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【 XXX 】 弾丸。

「殺人者、ねぇ」

「あの……なにがどうなってるんですか?」

 

 面倒事の予感に溜め息を漏らす僕と、未だに何が起こっているか判らずにぽかんとしているクライ。

 

「いや~、しかし派手にやってくれたもんやなぁ。オレもあんな仰山屍体を見たんは久し振りや」


 こっちの反応は意に介さない様子で話を続けながら、男はまたかっかっかと楽しげに笑った。

 歳は二十半ばといったところだろうか。短く切りそろえられた金髪には一筋の赤いメッシュが入り、適度に焼けた肌と澄んだエメラルドの眼、人懐っこそうな笑顔は活発な若者らしい印象を与える。

 全身を包む真っ白なローブは改めてみればボロボロで、随所にひどく古いものらしい血や傷があった。腰にゆるく巻かれた革のベルトと首からかけたネックレスには何かのモチーフらしき真っ赤な弾丸が付けられている。


「しかもあれはただの戦場の跡やなかったわ。一方的な虐殺と言ってもええくらいに――」

「待て。貴様、本当に十文字騎士団の人間なのか」

 

 立て板に水の勢いでペラペラと喋り続けていたローブの男をユウィルの冷静な声が遮った。

 機銃を握る手は一見すると静かに降ろしているようだが、実際にはかなりの力を込めているらしい。

 ……間違いない。これはブチ切れ寸前、嵐の前の静けさというやつだ。その気になれば瞬き一つのうちに男に相当数の風穴を空けられるだろう。

 

「あぁ、オレか? オレは見ての通り騎士団のモンや。なんなら証拠とかも見せてやってもええんやけど……オレにも仕事があってなぁ。その前にキミらには幾つか質問があるんや」


 そんな状況を知ってか知らずか、金髪は鼻歌交じりに懐からメモ帳を取り出す。

 何というか……マイペース過ぎる。関西弁も似非っぽい。

 クライは『ななな何ですかっ、悪いひとですかっ』と可哀想なほどに取り乱して僕の後ろに隠れてふるふると震えているし、ユウィルに至っては眉間に刻まれた峡谷がこれまでにない域に達している。


「え~と。まず抵抗の意志の有無を確認、ね。じゃあ質問その一、抵抗しますか?」

「……………………」


 本当に何なんだこの人は。

 完全に地で喋っているらしく、別にふざけているわけではなさそうなのが余計手に負えない。


「ん。無反応の時の対処法はマニュアルにないなぁ」

「……身勝手な行動は困る」


 規則正しく迫ってくる足音と共に背後から聞こえてきた冷たい声。

 一斉に神経を尖らせて振り返る僕達とは対照的に、金髪は退屈そうな間延びした返答をする。


「おーおー。なんや、かくれんぼは終いか」

「……………………」


 背筋を真っ直ぐに伸ばしてこちらに歩み寄ってくるその人物は明らかに僕達に敵意を向けていた。

 金髪の男と同じ純白のローブの上から重厚な銀色の西洋甲冑を装備し、頭部全体を覆う大きな兜をかぶっている。右腰に提げた剣も大男にしか扱えないような大物だ。あの監守と同じかそれ以上の偉丈夫だろう。


「突然の無礼をお許し頂きたい。我々は十文字騎士団第零小隊の者だ」


 甲冑の男は剣を鞘ごと引き抜いて僕達のほうに見せる。

 無骨で力強い印象を与えつつも白を基調とした精密な細工が施され、部分的に見ればとても剣とは思えないほどに美しい。柄の中央には金髪の男が身につけているのと同じ赤い弾丸の紋章が刻まれていた。


「……確かに、間違いなく十文字騎士の剣のようだな」


 ユウィルがその剣を確かめて、微かに頷く。彼女の極限まで高まっていた警戒もそれと共に僅かながら緩められたようだったが、甲冑の男はユウィルから剣を返されると柄に手を掛けて持った。


「分かって頂ければ話は早い。ならば単刀直入に言わせて頂くが――貴公らには殺人の容疑が掛けられている」

「……殺人だと?」


 ユウィルが怪訝そうに眉をひそめる。

 金髪が紅葉樹からぴょんと飛び降りて、甲冑の男の隣に静かに着地した。


「ライ・グラインや。まぁキミらも一度くらいなら聞いたことあるやろ?」


 いや僕はないけどね。

 ちょっと隣を盗み見ると、ユウィルは当然といった表情で頷いていた。


「『鎧砕き』か。騎士団の中でもトップクラスの豪傑で件の鎮圧作戦でも先陣を切って奮ったとか」

「そこを突かれるとちょいと痛いが――その通り、やられたんはあのオッサンの隊全員・・や」

「――!!」


 何か不穏な会話になってきたな。僕とクライは完全に蚊帳の外って感じだけれど、蚊が飛んでるのはむしろ蚊帳の中みたいだ。


「一昨日の晩、この周辺で紅葉樹の警護に当たっていた十文字騎士団第六小隊の騎士、ライ・グライン小隊長以下十二名が殺害された。貴公らはその重要参考人である可能性が極めて高い」


 背中の方から息を呑む気配がした。コート越しでもぐいぐい引っ張られると痛い。

 時間感覚がズレてしまっていて断言は出来ないものの、一昨日の晩なら僕達は例の監獄で丁度あの吸血鬼に殺されかけていた頃だろう。人殺しどころか自分が生き残るのに必死だった。

 

「……その銀髪の少女は民間人だ。手荒な真似をしないというのであれば協力しよう」

「おぉ! 物わかりが早くて助かるわ」


 クライが再び『どうなっているんですか』と尋ねてきたけれど、僕は彼女に見えない苦笑いを返すほか無かった。

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