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お配り会その2

魔法具お配り会はまだ続く。


「ニーナはどれにするんだ?」


「そうねえ、昨日使った雷のヤツいいんだけど、わざわざアンタと属性被らせるのもどうかと思うのよね。だから別ののほうがいいのかしらって悩んでるんだけど…」


ふむ。いきなりパーティの相性とか考えるとは、一歩先を行ってやがるな。こいつにRPGとかやらせたらめちゃくちゃやり込みそうだ。


『そういうことならこれがいいのです』


そう言ってディアナが取り出したのは、ごてごてした複雑な形状の銀細工のようなものだった。なんというか、シャンデリアのミニチュアみたいな感じ。しかしどこかで見覚えがあるような気がするが……。


「あれ?ずいぶん小さいけど、コレって最後の広場の天井にあったシャンデリアじゃないの?」


ニーナが先に気付いた。シャンデリアであっていたらしい。

その言葉にディアナは頷いて、


『そうです。でも、これはワタシが作ったんじゃないのです』


「どういうことだ?」


『知ってると思いますけど、迷宮と魔法具はセットみたいなものなのです。ワタシの魔法具はワタシのだから迷宮とは関係ないのです。あの迷宮の本来の宝が、このシャンデリアなのです』


なるほど。言われてみればたしかにそうだな。ディアナは強制的に迷宮に閉じ込められたんだから、迷宮には本来関係ないもんな。だったら別に魔法具があるというのは当たり前のことだろう。


それにこのシャンデリアがお宝だと言うのも納得できる話だ。なんせ、ただでさえ凶悪なミノタウロスを、さらに炎で増強させたのだ。あれだけのパワーは魔法具だからこそのものだろう。ニーナが壊さなければ…て、


「あれ?あん時ニーナが壊してたぞ?」


そう、ニーナのアイスカッターとやらでぶち壊してもらったはず。ここにあるのは、ミニチュアとはいえ完全な形をしている気がする。


『たしかに壊されましたが、この魔法具の性能なのか自動修復されてたです。地面に落ちててガシャンだったのですが、欠片を全部持ってたらいつの間にか直ってたのです。ちなみにサイズ変更は魔法具の基本性能なのです』


なんと、知れば知るほど奥が深いぞ魔法具ってのは。壊しても元通りって結構すごい性能だよな。


「でも、壊してからミノタウロスが使ってなかったあたり、修復には一定時間必要なのね。どっちみち戦うとなると壊れたら使い物にならなくなるわね」


冷静にそう推測するニーナ。さすがです。


「それで、このシャンデリアはどういう能力なのかしら?ストラップとして持ってたらいいの?」


ニーナは手に持ってあちこち見回しながらそう聞いた。俺もついでに見させてもらったが、なかなか見事な装飾である。もちろん火はついていないが、代わりとしてから真ん中に大きな赤い宝石が埋め込まれている。


『自動修復もその一環だと思いますが、魔力を流し込めば勝手に持ち主が使いやすいように形状が変化されると思うのです。やってみるです』


「ふぅん…魔法具ってホントにどれもすごいわね。話に聞くだけと実際に目にするとじゃ、やっぱり全然違うわ。……それで、こうかしら」


そう言いながらニーナが魔力を流し込むようにシャンデリアを握りしめると、とたんに赤く光を放ちながら変化を開始させた。


赤い光は瞬く間にニーナの右手に蔓のように絡みつき、肘から先を覆う手甲のようになった。銀が複雑な紋様を描き、まるでそれ自体が魔法陣のように見える。

そして腕の真ん中に赤い宝石が収まった。


『銀の方ですが、とても魔力伝導率が高いです。それに特殊なモンヨウが魔法陣の役目を担ってくれるので、魔法詠唱の補助を自動的にしてくれるのです。使いこなすほど詠唱を短縮できると思いますです。あと赤い宝石ですが、火のゾクセイを備えてます。魔力をそっちにも流し込めば火の魔法を形成してくれるはずなのです。銀細工の方と合わせれば、火の魔法に関してなら極少ない魔力と極短い時間で使えるのです。とてもすごいのです。ワタシを差し置いてすごいの作るなんてハラ立つです』


