表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

忘れられない夜

こう期間が開くと前に書いた設定をよく忘れます。

「ち、違うのパパ!たしかにアタシがみんなを連れて行ったんだけど、でも色々あって…」


家に帰ってからも、ニーナは必死で平謝りを繰り返していた。肩を揉んであげるとか、買い物に一緒に行ってあげるだとかいう姑息な手段を使いつつ様子は無様というほかなかった。


対して、フンボルトさんは不気味な程に優しげだったが、それを崩さずにこう言った。


「ニーナ、今日はもう疲れただろう。どの程度重いものかは分からないがこれから警備隊の処罰もあるだろうし、すぐに休んでゆっくり疲れを取りなさい。風呂は先でも後でも構わないから」


「ぱ、パパ…?」


ニーナは奇妙なものを見る目で父親を見た。俺も最初は意外と優しい人だと思っていたが、ここまでともなると流石に異様である。何か裏があるのかと疑ってしまうのも無理はない。


「じゃ、じゃあとりあえず寝るわ。お休みなさい、パパ」


「うん、お休み」


「じゃあ、俺も失礼させていただ……」


「リサ君には話があるから待っていなさい」


「うぐ」


逃げられなかった。ニーナが心配そうな顔で俺を見てきたので、俺は大丈夫だということを目で伝えた。

なんで俺がこんなクールなことしなくちゃいけないの。


「……なんでしょう?俺もちょっと疲れちゃったなー、早く休みたいなーなんて……」


「君の秘密は何か見つかったかい?」


「え?」


ニーナが去るや否やどつき回してくるかと思って身構えていたが、彼の表情は変わらなかった。むしろ、俺を心配するような顔つきである。


「いやなに、君は異世界から来たんだろう?召喚された場所に行けば何かしらの手がかりがあるかも、という話だったじゃないか。それはどうだったかね?」


「あ、ああ。一応あるにはあったんですが…」


あの天使のことを思い出す。警備隊に捕まってからは全く見ていないが、姿を隠せたりするんだろうか。

あいつがいうには、俺はその天使に呼び出されたらしい。だがなぜか記憶がないらしく、手がかりはないに等しい。


警備隊には最後まで誤魔化していたが、俺が異世界人であることを知っているフンボルトさんには言っていいものだろうか。正直俺一人では判断しづらいところではあるが、子供だけで抱え込んでもどうしようもない面もあるだろう、ということで俺は打ち明けることにした。


俺の大雑把な説明を受け、フンボルトさんは何やら思案する。


「ふむ…天使か……。またもや信じがたいものが出てきたな…。あまりにも事例がない話だから何とも言えないが、君はとてつもなく大変なことに巻き込まれているというのは間違いないだろうな」


「そうなんすかねぇ…」


「天使、か……。嫌な予感はするが……」


本当に嫌だなそれ。なんでまた俺が巻き込まれたんだろうか。勇者にするにしても俺なんか不向きにも程があるだろうに。


と、フンボルトさんはここでぱっと雰囲気を変え、


「それはとりあえず置いておくとしよう。私の方からも調べておくよ。それで急な話なんだが一つ提案がある」


などと言ってきた。置いておかれるのも悲しいが置いておくより他はないから仕方ない。


「なんですか?」


「リサ君がこの世界にいる間、学校に通うというのはどうだい?すぐに帰れる見込みもないし、ここでの生活に慣れるにはもっとも適していると思うんだ」


「まじですか。いや、でもそう簡単に学校に入れるものじゃないんじゃないですか?金もないし、まず戸籍自体…」


「その辺は問題ないさ。うちで面倒を見ると言ったんだから、最後まで見させてもらうよ。金なんてどうとでもなるし、戸籍も何とかなる。どうだい、とりあえずうちの養子ということにしないかい?」


「……え!?そ、それは流石に悪すぎますよ!」


ということはリサ・ニーズベルグということになるのか?ニーズベルグ家って貴族なんだろ?流石に話がうますぎる。いや裏があるというより単純にこの人がいい人だからなんだろうけど、こっちが申し訳なくなる。


