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岩見凛登場【情熱】

第一の主人公、岩見凛の登場で「情熱」をテーマで描いています。

これが第一章とどう交錯していくのか最終章でわかるような形式です。

第2章【岩見凛】『情熱』

僕は、昔から自分のことを「中途半端」だと思ってきた。

 岩見凛、二十七歳。

 平日は都内のオフィスで働く、どこにでもいるOLだった。

 書類を作って、メールを返して、上司に呼ばれたら返事をして。

 ミスをすれば謝って、褒められれば「いえいえ」って笑う。

 それが、僕の日常だった。

 特別なスキルもなければ、胸を張って語れる夢もない。

 頑張ってないわけじゃないけど、頑張ってるとも言えない。

 気づけば二十代も後半に差しかかっていた。

「……このまま、終わるのかな」

 ある日の帰り道、満員電車の中で、ふと思った。

 誰に聞かせるでもない、独り言。

 その答えは出なかったけど、

 代わりに、僕は一つの動画を開いた。

 暗闇。

 懐中電灯。

 崩れた廊下を進む配信者。

 廃病院の探索配信だった。

 画面越しでも伝わる恐怖。

 息遣い。

 足音。

 なのに、目が離せなかった。

「……すご」

 怖いのに、見たい。

 逃げたいのに、進む。

 その矛盾に、胸がざわついた。

「……僕も、行ってみたい」

 その一言で、人生は少しだけズレた。

________________________________________

 配信を始めたのは、軽い気持ちだった。

 どうせ誰も見ない。

 なら、恥をかくこともない。

 仕事が終わってから、夜中に廃墟へ行く。

 スマホと懐中電灯だけを持って。

 正直に言えば、めちゃくちゃ怖かった。

 風で鳴る音にビクッとするし、

 暗闇に目が慣れるまで時間がかかる。

 背後に何かいる気がして、何度も振り返った。

「……いや、無理無理」

 そう言いながら、結局進んでしまう。

 怖いのに。

 逃げたいのに。

 でも、その瞬間だけは確かだった。

 心臓がうるさくて、

 頭が冴えて、

 生きてるって実感できた。

 それが癖になった。

 気づけば、配信歴三年。

 視聴者数は、十人前後。

 多くて二十人。

 正直、泣かず飛ばず。

 バズることは無縁だ。

 ________________________________________

 転機は、本当に何気ない思いつきだった。

「……たまには、昼にやってみようかな」

 深夜の恐怖に、少し疲れていたのかもしれない。

 それとも、何かを変えたかったのか。


 《朝靄の呼び声》

 まだ夜の気配が残る東京を抜け出し、岩見凛は中央道を走る。左右でピンクと赤に染めたツインテールの髪は窓からの風でなびいている。


 助手席に置かれたスマホとバッテリー。撮影用の簡易ドローン。

 「今日も、最高の“忘れられた世界”を見せてあげる」

 僕はハンドルを握る手に力を込め、低く呟いた。


 川口湖畔に差しかかる頃、霧がうっすらと立ちこめる。湖面に白い膜のように広

がる霧は、どこか人の気配を感じさせるほどに重い。

 目的地は、湖を見下ろすように建つ四階建ての廃墟ホテルだ。

 建物のシルエットが徐々に浮かび上がるにつれ、胸が高鳴る。

 ひび割れたコンクリート、崩れた屋根の端、黒い窓――まるで死者の目のように空虚だ。

 だが、その死んだ瞳にこそ、僕は強烈に惹かれる。

 「おはよう、岩見凛です」スマホのLIVE配信を始める。

 いつもより、少しラフな声。

 「普段は夜やってるけど、今日は朝。珍しいでしょう」

 視聴者数は3人。

 「僕、元OLでさ。 最近会社辞めてたけど、廃墟配信者は続けてるんだ。」

 これまで、あまり話さなかった自己紹介。

