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タクトレ『バディ技能』

Ragdollの彼女達も個人技能からバディ技能のトレーニングを経てインドアゲームに参加することに。


第9章 【タクトレ】『バディ技能』

<初陣>

「今日は一日、自由にゲームを楽しむんだ」

龍崎はそう言って、にこりと笑った。

舞台は市街地を模したアウトドアフィールド。

定例会ゲームの日とあって、総勢60人ほどのゲーマーが集まっている。

コンクリート風のバリケード、二階建ての建物、細い路地。どこを見ても“撃ち合え”と言わんばかりの地形だった。

セーフティエリアのテント、その一角のテーブルを占拠しているのがチーム《Ragdoll》の4人だ。

装備品をずらりと並べ、慣れない手つきで準備を始める。

今でこそ女性ゲーマーも増えてきたが、それでもまだ圧倒的に男性が多い。

女性だけのチームというだけで、どうしても視線を集めてしまう。

「最初に弾速チェックがあるから、銃を先に準備するんだ」

龍崎の指示で、4人はMP5にバッテリーを接続し、0.25gのBB弾を袋から出してBBローダーへと移す。

ガスブローバックのグロック17マガジンには、慎重にガスを注入した。

「……これ、ガス入ったかな?」

葵が不安そうに呟く。

「ガスは真っすぐにして入れるんだぞ」

龍崎がすぐに注意を飛ばす。

「音が変わるだろ? その辺りで止めればいい」

「師匠はやらないんですか?」

凛の問いに、龍崎は一瞬だけ言葉を詰まらせ、ふくらはぎを擦った。

「……俺はやらない」

ほんの一瞬、残念そうな表情が滲む。

かつての事故、そのトラウマが脳裏をかすめていた。

弾速チェックとルール説明が終わり、いよいよゲームスタート。

赤チームとなった4人は、初陣の高揚感を抑えきれないままスタート位置についた。

ゲームは定番のフラッグ戦。

――ピッ。

ホイッスルが鳴った瞬間、葵が解き放たれた犬のように飛び出していく。

他のアタッカー達と一緒に前へ、前へ。

しかし——

数十秒もしないうちに、激しい銃撃戦に巻き込まれ、ヒット。

「……何も活躍できないで散ったわ」

肩を落としてセーフティに戻る葵。

しばらくして麻耶と凛も戻ってきた。

「敵を探してたら撃たれたー。僕、即死だー」

「私も。敵どこにいたの?」

初心者あるある、というやつだ。

終了ホイッスル直前、未来が帰還する。

「一人はヒット取れたけど……全然ダメだわ」

午前中のゲームは、結局4人とも良いところなしで終わった。

「やっぱり、バラバラで戦ってちゃダメね。午後は纏まって行きましょう」

麻耶の提案に、全員が頷く。

昼食は定番のカレーライス。

暖かな日差しの下、華やかな女子トークがセーフティエリアに響いた。

そこへ男性ゲーマーが声をかけてくる。

「何の銃使ってるんですか?」

「へぇ、MP5。……あ、全員同じなんですね」

「グロックもお揃いだ」

「チーム連携できたら、うまくいくんじゃないですか?」

「連携か……まだ習ってないな」

葵がぽつりと呟く。

その瞬間、4人の意識が自然と一つになった。

「師匠! どうやって連携やるんですか?」

「それは次回教える」

龍崎は即答した。

「今日は自由に遊んで、反省会で話そう」

午後のゲームは殲滅戦、スパイ戦と続く。

結果は相変わらず散々だったが、それでも笑い声は絶えなかった。

午後4時。

装備を下ろし、弾抜きをして、バッテリーを外す。

「纏まって動いても、一網打尽されたわね……」

麻耶ががっかりしたように言う。

「初陣だもん、仕方ないよ」

凛が明るく笑った。

夜の反省会。

夕食の席で龍崎が尋ねる。

「どうだった? 楽しめたか?」

「めっちゃヤラレたー」

「敵探してると撃たれて、しかもどこから撃たれたかわかんないし」