ちょっとご立腹の様子だが、褒めざるを得ない他の以上に高性能な感じの魔法具だ。

しかし、こんなのがあるならば真面目に努力するのがアホらしくなってくるんじゃないか?何年も魔法を勉強して練習したとしても、すごい魔法具をジャラジャラつけた奴には負けてしまうだろう。現に、本気じゃなかっただろうが昼間シャルルに俺が勝ったし。


そう聞いてみると、ディアナが答えてくれた。


『たしかに魔法具自体はすごいのですけど、それに応じて使いこなすのが大変なのです。魔力が魔法に変わるためのコウセイや仕組みを充分に理解しきれてなかったら、全然ホントの力を引き出せないですよ』


「それに、結局昼間のはやっぱり模擬戦よ。相手が相手だったらすぐに対応されて手も足も出なくなるわよ。…まあ、アレはシャルルも同じくらい悪いわね。初見でちょっと早かっただけでまったく対応が追いつかずに、何の反抗もせずに負けちゃったんだもの」


ついでに補足説明を入れるニーナ。たしかにそういうもんなんだろうな。俺が今後も強大な相手と戦うこと前提の話なのが気になるが。あと地味に高校一年生にそんな高レベルなこと要求するなよ。ニーナやキリが異常なだけだぞたぶん。


『ていうかまずフツーの人は迷宮の魔法具を手に入れられないのです。手に入れられるのはちゃんと強い人かカネにモノ言わせる人だけなのです。タイチはトクベツなのです』


「そりゃそうか。俺たちもまぐれみたいなもんだったしな。もっかいやれって言われてもたぶん無理だわ」


「そう?アタシは結構やれると思うけど」


「この勉強オタクめ」


能力の説明が終わったので、ニーナは魔法具を慣れたように未発動状態(?)にした。銀の蔦がするすると短くなり、手首を巻くように収納されていく。ものの数秒で、一見ルビーをはめたブレスレットのような形になった。


そんなこんなで、最後にキリの番になった。別に順番とか決めてたわけではないのだが、キリは律儀に待ってくれてたらしい。


『キリはどんなのがほしいのです?』


「どれって言われてもなー。この、光ってるのと光ってないのの違いは何なんだー?」


と、キリは両手で二つの魔法具をそれぞれ持ち上げた。最初見たときは全然気づかなかったが、たしかに光っていないのが交じっていた。なんとなくオーラというか、力みたいなのが感じられない普通のアクセサリーに見える。


『…それは、ワタシの奪われた力にフズイしている魔法具なのです。記憶とか力がなくなったのと一緒に、魔法具の能力が機能しなくなったのです。だから光ってないのは少なくとも今は使えないヤツなのです。返すのです』


そう言ってディアナは不機嫌そうにキリが持っている光ってない方を奪い取り、ついで机に置いているものの中からも似たようなのを拾い集め、すぐさま鱗粉でどこかに消し去った。


天使なのに鱗粉でいいのかはともかくとして、ディアナは何事もなかったかのように、


「それではどんなのがいいか言うのです!」


と屈託なく笑顔でそう言った。そんな手間かけるなら最初から出さなければよかったのにと思ったのは秘密だ。


「うーんそうだなー。罠魔法自体は結構覚えてるから、攻撃できる系がいいかなー。なんかあるかー?」


というキリのわざわざつっこんでやらない大人な対応。

なるほど、今持っているものを伸ばすよりも足りない部分を補充するというわけか。それも戦略としてはありだな。ていうかみんな先というか戦いを見据えて選びすぎじゃないですか?この世界戦うのが普通なんですかね?


