その後
久々更新。文字数が分からないのでてきとうにしてましたがこれからはちょっと長めにしていきたいと思います。
21
「……え?」
聞いたことのない声。いや、違う。これはなんとなく覚えている。……そう、迷宮の途中で途切れ途切れに聞こえてきたあの声だ。
「!?何か声聞こえてこない……?」
「奇遇だな…わたしもだ」
だが、今までと違い二人にも聞こえているようだ。頭に直接響いてくるような声。前とは違い鮮明に聞こえた。透き通るような、綺麗な女性…いや、女の子の声…?
『こっち、こっち』
いきなり後ろから気配を感じた。ばっと振り返ると、そこには……
妖精が、ふよふよと飛んでいた。
「「「……は?」」」
三人揃って間抜けな声を出していた。
『なんですかもー、そんな馬鹿みたいな顔して。ワタシが天使だということを知ってのロウゼキですかー?』
「天使ぃ!?」
続けざまに衝撃の事実が飛んできた。妖精じゃなくて天使だと?このちんちくりんが…?
俺はその姿をよく観察してみた。ぬいぐるみみたいな身長に、黄緑色のくるんくるんの髪。同じ色でできたふわふわなレースみたいな服。そして、背中に浮かぶぼんやり光る輪っか……。
いや、天使要素輪っかだけじゃん。しかも背中だし。
『あー!その顔は信じてませんね!もー、天輪が頭にあるなんてのはニンゲンの勝手な思い込みです!これが翼なんですから、キドウリョクから見て背中にあるのは当然なのです!』
「あ、そ、そうなんだ…ごめん」
ぷんすこしている妖精から身を引きつつ、ニーナにそっと耳打ちしてみる。
「な、なあニーナ。天使ってのは、この世界では当たり前のことなのか?」
「そんなわけないでしょ…?神話だったらあるけど、そんなのはるか昔の話よ…!」
はるか昔?ということは、いたことはいたのか…?
『まあ、ボンジンには理解できないのも当然です。では、ワタシの力を見せてあげます』
自信満々な顔でふよふよと飛び、アニスの上に来る。そして、その小さな手をふると、黄緑色の光が煌々と輝き、瞬く間にアニスの背中の傷が跡形もなくなってしまった。
「何、これ……!?こんなの王宮魔導師レベルじゃない!いや、それ以上…!?」
地味に新たなワード出たぞ。なんだ王宮魔導師って。テンプレか。
『もうすぐ目覚めますー。ふふん、これでワタシの力信じたでしょ?ついでにタイチの傷も治しちゃいます』
「え?……うわ、本当だ。すげえ」
アニスを治した光が、俺の抉られた腹に灯ったと思ったら、途端に痛みが引いていき、すぐに傷跡がなくなった。
「よく分かんねえけど、ありがとう」
『ふふ、礼には及ばんです。みんなの大きな傷も仕方なしで治しときましたから、帰るのに心配はないです』
「……て、ちょっと待ちなさい!今、リサのことタイチって呼んだ!?」
「え?……うわ、本当だ!なんで知ってる!?」
馴染み過ぎて記憶から抜け落ちていたが、そうだ俺の名前はタイチ、太一だ。危うくアイデンティティーを喪失するところだったぜ。
その言葉に、先ほどとは打って変わって天使は真面目な顔になった。
『それは、当たり前です。……だって、タイチをこの世界に呼んだのは……ワタシなのですから』
「……なんだって?」
頭を殴られたかのような衝撃の事実に、思わず俺は聞き返した。
『タイチがいたチキュウからここシェルムソーヌに呼んだのは、他でもないワタシなのです』
「おい……それどういうことだよ!天使が俺をここに!?いや、てかなんで俺みたいな奴を……っ!」
『急かさないでください。全部話しますから。……といっても、正直その記憶がほとんど抜け落ちてるんですけど』
「は!?」
『ワタシにも分からないのです。たしかに、異世界のニンゲンをこの世界に呼ぶという使命は覚えてます。そしてタイチを選んだのも。ですが、なぜそうしたのか……なぜタイチなのか。何があったのか、分からないのです…』
「……まじか……」
『そもそも、ワタシがこの迷宮に閉じ込められたのも不可解なのです。本来なら、ワタシはタイチと一緒に目覚め、世界の説明をするとともに魔法具を与えるつもりだったのです。ですが、気がついたらワタシは宝箱に閉じ込められ、迷宮が生まれてあのミノタウロスが巣食い、タイチを一度追い出してしまったのです』
「…ちょっと待ってくれ、わけ分かんなくなってきた…。じゃあなんだよ、俺がここで何すれば帰れるのかも。てかこんな女の子の体になったのも分からずじまいってことか!?」