「いや何、異世界人というのは本当に驚くべきものなんだ。今はまだ分からないが、動くべき時に動けないのは不便だろう。そういう時、貴族姓とは何かと便利なものだよ」


「そうかもしれないですけど、そちらにメリットってのがなさすぎて…」


「大丈夫さ」


え、と俺はフンボルトさんの顔を見上げた。すると彼は目一杯のダンディーフェイスで、


「異世界の話を教えてくれ。それは私にとって最高のメリットさ。…それに、ニーナだったらこうするだろう。娘の望むことをするのが、父親の役目だよ」


ダンディーーーーーーーー!!!


なんだこのおっさん。ダンディーすぎるだろ。昭和期の漫画かよ。


「そう言ってくれると思ってすでにその辺は用意してあるんだ。養子に関してはちょっと面倒な手続きはあるが、後ここに君がサインしてくれればおしまいだよ」


すげえ!準備できすぎてこわいくらいだ!


親指に何やら朱肉みたいなものをつけ、紙に押し付ける。フンボルトさんが言うには、魔力の紋様のようなものらしい。指紋の異世界版だろうか。


「さて、これで君は正式にニーズベルグ家の一員だ。まあ、この書類を届け出る必要はあるがね。急な話で戸惑うかもしれないが、よろしく。僕のことはニーナと同じようにパパと呼んでくれて構わないよ」


「よ、よろしくお願いします…。あの、忘れてるかもしれないですが俺元男ですからね…?」


「元なんて関係ないさ。重要なのは今だよ」


なんかこわい。


ふむ、ということで話は終わりだろうか。なんとも和やかなムードになったので、そろりとニーナのいるとこにいこうとしたが、


「というわけで」


「はい?」


ぐわし、と両手で持ち上げられた。


「我が娘よ、言いつけを破り危険な迷宮に入るなんて馬鹿なことをしたお仕置きをしなくちゃいけないな。ニーナは高校生だから目を瞑るが、君のように幼い子が同じことをしちゃあダメだろう」


そのままフンボルトさんの足の上に乗っけられた。腰を押さえつけられ、抜け出せない。お尻をつきだしたような格好に、ってこれ…まさか!?


「え!?ちょ、急にどうしたんですか!?てか幼い子って、俺こう見えてニーナより年上ですから!ちょ、待っーーーーー」


「問答無用!!」


「あっ…………!!!!」



ペンペンペンペン!!!という、俺の可愛らしいお尻の悲痛な叫び声が、屋敷中にこだました。



□■□



「くっそ、まじで痛い……」


赤く染まるお尻を抑え、フンボルトさんに案内された部屋のベッドに飛び込んだ。ニーナの部屋と比べると小さくて質素な感じだが、元の俺の部屋よりは格段に高級感溢れている。やはり庶民とは金銭感覚がバグってそうである。ベッドもめっちゃ柔らかくていい匂いだし。


一体何度叩かれたのか、尻がじんじんと痛みすぎて小便が漏れるかと思った。流石に見た目は幼女でも中身大学生の俺がお漏らしするなんて情けなすぎるのでなんとか耐えたが、幼女の膀胱とはなんと頼りないものなのか。一旦トイレに駆け込み、股間の現実を今更だが直視しないようにして済ませ、ベッドで力尽きているという現状である。ニーナが恐れていたのはこのことだったんだろうか。あいつが免れたのは納得いかん。


今はニーナが貸してくれた服とは別の部屋着をもらい、それに着替えていた。相変わらずひらひらとして可愛らしいものだったが、ワンピース型でないだけましだった。スカートとかなんか慣れない。慣れたくない。慣れるものでもない。


