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龍崎猛登場『夢』

物語のキーマン、龍崎猛の登場です。

猛の叶えたかった夢とは?

第6章【龍崎猛】『夢』

<朝の静寂、動き出す影>

朝7時、郊外の住宅地にひっそりと佇む喫茶店「Ayuzoroy」。

木目調の外壁に、手書きの小さな看板。静かな住宅街の中で、その扉を開く音だけが心地よく響く。

「さて…今日も始めるか」

龍崎猛はブラインドを上げ、店内に柔らかな光を迎え入れる。

渋い色合いのカウンター、木の温もりが染み込んだテーブル、そしてコーヒーの香り。

彼の表情はどこか寂しげだが、同時に穏やかで落ち着いている。

カウンター奥の小さな棚には、誰にも見せない古いサバイバルゲームのトロフィーがひっそりと置かれていた。


15メートル先のバリケードに突っ込み、左足の筋肉が断裂したあの瞬間――

その痛みと共に、サバゲ人生は幕を閉じた。

「……今はただのマスターだ」

独り言を漏らしたその時、入口のベルがカラン、と鳴った。

「おい、マスター! 朝の一杯、頼むぞ!」

入ってきたのは岩谷義男――通称「ブルさん」。

屈強な体躯、太い首、がっしりとした肩幅。その姿はまるで猛牛のようで、誰からともなく「ブルさん」と呼ばれている。

「ブルさん、今日も現場か?」

「ああ。若いのに任せると細かい仕上げが甘くてな。見といてやらんと」

ブルさんは作業服に刻まれた「岩谷インテリア」の文字を誇らしげに見せる。

リフォームの世界で長年生きてきた彼は、職人としての誇りと責任感を強く持つ男だ。

龍崎は笑みを浮かべ、コーヒーを淹れるために立ち上がる。

豆を挽く音、湯を注ぐ音、立ち上る香り。

二人の間にある静かな時間には、言葉以上の信頼が漂っていた。

「いい匂いだ。お前の店に来ると、気が休まる」

ブルさんがそう言って、コーヒーを一口啜る。

「それは嬉しいですね。ここは私の居場所ですから。」

「居場所…か。そういや、お前の過去を知ってるのは、俺くらいだな」

ブルさんは、わざと視線を外しながら静かに言った。

龍崎は一瞬手を止め、苦笑を浮かべる。


「……あれは、もう封印した話だ」

「分かってるさ。俺らは仕事を通しての仲間だが…あの怪我のことは、忘れねえよ」

ブルさんはコーヒーカップを置き、深く息を吐いた。

「何かあったら言えよ。お前が動く時が来たら、俺はいつでも力になる」

龍崎は少し黙ってから、小さく頷く。

「ありがとう、ブルさん。……頼りにしてる」

ブルさんは立ち上がり、無言で手を振って出ていった。

朝の日差しが彼の背中を包み込む。

龍崎は再びカウンターに視線を戻し、ゆっくりと息を吐いた。

「……さて、今日も一日が始まるか」


午後の喫茶Ayuzoroyは、柔らかな陽射しとコーヒーの香りに包まれていた。

住宅街の一角にあるこの店には、午後になると近所の主婦や仕事帰りのサラリーマンがひっそりと集まってくる。

龍崎猛は、今日も変わらずカウンターの中で動き続ける。

コーヒー豆を挽き、お湯を注ぎ、皿を洗い、またカウンターを拭く。

小さな動作の積み重ねだが、一日中立ち仕事が続く。

「……くっ」

龍崎は、ふと左足を押さえるように身を止めた。

左足の奥深くに、釣るような痛みが走る。

痛みは一瞬だが、あの日のサバゲ大会の光景がフラッシュバックする。

――全力で駆け抜けた瞬間に、左足の筋肉が断裂した音。

その痛みは、今でも鮮明に記憶の底に焼き付いている。


「……治ったはずなのにな」

独り言のように漏らし、龍崎は再びカウンターを拭く。

完治したはずの足だが、寒い日や無理をした日には、まるで古い亡霊が舞い戻るように痛む。

「マスター、いつものキリマンジャロお願い」

店に入ってきたのは、近所の管理人だった。

龍崎はすぐに顔を上げ、笑顔を作る。

「おう、待ってな」

痛む左足をかばいながらも、龍崎の動きにはブレがない。

長年の経験と誇りが、彼の所作を支えている。

「この前頼んだ修理の件、ブルさんに相談したよ。すぐに対応してくれて助かったよ」

「ブルさんは頼れるだろ。職人の誇りを忘れちゃいない」

「本当に、あの人がいてくれて助かるよ」

管理人は安心した顔でキリマンジャロを啜り始めた。

龍崎も、ほんの少し腰を下ろし、左足をさすった。

「痛い時は無理すんなよ、マスター」

「大丈夫さ。こうして働けてるだけで十分だ」

コーヒーの香りに包まれながら、龍崎はそっとカップに視線を落とした。

かつての戦いの舞台とは違う、静かな「戦場」。

この小さな喫茶店が、今の自分のすべてだと心の奥でつぶやいた。

________________________________________

<小さな喜び、大きな救い>

午後2時過ぎ、店内は主婦たちの賑やかな笑い声に包まれていた。

龍崎はカウンターの奥で、ザク切りカットフルーツの準備に余念がない。

オレンジ、パイン、キウイ、ブルーベリー――

大ぶりに切られたフルーツは、色鮮やかでみずみずしく、見るだけで元気が湧いてくる。

「お待たせしました。ザク切りカットフルーツです」

テーブルに置かれた瞬間、女性たちの目が輝いた。

「これ、ほんとに嬉しいわよね!」

「ビタミンたっぷりで、お肌にも良さそう!」

