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迷宮探索

久々更新

「B級相手じゃあ焼け石に水って感じかもしれんが、やらないに越したことはないよなー」


ひたすら長い階段を息を切らしながらのぼっている最中、キリはそう言って俺たち全員に何やら魔法をかけた。


特に何が変わったか、という実感はない。


「これは?」


「わたしらの気配だとかを薄くして魔物に感知されにくくするやつだぜー。わたし、こういう魔法のが得意なんだ」


「キリはジャマーだからね。学園でも罠魔法だとか状態変化魔法じゃ群を抜いてるのよ」


ニーナが友達自慢してくる。なんだ、学年トップの友人はまたすごいヤツというわけか。格差社会を感じるぞ。まあ純粋にすごい話だ。


あとなんか聞きなれない単語を聞いたぞ。


「ジャマーって何なんだ?」


「ああ、そういえば言ってなかったわね。ジョブって言うんだけど、なんていうのかな…スポーツでいうポジションみたいなもんね。冒険者がチームを組むときに、ジョブのバランスを見てメンバーを決めるのよ。前衛後衛と回復役、みたいにね」


「へえ。得意部門を分かりやすく名前つけてる感じか」


「そうね。で、それにも階級みたいなのがあってね。上にいけばいくほど受けれる依頼の質とかも上がってくるし、信頼とかもされるようになるの。ある程度までは学校で上げれて、その後は外の試験やマスターに認められたら昇級できるわ」


「な〜るほどぉ」


いろいろあるんだなぁ。この移動時間中に色んな情報を聞かされすぎてもう全部覚えきれてる自信がない。


「それじゃニーナは何のジョブなんだ?」


聞いたところでっていうところもあるが、今聞いとかなければ忘れそうなので一応言っておく。


「ふふ、よく聞いてくれたわね。アタシのジョブ……いえ、アタシがいずれとるであろうジョ……」


「ニーナぁ、そろそろ静かにしてくれよー。もう着くぞー」


なんとかかんとか言ってるうちに階段の終わりが見えてきた。ちなみになんで迷宮に突っ込んでんのに喋ってたかというと、階段がくそ長かった上に今朝のことをよく考えてみたらミノタウロスは階段までは追いかけて来なかったので、ここまでなら大丈夫となったからだ。ちょっと気を抜きすぎな気もするけど。


まあ、それもこれまでである。この先はミノタウロスが徘徊する恐怖の迷路。しっかり気を引き締めねば。


自分の言葉を遮られたニーナは不満顔だが、そんなことでヤツに気づかれるわけにもいかないのできっちり静かにしている。


俺たちは階段をのぼりきり、その先は一本道であったのでそのまま進む。その道のりは俺とミノタウロスが追いかけっこした時のままで、ヤツが斧を振り回して破壊された壁や床や天井の深々とした跡が残っていた。


その爪跡から理解できる敵の攻撃の破壊力の高さに若干尻込みしたものの、気を奮い立たして突き進む。と、ちょっとして分かれ道に出た。


「どっちに行く?」


小声で聞いてみる。分かれ道の左の方は俺が通ったんであろう、破壊された大小様々な壁の破片が転がっているが、俺が元いたところが正解の道という保障はまったくないのでどちらも変わらないように思える。


「左手法っての使ってみるか?」


前何かで見た、迷路の攻略の仕方を思い出して言ってみる。が、ニーナはかぶりを振った。


「あれはすごい時間がかかっちゃうのよ。それに、全部の道をしらみつぶしに歩いてくもんだからミノタウロスの方に遭遇しちゃうかもしれない」


「まじか…」


「……リサちゃん、お前が通った道でトラップとかはあったか?」


「ずっと気になってたがちゃんはやめろ、あとリサじゃない。……トラップ?よく分からんけど、特に何もなく突っ走ってたけど」


「そうかー。じゃ、とりあえずそっちに行くかねぇ」


「え、そんなんでいいのか?」


確かに罠はなかったが、だからと言って正しい道なのか。人が作ったもんじゃないんだし、罠の奥にちゃんとした道がある可能性もあるんじゃ?