「もう、寝るか……。おやすみ……」


そうして、俺は早々に意識を手放した。






□■□





夢を見ていた。


そこは、夕闇に染まる大地。地平線までオレンジと黒に染まり、やせ細ってひび割れた地面が彼方まで広がっていた。


その中心に、円を描くように椅子が等間隔にち置かれていた。石を削り出した感じの、最低限椅子という機能を果たすためのみに作られたような質素なもの。座り心地など皆無なそれに、だが気にもとめずにどっかりと座る者がいた。


それは、いやそれらは気づけばそこに存在していた。先ほどまではただ椅子が並べられていただけだったというのに、まるで最初からそこにいたかのように、優雅に椅子に腰掛けている。それらがそこに座っているというだけで、まるでその椅子は玉座のように荘厳なものに見えた。それだけ、それらは異様という他なかったのだ。


それらは、夕陽が当たっているにも関わらず不自然に真っ黒だった。姿を見せるのを拒んでいるのか、それともただ元々その色なのか。顔も一様に真っ黒なので起きているのか目を閉じているのかそんなことさえも分からなかったが、シルエットから人の形をしているというのは見て取れた。

また、それらに男も女も、子供も老人がいることも。


それらは会話しているらしかった。一人は傲岸不遜に、一人は優雅に。またある者は無邪気に、各々好き勝手に喋っていた。なぜか声は聞こえなかったが、彼らの仲がそれ程良好なものではないことは簡単に分かった。



……この夢はなんなのだろうか。ただの夢なのか、予知夢のように未来に起こることなのだろうか。または、過去に起こったことなのか。


それとも。


この景色は今まさに起こっていて………それを何者かが俺に見せているのか。


分からない。


分からないが、この景色は俺にとって、いいものではないのだろう。


そう直感してしまえるほど、この空間は吐き気をもたらすような禍々しい空気を放っていた。



と、そのうちの一人がばっと振り返った。それは俺を見つめていた。俺はびくっとして逃げ出そうとしたが、体が動かない。そいつは立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づく。


逃げないと。逃げないと死んでしまう。だが俺の体は無慈悲にも動かない。やがて、そいつは俺の前に立ち塞がった。


俺はそいつを見上げて唾を飲みこむ。そいつはゆっくりと俺にのしかかって動きを封じた。もうだめだ。逃げられない。


そしてそいつは手を伸ばし、俺の上着に手をかけ………



□■□



「いやそれはだめ………って、え?」


バッと飛び起きる。いや、飛び起きようとしたが何かが俺にのしかかっていて上体が持ち上がらなかった。


俺は一人で寝ていたはずなのに、はて?とその物体を見てみると、あろうことかそれはアニスだった。どうしてこんなとこに。


「よ、ようアニス。起こしにきてくれたのか?」


なんだか嫌な予感はするが、とにかく普通に挨拶してみた。向こうの出方というかこの現状自体理解できないので、下手なことをするのは得策でない。


対するアニスも平常通り、


「はい、あなたがなかなか起きないものなので、申し訳ございませんがこうさせていただきました」


起きなかったらのしかかるんだろうか。メイドとはよく分からない。


「そ、そっか。分かった、とりあえず起きるからどいてくれ。ニーナか誰かが呼んでるのか?すぐ行くよ」


「いえ、用があるのは私です」


「え?」


「あなたとした約束のため、こちらに伺った次第です。そろそろお時間ですので、どうぞご準備を」


「ん?」


ふと、窓の外を見てみた。薄いカーテンから透けて見えるのは、暗い夜空。いつのまにやらこんな時間まで寝てたらしい。異世界に来てから昼夜逆転生活しかしてない気がするな。


……って待て、夜だと?



迷宮内での会話を思い出す。例えば迷路の途中で、例えば迷宮の最深部のミノタウロスとの対決で。


詳しくは覚えていない。だが、俺はこんなことを言わなかったか?