「スコープ覗いてたら、何見てるかわからないうちに撃たれたわ」

不満が一気に噴き出す。

「……なんか悔しくて、つまんない」

麻耶の一言に、龍崎は頷いた。

「な。やるなら勝ちたいだろ?」

「だからタクティカルトレーニングをやるんだよ」

そのタイミングで、注文した料理がテーブルに並ぶ。

話題は一気に料理の味へと移り変わった。

「これ美味しい!」

「ちょっとそれ一口ちょうだい!」

――流石は女子ーズだな。

龍崎は苦笑しながら、次の“授業”のことを考えていた

________________________________________

 <次のタクトレの日>

 喫茶店《Ayuzoroy》の入口には、無機質な文字で書かれた《臨時休業》の札が下げられていた。

 通りを行き交う人々は、その奥に地下訓練場があるなど想像もしないだろう。

 地下――。

 朝の決められた時間ぴったりに、凛、葵、麻耶、未来の4人はトレーニング場で装備を整えていた。

 戦闘服にプレートキャリア、ゴーグルの曇りを拭い、マガジンを確認する動作に無駄はない。前回の反省が、全員の動きを引き締めていた。

 そこへ龍崎が現れる。

 手にはトレイ。湯気の立つカップが4つ。

「朝の一杯だ。お決まりのキリマンジャロ」

 コーヒーの香りが、地下に広がった。

「さてと……こないだの反省からだ」

 龍崎は壁際のバリケードを指で叩く。

「アウトドアでの索敵のコツ。

 バリケードから下手に頭を出すと、まず狙われる」

 葵が無言で頷く。前回、最初にヒットを取られたのは彼女だった。

「だから、あまり射程内に飛び込まない。

 距離を置いたところから“見る”」

 龍崎は自分の目元を指差した。

「見る時は、頭を動かすな。

 目だけを、ゆっくり動かす。

 背景と違和感のある“何か”を探すんだ」

 葵が小さく息を呑む。

 索敵は技術よりも、まず“我慢”だと理解し始めていた。

「調整された銃なら射程は50メートル。

 有効距離は……30メートルくらいなら、普通に当ててくる」

 麻耶が無意識にバリケードから半歩下がった。

「ゲームをこなすうちに、自然と感覚は掴める。

 それまでは撃たれる方が多い。

 ――それは誰もが通る道だ」

 未来が、少しだけ肩の力を抜いた。

それとアウトドアでのフォーメションだ。

シングルファイル、ダブルファイル、ダイヤモンド、エクステンデッド、エッジがある。

龍崎は各ファイルの特徴とその効果について説明した。

「他にも戦術はあるがそれはまた都度やっていく」

龍崎は4人を見回し、軽く口角を上げる。

「今日はバディでのトレーニングだが……その前に」

 彼はフィールド中央に立ち、銃を構えた。

「こないだ出来なかったムーヴィングシュートを先にやる」

<動く者、撃つ者>

インドアフィールドの照明が少し落とされ、緊張感のある空間が出来上がっていた。

龍崎は無言で腰のホルスターに手を当て、静かに言った。

「移動しながら撃つ」

4人は、軽く息を呑んだ。

「立って撃つだけが戦いじゃない。動きながら照準をぶらさず、撃つ。それができて初めて“使える技術”になる」

龍崎は一歩前へ出た。

「ポイントは膝を少し曲げて、腰を落とす。膝は“バネ”のように使え」

実際に姿勢を取る。重心が沈み、身体の上下動がなくなる。

「前進時は“踵→爪先”の順。後退はその逆、“爪先→踵”だ。この動きで後方に障害物がないか、足の裏で探ることもできる」

そう言いながら、龍崎はゆっくりと前へ歩いた。まるで床と対話するような、無音の動きだった。

後退に切り替えた時、引いた足が軽く床をなぞるような動きをした。まるで“見えない手”で後ろを探るような感覚。

「この動きが、即応と安全を両立させる」

そう言ってから、龍崎は奥の細い通路へ移動した。

床には廃タイヤがいくつも等間隔で置かれている。前進と後退の実演に使う障害物だ。

