プロローグ
「よう太一!お前今日は持ってきたか?」
「あ…悪い。そういや忘れてた」
俺こと、真田太一はあたかも申し訳なさそうに謝った。というのも、忘れたというのは完全に意図的だからである。
俺は今大学一年なのだが、俺が入ってるグループどころか日本中でなかなか人気を博しているものがある。
それは、アクションRPG「ムゲン」というものだ。
これは携帯ゲーム機専用ソフトなのだが、最新技術をふんだんに使っていて据え置き機に勝るとも劣らないものとなっている。
ファンタジーなオープンワールド。世界には迷宮と呼ばれる様々なダンジョンがあり、モンスターを倒しつつ中のお宝を手に入れ、武器や防具を強化する。
まあこの辺はよくある設定なのだが、このゲームの最大の特徴として「迷宮がランダム生成される」というのがあるのだ。つまり、昨日までなかった場所に気づいたら超高難易度迷宮が生成されてたりする。もちろん逆もしかり。
前のゲームブームといえば狩りゲーだったがそういう要素もなかなかパクりつつ携帯ゲーム機にネトゲ的システムが用いられてるこのゲームに、子供だけでなく大人までもがどはまりしてる状況だ。
もちろん俺の友達も例外ではない。非常に頭が痛い。
…そう、態度で分かるとは思うが、俺はこのゲームが大の苦手である。
最初から無理そうな予感はしていた。だから買わないでいたのに他の奴らの圧力で無理やり買わされ、やってみたら案の定無理だった。それで無理って言ってるのに友達は耳を貸さず今日も飽きずにやることを強要してくるのだ。迷惑極まりない。
え?何で苦手なのかって?
…まあ、それはあれだよ。
…怖いのが大嫌いなんだ。
そう、怖い、というか暗い、気持ち悪い、狭い…そういうところがまじで俺に合わない。ホラーゲームとかも最悪だ。なんというか、俺は牧場で家畜を育てつつ村人と交流するみたいなそういうゲームの方が百倍好きなんだ。馬鹿にされるから言わないけど。
いいよなあ別に。中肉中背のたいした特徴もない男がそういうの好きでも。
「そういや俺今日バイトだったわ。すまんが帰るな」
「おい嘘つけ!今日暇っつってただろ!まじかよ!」
「シフト変えたの忘れてたんだ。じゃあな」
てきとうな嘘をついて、まだなんとか言ってる奴らを無視して歩き出す。本当に、俺の気持ちもちょっとくらい考えてくれてもいいのになぁ。
下宿先の部屋につき、ベッドに寝っ転がった。
昨日も今日もムゲンの話でいっぱいでブルーな気分になる。
実はムゲンにも俺が好きな感じの牧場製作みたいな要素はある。だが、それを手際よく発展させるにはやはり迷宮に入らなければならない。理不尽だ。
何気なく枕元にあったゲーム機を手に取る。昨日もちょっとがんばろうとして結局挫折したのだ。
どうせはまることはできないが、他の奴らに話を合わせれるくらいになれたら楽なんだけど。
起動すると、ちょうど大きめの城下町の中央広場からスタートした。
俺は迷宮にもぐる気もないのに町をぐるぐる回って憂鬱さを紛らわしていたのだが、そうしてるうちにいつの間にやら意識がフェードアウトしていった。