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終盤

「んじゃまあ行こうぜー。いつまでももたもたしてらんないしな」


「そうね。リサ、さっきみたいに突っ走るのはダメだけど、アンタのその勘みたいなのは意味ありそうね。今度は慎重に歩いていきましょ」


「おう。今度は気をつけるよ」


俺たちは立ち上がって、また歩き始める。さっき感じていたテレパシーみたいなものの感覚は今だ残ってる。俺はそれを頼りに進んでいき、道が危なそうであれば迂回していくという方法をとることにした。


「こっちの方から感じるかなぁ」


「待て。こっちは多分危険だぜー。ここは右に行って、そんで回り込んで行こー」


そんなこんなでまたもひたすら進んでどれくらいたったろうか。いい加減俺たちの体力もそこを尽きかけていたが、かといって立ち止まることもできない。ずっと続いていた俺たちの減らず口も段々とてきとうなものになっていき、しまいにはほとんど無言で歩いていた。


と、その時だ。


俺たちの目の前に、Y字型の通路が現れた。


「ここはー…右か?」


キリの言葉に、俺たちは無言で頷き右に進む。その道の遠くを見てみたが、何の変哲もないただの一本道だった。


……いや待て。


「うーん…こっちからは何も感じないな…やっぱ左だったかもしれない」


「そうかー?…じゃ、戻ってみるか」


俺の言葉から、来た道を引き返しさっきのY字路へ。そして今度は左側の道へ進む。


が、すぐさま俺の感覚が間違ってたんじゃないのかと疑ってしまうような光景が広がっていた。


すなわち……目の前の通路が崖になっていて、進もうにも進めなかったからだ。


「なんか…ごめん」


「大丈夫よ…。段々何も感じなくなってきたわ…この迷宮って終わりあるのかしら……」


「そうですね、そろそろ睡眠をとりましょうか…。リサ様、裸で抱き合うと暖をとれるといいます、どうぞこちらへ」


「お前は満身創痍に見せかけて俺の貞操を奪おうとするんじゃない…」


などと俺たちが各てきとうに喋りながら引き返そうとしたが、キリだけはその崖をじっと見つめて何やら考えごとをしていた。


「どうしたのキリ?」


「……いや、たぶんこっちの道であってる」


「?どういうことだ?」


「今までのトラップは、普通の道に見せて実は仕掛けてあるってのばっかりだったろー?それなのにこれはあからさまにわたしたちを通るのを妨げている。…こっちが正しい道だって言ってるようなもんだぜー。…その証拠に、これだ」


そう言ってキリは、鞄から革張りの分厚い本を取り出した。付箋がいくつも貼ってあって使い込んだ感じのそれを広げて、また聞いたこともない呪文を唱え始めた。


そして、キリが手を伸ばすと…途絶えた道の先全体が淡い青色に光り、次いで今度は点々とした場所だけ青白く発光し、それ以外の場所はまた元のように光を失った。


これでさっきまで何もなかったように見えていた崖に、青白いタイルがポツポツと敷き詰められたようになり、新たな道を描き出した。


「いやー、こんな魔法使うと思ってなかったから術式覚えようともしてなかったけど、一応書いといて正解だったなー。意外と範囲広いし魔力使うしできつかったけど、まあ何とか使えるレベルにはなってるだろー」


「お前…もう十分それで食ってけそうだな…」


「むむむ…一人だけ自分の力アピールして…!!」


「ニーナは何張り合ってるんだ…」


「そうそう。これ維持するのも魔力いるんだぜ。早く渡れー」


キリの言葉で、慌てて進むのを再開する。彼女によって可視状態にされたその道は一本に繋がっているようなものではなく、よって何度もジャンプや平均台的なバランス感覚を求められたりもして、地味にというか明らかに今までで一番辛い道のりである。この道発見するのも渡るのも急にレベル上がってるぞ。


