防衛戦2
何の成果もないまま地面に到着してしまった。
「核がないなんてそんなことあるはずないでしょ!こう、水色に発光してるヤツよ?人の頭くらいの大っきさの…」
「体の節に隠れてたとかならともかく、それらしいものはなかったぞ?赤と黒の模様くらいしか見えなかった」
「……っ」
「…そもそもジャイアントスパイダーってのは合ってるのか?よく似た別の種とかじゃ…」
「…それはないわ。体の大っきさだけなら似たようなのは何種類かいるけど、あの体毛とかその赤と黒の模様……その特徴があるのはジャイアントスパイダーだけよ」
「……じゃあどうして…」
「なら、変異体…としか考えられませんね」
「…変異体?…突然変異みたいなやつか?」
「そうなるのかしら…。でもジャイアントスパイダーなんて、大昔からほとんど特徴が変わってないのよ…?今この瞬間に、そんな出来過ぎた偶然があるなんて…」
「…考えても仕方ねーなー。体表に出てりゃラッキー、ないなら全身串刺しにすりゃ済む話だからなー」
「簡単に言って…。でもそうするしかないわね!行くわよ!まずキリ、お願い!」
「おっけー」
ニーナの考えをすぐ理解したのか、キリが新たな呪文を唱え、地面に手を置いた。すると蜘蛛の真下から、土の柱が勢いよく出現した。
「ギィッ」
蜘蛛は顎を強く打ったせいで小さく呻いたが、それだけだった。ダメージはほぼないようである。
「あちゃー?意外と重いなー」
どうやら下から叩いてひっくり返そうとしたみたいだが、失敗に終わったようだ。これでは腹に核があるかどうか見られないな…。
「ギィィイッッ!!」
流石に怒ったのか、というか今までは様子見だったのか巨大蜘蛛が攻撃に転じてきた。8本の足をドスドスと地面に叩きつけるようにして走ってくる。
「やっぱ手当たり次第に撃つしかないかしらっ!?」
「とりあえず避けてください!あれは止めきれません!」
慌てて左右に散る。が、キリが一歩出遅れてしまう。
「くっ……お、おらっ!!」
攻撃が一番苦手だがそうも言ってられない。何度かやったように意識を集中させ、風の塊を蹴り飛ばす。
こういう言い方も何だが、魔法はまだ苦手だし近接戦すらおぼつかないくせに逃げ足だけ速いっていうのも、元の世界ならともかく死と隣り合わせのここじゃあ本当に居心地が悪い。なんとかしたいと思うのも成長だろう。
俺の風魔法(?)はなんとか形をなして蜘蛛に当たったが、大した威力にはならなかったようでわずかに勢いを落とす程度のものだった。
これではキリがぎりぎり間に合わない…!
と、横からアニスがサッと飛び込んできた。瞬間的に右腕に盾を展開し、蜘蛛の突進を受け止める。
「ふ……っ!!」
ザリザリザリ!と地面を大きく削りながら後ろに押されるアニス…だが、吹っとばなかった。あの巨大な魔物の攻撃を見事受け切ってしまったのである。
「あ、ありが…」
「まだよアニスっ!!」
「っ!」
巨体に見合わない素早い動きで後ろに下がったかと思うと、顔を大きく上に反らした。
そこへ向けてすかさずニーナが炎の玉を打ち出したが、それをなんなく躱してしまう。
両頬……のような部分(蜘蛛だからいまいち分かりにくいが)をぷくっと膨らませたかと思うと、
糸の塊を吐き出した。
「って口から出すのかよ!」
普通尻からじゃないのか!