「前後移動の練習は、これを使う」

彼は通路の入り口に立ち、構えを取った。

そして、いつも通りにゆっくりと――前進。

――だが。

その一歩目から、4人の視線がある一点に釘付けになった。

「……え?」

未来が息を止める。

「……ちょっと、あれ……見て……」葵が指をさす。

龍崎は、タイヤを踏んでいる。

明らかに、足元には高低差がある。

それなのに――上半身の高さが1ミリも変わらない。

「……え、タイヤ乗ってるよね?」麻耶が呟く。

「えっ……ちょ、何!? キモっ!!」

凛が叫んだ。

確かに足は上下しているのに、重心も視線もブレていない。

タイヤの上を“水面を滑るように”移動している。

龍崎は軽く振り返り、微笑んだ。

「“バネ”と“腰”を連動させれば、こうなる。だから膝は常に曲げておけと言ったんだ」

後退に入る。

彼は後方のタイヤの上に足を“触れながら確かめるように”置き、再び無音のまま元の位置に戻った。

「膝で吸収、腰でバランス。頭は常に敵を見る場所に置き続ける。それが“見ながら撃つ”ということだ」

全員が、呆然としていた。

凛は口をぱくぱく動かしたあと、ぽつりと一言。

「……やっぱり宇宙人だわ、マジで……」

龍崎は肩をすくめた。

「それと――歩幅はショート。能の舞台をイメージしろ」

そう言うと、龍崎はすっと身体を沈めたまま、ショートステップで前進。

無駄のない、しかしどこか異様に美しい“滑るような動き”だった。

「そして――ここまで教えた技術を、繋げる」

その言葉と共に、龍崎の身体が動いた。

________________________________________

ホルスタードロー。

バーティカルモードで腰に沿って抜き上げ、すぐにカッティングパイ。

コーナーを覗くように半身を作り、スタンディングで射撃。

次にハイニーリング。

そこから低く、ローニーリング――そして、プローン。

伏せた状態から一瞬で起き上がり、ショートステップで前進、カバーへ滑り込むように戻る。

さらに背後に反転、左手に銃を持ち替えて射撃。

バディがいるかのように肩越しに声をかけ、再びカッティングパイを取り、クリアリング。

――一連の動きは、まるで一つの“舞”だった。

無駄がなく、どこにも力みがなく、しかし一つ一つの動きには確かな“戦意”が宿っていた。

そして、全てが終わった後、龍崎はまるで何事もなかったかのように銃をホルスターに戻した。

沈黙。

4人とも、口を開けたまま、ただ見ていた。

「……なにあれ……」

凛がようやく言葉を漏らす。

「……動きが……ぐにゃぐにゃって、でも“しゃん”としてる瞬間もあって……」葵が付け加える。

「私、今まで“動きが美しい”って表現、意味がわからなかったけど……あれ、そういうことなんだ」麻耶が呟く。

未来がぽつりと呟いた。

「……とても引退した人の動きじゃない。あれは……うん、やっぱり宇宙人だわ」

龍崎は苦笑しながら、いつものようにグローブを外してポケットにしまった。

「喫茶店で珈琲入れてるほうが、よっぽど疲れるんだよ」

そう言って肩をすくめるその姿すら、もう人間に見えなかった。

________________________________________


________________________________________

<バディ技能>

今日のメニューはタクトレ――バディ技能。

龍崎はそう告げて、4人を見渡した。

戦術の最小単位は常に「バディ」。個ではなく、2人で1つ。

そして重要なのは、誰と組んでも同じ動きができることだ。

「バディとバディで4マンセルになる。基本フォーメーションは変えない」

「ただし、戦闘中は順番が入れ替わることがある」

凛は頷き、葵は小さく息を整える。

麻耶と未来も無言で聞いていた。

「だから考え方は固定する。でも、バディは固定しない」