"一夜を共にしてやる"と。



…………。



「ちょ、ちょっと待って!確かに言ったかもしれないけど、それはその場の空気とか色々あるじゃん!」


「何を仰います。そもそも私があなた方に同行したのは全てこのためですので」


「……いや、これは本当にまずい!放送コードとか、何か知らないけどまずい!だってほら、俺こんな小さいし!」


「見た目なんて関係ありません。あなたは、ニーナ様より年上なんでしょう?」


墓穴を掘っていた。


「それに、何てことはありません。私はただ、リサ様と同じベッドで寝たいというだけなのですから。ただ抱きしめさせていただければ満足なんです。私はこう見えて小さい子が大好きですので、あなたはじっとして私に包まれてくれさえいれば大丈夫ですから」


小さい子が大好きって、いや普通に聞けば可愛らしいものなんだけど。普通にとっていいの?


「………わ、分かった。なら俺も止めない。寝るだけなんだよな?よし、寝るだけだからな」


そう、寝るだけなんて何の問題もない。アニスは小さな女の子を抱きしめられる。俺はお姉さんが包んでくれる。なんだ、win-winの関係じゃないか。


「もちろんです。では、失礼します」


するりとアニスが俺のベッドに潜り込んでくる。気がつかなかったが今の彼女はメイド服を脱いでいて、俺のように部屋着…いや、肌着くらいのレベルだった。ちょっと違和感を感じたが、この程度は個人の好みだろう。裸族でないだけありがたいものだ。うんうん。


二人同じように並んで寝ていると、なんだかいい匂いがした。これが女の子の、いやアニスの匂いか。いや真田太一18歳、高校どころか大学でも彼女のかの字もない女の子とは無縁の生活だったから、この状況はむしろご褒美みたいなものだろう。なにせこんな美人が俺のこんな近くに寝転がっているんだ。ほら、優しく俺に手を回し、ゆっくりと、だが軽く力を込めて抱き締められ、滑らかな手つきで俺の首元から手を服の中に突っ込み、………って、


「待って待って待って待って!!!これ寝るだけじゃない!こういうのは断じて寝るだけって言わない!!」


バッとアニスを押しのけて上体を起こす。幸せな感覚で見過ごしそうになったが、危ないところだった。この体でそういうことをしたら、なんというか色々終わる気がする。


だが、俺の言葉にアニスはきょとんとした顔で、


「どうしたのです?私は抱き締めていただけですよ?」


「いや服の中に手入れただろ!」


「入れてませんよ?どうしたんです?もしかして、疲労で夢でも見ていたのではないでしょうか」


え?と俺は声をあげた。アニスは手を入れていないという。俺には確かに触られた感触があったが、いやアニスのことを信じるなら夢だったのかもしれない。


そ、そうに違いない。共に死線を潜り抜けた仲間であるアニスが、こんなところで俺を陥れる嘘をつくはずがない。


そう思ったら、俺はなんと浅はかなことを考えていたのか。友を疑うなど、あってはならないことだろう。俺は深く反省する。


「そ、そうだよな。ごめん、夢でも見てたっぽいな。悪い、疑うような真似して」


「いえ、間違いは誰にでもあるものです。さあ、もう一度こちらへ」


「おう!」


信頼の証にと、今度は自分からアニスの懐へとはいる。さっきと同じ体勢になり、俺は後ろから抱きしめられ、右手は胸を左手がへそあたりを


「いや騙されるかっ!!!」


あからさまに狙っている!こいつは確信犯だ!いや誤用だけどなんというか確信犯だ!


「さすがに騙されないぞ!もう俺もだいぶ寝たし、この話おしまい!」


だいぶ無理があるがなりふり構っていられない。ベッドからアニスを追い出す。


……が、アニスを起こそうと伸ばした手を取られて簡単に寝転ばされてしまった。


「……こうなっては仕方ありません。実力行使させていただきます」


「……え?ちょっと待、え」


「私は悪くないのですよ。全ては、約束をした自分を恨むべきでしょう。……まあ、明日の朝には恨むどころか感謝するでしょうが」


そういいながら、馬乗りになったアニスは俺に手を伸ばす。俺は今度こそどうにもならず、


「た……す……け……」





その後のことは、いまいち覚えていない。というか思い出したくない。

風呂敷広げ過ぎ感。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