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!避けなさいっ!!」
「ひ、ひいっ」
扇のように広がる糸から必死で逃げる。とはいえちょっと踏み込んだつもりが出力を考えてなくて10メートルは無駄に飛んでしまったのだが。
反対にアニスはキリをひっつかんだ上に、無駄のない動きで攻撃範囲外に出た。
全員逃げれたかと思いきや、ジャイアントスパイダーは続きざまに攻撃を放ってくる。
不発して地面に当たった糸を口から放さず、強引に引っ張った。するとキリの土魔法で緩くなってたのか、いとも簡単に岩の塊となって引き出されてしまった。
それをそのまま勢いよく右に引っ張り、ヨーヨーか何かのように振り回してくる。
「ってこれはやばいっ!」
「…っアイス、バレット!!」
「ロックバレットっ!」
ニーナは氷、キリは土の弾丸を、今度はそれぞれ一発ずつ、それも大きめのを放った。
振り回されてきた巨岩めがけぶつかった…が、その体積の4分の1を削る程度で霧散してしまった。
岩はなおも俺たち全員をなぎ払おうと向かってくる。と、今度はまたアニスが前に出た。
これは流石に受け止めきれないのでは…という判断はアニスも最初からあったようで、さっきのように止めようとはせず上に跳ね上げる形でいなした。
なんとか岩を凌ぐ。これだけのことが一瞬で起きていて、正直俺は目で追うだけで精一杯なのだが、みんなはなんとか対応できてしまっている。今後ついていけるのか……と、
「また来るわっ!」
蜘蛛が一回転し、またさっきの巨岩が迫ってくる。
しかし、これだけ時間があれば流石に俺も頭がついてくる。今度は細く、長いイメージを持って、
「ニーナ、糸だ!」
「分かってるわよっ!」
2人でそれぞれ風の刃を生み出し、蜘蛛と岩を繋ぐ糸を狙う。まず俺のものが当たり、ついでニーナの魔法。2つでなんとか切り裂くことに成功し、岩はそのままあさっての方向に吹っ飛んでいった。
遠くの方で轟音と魔物の悲鳴が聞こえたが、結果オーライである。人じゃなくてよかった。
蜘蛛は岩がなくなった反動で、勢いよく3、4回転ほど無駄に回った。すぐに止まったが、それでも一瞬の隙が生まれた。
「っ、今よ!全員でひっくり返すわよ!」
「では私達から、行きましょうリサ様!」
「お、おう!」
言葉少なでもちょっと分かるようになってきた。
アニスが真っ先に蜘蛛の元に辿り着き、右腕のガントレットを盾なしの攻撃仕様に展開させ、ボクサーかなんかばりに全身を使って下顎を思いっきり殴りつけた。
「ギイィーーッッ」
さっきのキリの攻撃ですらものともしなかったのに、アニスの一撃で蜘蛛の巨体がふわりと浮いた。
俺も負けじと、蜘蛛と地面の間に小さな体を活かして入り込み、今度ばかりは加減も何もいらないから全力で魔法具を解き放った。
爆風のように激しく吹きすさび、蜘蛛をより高く持ち上げた。あまりの勢いにアニスまで吹き飛ばしてしまう。
足をがんばって開き過ぎたせいでちょっと股が痛いががんばってその場を離れ、ニーナ達にバトンタッチする。
十分な時間を持って、呪文を詠唱し終えたニーナとキリ。満を持して2人が叫ぶ。
「チェインボム!」
「ロックインパクト!」
持ち上がった体をとてつもない勢いとデカさの岩の柱が追い打ちし、ダメ押しとばかりに小規模の爆発が十数発集中的に起こされた。
この怒涛の同時攻撃によって、ジャイアントスパイダーはついに……ひっくり返った。
「おお、やったな」
「リサ、ぼーっとしてないで確認!」
「あ、ああ」
先のことを全くもって忘れていたので、慌てて上空に飛ぶ。もちろわ腹に核があるのかどうか…だが、
あった。腹部の中央付近、淡く発光する水色の玉のようなもの。
「あった……って、おいっ!」
体表に出てると安心したのも束の間。核の周りの表皮、それも体毛に隠れて見えていなかったが鎧のようになっている部分。それが先ほどのニーナ達の魔法で粉砕されていたようなのだが(それによって魔法で核が壊されるのを防いだようだ)、もうすでに再生を始めていた。
そういや最初の時も足復活してたな…。てか、ここで回復されるのはまずい!これ以上長期戦になったらどうなるか分からない……!