『女の子になったのは単に男だったのが嫌だったからです』
「はあ!?」
『ウソです。嫌だなとは思いましたがまさかそうなるとは思ってなかったです。でも男の状態で威圧されなくてホントによかったです』
俺の思わず高圧的な態度に、天使はぷるぷると震えていた。まったく天使の威厳も何もあったものではない。
『とにかく、ここはもう迷宮としての役割は終えたのです。続きは帰ってからにするのです』
と、天使がそう言うや否や迷宮全体がゴロゴロと音を立てて崩れ始めた。
「う、ん……おや、これは一体どういう状況ですか……?」
「今更起きてきたの!?いや嬉しいんだけど!ともかく、早くここから出るわよ!…ってどうやって出るの!?」
『宝箱の前に魔法陣ができてます。そこに入るのです』
「おっけーって崖あるじゃない!どうしろってのよー!」
慌てて走りながら喚くニーナ。魔法を唱える時間はないし、普通にピンチだ。
「よく分かりませんが、ニーナ様とキリ様を向こう側へ飛ばせばよいのですね」
「え?ちょっと、アニス待っ……ああああっ!!」
「おっ快適だぜー…げふっ」
「い、いや俺は大丈夫飛び越えれる…ほいっと」
状況をまったく説明していないのにもかかわらず最善策を見つけ出し、ニーナとキリを投げ飛ばすアニス。二人の着地についてはあんまり考えられていなかったので、俺はごめんだと普通に飛び越えた。魔法具の力で余裕である。
飛んでいる天使はもちろん、アニスも軽々と飛び越えた。
『落とした魔法具はワタシが回収しとくので大丈夫ですよー。さ、行きましょー』
俺、アニス、天使、ニーナ、キリの順に魔法陣に到達した。全員が乗ると同時、魔法陣が回転しながら輝き出した。
「!?う、うおおっ」
視界が眩しさで覆い隠され…真っ白になった。
□■□
気がついたら俺たちは迷宮から少し離れた地点に来ていた。視線の先には崩れていく迷宮があり、それにくっ付いていた古い方の迷宮も巻き込まれて崩壊していっていた。
「…終わったんだな」
その様子を見て、思わずそう呟いた。特に最後が濃すぎて、まるで何日もいたかのような気分だ。
「そうね…。まあ、話は家に帰ってからにしましょうか。パパに気づかれる前に…て、あれ?」
「どうした?」
ぴたりと、天を見上げたままニーナは固まっていた。一体どうしたというんだろうか。俺も見上げてみたが、そこにはただ空があるだけだった。
朗らかな、朝の陽気だった。
「……おや?」
朗らかな朝、だと?俺たちはたしか、夜に出発して早朝に帰り、バレないようにするという予定だったはずだ。
まあ、今思えばそれも無謀な作戦だったが。
しかし、この明るさは……少なくても10時は回っているだろう。これでは確実にニーナ父は起きているだろう。
……だとしたら?
「やばいわ!!帰るわよ!一刻も早く!!」
「わたしはお前らには関係ないから一抜けだぜー」
「今更急いだところで遅いでしょうが…」
「正直俺も家庭には関係ないと言いたいところだけどニーナ父にはたぶん問答無用で殺されそ…て、何だ?」
慌てて帰ろうとしたが、気がついたら四方を警備隊に囲まれていた。武器を向けられているわけではないが、雰囲気から歓迎ムードでないことは窺える。
「えーと、アタシ達は、偶然ここに遊びに来たんですけど…」
「ニーナ・ニーズベルグさんですね。親御さんがお待ちです。皆様も我々に同行ください」
「バレてるし…」
今更足掻いたところでどうにもならないらしい。どうせこんな砂埃と擦り傷だらけの体じゃあばれるのも当たり前だったろうし、素直に着いていくしかないようだ。
天使の姿が見えないのはどっかに隠れてるのか。ともかくも、一難去ってはまた一難。これから起こるだろうお叱りを考えて、非常に憂鬱な気分だった。
□■□
「ニーナ・ニーズベルグ。キリ・シルベスタ。アニス。リサの四名で間違いありませんね」
「はい…」
警備隊に連れられてやってきたのは、街の中の彼らの本部のようなところだった。街中の人らの刺さるような視線に小さくなりながら中に入る。中を進んだところにある狭めの部屋で事務員のような人に取り調べを受けることになってしまった。ニーナが代表で話をしている。
というか、リサで通るのね。フンボルトさんの通報っぽいし、事情があることは説明したのかもしれない。
「ニーズベルグさん。君が三人を誘い、迷宮の探索を始めたというのは本当ですか?」
「はい、その通りです」
「なぜそのようなことをしたのですか?君は高校でも優秀な成績を納める真面目な生徒だとお聞きしましたが」
