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鍵のありか  作者: 伊川なつ
街歩き篇
10/27

交差する

「おい、いつまで泣いてるんだよ」

(男の子の声……?)

呆れた声色にマナは顔を上げた。


 混乱が落ち着き、ようやく目の前に立つ少年を瞳に写す。マナの黒い瞳に映った彼は一風変わった見た目をしていた。マナは瞬きを繰り返し、少年の顔を見つめる。


 マナと同じか少し低いかといった背丈。錆びたようなくすんだ赤い髪は短く、硬い髪質なのかところどころ跳ねている。腕はその背丈に見合わず、筋肉質でしなやかだ。そこまではどこにでもいる普通の少年である。


しかし唯一、少年の顔の三分の一ほどを隠すグラスが異彩を放っていた。グラスの色は深い緑。光を反射しており、少年の瞳を隠している。


(スキーのゴーグルみたいな形……。この世界にこんなに綺麗にガラスがあるんだ……)

そんなことを考えて、呆としているマナの肩を、バーレンは指でつついた。


「コイツが俺が言ってた友達だよ。コイツのおかげで助かったな、マナ」

そう言われて、マナは少年の持つ弓に気づいた。


「初めまして。俺の名前はユアンだ」

少年は挨拶の言葉にしては、朗らかとはいい難い声で名乗る。

「は、初めまして。マナと申します。助けてくれてありがとうございました」

お礼とともに、ぎこちないものの笑顔を浮かべるマナ。

しかし少年ユアンの口元が緩むことはなかった。


「これがバーレンが言ってた"宝石"か?」

突拍子もないユアンの言葉にマナは首を傾げる。

バーレンは「珍しいだろう?」と笑みを浮かべた。

「あの……?」

あまりにも二人に凝視され、マナは眉をひそめる。


するとユアンはにやりと唇を歪めた。

「ああ、失礼。実はバーレンから前に手紙を貰っていたんだ。"珍しい色の石を拾ったので見せたい"というなんとも情熱的なやつを。

ーー本当に珍しい色だ」

ユアンはおもむろにグラスを顔から外した。そこで初めてユアンとマナの視線が交わる。


 そのじっと見てくる黒の瞳に、マナはようやく彼の言う"宝石"が自分の瞳を指すことに気がついた。




 ユアンの側に控える銀髪の男の名は、カーディスというらしい。カーディスは挨拶もそこそこに、賊をエーデンタークへ連行すると、マナたちが乗ってきた馬車で去って行った。マナが、彼は何者なのかと問うと、ユアンが「小うるさい世話役だ」と言い捨てた。


「さあ、いつまでもこんなところにいてもしょうがない。案内する」

 ユアンは先頭立って森の入り口へと足を向けた。ざり、と小さな石を踏む音が鳴る。バーレンもそれに続く。

しかしマナはとっさにバーレンの服の裾を掴んだ。


「待ってバーレン。私たち、エーデンタークへ行くのではないの? どこへ行くの?」

驚き惑い、早口で問うマナに、バーレンは「ああ」と声を漏らした。


「悪い。実はエーデンタークに行くっていうのは口実だ。今から行くのはユアンの……家みたいなところ。母さんたちにユアンのこと説明できなくて騙してたんだ。ごめんな」

あっけらかんとそんなことを言うバーレン。そこに後ろめたさは微塵も感じられない。

そんな様子にマナは少なからず衝撃をうけた。

「バーレンったら、嘘つきだわ」

基本的には誠実で真面目。彼にそんなイメージを抱いていたマナは、少しの悔しさを感じて俯き、唇を尖らせた。


「全部が全部、嘘というわけではないよ。エーデンタークで公開講義があるのは本当だし、時間が許すだけマナに街を見せたい」

拗ねた妹を宥めるような声色だ。

マナは唇を尖らせつつも、「分かったわ」と顔をあげる。


 ばちり、という音が聞こえるのではないかと思うほど、黒い目が合った。


(どうして見られてたのかしら)


マナは咄嗟に目を逸らした。

ユアンも再び前に向き、

「終わったか? さっさと行くぞ」

と歩を進めた。


 マナとユアン、出会ったばかりの二人だ。

しかし、ユアンがマナに向ける声や視線は不機嫌な印象で、ともすれば攻撃的である。


(なんだか彼は苦手だわ。友達だと言うバーレンには悪いけれど)


マナはすぐ隣のバーレンには見えないよう、こっそりと眉をひそめた。


ユアンの背を追いかけて森へ進む。道は作られており歩きやすい。

 むわりと鼻に感じる木々の匂いは、南の方だからだろうか。清涼な空気に包まれているヴァイツの山とは違う、嗅ぎ慣れないものだった。

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