今日は敢えて固定する。

凛と葵。

麻耶と未来。

________________________________________

<ムーヴィングシュート>

バディで縦列を組む。

前が射撃、後が速度制御。

「前は的にムーヴィングシュート。後は前のベルトを掴め」

「スピードを管理するんだ」

前がマガジンを撃ち切ったら、即座に前後交代。

後に回った者はリロード。

それを、ただひたすら繰り返す。

砂利を踏む音。

BB弾の乾いた発射音。

呼吸と足音が重なり、ズレ、また揃っていく。

「葵ちゃん、早いよー!」

凛が引きずられ、半歩遅れる。

「凛が遅いんだってば」

葵は悪びれない。

一方、麻耶と未来は慎重だった。

「うちら、ちょっと慎重すぎじゃない?」

未来が囁く。

「横のバディも見ろ」

龍崎が声を投げる。

「歩調は揃える。だから二番手がコントロールする」

理解が進むにつれ、四人の動きは変わっていった。

足並みが揃い、射撃のリズムが安定する。

リロードも、ただの作業から“動作”に変わっていった。

一時間後、休憩。

「……足に来るね」

「でも的撃ち、上達してない?」

汗だくの未来は缶コーヒーを開け、タバコに火をつけた。

「未来さん、タバコ吸うんだ」

凛が少し驚く。

「これが至福の一時よ」

________________________________________

<コンタクトドリル>

「次はコンタクトドリルだ」

ダブルファイルで前進。

敵を発見した方向でコールを変える。

フロント、レフト、ライト、リア。

「今日はフロントだけだ。俺を敵だと思え」

凛が声を張る。

「敵発見!コンタクトフロント!」

凛と葵が横に展開し、応戦。

射撃の合間を縫って、凛が後退する。

距離を取る。

撃つ。

「ムーブ!」

葵が下がり、再び並ぶ。

それを繰り返す。

「これ、前に行っちゃダメなんですか?」

凛が息を切らせて聞く。

「基本、実戦では弾に制約がある」

龍崎は即答した。

「戦闘は最小限だ」

「だが、優勢なら前進も同じ要領だ」

サバゲでは、敢えて後退する。

すると敵は心理的に押してくる。

「そこを叩く」

普通のゲーマーにはできない。

敵も、その戦術を読めない。

「昔な……それをやった時は入れ喰いだった」

龍崎は一瞬、遠くを見るような目をした。

________________________________________

<昼食>

気がつけば昼。

龍崎特製の牛丼が振る舞われる。

「これ美味しい!」

「師匠、店で出せばいいのに」

「喫茶店に牛丼は合わないだろ!」

女子トークが炸裂する中、龍崎は黙って茶を飲んだ。

________________________________________

<CQB>

午後はCQB。

「クロース・クォーター・バトル。閉鎖空間戦だ」

重要なのは三つ。

「SAS――サプライズ、アグレッシブ、スピード」

「しょっぱくて、甘くて、酸っぱい、って覚えてもいい」

四人がポカンとする。

「冗談だ」

龍崎は笑った。

________________________________________

<エントリー>

ドアエントリーには二種類ある。

ダイナミック。

ステルス。

ダイナミックはDDを使い、一気に制圧。

サバゲでは音響手榴弾が代わりだ。

「正直、使えるフィールドは少ないがな」

ステルスは滑り込むように侵入。

左右に分かれ、クロスしながら入る。

「どっちでも、入ったら壁沿いだ」

「中央に入るな。死ぬ」

実動訓練が始まる。。

後ろが準備出来たら前の肩をシェイクして準備OKを知らせる。

前はシェイクがきたら自分のタイミングで動き出す。

「開口部で止まるな!」

「左右に展開!」

二時間が過ぎた。

「ダイナミックの先頭、フックインだと足が……」