 「正直、怖がりだし、向いてないと思う。でも・・・・やめられなかったんだよね」

コメントが一つ流れた。

≪その感じ、好き≫

、胸の奥が、少しだけ熱くなった。

「では行くよ」

 管理会社から事前に借りておいた鍵を、冷たい指先で回す。

 カチリ。

 僕は静かに深呼吸した。

________________________________________

《無人の声》

 内部は思った以上に「生きて」いた。

 宴会場の天井から吊り下がったシャンデリアは崩れかけ、その下には灰色にすすけたグラスが散乱している。

 ベッドルームには、使い捨てカミソリや浴衣の帯が無造作に落ちていた。

 「この空気……胸の奥が疼く」

 かすれた声で独りごとを言いながら、僕は撮影を続ける。

 僕の心には、いつも「置き去りにされた時間」が静かに棲んでいる。

 廃墟は、その棲家を形にしたものだ。

 二時間ほどかけて、階段、客室、屋上、宴会場を練り歩く。

 全てが息を潜め、廃墟の「静」を讃えている――そのはずだった。

 「パン! パパパン!」

 突然、外から響く破裂音。

 銃声――いや、違う。何かが破裂する音。


 凛は反射的に窓辺に駆け寄る。

 木々の向こうを覗き込み、唇を噛んだ。

「・・・・え、なにこれ。映画?」

「……まさか、サバゲ?」

コメントが一気に流れる。

≪戦場じゃん≫

≪廃墟×サバゲは強すぎ≫

≪戦場リポーター凛≫

その言葉に、なぜか胸が高鳴った。

________________________________________

《コテージの攻防》

 視界の先、霧の切れ間に浮かぶ別の建物群。

 コテージ風の宿泊棟とテニスコート、その間を縫うように走る迷彩服の男たち。

 銃を構え、地面を滑るように伏せ、木立を盾に回り込む。

 「ヒットー!」

 鋭い声とともに、一人が体をのけぞらせて後退する。

 「……本物だ。ガチのサバゲだ」

 僕の目が輝きを増す。

 二階のバルコニーでは、スナイパーが身を伏せ、次のチャンスを窺っていた。

 もう一人のスナイパーが、反対側のコテージの窓枠から顔を覗かせる。

 お互いに照準を合わせ、一瞬の静寂が訪れる。

 僕は呼吸を止めた。

 「パンッ!」

 先に放たれた一発は空を切る。


 「パンッ!」

 続いて、もう一発。今度は、乾いた音と同時に「ヒットー!」の声が弾ける。

 命中した男が手を上げ、悔しそうに笑いながらマガジンを外す。

 僕の視界には、その緊張、決意、歓喜が生々しく流れ込んできた。

 「ここで撃たれるって、どんな気分なんだろう……」

 胸の奥で、自分がその場に立つ幻影が一瞬よぎる。

 下では、黒服の男がテニスコートを占拠していた。

 「右! 右に回ったぞ!」

 「制圧! いけいけ!」

 連射音が乾いた空気を切り裂く。

 「パパパパパッ!」

木々の間を跳ね回るBB弾。障害物に当たって弾ける白い粒が一瞬、朝陽に煌めく。

「今、撃ち合ってる・・・・!」

怖い。

どこから弾が来るかわからない。

パチン、という鋭い衝撃。

「っ・・・・!」

腕に走る痛み。

「痛い!ちょ、普通に痛い!」

BB弾が当たった。

コメント欄が爆発する。

≪当たった!?≫

≪大丈夫か!?≫

≪逃げないのかよ!?≫

≪ゴーグル必須!?≫


 突撃の足音と同時に「ヒットー!」の叫びが連鎖する。

 凛はスマホを構え、息を呑むたびに指先が震えた。

 そこにあったのは、もはや「遊び」ではなく、限りなく現実に近い「戦い」だった。

でもーーーーーー

体の奥から、何かが溢れてくる。

アドレナリン。

視界が冴えて、音がクリアになって、スマホの画面に、完全にのめり込む。

「・・・・すご・・・・これ、すごい・・・・!」

怖さが、興奮に変わっていく。