「それは…いえ、単なる出来心で…」
「本当に?」
「…はい」
なんとも煮え切らない返答をするニーナだが、色々とある事情を説明することはあまり得策ではない感じがするし、こうするのが一番だろう。イタズラに俺や天使の話をしまくるのもよくないだろうし。
「…事情がどうあれ、何らかの罰則が下ることは覚悟しておいてください。高校生ですのでそう大したものではありませんが、迷宮攻略にもプロ間におけるルールがありますので」
「はい、配慮が足りませんでした。申し訳ありません」
「しかし…皆さんは、あの迷宮を攻略したのですか?たった四人で?」
と、事務員は話題を切り替えてきた。どうやら訝しがっているようだ。それもそうだろう、それなりにボロボロだが、目立った傷もなく生還したんだから。
「はい」
「我々も夜間には調査を終えましたが、あそこにはミノタウロスがいたはずです。よって、それだけで攻略難度はB以上であることは間違いなかったのですが…それを?」
「はい」
「なるほど…」
正直な話、普通だったら俺たちだけで攻略することは不可能だっただろう。アニスは瀕死で、その後俺が魔法具を手に入れて俺とニーナの二人でそれを使って何とかミノタウロスを倒したが、俺も腹を抉られた。あの天使とやらがいなければ、少なくとも俺とアニスは死んでいたし、迷宮の崩壊に巻き込まれていればニーナとキリも無事では済まなかっただろう。
結局、俺たちだけじゃどうにもできなかったのである。途中を攻略できたのも、敵がミノタウロス一体しかいなかったからで。
その辺はニーナが一番噛みしめているところだろう。あいつの提案で迷宮に入ったのだから。
まあ天使が言うには俺のための魔法具があった迷宮なんだし、最終的に無事だったんだからとやかく言うのも気がひけるが。
その後も警備隊の人の鋭い問質問に煮え切らない言葉で返し続け、ようやく開放された時にはすでに昼過ぎになっていた。ただでさえ死線をかいくぐってきたというのにこの仕打ち、眠気が半端ないぞ。
「では、今日のところはこれで終了です。今後の処罰に関しては後日また連絡します。外でフンボルトさんがお待ちですので、そちらへ案内しましょう」
「…はい」
ニーナも神経が心底磨り減ったというような顔でそう頷いた。俺だったら嫌になってすぐにでもボロがでそうなものだったが、その辺ニーナの忍耐力は凄まじい。
警備隊本部から外に出ると、遠くのもんの所に一人の男が立っているのが見えた。あの風貌はフンボルトさんだろう。ニーナはともかく俺はぶち殺されないだろうか。
「…キリ、そろそろお別れね。話の続きはまた学校で」
「おっけー。今日はもう寝るとするぜー」
キリと今のうちに軽く挨拶をしておく。フンボルトさんがどう出るか分からないが、下手に反省してない態度を取るとどうなるか考えたくもないからな。
「うちの娘たちが大変申し訳ありませんでした。こちらからもきつく言っておきますので」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
警備隊員と別れを済まし、フンボルトさんに向き合う。ちらりと顔を伺ってみると、彼の顔は思ったよりも普段と変わらぬ温和な表情をしていた。なんだ、案外話の通る人じゃないか。
「ぱ、パパ……。これには深い訳があって……。決して実力を試したいとか、そんなんじゃ」
「ニーナ。話を聞くのは家に帰ってからしようじゃないか。リサ君も、アニスもね」
「は、はあ」
「かしこまりました」
「………」
拍子抜けした自分とは異なりガタガタと恐怖に震えているニーナ。一体何がそんなに怖いのか、俺は小声で聞いてみた。
(ニーナ、どうしたんだ?なんでそんなびびってるんだよ)
(バカ、分かんないの?パパめっちゃくちゃキレてるじゃない!家に帰ったらどうなるか…)
(…まじ?)
もう一度フンボルトの顔を見てみるが、やはりそんな怒りの表情は見えない。ニーナの思い過ごしなんじゃないだろうか。
だが、この時の俺には分かるはずもなかったのだ。なんたって、ニーナが見ていたのは彼の魔力だったのだから。
そう、今のフンボルトさんは修羅の如く赤い闘気を全身から立ち昇らせ、背後にはスタンドのように鬼神が仁王立ちしていたということを…。
ちなみにわりと咎められなかったキリはそれを見た途端全力で逃げ帰っていた。
飽きてるわけじゃないです。がんばります。