凛が言う。

「最初の一歩は右足だ」

さらに龍崎は付け加えた。

「サバゲではドアは盾になる」

「無理にフックせず、開き方向を見ろ」

奇数番手は開く反対側。

偶数番手はドア裏。

「一番見落とされる」

龍崎は笑った。

「俺なら、そこに隠れる」

「それで何人も倒した」

________________________________________

<夕暮れ>

気がつけば夕方。

4人は倒れ込むように座り込んだ。

疲労は濃い。

だが、確かな手応えがあった。

「次はインドア定例会だ」

「予約しておく」

龍崎はそう言って、背を向ける。

「今日もお疲れ」

4人は顔を見合わせ、小さく笑った。

確実に――

彼女たちは、前に進んでいた。



〈インドアフィールド定例会〉

昨晩から、雨がシトシトと途切れることなく降り続いていた。

灰色の空を見上げながら、憂鬱な日曜の朝だな、と未来は思う。だが今日は、それでも気分が沈みきらない理由があった。

今日は、サバゲーのインドアフィールド定例会だ。

「お母さん、今日もゲーム会だから。お昼は用意しておいたわよ」

そう言って未来は娘に声をかけ、玄関でアリスパックを肩に担ぐ。

ずしりとした重みが、これから始まる一日を予感させた。

<朝の支度>

「えーと……忘れ物ないかな」

葵が指差し確認をしながら装備を見直している。

「はぁ……昨日から生理で憂鬱だ」

凛はため息混じりに言い、椅子に腰かけたまま動こうとしない。

麻耶は淡々と持ち物点検表をチェックし、最後にコンバットブーツを手に取った。

「よし、行きましょう。現地集合ね」

________________________________________

郊外にあるインドアフィールド。

車を降りた瞬間、凛が周囲を見回して眉をひそめた。

「こんな山奥にフィールド……」

「ここ、東京都よね?」

未来も半信半疑だ。

「老舗のフィールドらしいわよ」

麻耶の一言で、全員が少し安心した。

ゲート前に着くと、そこには巨大な倉庫のような建物がそびえていた。

すでに何人ものゲーマーが集まり、ゲートが開くのを待っている。

「お待たせしましたー! 開場しまーす!」

スタッフの声と同時に、ガラガラと大きな横引き扉が開いた。

中は想像以上だった。

天井は3階建て相当の高さがあり、圧迫感はまるでない。

「おー! スゲー!」

凛が思わず声を上げる。

「インドアだから、もっと狭いのかと思ってたわ」

未来も感心したように見上げた。

4人はテーブルを確保し、荷物を置く。

葵がスタッフに声をかけ、フィールド見学の許可を取った。

「いいって」

「事前チェックは大事な情報ね。先に見ましょう」

麻耶の号令で、4人はフィールド内へ足を踏み入れた。

そこは、まるで巨大な迷路屋敷だった。

応接間、寝室、バー。さまざまな部屋と入り組んだ廊下。2階構造もある。

フィールド中央を越えたあたりで、空気が一変する。

「こっちは……市街地みたいね」

麻耶が呟く。

不動産屋、ラーメン屋、ガンショップ。建物が密集し、立体的に組まれている。

「バイオハザードをモチーフにしてるらしいですよ」

葵がスタッフの説明を伝える。

「懐かしいわね……」

未来は小さく笑った。

かつて夢中で遊んだ世界が、目の前に再現されている。

________________________________________

セーフティエリアに戻り、4人は顔を見合わせた。

「一回見ただけじゃ、全然わからないわね」

アウトドアとは違う、独特の緊張感。

周囲のゲーマーを見ると、特殊部隊装備が目立つ。デルタフォース、ネイビーシールズ、SWAT……。

未来はいつも通りMP5にバッテリーを繋ぎ、マガジンにガスを注入し、BB弾を詰めていく。

弾速チェックを済ませ、ルール説明を受ける。