スマホ越しの映像。走るプレイヤー。飛び交う弾。

配信じゃない。僕自身が、戦場の一部だった。

________________________________________

《廃墟と戦場》

 廃墟――死んだ時間の沈黙の器。

 サバゲ――生きた時間の熱狂の演劇。

 両者は真逆でありながら、互いを補うように溶け合っていた。

 崩れた階段は奇襲の通路に、壊れた窓は狙撃の射界に変わる。

 死んだ空間が、再び命を吹き返す。

 「廃墟が持つ『無音』に、彼らの『音』が重なる。この感じ……」

 僕は声を漏らす。

 古い壁に銃弾の音が反響するたび、朽ちた廊下に足音が響くたび、僕の心は震えた。

 「廃墟は、過去に閉じ込められた場所じゃない。今、ここで生きる人がいれば、それはもう新しい物語なんだ」

 その言葉は、ただの観察ではなく、自らへの宣言だった。

 彼女の視界には、すでに廃墟ホテルに新しい“息吹”が混ざり込んでいた。

 死と生。静と動。

 スマホに映る景色は、ただの映像ではなく「現在進行形の命」だった。

________________________________________


《フレーム越しの静寂》

 気づけば、凛は一歩も動かずに一時間以上LIVE配信していた。


 遠くで一同が集まり、肩を叩き合い、笑い声が弾ける。

 あの緊張の後の解放感。それはまるで、廃墟が一瞬だけ笑顔を見せたかのようだ。

 凛はゆっくりと木の陰から出ていきプレイヤー達に声をかけた。

戦っているときの、

 あの鋭い眼差しは消えて、

 驚くほど清々しい表情。

「……すごいね」

 僕が言うと、彼らは笑った。

「真剣だから、楽しいんですよ」

 その言葉を聞いた瞬間、

 頭に浮かんだ言葉があった。

「……銃道、だ」

 剣道、柔道、弓道。

「サバゲって、武道の一種かもしれない」

 銃を持つ。

 戦う。

 でも、誰も殺さない。

 そこには、確かな精神性があった。

 ふと、思う。

 スナイパーが覗くスコープ。

 僕が見つめるスマホのレンズ。

「……一緒だ」

 世界を切り取る視点。

 撃つ側と、映す側。

 違うようで、同じだ。

 僕は、戦場リポーターになっていた。


 「廃墟とサバゲ……この組み合わせ、思った以上に深い」

 バッグにスマホをしまい、車に乗り込みバックミラーを覗く。

 廃墟ホテルは再び静寂に戻り、灰色の霧がその外壁を舐めていた。

 「人がいなくても、場所は生きる。そこに熱を与えるのは、遊ぶ人間の呼吸だ」

 自分自身に語りかけるように呟き、エンジンをかける。

 湖畔の霧は、完全に晴れていた。

 僕の頬に、少しだけ笑みが戻る。

LIVE映像は切り抜かれ、拡散された。

《廃墟配信者、戦場に突入》

《BB弾当たっても逃げない僕っ子》

《情熱が画面越しに伝わる》

 一晩で、世界は変わった。

 フォロワーは増え、

 コメントは止まらない。

 でも、僕は変わらなかった。

 怖いものは、今も怖い。

 痛いものは、痛い。

 それでも、伝えたい。

 情熱は、ここにある。

 元OLの、泣かず飛ばずの配信者は、

 今日もスマホを握る。

 それは銃じゃない。

 でも、確かに世界を撃ち抜いている。


 「さて……次の廃墟は、どんなドラマを見せてくれるんだろうね」

 車は静かに走り出す。

そのとき、LINEの通知音が鳴った。

《マスター(喫茶店Ayuzoroy)》

「明日、お店に来て!」

画面の赤い通知ランプを見て、凛は小さく笑った。

また、新しい物語が始まる気がした。


骨子は出来ていたのでどこまで肉付けするかで悩みました。

最終目標は映像化なのであまり細かく書きすぎず、読みやすい丁度良さで書きました。

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