通よ普通!」
「まあそれでもさ」
「ていうか!アンタ見た目は可愛い女の子なんだからその口調どうにかしなさいよ!男みたいじゃない!」
「いやだから本当は男なんだって!」
「ふざけないで!アタシは男は嫌いなの!」
「ええ!?いやそんなこと言われてもなあ…」
急に男嫌い発言されるとは。男の身としては肩身が狭い。
「…そんで、アンタこれからどうするの?」
「え?」
「仮にアンタの言うことが真実ならさ。こっちには家も知り合いも何もないんでしょ?持ってたとも着てたボロ切れだけだったし。行くあてとかある…わけないわよね」
「……そうだなぁ……」
まさに切実な問題だ。金も身を守る武器もないこの身じゃあ食うものすら困る。乞食をして生活するしかないのか。いや早まるな。
「はあ…仕方ないわね。まあそんなことだろうと思ってたし、何とかなるまではこの家にいていいわ。ていうか連れて来た時にパパにも言っておいたしね」
「え!まじか!お前やっぱりいい奴だなぁ…。いやでもほんとにいいのか?年頃の女の子の家に男が…ってまあ今は違うけど…」
「アンタ自分で言って何落ち込んでんのよ…。まあ、どうにか一人立ちしたいんだったら町のとこかでバイトするか腕に自信あるなら冒険者ギルドとかに入るか…アンタには関係ない話ね」
「失敬な。あるわけないだろ」
「自信持って言わないでよ」
ギルドって馬鹿か。それはつまり冒険者ギルドだろう。それなら俺にもわかる。ギルドに入る…それすなわち迷宮に入る、ということだ。そんなことになったら死ぬしかない。
「まあ冒険者ギルド以外にも商業ギルドとか色々あるし、検討に入れとくに越したことはないんじゃないの?……あ、そうだ。ちょっと待ってなさい」
なんだ?ニーナは腕を組んで椅子に座って喋っていたが、ふと何かを思い出したらしく部屋を出ていった。トイレか?
程なくして戻ってくると、ニーナは何やら機械のような物を手にしていた。
「これ、アンタ見るの初めてよね。人の各種能力を測定する魔具なんだけど」
ふむ、この世界では機械のことを魔具というのか?まあ電気の代わりに魔力を使ってるんだからおかしな話じゃないし、普通に電力で動く機械も別にあるのかもしれない。
とにかく、その渡された魔具とやらを手にとって見回してみた。大きさは雑誌くらいで、厚さは3、4センチくらいか。左右両側に取っ手がついていて、本体部分には透明な筒?というかなんというか、温度計的なものが縦に数本並べて埋め込まれていた。
これをどうにかしたら、能力ごとに力量が温度計的物質に表示されるっぽいな。