『そーですね。キリはジャマーなのですか?なら、これなんていいのです。つけてみるのです』


そう言ってディアナが両手で引っ張り出したのは、小さめの指輪だった。鈍い銅色をした金属でできていて、平べったい板を捻って輪っかにしたようなデザイン。


指輪を右手の人差し指に嵌めながら、


「これも変形すんのかー?」


とキリ。


『これはしないのです。このままで使うです』


「ふーん。まあその方が嬉しいなー。やたらごてこてするのも重苦しいし。で、どう使うんだー?」


『土ゾクセイの能力があるのです。ちょっとの魔力で土ゾクセイ魔法を形成してくれるです。ニーナにあげた火の魔晶石の土版なのです。あと、大地とか地面に含まれる魔力を吸い取ったりもできるです』


「へえ、土属性かー。罠とも相性良さそうだからいいなそれー」


『そうなのです。相性を考えたワタシの勝利なのです。でも最後にコレってちょっとインパクト薄いのでついでにこれもやるです』


やたらサービス精神旺盛な天使だな。

そんなことはさておき、ディアナは今度はもっと小さなものを取り出した。あれはピアスだろうか。黒い石がはめ込まれた、いたってシンプルなやつだった。


『それは魔力の流れを視覚化する魔法具なのです。体内から空気中から、あるテイド以上の魔力を読み取るのです。これで存分に罠に強くなるといいのです』


なるほど。罠を張るだけでなく、罠を見破る力も増強させてくれるわけか。たしかに迷宮探索ではキリの罠感知能力のおかげで随分助かったからな。それとキリの判断が合わされば、ほぼほぼ罠に引っかかることもなくなるだろう。


「めっちゃ奮発してくれるなー。さんきゅー」


『よいよいです。やっとみんなに配り終えたのです。疲れたです。この残ったやつは全部タイチに渡しとくのです』


「え、なんで?」


ディアナは出した時と同じように光の粉でしまってみせるかと思いきや、ずいっと俺に差し出してきた。


『なんでも何も、全部タイチのなのです。タイチが全部使って最強スーパーハイパーになるのは当然なのです』


「いやいや、俺はこの足ので充分だよ。とりあえずディアナが持っといてくれよ」


『?いいのですか?これ全部使えば、たぶん怖がることもなくなるのです。恐れ知らずです』


むむ。その言葉はなかなか胸踊るな。これからどんだけニーナ達に振り回されるか分かったものじゃないし。…しかし、ここで受け取るのはなんか違う気がするのだ。


「なんつーか、ほんとは何の力もない俺が全部持ってたら、今まで以上に自分の力でどうにかしようって気がなくなると思うんだよ。みんな俺をめちゃくちゃ面倒みてくれてるし、ちょっとは成長できる部分を残しとかないとな。……つっても、今の時点で結構甘やかされてるけど」


そう、ニーナの屋敷に住まわせてもらってることを始め、迷宮についてきてもらったり(ついていかされたのだが)、学校に行かせてもらったり、魔法具手に入れたり。この世界に来てうまくいきまくっているが、どれも俺の力ではない。だからせめて、これまではちょっとズルだが途中参加のハンデとして受け取って、今をスタートラインとして努力するべきだと思うのだ。


目の前に甘いお菓子を用意されて、それを自分の意思でつっぱねることがその一歩……だと思う。


「というか、今そんなにいっぱいもらったところで持て余すだけだしな。うまく言えないけど、とりあえず今は遠慮しとくよ。」


そう言って締めくくると、ディアナは何やら嬉しそうに笑い、


『タイチならそう言うと思ったのです。やっぱりタイチのそういうところが好きなのです』


そう言って俺に飛び込んできた。こいつはことあるごとに俺に飛び込んでくるなぁ。まあ、嫌じゃないんだけど。なんとなく照れ臭くなって、ディアナの頭を人差し指の腹で撫でることにした。


『えへへ。くすぐったいです〜』


口ではそう言うが非常にうれしそうだ。なんとも可愛い奴である。


その感覚がくせになってずっと撫で続けていると、


「いつまでそうしてんのよ。魔法具選び終わったんだから次の議題行くわよ次」


などと言って机をばんばん叩くニーナ。ものすごいイライラした顔をしていた。ちょっと友情を深めてただけなのに心の狭い奴である。


「つっても、他のっていうの何だー?……ああ、警備隊の罰とかどうなるのかなぁ。あれって結構重罪なのか?」


「いえ、法律で定められてるわけではないので、表立ってされるってことはないと思います。そもそも、まず警備隊が調査してからでないと迷宮に入れないということも、このファルメリーダだけですから」