ここは、
俺がやらなければ!
「う、おおおっ!」
「り、リサっ!?」
威勢の割に可愛らしい声色だが、それももう慣れてきた。空中でさらに向きを変え、空気を掴むように蹴る。
狙うは核。蜘蛛もひっくり返りながら俺の狙いに気づいたようで、さっきと同じように口を膨らまし、すぐさま糸を吐きつけてきた。
それをどうにか身をよじってかわす。ここからさらに方向転換しようものならどこに飛んでいくか分かったもんじゃないからだ。
糸をすんでのところで回避し…そこねたが、どうにか制服の裾にひっつくくらいに収まった。……が、それだけでもなかなかの威力を持っていたようで、バランスを崩して乱回転してしまう。
「うわわっ!?」
だが幸運なことに、糸が絡まることなくうまいこと制服の上着が脱げてしまった。これで糸の弊害はない。あとは核を狙うだけだ。
……もちろん、この回転を抜けばの話だが。
「うおわぁぁぁっ!!」
あまりの無秩序な回転に気持ち悪くなってしまったが、調整なんて器用なことはできない。もうどうにでもなれという思いで、脚甲に魔力を注ぎ込む。
しかしそれが逆に功を奏したのか…魔法具の力が合わさり、意図せずして風の弾丸のようになっていた俺は思いっきり蜘蛛の腹部に到達し……復活仕掛けていた腹の装甲すらぶち破り、核を貫いた。
「「……っっ!!」」
俺は蜘蛛の腹を突き抜け、そのまま地面のに衝突してしまった。だいぶ勢いが殺されていたからよかったものの、充分痛かった。
ニーナ達が何か言ってるのが聞こえるが、頭が回って何がなんだか分からない。俺は何とか体を起こし、みんなに手を振った。
「おーい…倒せたぜー……」
ちょっとだけ回復したようで、だんだんニーナ達の姿をはっきり見ることができるようになってきた。
さぞうれしそうな顔をしてるだろうな……と思ったが、様子が変だ。
なぜか全員、必死そうな顔をしている。アニスに至っては、こっちに向かって走ってきてさえいる。
まるで、危険が迫っているようにと……。
ニーナの叫び声が聞こえる。
「リサ、後ろ!早く逃げて!」
「え……?」
後ろを振り返る。と、そこにはもちろん今倒したジャイアントスパイダーの死体がある。
しかし、その様子が先ほどまでとは異様に変わっていた。俺が貫いた腹部が風船の様に膨らみ、あたかも爆発するように……。
あ、これはやばい。
アニスも間に合わない。これは明確に、確実に、攻撃をくら……
パァン!!!!!!!
と。
巨大な風船が割れる音が響いた。
その最後の攻撃をゼロ距離で浴びた俺は……
生きていた。
「…………え」
ここでよく考えてみよう。あのジャイアントスパイダーとかいう安易な名前の魔物。元の世界のとは違い口から糸を吐いていたが、骨格自体はほとんど一緒だった。だから普通に考えれば、腹に糸かその成分が溜まっているに違いない。
……つまり。その部分が膨らんで破裂するのを、ごく間近で浴びてしまった俺は。
糸と体液でどろどろになっていた。
「ひゃっ………」
「り、リサ……」
サーっと顔から血の気が引いていくのが分かる。だって、蜘蛛だ。ホラーといえばゴキブリか、蜘蛛か、みたいなそういうレベルの。
感覚が麻痺してたし何より魔物だったから戦ってたけど。こう…"蜘蛛らしさ"を文字通り全身に浴びてしまった今なら、分かる。分かってしまう。そのキツさを。ホラー恐怖症な俺には耐え難い苦痛が襲いかかる……っっ!!
「ひゃああああああ〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
「うん、なんていうか……えろいなぁー」
俺のいつぶりかの不本意なかわいらしい悲鳴と、状況を冷静に眺めたキリの一言が胸に突き刺さった。