「へへー、インドア派にはきついものがあ…あっ」


「え?わっ、ちょ!キリ!」


ニーナ、アニス、俺、キリという順で渡っていたのだが、キリの声に振り向くと彼女はまさにバランスを崩して落ちかけていたところだった。


そして案の定、ついに足を踏み外し……落ちた。


「キリっっ!!!」


俺はとっさに手を伸ばし、キリの腕を掴む。……が、どう見ても体重も筋力も最低レベルの自分が持ち上げられるはずもなく、両手で持ってなんとか落とさずに済ますのが精一杯だった。


「う、うぐぐぐ…」


もやしロリの自分と自称インドア派のキリのペアがこの難所を乗り越えられるはずもない。もうこれはダメかもしれない…というヤバい声が聞こえて来た時、俺の背中にふわりと何かがのしかかったと思うと……そこから伸びた手が、キリの腕を掴んで持ち上げた。片手で。


というかキリどころか、俺ごと抱えて抱き上げていた。俺を左手で抱き上げ、右手でキリを引っ張り上げて地面に立たせた。


この所業は…どう考えても一人しかいない。


振りかえると、やはりそこにいたのはアニスだった。


「あ、ありがとう…」


「いえいえ、こうするのが私の責務ですので、お気になさらず」


「あんたも十分変わってるなぁ…まあ、ありがとなー。あんたのその力は魔法なのかー?」


「いえ、私は魔法を使えませんので。…とはいえ、似たようなものですが」


含みを持たせた言い方に、俺とキリは首を傾げた。だが、アニスはそれ以上語ろうとしなかったので俺も追求することはしないことにした。異世界だし、何か俺が知らないような力が色々あって、アニスはそれを持ってるんだろう。事あるごとに俺にスキンシップをとること以外はいいメイドである。変に勘ぐる必要もあるまい。


俺たちはまた進むのを再開する。さっきから何度も立ち止まったりを繰り返しているが、俺たちはプロの冒険者とかじゃないから仕方ないだろう。というか、初めてでこの罠の遭遇率の低さはなかなかレベルが高いものであるような気がする。


さっき以上に慎重に進み、ようやく終わりが見えた。最後だからと気を急かさないように落ち着いてゆっくり歩き、ついにちゃんとした地面へとたどり着いた。


「……っはー!!ようやく終わったーー!!」


「…ひぃ、疲れたなー……。お前ら、わたしに感謝しろよ……。もう、魔力尽きかけだぜ……」


魔法を解いたキリが、息も絶え絶えにそう言った。この迷宮で一番の功労者は彼女だろう。感謝しかない。


「キリ、ホントにありがとう。魔力瓶いる?」


「ああ…ありがとなー。もらうわー」


ニーナが差し出した青色をした飲み物が入った瓶を、キリは勢いよく飲み干した。

ゲームでよくある回復アイテムだろうか。便利なものもあるな。


俺が物珍しそうに見ていたからか、ニーナが説明してくれた。


「これは魔力瓶って言ってね。名前の通り魔力が凝縮されてて飲んだら魔力を回復できるの。まあ、魔法使うのは魔力だけじゃなくて体力も必要で、そっちは回復しないんだけどね」


「へえ。まあ、魔力が少ない俺には必要なさそうなものではあるな」


「そうでもないわよ。もちろん才能とか家系とかはあるけど、魔力だって鍛えれば十分底上げできるわ。アンタの努力しだいね」


「ますます必要ないなぁ」


「おい」


「話を切って申し訳有りませんが。あちらを見てください」


こんな世界で戦闘する気ゼロの俺と威圧してくるニーナの間に入り、通路の先を指差したアニス。言われたままそちらを見てみると、そこには鉄製の扉が置かれていた。


扉の周りの壁も白っぽいもので、明らかに今までとは違う雰囲気である。


「これは…最終地点、ってことなのか……?」


俺たちは扉の前に集まり、周りを調べてみた。


「……おそらく、ね。少なくとも、何かしら起こることは間違いないわ。慎重に行くわよ」


「そうですね。一応、武器は構えておきましょう」


「攻撃魔法は得意じゃないんだけどなー」


「逃げる準備は万全だぜ」


「おい」


「冗談、冗談…」


相変わらず冗談が通じないやつである。


「さあ…行くわよ!」


ニーナがそう力強く言い、扉を両手で開けた。


鉄製の扉が重々しく開き、そこに広がっていたのは………

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