「……は?」


しれっと重要なことを言ってくるアニス。


「え、なら何であんなとこに連れてかれたりしたんだ?完全に罪人の気分でいたのに」


「よくも悪くもファルメリーダは大都市ですので、規則規制が発展しているのです。人口の多いこの街を守る警備隊の権力がどんどん肥大化していった結果、というわけです。そのせいでギルドともよく衝突しています」


「でも、ギルドっつってもいっぱい勢力があるからなー。そんな数がない迷宮を、みんな血眼になって狙ってるってのも規制の原因だぜー」


ふむ。なんだか面倒な世界だ。なら俺たちが勝手に迷宮に潜入して、さらには攻略までしちゃったことって結構やばいのでは。


「そう、警備隊が言ってるのはそういうことよ。だからこそ厳重な体制で迷宮を扱って、全員が公平になるようにしてるのよ。アタシ達がしたことで重いのは、警備隊とギルドの信頼関係に大きなヒビを入れたってこと」


「なるほどな……。今の話で一番思ったのは、そこまで冷静に全て把握してるくせにちょっとの感情で迷宮に忍び込むお前が怖いってことだ」


しかもシャルル程度の煽り言葉で。


「うるさいわね…。あの時はバレないと思ったのよ」


「な、こいつ頭おかしいだろー?だから好きなんだよわたし」


キリもおもしろがってケラケラ笑う。こうして見ると勉強面以外もなんとも奇天烈なグループである。


「とにかく!だからこそ警備隊はそれのリカバリーのために罰を与えるってこと!分かったわね!」


「はいはい。しかし、となると余計どうしようもねえな…」


今の話の中でどこにも救いようがないではないか。ただ刑の執行を待つしかないってのは残酷すぎやしないだろうか。


「まあ何とかなるってー。それに万が一ちょっとこの街で生きにくくなっても、他のとこ行けば何のお咎めもなくなるからさー」


根も葉もないことを言う。


が、気にしていてもどうしようもないことも事実である。ニーナは大きくため息をついて言った。


「そうね…。とりあえず楽観的にいきましょう。リサ、アニス、そろそろ暗くなってきたし帰りましょうか」


という声で窓の外を見てみると、いつの間にやら夕日が沈みかけていた。屋敷を飛び出した時にはまだ明るかったのに、随分話し込んでいたらしい。


「つーか飛び出してきたとこにのこのこ帰るんだな」


「仕方ないでしょ。それに、もう無断で抜け出す用事もないんだから一応大丈夫よ。とりあえずしばらく我慢して、必要になったらまた考えましょ」


必要に迫られたくないなぁ。

とはいえそうする他にどうしようもない。俺たちは重い腰をあげ、学生鞄を拾い上げる。


「じゃあキリ、今日はありがとな。また明日学校で」


「じゃあね、また明日」


「おー。明日も面白いことすんの期待してるぜー」


「しないから」


なんて会話をして、部屋から出た。ずっと座っていて体が固まっていたのを伸ばし、キリのアパートの階段を降りる。ちなみにディアナは他人にバレないようにと、またどこかへ姿を消していた。


夕日が眩しい。空を見上げると太陽でも月でもないでかい星がいくつも浮かんでいるのを見て、そんなところにも異世界が感じられる。でも、夕日の赤は一緒であることはなんだか安心した。

空を飛ぶあの鳥の名前はなんだろうか、なんてな、フフ…。


「なに気持ち悪い顔で黄昏てんのよ。行くわよ」


そんな気持ち悪い顔をしてただろうか。腑に落ちないが、気を改めて歩き出す。


いや、歩き出そうとしたその時。



ドン!!!という轟音と共に、地面が揺れた。

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