「マスター、Ayuzoroyって何なんですか?」

「ローマ字を逆さに読んで下さい。」

「よ・ろ・ず・・や?」

「そう、昔で言う何でも屋ですよ。」龍崎は笑顔で言った。


龍崎はフルーツの器を運ぶ合間に、奥でフルーツスムージーを仕上げる。

完熟バナナ、苺、柑橘を贅沢に使い、滑らかに仕立てる。

「はい、フルーツスムージーです」

若い女性客が一口飲んだ瞬間、笑顔がはじける。

「これ、最高! 体が生き返るみたい!」

「それはよかった」

女性たちの笑顔が、古傷の痛みを一瞬でも忘れさせてくれる。

「マスターって、本当にすごいよね。なんでも知ってるし、なんでもできる」

「いや、まだまだだよ。人を元気にするのは、簡単じゃない」

それでも、女性たちの声に交じる笑い声は、龍崎にとって何よりの報酬だった。

<爪先の物語、心の深淵>

夕方、オレンジ色の光が店内に溶け込む時間。

「マスター、今日お願いできる?」

声をかけたのは40代の女性客。

指先をそっと見せると、少し照れたように笑った。

「もちろん。じゃあ、奥のテーブルへ」

龍崎は奥に用意してあるネイルテーブルに案内する。

実は彼、男性では珍しい「認定ネイル講師」の資格を持っている。

サバゲで鍛えた手が、今では誰かの心を癒す道具になっているのだ。

「マスター、男性でネイルができるなんて、本当に不思議よね」

「そうだな、俺自身も不思議だと思ってるよ」


「スクール通ったんですか?」

「いや、知り合いのネイリストの先生から直に教わって、ジェル検を取得したんだ。」

龍崎はかつて本気でネイルサロンを開業しようとしたが、当時は願い叶わずだった。今はAyuzoroyの中にブースを設け念願の「何でも屋」をやっていた。

龍崎はまずフィンガーボウルにぬるま湯を張り、千佳の指をそっと浸していく。

「お湯、熱くないか?」

「ううん、大丈夫・・・丁度良いわ」

ふやけた甘皮をオレンジスティックで丁寧に押し上げ、優しく処理をしていく。

「こうしてケアするだけで、指先の印象がずっと変わるんだ」

女性が静かに頷く。

次にファイルを手に取り、爪の形を整える。

細かい動きの中にも、サバゲ仕込みの正確さと繊細さが滲む。

「四角にするか? それともオーバルがいいか?」

「うーん・・・オーバルでお願い」

爪の形が決まると、表面をバッファで優しく整え、艶を出していく。

「もうこのままで十分綺麗ね」と女性が小さく笑った。

「まだだぞ、ここからが本番だ」

龍崎はジェルのボトルを開け、筆にとって薄く一層目を塗布する。

爪の真ん中から爪先へ塗り、爪元から爪先へ・・・・

ネイルの師匠から教わった通りにムラなく・・・

LEDライトに指を入れ、硬化を待つ時間にも女性の不安そうな目は動かない。

「……マスター、実は私、夫のことで悩んでるの」

龍崎は、微かに視線を上げた。

女性の心の中を覗くように、静かに息を吸う。

「貴女の気持ちは、まだ彼を求め続けてる。だけど、今の彼には家よりも大事にしたいものがある。無理に引き戻せば、貴女自身が苦しくなる」


「なんで…そんなにわかるの?」

「……勘だよ」

その「勘」は、常人には理解できないスピリチュアルな力だった。

龍崎には人の心の深層を読み解く、恐るべき能力があったのだ。

「ありがとう、マスター…」

女性は涙ぐみながら笑顔を浮かべる。

完成した爪には、薄いラベンダーカラーが上品に輝いていた。

「今日は特別に星のパーツを載せてみたぞ。」

「できました。貴方はもっと笑っていい。笑顔が、貴女の最大の武器だ」

________________________________________


<呼びかけの夜明け>

夜、閉店間際のAyuzoroy。

龍崎はカウンター奥でキリマンジャロを啜りながら、深い息を吐いた。

左足はじわじわと疼き、静かな痛みが夜の空気に溶けていく。

龍崎は視線を壁に移す。

そこには来客者と撮った写真がずらりと並ぶ。

凛、葵、麻耶、未来――

それぞれの笑顔が、彼に力を与えるように光っている。

そして、最後に「全国エアガンサバイバルゲーム大会」のポスターを見つめた。

「……これ以上、逃げられんか」

その小さな声は、店内に静かに溶けていった。

龍崎はスマホを手に取り、LINEを開く。


宛先を選ぶ指は、決意に震えていた。

岩見凛、一番合戦葵、進藤麻耶、渡辺未来――

一人ずつ名前を選び、短く打ち込む。

________________________________________

「明日、お店に来て!」

________________________________________

送信ボタンを押すと、胸の奥に熱い炎がともる。

過去も古傷も全て抱えて、それでも進むために。

龍崎はスマホを伏せ、残ったコーヒーを飲み干した。

「さて…明日は、特別な一日になりそうだな」

カーテンが風に揺れ、外の月が静かに見守っていた。

ここから、彼の夢への一歩が始まる――。

________________________________________



岩見凛、一番合戦葵、進藤麻耶、渡辺未来、この4人に目をつける龍崎猛。

次章からRagdollが始動します。

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