制約は多いが、ありがたい点もあった。

音響手榴弾が使用可能なのだ。

周囲を見ると、スタングレネード(BB弾が飛び散るタイプ)を持つゲーマーが多い。

Ragdollは1人2個、音響手榴弾を用意していた。今回が初使用だ。

4人は黄色チーム。

スタートボックスで、周囲に挨拶する。

「インドア初めてなんで、よろしくお願いしまーす」

スタートの合図と同時に、アタッカーたちがダッシュする。

「あー、インドアでも特攻系いるのね」

葵が苦笑した。

4人は、あるグループの後について進む。

そのグループは、一つ一つの部屋を丁寧にクリアリングし、確実に前進していた。

だが――。一番後方にいた未来が、背後から撃たれた。

乾いた発射音と同時に、背中に鋭い衝撃が走る。

「ヒット!」

声を上げた瞬間、視界の端で別の影が動いた。

態勢を立て直す間もなく、連続して4人全員がヒットを取られた。

インドアはアウトドアのように全体が見渡せない。

壁と通路が視界を分断し、気づいたときには、すでに背後に敵がいる。

それが分かっていても、実際にやられてみると反省は重かった。

「背後を警戒しないと危ないね」未来が言う。

凛はゴーグル越しに前方を見たまま、短く答えた。

「前にいると後、見れない」

「左右の通路からも来るし」葵が付け足す。

麻耶は一度全員の位置を思い返すように目を伏せてから、はっきりと言った。

「全員で全方位気にする方法を学ばないとダメね」

誰かが答える前に、全員の視線が自然と一か所に集まった。

龍崎だ。

ただ見ていただけのはずなのに、今はもう“次の一手”を知っている顔をしている。

「バディ、4マンセルでやるから大丈夫だ。」

その一言で、ただの失敗が“次につながる失敗”に変わった。

未来は背中をさすりながら、思った。

――次は、撃たれ方が違う。


午前中は、レイアウトを把握しきれず、神出鬼没な敵に翻弄され続けた。

________________________________________

昼メシタイム。

「師匠! 全然トレーニングしたみたいに出来ない!」

凛が叫ぶ。

「前と後で挟まれて、逃げ場なかったわ」

未来も悔しそうだ。

「時間の流れが早すぎて、考えてると間に合わない」

麻耶は冷静に分析する。

「おー、いい勉強になってるじゃないか!」

龍崎が笑った。

「とりあえず、バディを崩すな。相棒の背中を守るんだ。それを忘れるな。今日はそれを学ぶ日だ」

未来は食後の一服を楽しんでいた。

戦闘服に身を包んだ女性が、静かに煙草をくゆらせる姿は、どこか絵になっていた。

________________________________________

午後のゲーム。

レイアウトにも慣れ、四人は自然と揃って動けるようになってきた。

そして最後のゲーム。

音響手榴弾を投げ込む。

――破裂音。

敵の動きが止まる。

「今だ!」

室内制圧は、初めて成功した。

それは、確かな成功体験だった。

ゲーム終了後、片付けをしながら、4人は興奮気味に話す。

「見た!? シミュレーター破裂した瞬間、敵止まったよね!」

「音ヤバかった! こっちもビビった!」

「師匠の言う通り、制圧できました!」

反省会では、失敗点と課題が洗い出された。

次回のタクトレは、4マンセル。

今日の経験で、何となく掴めてきた気がする。

何事も、基礎を覚え、応用を学ぶ。

「お疲れ様ー」

雨音の残る帰り道、4人の表情は、朝よりもずっと晴れていた。



個人技能の物語が専門的、長いということからバディ技能はある程度集約しました。

少しずつトレーニングで新たな知識を得ていくRagdollの四人。

だが、順風満帆に思える彼女達だが、この先の暗雲を誰も予想していなかった。

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