「まあそうだけどさー、迷路なんだし行き止まりもありゃ繋がってる道もあるだろ?ここの番人であるミノタウロスが通ったとこなんだったら、そりゃ正しい道に繋がってるんだろと思ってなー」


「ほお、なるほど……?」


「まあやつが行き止まりとか隅々まで見回ってたりしてないって前提だから結局のとこ分からんけどな!」


「おい!」


いまいち確証が持てないが、それでも一番合ってる可能性があるのでやむなくその道を行く。


足音を立てないように注意し、角を曲がる時にはその奥に何もないことを確認してから進む。


俺たちは張り詰めた空気の中、無言で慎重に進んでいった。


しかし、本当に魔物の姿がない。いるのはあのミノタウロス一体だけなんだろうか。それならここはまさしく奴の巣なんだろう。


B級レベルともなると、一体で一つの迷宮とかそういうのなのか。それとも、やっぱりそういうところもそれぞれなのか。


魔物の姿どころか足音も聞こえないまま、気がつくとなんだか見覚えのある場所にやってきた。


T字路の分岐点。そう、おそらくここは…。


「俺がいた場所だ…」


俺の所有物が落ちてるとかそんなことはなかったが、なぜかそう確信した。


ニーナ達もその場所を見て、


「ふーん…たしかに、変な魔力の痕跡があるわね」


「私もこのような魔力は感じたことがありません。未知の魔法が用いられたのでしょう」


「なんか分かりそうか…?」


俺がおそるおそる聞いてみると、二人はかぶりを振った。


「アタシ達は専門家じゃないから、魔力は感じとれてもそれがどういうものなのかは分からないわ。…まあ、逆に言えば専門家に持っていけば何か分かるかもしれない」


「とりあえずここの残留魔力を保存しておきましょう。いずれは警備隊も来て調べてもらえるかもしれませんが、いつになるか分からないですし」


アニスがそう言うと、背負った鞄からなにやら四角いものを取り出した。指輪を入れる箱くらいの大きさだった。


そしてそれの表面を指でなぞり、地面に置く。すると、その立方体が淡く発光し、すぐに収まった。


アニスはそれを拾い上げ、鞄の中に戻した。


「……あれ、今ので終わり?」


「はい。魔力を微力集めるだけなので、大した動作は必要ありません」


なんとも便利な道具である。しかし、元いた世界に帰る手がかりをこんな簡単に掴めるんだったら万々歳だ。


「……!おい、ちょっと静かにしろ」


「え?」


急にキリが真剣な声色でそう言った。俺たちはよく分からなかったが、とりあえず黙る。


「いや、来た道に何回か感知魔法を仕掛けてたんだけど……今、それが引っかかってる」


「!?そ、それって……」


「たぶん、ミノタウロスだろーなぁ。それ以外に魔物は見当たらない。とにかく、早くここから逃げようぜ」


「逃げるって、どっちに!?」


「……こっち!」


そう言うと、キリは足音を立てないようにしながら走りだした。

もう進むための目印もない上、後ろからヤツが来たということは通路が繋がっているということだ。焦ったらこの迷宮で迷子になる可能性もある。


「ようは迷わなければいい…つまり、最奥まで行っちまえば勝ちなんだぜー」


「アンタ、呑気ね…」


「呑気なもんか。少なくとも、こんなところくに調べずに来たお前よりかなー」


「何よ!」


「喧嘩すんな!」


走りながらも小声で話し合う。もしかしたら追いつかれるかもしれないというのに、緊張感がない。


「敵にはまだバレてないのか?」


「一応、ミノタウロスには勘付かれてるだろうなー。迷宮のボスだし、それはしゃーない。……でも、詳細なことは何もバレてないはずだぜ。侵入者がいるって程度っぽいな」


「なら、まだ安心…か?」


「そんな馬鹿な。確実に近づかれてるぜ。……ちょっと、やばいかもな……ストップ!」


キリは突然立ち止まり、俺たちを制した。そこは、十字路の通ってきた道の正面を進んでほんのちょっとのところだった。


「どうしたんだ?」


「……こりゃー、罠が仕掛けられてるなぁ。引き返して別の道に行こう」


「まじか…。何で分かったんだよ」


「女の勘ってヤツさ。へへー」


ニヤリとキリは笑う。なんだよ教えてくれないのか。企業秘密的なあれか。


「じゃあ、どっちが正解の道?」


残った2つの道を交互に見比べながらニーナがそう聞くと、キリは真剣な表情で腕を組んだ。


「うーん…道の状態から見て、たぶん……右の方かぁ……?いや、ちょっと待て…左だ」


「そんな迷ってて大丈夫なのかよ!?」


道の状態って時点でよく分からないのにそんな優柔不断で大丈夫なんだろうか。


が、そんな不安を余所にキリは迷いを捨ててるようだった。


戸惑ってる俺たちをほっぽってキリは走り出してしまったので、俺たちも慌ててついていく。


「お前測量とかできるのか?」


「できるかよそんなのー。わたしなりの方法で考えてんの」


「……ねえっ、後ろから足音聞こえてきてるっ……!」


「まじかよっ!」


流石に俺の全力疾走でもない限り、奴の魔の手からは逃れられないようだ。あの図体でめっちゃ早いとかチートじゃないのか。


音はどんどん近づいてきてる。もうすぐあの十字路あたりまで来るんじゃないだろうか。


俺たちは息を切らしながらも必死に走り続け………やがて、たどり着いた。



行き止まりに。

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